
- [欧州復興開発銀行(EBRD)/サブサハラ・アフリカ]9月25日、EBRDは「地域経済見通し」を発表し、サブサハラ・アフリカの2025年の実質GDP成長率は4.7%、2026年は4.6%との予測を示した。EBRDがサブサハラの見通しを示したのは初めてとなる。
同予測にはEBRDの株主および事業実施国として7月に承認されたばかりのベナン、コートジボワール、ナイジェリアのほか、株主として承認され、事業実施国の承認待ちのケニアとセネガル、そして加盟承認を受けているが個別審査中のガーナの6か国が含まれている。EBRDは2023年にウズベキスタンのサマルカンドで開かれた年次総会において、事業実施範囲をサブサハラとイラクに拡大することを決定しており、これに沿ってこれら6か国は加盟申請プロセスを進めてきたものだ。
EBRDによると6か国のうち、2025年の成長率が最も高いのはセネガルで、沖合のサンゴマール油田からの原油・ガス輸出を背景に8.4%成長を予測。次いでベナンが農業等の拡大により6.6%、コートジボワールが原油・ガス、金、カカオ豆の好調な輸出により6.3%成長を予測。ケニア(同4.7%)、ガーナ(同4.3%)、ナイジェリア(同3.4%)と続いた。
他方で経済見通しの下方リスクとして、セネガルとケニアに関しては高い公的債務比率と国際通貨基金(IMF)の新規プログラムの不確実性、コートジボワール、ガーナ、ケニアに関しては金や原油など世界全体のコモディティ需要の変動、ベナンについては気候変動リスクと北部の治安悪化などを挙げている。
EBRDの株主は77か国と欧州連合(EU)、欧州投資銀行(EIB)の計79の国と機関。資金拠出の割合は27のEU加盟国が54%と過半を占め、米国9.4%、日本と英国が9.1%と続く(2025年7月時点)。EBRDは冷戦終結後の1991年にロンドンに設置され、中東欧や旧ソ連圏における民主主義・市場経済への移行を支援する目的で各国に融資を行ってきた。設立から30年以上が過ぎ、従来の支援地域の範囲を超え、人口増とインフラ需要の拡大が続くサブサハラ地域への事業拡大に積極的な姿勢を示している。
- [アルゼンチン/米国]アルゼンチンでは、2023年12月に発足したミレイ政権下での緊縮財政に対する国民の不満と、2025年8月下旬に発覚した大統領の実妹の汚職スキャンダルなどが響き、10月の中間選挙の前哨戦と位置づけられた9月7日のブエノスアイレス州議会選挙で与党が大敗。経済改革の先行きに黄信号が灯ったとして、アルゼンチン市場はトリプル安となった。4月に為替制度をクローリングペッグ制から準変動相場制となる為替バンド制に移行したこともペソ急落の一因となり、アルゼンチン当局は通貨防衛のために貴重な外貨を使い、ドル売りペソ買い介入を実施した。
トランプ米政権はミレイ政権を支持し、支援を表明。一方、アルゼンチン政府は外貨獲得のため、9月22日に突如、農産物輸出税を「10月末まで、または目標額70億ドルに達するまで」免税とする措置を発表した。このことは猛烈な輸出ラッシュを生み、わずか2日で目標額の70億ドルに到達した。中国が2日間で購入したアルゼンチン産大豆は20~35カーゴ、最大227万トンと推定され、インドはアルゼンチン産大豆油を約30万トン輸入したとみられる。
米国は大豆収穫期を迎えており、2025年は豊作が期待されるが、米中貿易戦争で中国は2025年度産米国大豆を一切購入しておらず、大豆価格は低迷。米国農家は中国との貿易協定を強く望んでいる。そんな矢先、トランプ政権がアルゼンチン支援を打ち出したことと、中国のアルゼンチン産大豆の大量輸入が重なったことは、米国農家の販売機会をさらに失わせる結果となった。米国大豆協会は9月24日付けの声明で、政府に強い抗議の意を表明し、中国との通商合意を強く求めた。
中国はブラジル・アルゼンチンから大量の大豆を輸入し、在庫を積んでおり、当面は追加調達を必要としていない。中国商務省は「米国が不合理な関税を撤廃し、2国間貿易を拡大するための条件を整えるべきだ」と強い姿勢で臨んでいる。
- [ドイツ]ドイツ自動車産業は大きな転換期を迎えている。とりわけポルシェの戦略変更は、業界全体の潮流を象徴する動きとして注目されている。かつては2030年までに新車販売の80%を電動車にするという野心的な目標を掲げていたポルシェだが、現実の市場環境に直面し、内燃機関(ICE)への回帰を含む柔軟な製品戦略へと舵を切った。
ポルシェは、電動化一辺倒ではなく、ICE・PHEV・EVの三本柱による製品ラインナップを構築するという戦略的再編となる。この背景には、高級EV市場の需要減少、中国市場の冷え込み、そして米国の輸入関税引き上げなど、複合的な外部要因がある。ポルシェのCEOは、高級EVの需要が明らかに減少しているとして、EV専用プラットフォームの開発を中止し、18億ユーロの損失も発表している。
ドイツ国内でのEVの新規登録台数自体は増加傾向にある。2024年は補助金の打ち切りにより、EV販売台数は前年比3割近く減少したが、2025年は前年比75%増の66万台に達すると、ドイツ自動車工業会(VDA)は予測している。しかし、これは企業がEVを購入した場合、初年度に購入価格の75%を特別償却できる制度が2025年7月から導入されたことによる政策主導によるもので、家庭やリース会社などの実需は回復していないとみられる。
米国政府による輸入関税の引き上げは、ドイツ自動車メーカーにとって大きな打撃となっている。ポルシェはこの影響により、2025年度の営業利益率を最大2%まで引き下げる見通しを示しており、従来の5?7%から大幅な下方修正となった。さらに、戦略的再編に伴う特別費用として約31億ユーロが発生する見込みで、財務面での圧力は強まっている。
一方で、欧州自動車業界は中国との競争にも直面している。EUは2024年10月から中国製EVに対して追加関税を導入したが、9月に開催されたミュンヘンモーターショーでは中国企業が最多出展勢力となり、欧州市場への進出を加速させている。
ドイツ自動車産業全体としても、2035年のガソリン車販売禁止目標に対する懐疑的な声が強まっており、内燃機関、ハイブリッド、EVの三本柱による戦略が業界全体に広がる可能性がある。
- [日本]厚生労働省「毎月勤労統計調査」によると、7月の名目賃金は前年同月比+3.4%と、速報(+4.1%)から下方修正された。この結果、実質賃金(消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合))は▲0.2%となり、速報(+0.5%)からマイナスに転じた。速報時点では、2024年12月(+0.3%)以来、7か月ぶりのプラスだったものの、今回の確報値では7か月連続のマイナスになった。実質購買力の低下が継続していることになる。速報後に提出された事業所の賃金が反映されたことが影響した。
内訳を見ると、基本給(所定内給与)は+2.0%(速報+2.5%)へ、残業代(所定外給与)も+3.0%(+3.3%)へ、ボーナス等(特別に支給された給与)も+6.3%(+7.9%)へ下方修正された。
また、総務省によると、9月の東京都区部の消費者物価指数(総合)は前年同月比+2.5%となり、8月と同じだった。生鮮食品を除く総合、いわゆるコア指数も同様に+2.5%だった。引き続き光熱・水道が物価押し下げた一方で、食料価格の上昇が目立っている。
- [モルドバ]9月28日、旧ソ連の東欧モルドバが予定する議会選を控え、親米国・欧州寄りのサンドゥ大統領が率いる与党は苦戦し、過半数の議席を維持できるか微妙な情勢となっている。野党勢力が支持を伸ばしており、選挙後に複数の政党が協力して広範囲にわたる連立政権を組むことになると予想される。また、一部の海外メディアはロシアがモルドバの親ロシア派の野党などを水面下で支援し、親欧米政権の弱体化をもくろむと報道している。9月22日、モルドバの警察や治安当局はロシアによる選挙干渉の疑いで、国内における250か所を家宅捜索し、74人を拘束したと公表した。当局は捜査について「ロシアによって組織された大規模な暴動と不安定化工作に関連している」と説明した。一方、ロシアはモルドバへの選挙介入を一貫して否定している。9月24日、ロシア外務省はモルドバが選挙監視団へロシアが参加することを拒否したとして抗議した。「選挙の正当性と公平性を損なう」と批判し、つばぜり合いが激しさを増している。
- [中国/メキシコ/米国]9月25日、中国商務部は、メキシコ政府による中国製品への関税引き上げ計画を受け、同国の貿易・投資制限に関する「貿易投資障壁調査」を正式に開始したと発表した。調査は即日開始され、最長で9か月間実施される可能性がある。中国側は、メキシコの措置が中国企業の利益を深刻に損なうものであり、必要に応じて報復措置を講じる可能性があると警告した。
メキシコ国会公報に9月9日付で掲載された提案では、自由貿易協定を締結していない国からの輸入品、特に中国製品に対して関税を大幅に引き上げる内容が盛り込まれていた。対象となる製品群には、自動車・部品、繊維製品、衣類、プラスチック、鉄鋼、家電、アルミニウム、玩具、家具、靴類、皮革製品、紙・板紙、オートバイ、ガラスなどが含まれる。中でも自動車は中国からの主要輸出品であり、メキシコは現在、中国車の最大の輸出先となっている。現行の20%から50%への関税引き上げ案は、中国の自動車産業に大きな打撃を与えるとみられている。
メキシコ政府は9月10日に関税引き上げを正式に発表し、その理由として「雇用の保護」を挙げたが、米国の圧力への対応という面もある。メキシコのシェインバウム大統領は9月11日、「中国を含む対象国と対立する意図はない」と釈明したが、中国側はこれを「一方的ないじめ」であり、外部圧力に屈したものだと批判した。
中国商務部は記者会見で、「米国が乱用する関税措置の下で、各国は保護主義に迎合すべきではない。メキシコが一方的に関税を引き上げれば、第三国を含む国際的な貿易秩序を損ない、メキシコ自身の投資環境や外資の信頼を損なう」と強調した。さらに、「中国はこれに断固反対し、正当な権益を守る」との姿勢を示し、報復措置の可能性を示唆した。
メキシコは、米国主導の保護主義的圧力と中国の対外輸出拡大政策が交錯する地点となっており、中国がメキシコにどのように対応するかは、中国の自動車産業のみならず、国際的な通商環境にも影響を及ぼす可能性がある。
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