- [世界銀行のコモディティ見通し]世界銀行が半期ごとに公表する『Commodity Markets Outlook』の2026年4月号(4月28日公表)は、今回の中東情勢を背景とする供給ショックを中心テーマとしている。国際エネルギー機関(IEA)の「過去最大級のエネルギーショック」との認識を共有し、初期的な石油供給損失は日量約1,000万バレルと、過去のいずれの危機をも上回る規模に上ると指摘する。
平時にホルムズ海峡を通過する石油供給(日量約2,000万バレル)については、OPECプラスの増産、湾岸諸国の迂回パイプライン利用、備蓄放出、制裁原油の活用、OECD諸国の増産などを総動員しても、日量460万バレルの供給ギャップが残ると試算。備蓄や洋上在庫は有限であり、混乱が長期化すれば供給不足はさらに拡大する可能性がある。
また、世界海上貿易に占めるホルムズ海峡経由の割合は、硫黄、LPG、LNG、化学品(肥料含む)、アルミニウムなどにおいて高く、影響が多岐にわたることも指摘している。
地政学的ショックによる価格への影響は、災害など通常の需給ショックとは性質が異なる。過去の事例から、地政学リスク下では石油生産が▲1%減少すると、価格上昇率は平均11%超と、一般的な供給ショック(4~7%)のほぼ倍に達すると分析している。背景には、将来の供給不安を織り込んだリスクプレミアムの上昇や投機的行動がある。
在庫動向も特徴的で、地政学ショックでは一度減少した後に積み上がる傾向がある。これは、市場参加者が再発リスクを意識して自己保険的に備蓄を厚くするためで、ショック収束後も市場が正常化しにくい。
エネルギーショックの影響は、天然ガスや肥料を通じて食料などのコモディティにも時間差で波及する。原油価格の上昇効果は遅れて拡大し、下落局面でも調整は緩やかとなる傾向がある。
国際通貨基金(IMF)も、エネルギー価格の上振れがインフレ率上昇と成長鈍化を同時に招き、金融引き締めが市場の不安定化につながるリスクを指摘している。総じて、国際機関は、地政学ショック下では従来の需給前提に基づく価格見通しの不確実性が一段と高まる点に注意を促している。
- [米国/DRC前大統領に経済制裁]4月30日、米・財務省外国資産管理局(OFAC)はコンゴ民主共和国(DRC)のジョセフ・カビラ前大統領に対する経済制裁を発動した。同局は制裁の理由について、カビラ氏がDRC東部を実効支配する反政府武装勢力「3月23日運動(M23)」およびM23の政治部門である「コンゴ川同盟(Alliance Fleuve Congo、AFC)を支援したためとしている。M23は、ルワンダ国防軍(RDF)の支援を受け、DRC東部においてDRCの不安定化を図る戦闘や民間人への攻撃を行っているとの国際的な批判を浴びている。OFACはすでにM23およびAFCに経済制裁を課しており、3月にはRDFおよびその幹部に対する制裁も発動した。OFACは今回のカビラ氏に対する措置について、2025年12月に米・トランプ大統領の仲介の下で、DRC・ルワンダの両大統領が署名した「平和と繁栄ためのワシントン合意」および重要鉱物のサプライチェーンの透明化を図ること目的とした「地域経済統合枠組み」の推進の一環であるとの旨を説明している。
カビラ氏は、独裁政権で知られたモブツ・セコ元大統領を国外追放した父・ローラン・カビラ元大統領が第二次コンゴ紛争時に暗殺されたことを受け、2001年に大統領に就任した。その後の新憲法制定を経て、2006年に実施された民主的な選挙で勝利。2011年の大統領選で再選され、2019年まで大統領職を務めた。本来は憲法の規定により、2016年に二期満了で辞任する予定だったが、三選を画策。2016年に行われるはずだった選挙を遅延させた。その後、国内での抗議活動が過熱し、死者を出す事態にまで発展したことを受け、2018年に延期された大統領選時に、当時カビラ氏が率いていた政治連合「コンゴ統一戦線(FCC)」エマニュエル・シャダリ元内相を後継者に推した。しかし、選挙の蓋を開けてみると、カビラ氏が国民から不人気なことを背景にシャダリ氏の敗北が決定的となり、カビラ氏の汚職疑惑などに厳しい目を向ける最大野党党首のマルタン・ファユル候補の勝利が濃厚とみられた。この状況を受けて、カビラ氏は選挙管理委員会(CENI)のコルネイユ・ナンガ委員長と、別の野党のフェリックス・チセケディ候補(現大統領)と「密約」を結び、選挙結果を改ざんし、カビラ氏に対して寛容とみられたチセケディ氏の勝利を導いたと広くみられている。
チセケディ大統領が就任した後も、議会ではFCCが多数派を占めていたため、カビラ氏は自身の辞任後もチセケディ政権に対して影響力を維持できると目論んでいた。しかし、チセケディ氏は政権内から徐々にカビラ派を排除。2023年の大統領選でチセケディ氏の再選・圧勝が確実視される中、カビラ氏は身の安全を確保するため、南アフリカで自主的に亡命生活を始めた。
これと同時期に、元CENI委員長のナンガ氏がDRC東部でM23を含む政治同盟・AFCの設立を発表。2018年の選挙時に「密約」を結んだと噂されるチセケディ政権に対して半旗を翻し、政権転覆を声高に主張するようになった。2025年1月にM23がRDFの支援を得て、DRC東部最大の都市ゴマやブカブを制圧。現在も実効支配を続けている。これを受けて、ナンガ氏を2015年にCENI委員長に任命し、2018年の選挙時にもナンガ氏と密約を交わしたカビラ氏は、同年5月に南アフリカからゴマに居を移し、AFCおよびM23を資金面で支援するようになった。OFACはカビラ氏がDRC国軍の脱走兵をAFC・M23に寝返るよう勧誘していたと非難している。なお、ナンガ氏はCENI委員長の立場を利用して2016年の選挙を故意に2018年に延期させたこと、カビラ派の選挙資金を流用したことなどを理由に2019年にOFACの経済制裁対象となっており、2024年にAFCが人権侵害を行っていることを理由に再指定されている。なお、ナンガ氏もカビラ氏も戦争犯罪等を理由にDRC軍事裁判所で死刑判決を受けている。
カビラ氏は、大統領任期中の2007年に中国鉄路工程集団、中国水電建設集団とDRC政府の合弁企業・Sicomines(シコミネス)を設立。中国側からインフラ建設の資金の提供を受ける代わりに、DRCの銅・コバルト鉱山の権益を供与する契約を締結した。この契約をめぐっては、カビラ氏やその家族に資金が不正に流れていたデータがリークしているが(コンゴ・ホールドアップ)」、依然として大統領時代に私腹を肥やしたカビラ一族が保有する資産や鉱山権益等は膨大だとみられる。DRCの重要鉱物へのアクセスを重要視している米国にとっては、米国企業が投資できる事業環境を整えるために政府・鉱山周りの汚職・腐敗の排除や、治安の改善が必要であるため、今回のカビラ氏への経済制裁発動に踏み切った可能性がある。4月27日、DRC政府は米国とアラブ首長国連邦(UAE)から1億ドルの資金を得て、鉱山周辺の警備を強化するために準軍事組織を設立すると発表している(4月27日付、Al Jazeera)。
一方で、DRC東部でのM23とDRC軍の戦闘は全く収束の兆しがみられない。4月15日にはスイスで米国・カタールの仲介により、M23とDRC政府の停戦協議が行われたが、4月27日にもM23がDRC東部にドローン攻撃を行ったとしてDRCは非難を続けている。ルワンダは依然としてM23支援を否定しており、事態は平行線を辿っている。
- [米国・中国/首脳会談に向けた閣僚協議]5月中旬に北京で開催予定の米中首脳会談に向け、4月30日、中国の王毅外相と米国のルビオ国務長官、さらに何立峰副首相とベッセント財務長官らの電話会談が行われた。王毅外相は台湾問題について「核心利益の中の核心」であり、「米中関係の最大のリスク」だとして、米国に対し明確に圧力をかけた。
王毅氏は「得難い安定」の維持を強調しつつ、首脳会談の議題準備を急ぐよう促した。中国はトランプ大統領に対し、従来の米政権の「独立を支持しない」ではなく「台湾独立に反対する」と明示することや、台湾軍への武器支給の抑制などを期待している。王毅氏の主張は真新しい内容ではないが、台湾問題での譲歩がなければ、米中関係の安定はないと強調する内容となっている。
貿易問題も重要な議題であり、何立峰・ベッセント会談では、米国の対中経済規制措置について中国側が「重大な懸念」を表明した。 米商務省は最近、複数の半導体製造装置メーカーに対し、中国第2位の半導体メーカーである華虹半導体への特定の装置の出荷を停止するよう命じた。これに対し中国側は不満を抱いているとみられる。貿易休戦の継続と通商摩擦の解決策も首脳会談の重要議題になる予定である。
中国は台湾、経済分野について主要関心事項を提示し、会談を前に圧力と交渉を同時に進めようとしているが、どこまで具体的合意に至るかが注目される。
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