
- [ロシア]7月25日、ロシア中央銀行は理事会を開き、主要政策金利を20%から18%に引き下げた。利下げは約3年ぶりに踏み切った前回6月に続き2会合連続。理由として、インフレが鈍化し、直近の消費者物価指数(CPI)は前週より0.05%下落し、週間で下がったのは2024年9月以来、約10か月ぶりとなった。一方、年間のインフレ率は、7月の時点で前年同期比9.2%と、まだ高い水準にとどまっており、同国中銀はインフレ率を4%に引き下げることを目標にしている。ロシア経済は小売りなどの内需は堅調で、企業が製品やサービスへ価格転嫁しやすい状況が続いている。ウクライナ侵略に伴う欧米諸国の制裁の影響で輸入品の輸送コストなどが上昇しているほか、軍需の拡大で失業率の低下や労働力の不足が続き人件費も上昇している。同国中銀は今後の会合で「さらなる金利引き下げについて協議する」との見方を示し、一段の利下げに含みを持たせた。
- [台湾]7月26日、台湾において国民党所属の立法委員24人に対するリコールの賛否を問う住民投票が実施されたが、すべてのリコール案が否決された。頼清徳総統率いる民進党にとって大きな打撃になる。
2024年1月の総統選挙では頼氏が勝利したものの、立法委員選挙では民進党は立法院における過半数を失った。以降、野党は政府が反対する法案を通過させ、政府提案の予算を削減し、たとえば政府の国防費増額を困難にするなど、政権運営に対して圧力を強めている。
2025年2月以降、民進党系の市民団体が中心となり、国民党の立法委員をリコールし、補欠選挙で民進党候補を当選させることで、立法院における過半数の獲得を目指す運動が始まった。当初は限定的な動きと見られていたが、次第に勢いを増し、最終的には約30人の国民党立法委員が住民投票の対象となるまでに至った。しかし、7月26日に実施された投票では、24人すべてのリコールが否決され、台湾国内でも意外な結果として受け止められている。
リコールが成立しなかった理由として、以下の点が挙げられる。
①無党派層や中間層が、リコール制度を利用して与党の議席比率を変えようとする動きに批判的であり、運動への支持が広がらなかったこと。
②民進党による党としての支援が遅れ、市民運動としての動員力に限界があったこと。
③民進党が立法院で過半数を獲得すれば、長期政権による権力が集中し、政治のバランスが崩れることへの警戒感があったこと。
④約2週間前(7月11日)に国民党主導で1万元の現金を一律給付する法案が可決され、民衆の関心がリコール運動よりも給付に向かったこと。
頼清徳総統は、投票結果を尊重し受け入れるべきであると述べ、国民党の朱立倫主席は台湾の有権者に感謝を示すとともに、頼氏に対して謝罪と統治姿勢の反省を求めるコメントを発表した。
- [イスラエル/パレスチナ]7月27日、イスラエル軍はガザの一部での軍事作戦を一時停止すると発表した。ガザでの危機が広がっていることに対する国際社会からの厳しい目に対応するもの。作戦停止は、北部のガザ市、中央部のデイル・エル・バラハ、そして沿岸部の指定人道区域であるアル・マワーシー地区の3地区のみが対象で、現地時間午前10時から午後8時までの10時間、毎日行われる。一時的な作戦停止と同時に、人道支援物資の搬入を促進するための人道回廊の設置も発表している。
また、イスラエルは小麦粉や砂糖、缶詰などを入れた援助物資のガザ上空からの空中投下も開始した。ヨルダンとUAEも、数か月ぶりにガザへの援助物資25トンの空中からの投下を実施した。しかし、援助物資の空中投下は、陸路での援助物資搬入に比べてコストがかかり非効率で、また空中投下によって死傷者が出る可能性もあるため、あくまでも陸路での援助物資搬入が求められている。実際、ガザの保健当局は、落下してくる支援物資の箱で少なくとも10人が負傷したと発表している。
一方、カタールで約3週間にわたって続いていたイスラエルとハマスの代表団によるガザ停戦交渉は、「ハマス側が停戦に真剣ではない」として仲介国である米国とイスラエルが代表団を引き揚げたため、いったん終了している。
- [米国/欧州]7月27日、トランプ大統領とフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は、貿易交渉で合意に達したと発表した。トランプ氏は「これまでで最大のディールだ」と話した一方で、フォン・デア・ライエン氏は「安定」と「予測可能性」がもたらされると評価した。
米国がかける相互関税は15%になった。これまでに示されてきた30%から半減する計算。自動車も15%になる。ただし、鉄鋼とアルミニウム製品は50%のまま据え置かれる。鉄鋼とアルミニウム製品について、EU側は低関税の輸入枠が設けられると主張している。航空機・関連部品、半導体製造装置、ジェネリック医薬品など戦略物資はゼロ%、半導体や医薬品は15%になったとEU側は発表した。一方、トランプ氏は、医薬品は合意の対象外という認識を示した。
EUは、追加で6,000億ドル超の対米投資を実施することを約束した。フォン・デア・ライエン氏は、包括的な投資が実施されるとして、すでに決定済みの案件が含まれるかなど、詳細はこれまでのところ明らかになっていない。
また、欧州は7,500億ドル相当のエネルギーを3年間に分けて購入することでも合意した。トランプ氏は欧州が多くの防衛装備品を購入することにも言及した。
米欧が貿易協議で合意に至ったことは、米欧それぞれの経済だけではなく、世界経済の不確実性が緩和することになった。しかし、双方の主張に相違がみられるため、実際どのように合意したのか、また合意が着実に履行されるのかなど、不透明な点が残っていることには注意が必要だ。
- [南部アフリカ]7月19日、世界銀行のアジェイ・バンガ総裁は、モザンビーク北部にあるカボラ・バッサダムを視察のため訪れた。同ダムは1960年代のポルトガル植民地時代から建設が始まり、1975年から総発電量2,075MWの約6割を隣国の南アフリカに送電してきた。しかし、完成から50年が過ぎ、老朽化が進んでいることから、世界銀行グループは同ダムの北岸に3基のタービンを新設(計1,245MW)する60億ドル規模のプロジェクトへの融資に関心を示している。バンガ総裁はカボラ・バッサダムのさらに60km下流のザンベジ川沿いで計画されているパンダクワ水力発電所(1,500MW)の予定地も視察。「モザンビークは南部アフリカのエネルギー大国となりうる」と同国のポテンシャルを評価したと報じられている。
南部アフリカでは12か国の電力会社代表が集まる「南部アフリカパワープール」を通じて互いに電力の供給が融通されている。他方で、同地域の総発電量の約8割(約50GW)を占める南アフリカの電力公社Eskomのメンテナンス不備などにより電力供給が不安定な状況が続いている。南アは総発電量の約8割を石炭火力に依存している一方で、2050年までの脱化石燃料化を進めていることから、独立系発電事業者(IPP)を中心に太陽光や風力発電の整備を進めている(現在の総発電量は10GW弱)。そのため、クリーンエネルギーとみなされるカボラ・バッサダム周辺の水力発電からの電力調達には一定の関心を有しているとみられる。
一方で、同地域の気象の問題が水力発電事業に与える影響・リスクも顕在化している。ザンビアとジンバブエの国境にまたがるザンベジ川沿いのカリバダムは両国の総電力需要の過半を占めているが、深刻な降雨不足・干ばつにより貯水量が2割程度まで落ち込む状況が続いており、電力生産の回復は道半ばの状況が続いている。さらにその下流のカボラ・バッサダムも貯水量が2割台で、過去50年でもっとも水位が低い状況が続いており、南アへの電力輸出量も減少している。世界第9位の銅産出国のザンビアでは、水力発電への依存から脱却し、新規の太陽光発電プロジェクト開発を行う動きが加速している。
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