
- [米国/イスラエル/パレスチナ]10月10日にイスラエルとハマスの間で合意された停戦および人質解放合意に基づき、ハマスは10月13日に生存していた人質20人全員を解放したが、遺体となった人質の返還は遅れている。ハマスは10月15日までに10体の遺体をイスラエル側に引き渡したものの、イスラエル当局の調査の結果、そのうち1体は人質のいずれとも一致しないことが判明した。このため、現時点でイスラエル側に返還された人質の遺体は28体中9体にとどまり、残り19体は依然として未返還のままである。
ハマス側は、「アクセス可能な遺体はすべて引き渡した」として合意の履行を主張しており、残る遺体についてはイスラエル軍による爆撃で崩壊したトンネルや瓦礫(がれき)の下に埋もれているため、回収には時間を要すると説明している。遺体引き渡しを仲介する国際赤十字委員会(ICRC)も、遺体の発見・回収は極めて困難な作業であり、重機などでの瓦礫(がれき)除去装備が必要だと認めているが、イスラエルがそれらのガザへの搬入を禁止しているため、作業は難航しているという。
イスラエルのサアル外相は、ハマスには追加の遺体を返還する能力があるにもかかわらず、それを意図的に遅らせているとして非難した。また、イスラエル国内の人質・行方不明者家族フォーラムも、ハマスが残る遺体を返還しない場合には、政府に対し合意の次段階の実施を延期するよう求めている。
トランプ米大統領は、「彼ら(ハマス)は実際に瓦礫(がれき)を掘り起こして遺体を捜索している」と述べ、遺体返還の困難さを認めた。ホワイトハウス報道官も、「残る19体の遺体の回収には時間と特殊装備が必要」と述べている。現在、仲介国の一つであるトルコが災害救助の専門家チームをガザに派遣し、遺体捜索に当たっている。トルコ国防省関係者によれば、「現地にはすでに81人から成るチームが配置されている」とのことである。
- [米国/ベネズエラ]10月16日、ヘグセス国防長官は、米南方軍司令官であるホルシー海軍大将が、2025年の年末に退任することを発表した。南方軍は中南米・カリブ海地域の国防を担当する。ホルシー司令官は2024年11月に就任したが、通常3年間の任期を待たずに早期退任することとなった。このため、ベネズエラ沖で展開されている軍事行動を巡り、米軍制服組と大統領、国防長官の間で軋轢(あつれき)があるのではないかとの観測が流れている。司令官退任を明らかにした国防長官の声明では、その理由についての言及はなく、ホルシー海軍大将の37年間にわたる公務への従事に対する謝意が述べられている。トランプ政権は、ベネズエラ沖にて麻薬運搬船と見られる船舶に対して軍事行動を仕掛け、すでに5回にわたって攻撃を行っており、国内ではその合法性などを巡り、議論が交わされている。10月15日には、米軍が所有する戦略爆撃機がベネズエラ沖合上空を飛行するなど、米国が軍事力の誇示を行っていることも報じられている。
- [米国]10月16日、トランプ大統領は、牛肉の価格高騰問題に取り組んでいると述べた。「牛肉は我々が望むよりもちょっと高い品目のひとつだ」とし、「(価格は)近いうちに下がるはずだ、我々は何かをした、魔法のようなことをね」と発言した。具体的な施策については明らかにしていない。ブルームバーグは記事中で、数日前にトランプ大統領がアルゼンチンのミレイ大統領と面談したことに言及している。
米国労働省労働統計局(BLS)の最新データによると、2025年8月の赤身牛ひき肉の価格は平均で1ポンド(453.6g)6.318ドルと、2025年に入り約13%上昇。2020年8月の4.177ドルから50%以上値上がりしている。この値上がりは食品の中でも特に顕著で、消費者が物価高を実感しやすい品目となっている。
牛肉価格高騰にはさまざまな要因が絡んでいるが、主因は、米国で牛の飼養頭数が1973年のデータ開始来最低水準まで落ち込んでいることだ。近年の干ばつや高コストにより、牧場主が牛を処分したことによる。直近では肉食性寄生虫NWSの流入を阻むため、メキシコからの生体牛輸入を停止していることも影響している。米国の関税割当(TRQ)枠外での牛肉輸入には関税が課せられる。
- [マダガスカル]9月25日に始まった反政府抗議デモを引き金に、軍による実質的なクーデターが発生したマダガスカル(2025年10月15日デイリー・アップデート参照)。ラジョエリナ大統領は国外に退避したものの辞任を拒む中、10月17日には、「権力を掌握した」と発表した軍精鋭部隊「CAPSAT」のランドリアニリナ大佐による大統領宣誓式の実施が予定されている。「力による現状変更」が行われようとしているマダガスカルへの国際社会の反応、対応の速度はさまざまだ。
・アフリカ連合・平和安全保障理事会(AU-PSC、10月15日):マダガスカルが合憲秩序を回復するまで、AUの全活動を即時停止することを決定する。また、軍事クーデターに関与した全ての関係者に対し、対象を絞った制裁を発動する。文民主導の暫定政府を通じた透明性・信頼性のある選挙の早期実施を要求する。
・南部アフリカ開発共同体(SADC、10月13日):民主的秩序を脅かすクーデター未遂の報道に強い憂慮を抱いている。SADCは遅滞なく、SADC長老パネルの調査団をマダガスカルに派遣し、事実調査を行う。
・国連(10月16日):グテーレス事務総長は憲法に反する政権交代を非難し、憲法秩序と法の支配への復帰を求める。国連はAU、SADCをはじめとする国際パートナーと連携し、この取り組みを支援する用意があることを表明する。
・フランス政府(10月15日):マダガスカルの現状を最大限の注意をもって注視している。民主主義、法の支配が厳格に守られることは不可欠。フランスはAU、SADC、インド洋委員会(IOC)といった地域パートナーや国際社会と連携し、解決策の模索を支援する用意がある。
2009年3月にラジョエリナ氏とCAPSATによるクーデターが発生した際には、AUは即座にマダガスカルの参加資格を停止。SADC(当時の議長国は南アフリカ、クーデターで追放されたマーク・ラヴァロマナナ元大統領が南アフリカに退避)もそれから約10日後に資格停止とした。今後、SADCもAUの動きに追随する可能性はあるが、その動きが遅いとの指摘もある(10月16日付、仏・Africa Report紙)。その理由は、8月にマダガスカルがSADCの議長国に就任したものの、その議長を務めていたラジョエリナ大統領自身が、退避や、下院議会による弾劾決議、軍による政府機関の解散の発表を受けて、執務の遂行が困難な状況にある。また、2009年にはSADCがラジョエリナ政権への制裁として参加資格停止を決定したものの、今回、同氏に対して起こったクーデターに対して制裁を課すことで、ラジョエリナ氏に対して同情を示す結果になることに、SADC内でも議論が分かれているとみられている。SADC内でも特に民主主義を重んじる南アフリカ政府は、今回のクーデターに強く反発している。マダガスカルの次のSADC議長国は南アとなる予定だったことから、今回の政変を受けて南アが前倒しで議長国に就任し、マダガスカルの軍事政権に対して強い働きかけを行う可能性もある。
米・Critical Threatsは、AUやSADCなどのアフリカの地域機関はこれまでもスーダンや、コンゴ民主共和国(DRC)の内戦の終結に失敗していると指摘。また、マダガスカルと強固な経済的関係を築いてきたフランスは、マダガスカルの抗議者や軍にとって親仏派だったラジョエリナ大統領の傀儡(かいらい)だとみられ、反仏感情が高まっていることから、今後地域での影響力が低下するとの予測を示している。マダガスカル周辺に仏領レユニオン島や、マヨット諸島などを有しているフランスは、フランス領の主権と船舶、排他的経済水域の保護を目的とした「南インド洋地域軍(FAZSOI)」に約2,000人を駐留させている。西アフリカの旧フランス植民地各国では、反仏感情の高まりからフランス軍との関係を断つ動きも相次いでいることから、軍事政権となったマダガスカルでも、フランス軍との関係の見直しが起こる可能性を指摘している。
- [ウクライナ/米国/ロシア]10月16日、ウクライナのゼレンスキー大統領は米国を訪問した。10月17日にホワイトハウスを訪れ、トランプ米大統領との会談を行う予定である。今回の会談では、今夏に初めて提案された、米国がウクライナ製ドローン(小型無人機)を購入し、その見返りにウクライナが米国から兵器を購入する案について協議されるとみられる。また、米国から巡航ミサイル「トマホーク」が供与されるかどうかについても協議される予定である。
これに対し、ロシアのプーチン政権は、ウクライナへの巡航ミサイル「トマホーク」の供与を阻止すべく、米国に対して威嚇交じりのけん制を続けている。10月16日には、ロシア側の要請でプーチン大統領とトランプ米大統領の電話会談が行われた。ロシアのウシャコフ大統領補佐官によると、電話会談は2時間半に及びび、「率直で内容の濃いものだった」と評価した。
電話会談の結果、両首脳は近く、中欧・ハンガリーでの首脳会談の開催について合意したと発表した。また、ウシャコフ氏は米ロ首脳会談の実現に向けて、ラブロフ外相と米国のルビオ国務長官が近日中に電話会談を行い、日程を調整する見通しを示した。
- [香港]ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、米中対立が先鋭化する中で、香港株式市場が活況を呈している状況を報じている。記事によれば、2025年に香港証券取引所は世界で最も活発な新規株式公開(IPO)市場となり、9月までに中国企業が約230億ドルを調達した。米中間の貿易・安全保障をめぐる対立が激化する中でも、ウォール街と中国企業の協業が進み、香港がその交差点として機能している。
たとえば、モルガン・スタンレーは、紫金鉱業による32億ドル規模のIPOを主導し、ブラックロックなどが投資家として参加した。また、電池メーカー大手の寧徳時代新能源科技(CATL)は53億ドルを調達し、2025年最大のIPOとなった。ウォール街の利益も大きく、モルガン・スタンレーのアジア収益は上半期に28%増加した。
中国企業は、国内市場での競争激化や対米関税の高騰を背景に海外進出を加速させ、外貨を確保して資産買収や海外工場の建設を進めている。米国市場での上場が政治的に困難となる中、香港が国際的な資金調達拠点としての役割を強めている。
一方、米議会では、香港経由の中国資金が安全保障上の脅威となる可能性が懸念されており、CATLの軍関与疑惑をめぐってJ.P.モルガンなどが召喚された。香港が制裁逃れや資金洗浄の拠点となっているとの批判もあるが、香港政府はマネーロンダリングやテロ資金供与の防止、国連制裁の遵守を強調している。
ハンセン指数は年初来で約30%上昇し、AI企業の登場も投資熱を高めている。しかし、地元の不動産市場は依然として低迷しており、金融街の活況と実体経済の停滞との乖離(かいり)が続いている。政治的には北京の支配下にありながら、経済的にはドル建ての金融センターとして機能する香港は、米中対立の中で両国資本が交差する空間となっている。
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