
- [ウクライナ]9月4日、ゼレンスキー大統領と欧州首脳らは、パリでウクライナ支援の有志国連合の首脳会合を開いた。ロシアとの戦闘終結後にウクライナに提供する「安全の保証」について議論した。フランスのマクロン大統領は会合後の記者会見で、ロシアとの停戦後のウクライナの安全の保証のために「26か国が部隊派遣や陸、海、空での展開」を確約したと述べた。ただ、焦点だった米国の関与は固まらず、派兵を巡る各国の温度差も目立つ。英仏などが派兵に前向きな方針を打ち出す一方、イタリアなどは派兵に応じない考えをかねてより示している。ドイツは最終的な決定を先延ばしている。
一方、ロシアは自らも関与した形で安全の保証の枠組みを構築すべきだと主張し、英仏を軸にした欧州有志国が検討するウクライナへの部隊派遣に強く反対。ロシアが欧米主導の構想を受け入れる可能性は低く、戦闘終結の道筋はなお見えない。
- [中国/北朝鮮]9月4日、北京で約6年ぶりに中国の習近平国家主席と北朝鮮の金正恩総書記が会談した。習主席は「国際情勢がどう変化しても、中朝関係を重視し、伝統的友好を維持・発展させる」と強調し、両国が地域・国際問題において戦略的協調を深め、朝鮮半島の平和と安定を守るべきだと述べた。また、党・国家運営に関する経験交流や、各レベルでの実務協力の強化にも言及した。
中国は、北朝鮮がウクライナ戦争に派兵しロシアとの関係を強化していることを快く思っておらず、また、日中韓サミットで北朝鮮の非核化目標が確認されたことに対し、北朝鮮が批判を示すなど、両国間には不協和音が存在するとみられていた。しかし、今回の会談では、そうした見方を払拭するかのように、良好な関係を演出した。
金正恩総書記にとっては、ロシアおよび中国の指導者と肩を並べ、複数国の首脳が参加するイベントに出席することで、自国の存在感を高め、米国との交渉においてもより強い立場で臨むための後ろ盾を得たといえる。一方で、ロシアがウクライナ和平に向けて動く可能性がある中、北朝鮮の戦略的価値が将来的に低下することを金氏自身も懸念しており、そのため中国との関係強化を急いでいるとの見方もある。
中国は北朝鮮の核保有を認めたわけではないが、西側主導の国際秩序に対抗する側のリーダーとしての立場や、米朝対話が自国の関与なしに進むことを望まない思惑があるとみられる。今後開催される可能性のある米中首脳会談では、北朝鮮問題も議題の一つになると予想され、中国としては北朝鮮への影響力を誇示したい意向もあると考えられる。
- [米国/パレスチナ]9月4日、米トランプ政権は、国際刑事裁判所(ICC)に対しイスラエルの戦争犯罪調査を要請したパレスチナの人権団体3団体を制裁対象に指定し、米財務省は同団体を「ICC関連指定」と称するリストに掲載した。
制裁対象となったのは、1979年にヨルダン川西岸ラマッラーで設立されたアル・ハック、1999年にガザで設立されたアル・ミーザーン人権センター、1995年に同じくガザで設立されたパレスチナ人権センター(PCHR)の3団体である。これらの団体は、2023年10月以降に行われたイスラエルによるガザの人口密集地への空爆、封鎖、住民の強制移住などについて、2023年11月にICCに調査を要請。その約1年後、ICCは戦争犯罪および人道に対する罪の容疑で、イスラエルのネタニヤフ首相、当時の国防相ガラント氏、さらにハマス指導者らに対し逮捕状を発行した。
米国務省は声明で「米国とイスラエルはローマ規程の締約国ではなく、したがってICCの管轄権の対象ではない。我々はICCの政治化された目的、権限の乱用、そして米国及び同盟国の主権を無視する行為に反対する」と主張した。イスラエルのサアル外相はXに投稿し、ルビオ米国務長官に感謝を表明。一方、制裁を受けたパレスチナの3団体は共同声明を発表し、今回の措置を最も強い言葉で非難した。
なお、トランプ政権は8月20日にも、ICCの判事4人について「米国及びイスラエルの同意なく、両国国民の捜査、逮捕、拘束、起訴に直接関与した外国人」として制裁を科している。
- [米国]9月4日、トランプ大統領は対日関税を15%に設定する大統領令に署名した。7月23日の日米合意内容を正式な行政文書として再確認した形となった。対日関税率が15%未満に設定されている品目は15%水準まで関税が引き上げられ、15%関税は現状維持、15%以上の場合は関税率が15%に引き下げられる。新たな相互関税率が発動された8月7日に遡って適用される。また、懸案の乗用車・自動車部品関税についても、現行の25%(232条関税)から15%に引き下げられ、7日以内に米税関当局などが正式に通知を公表する予定。今次の大統領令では、関税のみならず、日本による米国産農産品輸入の拡大、対米投資のコミットメントなどについても盛り込まれている。このタイミングで訪米している赤澤経済再生担当相とラトニック商務長官は、投資に関する覚書に署名している。
- [メキシコ]メキシコへの送金額が急激に減少している。メキシコ中央銀行(Banxico)によれば、2025年7月の送金件数は1,280万件で、総額は53億ドルに達したが、前年同月比で▲4.7%となった。一方、1件あたりの平均送金額は+3.6%の416ドルであった。
この送金額の減少は、2009年以来最も急激なものであり、4か月連続で前年同月比減少となっている。2025年1月以降の累計送金額は349億ドルで、前年同期比では▲5.5%となった。背景には、米国の移民政策の影響がある。特に、トランプ大統領による移民取り締まりが送金の減少につながったと考えられる。2026年1月1日からは、米国で新たな送金税が導入される予定であり、これにより送金者の取引コストが上昇し、減少傾向が加速する可能性が高い。このような状況は、米国とメキシコの関係が緊張する中で、メキシコにとって第2位の外貨獲得源である送金の脆弱性を浮き彫りにしている。メキシコ政府としては、送金に対するさらなる規制には慎重な姿勢を取っており、シェインバウム氏は米国との安定した関係の維持を最優先するとしている。
- [米国/カタール/コンゴ民主共和国(DRC)/ルワンダ]9月3日、米国務省は米国が仲介したDRCとルワンダの和平協定(2025年6月30日デイリー・アップデート参照)に基づき、「第2回合同監視委員会(JOC)」を開催したと発表した。
JOCは和平協定で定められた遵守事項の実施過程で生じる当事者間(DRCとルワンダ)の紛争解決を目的とする会合。第1回会合は7月31日に開催された。今回の会合にもDRC、ルワンダ政府代表のほか、米国、カタール、トーゴ(アフリカ連合(AU)から指名された仲介役)、AUの代表が参加した。
会合後に発表された文書によると、委員会メンバーらは和平協定で定められた「一部の要素」の実施が遅れているほか、和平協定後もDRC東部でルワンダ系反政府武装勢力「M23」らによる暴力があったことを認めている。和平協定ではDRC東部の反ルワンダ系武装勢力「FDLR」の中立化(非武装化)と、M23を軍事支援しているとみられるルワンダの「防衛措置」の解除が明記されているが、これらが予定通りに遵守されていないことを確認しあう内容となった。
JOCでは、具体的に和平協定の遵守を管理する組織・「合同安全保障調整メカニズム(JSCM)」の第2回会合が、近くカタールのドーハで開催されることも決定した。米国はあくまでDRCとルワンダの二国間の和平協定を調停している一方、カタールは、DRCと、M23およびM23の政治連盟である「コンゴ川同盟(AFC)」の紛争当事者間の停戦仲介を行う唯一の国である。カタールの仲介により両者は7月19日に停戦に向けた「原則宣言」に署名(2025年7月21日デイリー・アップデート参照)。8月18日までに和平合意に署名するスケジュールが定められたが、両者は互いに原則合意に違反していると主張を続け、期限を過ぎても合意には至っていない。
それでも9月1日にAFCのコルネイユ・ナンガ代表は、M23が実効支配を続けるDRC東部の北キブ州で記者会見を実施し、カタールの仲介による和平プロセスを追求すると表明した。同氏は「原則宣言」で合意した700人のM23の囚人釈放をDRCが遵守していないと非難している。
米国とカタールの仲介努力をもってしても「埋まらない溝」により戦闘は継続しており、国連の発表によると紛争で800万人が居住地を追われ、2,800万人が食料不安に陥っていると警鐘を鳴らしている。国際政治経済分析を専門とする英・オックスフォード・アナリティカ社は「外部(米国、カタール)からの圧力により交渉が継続される可能性は高いが、当事者らが真の譲歩をすべきだと感じていないことが和平プロセスの限界を示している」と指摘。持続的な停戦合意に達することは極めて困難との見方を示している。
- [日本]厚生労働省「毎月勤労統計調査」によると、7月の実質賃金(消費者物価指数、除く帰属家賃で実質化)は前年同月比+0.5%となり、2024年12月(+0.3%)以来7か月ぶりのプラスになった。名目賃金(現金給与総額)が+4.1%だった一方で、消費者物価指数(除く持家家賃)は+3.6%となり、名目賃金の上昇率が物価上昇率を上回った。名目賃金は6月(+3.1%)から上昇率を拡大させ、12月(+4.4%)以来の伸び率だった。消費者物価指数(除く帰属家賃)は6月(+3.8%)から縮小し、2024年11月以来の低い伸び率になった。
名目賃金の内訳を見ると、基本給(所定内給与)は+2.5%となり、6月(+2.0%)から上昇率を拡大させた。連合によると、2025年度の賃上げ率は5.25%、2年連続で5%を上回った。これらの数字にはそうした影響が表れている。フルタイム労働者の基本給(一般労働者)は+2.8%、パートタイム労働者の時間給は+3.2%だった。また、残業代(所定外給与)は+3.3%。6月(+0.5%)から拡大した。なお、残業時間は6月と同じ▲3.0%と低下した。なお、基本給と残業代の合計(きまって支給する給与)は+2.6%、30年7か月ぶりの高い伸びになった。ボーナスなど(特別に支払われた給与)は+7.9%となった。
- [英国]英国の秋季予算が決まる2025年11月26日まで約13週間あるが、財政規律を守るため、財務大臣は2029/30年度までに収支を均衡または黒字にする必要がある。財務大臣がどのように財政調整を行うかは不透明であるが、歳出削減よりも増税によって対応する可能性が高いと見られている。
財務大臣には二つの課題がある。ひとつは現行予算の均衡または黒字化、もうひとつは公的部門純金融負債(PSNFL)の対GDP比の低下である。現時点では、265億ポンドの財政収支を改善させる必要があり、これにより2029/30年度にはGDP比0.3%の黒字を達成できる見込みとなっている。これは以前の予測よりも厳しく、主な要因は金利の上昇であり、10年物国債の利回りが3.8%に達したことで財政負担が約40億ポンド増加した。
財政収支改善において、歳出削減は困難とみられている。年金のトリプルロック制度(※1)の廃止は50~100億ポンドの節約につながる可能性があるが、財務大臣はこれを否定している。福祉費の削減も検討されているが、与党内の反発が強く、6月に提案された改革案の多くが否決された。
このような状況下では、財務大臣は増税に頼らざるを得ない。所得税の基準額凍結(※2)を2027/28年度からさらに2年間延長すれば、2029/30年度に約100億ポンドの財源を確保できる。ただし、所得税、付加価値税(VAT)、国民保険料(NIC)については、選挙公約により引き上げを行わない方針であることから、他の税制変更も検討されている。具体的には、高額不動産への固定資産税導入、賃貸収入への国民保険料課税、銀行税、ギャンブル税、150万ポンド超の住宅に対する譲渡益課税の撤廃、年金一時金の非課税枠縮小などが挙げられる。しかし、小規模な税制変更の積み重ねでは財政規律の達成は困難であり、政府は選挙公約を破って所得税を引き上げるか、歳出削減に踏み切るかに舞い戻るとの指摘も多い。ただし、OBRの試算では、1%の財政調整はGDPを0.3~0.4%押し下げるとされており、停滞する経済に更なる逆風となることから、難しい選択を迫られている。
加えて、今後13週間にわたり憶測や不確実性が広がることで、企業や消費者の信頼感が低下し、予算発表前の経済成長が抑制される可能性も出てきている。
(※1)公的年金の支給額を毎年自動的に引き上げるための仕組みで、インフレ率、平均賃金の上昇率、2.5%の固定率のうち最も高い伸び率を採用して年金額を調整する制度
(※2)所得税が課される非課税枠(基礎控除額)や税率区分の境界額を一定期間、引き上げずに固定する政策。名目上の税率を変えずに、実質的な増税を行う手法でもある。
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