- [お休みのお知らせ]2025年12月19日のデイリー・アップデートはお休み致します。ご了承ください。
- [米国/アンゴラ/コンゴ民主共和国(DRC)/サブサハラ]12月17日、米・国際金融開発公社(DFC)は、「ロビト大西洋鉄道(LAR)」を運営する企業コンソーシアムとの間で5億5,300万ドルの融資契約を締結した。
総延長約1,300kmの同鉄道は、大西洋に面するアンゴラのロビト港と、DRCとの国境の町・ルアウを結ぶもの。もともとは、アンゴラがポルトガル植民地時代だった1901年に英国系企業が99年間のコンセッション契約を得て建設した「ベンゲラ鉄道」が母体となっている。難工事の末に1931年に開通し、一大同産出地域である内陸のDRC・ザンビアにまたがるカッパーベルトからの銅を欧米向けに輸出する路線として?栄した。しかし、1975年から27年間続いたアンゴラの内戦で鉄道は荒廃。その後放置され、2001年にコンセッション契約が自動的に終了したあと、2000年代以降、アンゴラからの原油輸入を大きく拡大させていた中国が、2006~2014年にかけて大規模な改修を行った。しかし、中国による活用も当初想定通りには行われずに再び放置されたのち、2023年にアンゴラ政府は新規に30年間のLARの運営権をシンガポールのトラフィグラ、ポルトガルのモタ・エンジル、ベルギーのベクテリスの3社からなるコンソーシアムに付与した。中国の「一帯一路構想」への対抗策と、重要鉱物確保の観点から、米国や欧州が「ロビト回廊(注)」整備の一環として米・バイデン前政権時代から超党派で開発支援を表明していたものだ。
DFCによると、今回の融資はロビト港とLARの改修・整備を支援するもので、輸送能力は現在の10倍の年間460万トンに拡大し、銅などの輸送コストは3割削減されるとのこと。DFCのベン・ブラックCEOは、今回の融資契約調印は「トランプ米大統領のアフリカにおける強固なパートナーシップと同盟関係構築へのコミットメントを示すものだ」とトランプ氏の成果であることを強調した。
第1期トランプ政権下の2019年に設立されたDFCは、第二期トランプ政権発足直後からの対外援助削減や米・国際開発庁(USAID)の事実上の機能停止などの見直しに反して、その権限や予算規模が強化される方向にある。米国政府の一時閉鎖の影響などを受けて、新規投資を行うための法的権限は10月6日に一時的に失効した。しかし、12月17日に上院で可決され、現在トランプ氏の署名を待っている「米国国防権限法(NDAA)」において、DFCの2031年までの法的権限の延長と、偶発債務上限を600億ドルから2,050億ドルに引き上げる内容が盛り込まれている。
このNDAAの可決・署名の方向性を受けて、12月12日にトランプ氏は、プライベート・エクイティファンドを経営する億万長者で、同氏とも親密なレオン・ブラック氏の息子であるベン・ブラック氏をDFCのCEOに指名。その直後に今回の融資契約を発表したことからも、トランプ氏が自ら創設したDFCに対して相当な肩入れをしていることが想像できる(12月15日付、仏Africa Report紙等)。
米国が大西洋ルートとなるロビト回廊の支援を進めるのに対し、中国は1970年代に整備したザンビアのカッパーベルトと、インド洋に面するタンザニアのダルエスサラーム港を結ぶ総延長1,860kmの「タザラ鉄道(またはタンザン鉄道)」の大規模改修(14億ドル)を11月に発表している。日本も、同じくインド洋に面するモザンビークのナカラ港から、内陸国のマラウイ、ザンビアにつながる「ナカラ回廊開発」の支援強化に乗り出す構えだ。重要鉱物の安定調達をめぐり、アフリカでも大国間の綱引きが繰り広げられている。
(注)すでに既設のLAR(約1,300km)に加え、ルアウからザンビアのカッパーベルトまでを結ぶ「ザンビア・ロビト鉄道(ZAR)」の鉄道新設(約830km)なども含む呼称。ZARの建設・運営事業者はアフリカ金融公社(AFC)が選定を進めている。なお、LARの改修に関しては、DFCによる5億5,300万ドルに加え、南部アフリカ開発銀行(DBSA)も2億ドルを追加拠出すると発表した。
- [マレーシア]12月17日、アンワル改造内閣が発足し、初の閣議が実施された。内閣改造は2023年12月以来2回目の実施となる。閣僚ポストは大臣28人が存在し、このうち10人が新任、14人が異動となった。特に注目されているは、FDI受入促進策や通商政策を所掌する投資貿易産業大臣にジョハリ・ガニ プランテーション・コモディティ大臣が就任したほか、中期国家計画策定やインフラ向け予算の策定等を所掌する経済大臣にはアクマル・ナシル エネルギー移行・水資源変革副大臣が就任したことなどである。
2022年12月にアンワル政権が発足したが、アンワル首相率いる与党の希望連盟(PH)は下院での議席数が81と、過半数(112)を満たさない。そのため、マレーシア独立から2018年まで約60年間政権を担っていた統一マレー国民組織(UMNO)率いる政党連合である国民戦線(議席数は30)や、各種地方政党との連立が不可欠となっている。閣僚ポストに関しても、主に下院での議席数を踏まえて連立を組む各種政党の議員に割り振っている。ジョハリ新大臣もUMNO所属の議員である。
今回の改造の一義的な目的は欠員の確保とされている。投資貿易産業大臣のポストにつき、前任のザフルル・アジズ氏が上院議員任期満了に伴い退任したことで12月2日より空席となっていた。経済相のポストも以前はラフィジ・ラムリ氏が就いていたが、アンワル首相の所属する人民正義党(PKR)の役員選に敗れて辞任して以降、2025年5月以降は欠員となっていた。
他方で、アンワル政権としては特にジョハリ新大臣の就任を機に、人工知能(AI)・電子機器産業等への投資呼び込みを軸とした産業高度化を継続させることで、経済成長を継続させたいとの意向が読み取れる。ジョハリ氏は公認会計士資格を持つ元実業家で、政界入り後はナジブ前政権にて財務大臣を務めたほか、ソブリン・ウェルス・ファンドであるカザナ・ナショナルの取締役を務めるなど、実務家として高く評価されている。米国と中国の対立の影響を受ける中でも、国内外からの投資呼び込みを促進すべく、新大臣の下で適切な経済政策を効率的に実施させる狙いがあるとみられている。
- [ドイツ]Ifo経済研究所によると、12月の企業景況感指数(2015年=100)は87.6(前月比▲0.4pt)へ低下した。市場予想(88.2)を下回った。
内訳を見ると、現況指数は85.6で11月から横ばいだった。直近ピークの8月(86.4)から低下している。また、期待指数は89.7(▲0.8pt)へ低下した。10月(91.6)から低下基調が続いており、先行きの成長がなかなか見通せない状況にある。
フューストifo所長は、「企業は、現状の評価が変わらない中で、26年上半期についてより悲観的な見方になっている。楽観的な見通しがなく、今年が終わりを迎えている」と総括した。
産業別に見ると、製造業の現状はやや改善も低水準を維持している。先行きの悲観的な見方が強まった。新規受注は減少しており、企業は生産規模の縮小を計画している。サービス業の現状は満足できるものではなく、先行きの期待も低下している。多くの産業で期待が低下している中で、レストランのみ強い見通しの報告があったという。商業では現状の評価が下方修正され、2026年上半期の見通しも暗いと報告された。小売店ではクリスマス商戦がさえなかった。横ばい圏を推移する建設業では、現状の評価を悪化ととらえた企業があった一方で、先行きの懐疑的な見方をやや和げた企業もあったと、方向感に乏しい状況だった。
- [メルコスール/EU]メルコスールとの貿易協定署名は、2026年に遅れるリスクが高まっている。12月17日、イタリアのメローニ首相は、農業輸入の急増から欧州の農家を保護するための補償基金や国境検査強化などの追加安全策が採用されるまでは、イタリアが合意を最終決定する意思がないことを示唆した。
かねてより署名に反対していたフランスやポーランドも署名を延期するよう働きかけている。
フランスでは農民が高速道路を封鎖し、抗議活動が激化している。農業団体は、輸入増加による価格下落を懸念している。
欧州委員会は、輸入増加や価格下落時に関税の再課税を可能にする法的枠組みを提案しているが、加盟国間での合意形成は難航している。
ドイツやスペインは、自動車や機械輸出拡大を期待して協定を強く支持しており、スウェーデンもアジアや米国に遅れを取るとして危機感を示していたが、イタリアの賛成が鍵となっていた。
メルコスール側は「保護主義がEU内で依然として強い」と批判し、EUが直前になって追加要求をしていると不満を示している。ブラジルのルーラ大統領は、EUとの貿易協定を反故にする可能性も示唆している。12月18日のEU首脳会議で妥協案が見つかるかどうかが最大の焦点となっている。
うまくいけば、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長が12月20日のメルコスール首脳会議に出席し署名することが可能になるが、そうでなければ交渉開始から26年かかった協定が、さらに先延ばしになる。
欧州委員会の試算によれば、この協定が発効すれば、EU企業にとって年間約40億ユーロの関税削減効果がある。また、EUの輸出額は年間約190億ユーロ増加し、特に自動車、機械、化学製品などの産業が恩恵を受けるとされる。
一方、メルコスールにとっても、農産物や食料品の輸出拡大が期待される。牛肉、鶏肉、砂糖、エタノールなどの輸出が増加し、南米側のGDP押し上げ効果は数十億ユーロ規模と予測されている。
この協定は世界最大級の自由貿易圏を形成し、約7億8,000万人の市場をカバーする。EUにとっては、アジアや米国との競争に遅れないための戦略的な意味合いも強い。
- [中国/米国/オランダ]中国が最先端半導体製造に不可欠なEUV(極端紫外線)露光装置の国産化を目指し、国家主導の極秘大型プロジェクトを進めているとロイターが報じている。記事によれば、深センの厳重警備下にある研究施設で、オランダ大手半導体装置メーカーASMLの元技術者らを中心としたチームが、EUV装置の試作機を2025年初頭に完成させた。すでにEUV光の発生には成功しているが、実際に先端チップを製造できる段階には達していない。
中国政府は2028年までに実用化を目標としているが、関係者の間では2030年頃が現実的との見方が強い。それでも、従来は「10年以上遅れている」とされてきた中国の半導体技術が、想定より早く西側に接近していることを示している。プロジェクトは習近平政権の半導体自給自足戦略の中核に位置づけられ、丁薛祥・筆頭副首相が統括する党中央科学技術委員会の管轄下で進められている。華為技術(Huawei)が企業や研究機関を束ねる実質的な司令塔となり、関係者はこの取り組みを「中国版マンハッタン計画」と呼んでいるとしている。
最大の技術的障害は、ASMLが独占する超精密光学系の再現であり、中国は中古市場で入手した旧型ASML装置や、日本企業由来の部品を分解・解析し、代替技術の開発を進めているとしている。
米国は、EUVという決定的ボトルネックを封じることで、中国を「1~2世代遅れ」に固定する戦略を取ってきたが、中国が2030年前後にEUV相当技術へ到達する可能性が現実味を帯びるとすれば、今後の輸出規制をめぐる議論に大きな影響を与えることになる。
また、日本企業に対して、米国は対中技術管理を強化するよう要求したり、中国への輸出・中古流通の監視を徹底するよう求めたりしてくる可能性がある。
- [EU]12月16日、欧州委員会は、域内の食品および飼料安全に関する法令を簡素化・効率化するための包括的な立法パッケージを提案。
今回決定されたパッケージは、以下の主要な措置を含んでいる:
●市場アクセスの迅速化:バイオ農薬の承認手続きを見直し、バイオ農薬の市場投入障壁を低減。
●植物製品輸入に際する検疫手続きの簡素化:検査手続きを簡素化し、検疫中に劣化して廃棄される量を削減。
●飼料添加物の規制緩和:更新義務の軽減およびラベルのデジタル化。
●発酵製品の市場アクセス促進。
欧州委員会によると、これらの措置により、年間で約10億ユーロのコンプライアンスコスト削減が見込まれ、EU企業に対して約4億2,800万ユーロ、加盟国行政に対して約6億6,100万ユーロの負担軽減が期待されるとのこと。
また、欧州委員会は、農業分野では革新的かつ環境負荷の低い資材をより迅速に利用可能となり、競争力と持続可能性が向上するとともに、規制の明確化・迅速化により、イノベーション促進と中小企業の競争力強化が期待されるとしている。
本提案は、今後欧州議会および理事会での議論を経て採択手続きに付される予定。
- [ロシア]ロシア政府は、欧州連合(EU)がロシアの凍結資産の活用に踏み切った場合、国内における外国資産に対して複数の差し押さえを含む報復措置を検討している。政府に近い関係者によれば、その案の一つとして、ノルウェー石油基金やAPGグループ、欧州復興開発銀行(EBRD)など、いわゆる「非友好国」によるロシアへの直接投資が、まず差し押さえの対象となる可能性がある。そのほか、当局は欧米企業の「C型口座」(凍結資産に対する配当や利子収益などが蓄積される)の差し押さえを検討しており、これはロシアによる直接的な報復措置とみなされている。「C型口座」にある資産の総額は公表されていないものの、最新の専門家による推計では10~15兆ルーブル(約19~29兆円)に達しているとみられている。
一方、12月15日、ロシア中央銀行はウクライナ侵攻に対する欧米の資産凍結制裁で損失を被ったとして、資産の大半を保管するベルギーの国際決済機関ユーロクリア(Euroclear)に約18兆1,700億ルーブル(約35兆5,600億円)の損害賠償を求めてモスクワの仲裁裁判所に提訴した。
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