- [台湾/防衛予算、当初案の3分の2で可決]5月8日、台湾立法院は総額7,800億台湾ドル(以下ドル、約3兆9,000億円)の防衛予算を可決した。採決では、野党の国民党と民衆党が賛成し、与党・民進党は棄権した。
可決された予算には、米国製の高機動ロケット砲システム「ハイマース(HIMARS)」や、155ミリ自走榴弾砲「M109A7」、対戦車ミサイル「ジャベリン」「TOW2B」、攻撃型無人機などが盛り込まれた。第1段階として3,000億ドルを執行し、第2段階では、米政府が今後1年以内に承認する分として4,800億ドルを計上する。
ただし、頼清徳政権が求めていた当初案は総額1兆2,500億ドル(約6兆2,000億円)であり、今回可決された額はその約3分の2にとどまった。行政院案には、米国製兵器に加え、台湾版「アイアンドーム」と呼ばれる「T-Dome」防空システム向けの「強弓」弾道ミサイル迎撃システムや、海上攻撃型ドローンなど、台湾独自の非対称戦力強化計画が含まれていたが、これらは削除された。国防部は、これらの除外により「能力上の空白」が生じると警告している。無人機関連予算の削減は、軍事面だけでなく、台湾国内の防衛産業育成や雇用にも影響すると指摘されている。
また、野党案では「1年ごとの審査」方式が導入された。米国からの兵器調達予算を毎年立法院が再審査する仕組みであり、民進党や国防部は「審議の遅延や予算削減によって契約履行や支払いに支障が出る恐れがある」として反発している。米国への発注は長期的な支払い保証が前提となるため、毎年の再審査方式では対米交渉そのものが難航する可能性もある。
ある米政府高官は、今回の予算成立自体は歓迎しつつも「失望した」と述べ、「残る能力整備の遅延は中国共産党への譲歩だ」と異例の表現で警告したと報じられている。トランプ政権は台湾の防衛費増額を強く求めており、2025年12月には過去最大規模となる110億ドルの対台湾武器売却を承認し、さらに追加の大型武器売却も検討されているとされる。
今後、頼政権は削除された防空・無人機関連予算の復活を目指し、野党との再調整を進める構えであり、林佳龍外交部長も追加予算の可能性などに言及した。
- [ブラジル/財政悪化]2026年に入り、ブラジル政府は今秋の選挙を意識した拡張的な財政運営を強めている。年初から公共支出は大きく加速し、第1四半期の実質ベースでみた純歳入は前年同期比4.2%増となったのに対し、歳出は同18.3%増と大幅に拡大した。
歳出急増の背景には複数の要因がある。2025年予算は約4か月遅れの4月に成立したため、前年第1四半期は裁量的支出の執行が抑制されていた。これに対し、2026年予算は期限通りに成立し、さらに10月の選挙が近づくと歳出に制限が課されることから、歳出の執行が前倒しされた。その結果、裁量的歳出は3月までに前年同期比59.3%増、485億レアルに達した。また、政府は約700億レアルに上る裁判所命令による債務(プレカトリオ)の支払いを、2025年は7月に実施していたものを、今年は3月に前倒しした。これは金融引き締め下で景気を下支えする狙いがあったと考えられる。地方政府においても、選挙前に支出を拡大する動きがみられる。直近12か月間でみた基礎的収支は、2月に110億レアルの黒字であったものが、3月には13億レアルの赤字へと悪化した。政府債務残高はGDP比80.1%に達し、前年の75.6%から上昇し、2021年半ば以来の高水準となっている。
もっとも、下期にかけてはベース効果の一巡と選挙関連の支出制限により、支出増加率は鈍化すると見込まれる。また、インフレ上昇による名目GDPが拡大すれば、支出増加の一部を相殺し、政府が掲げる2026年の財政目標である基礎的収支でGDP比0.25%の黒字(許容幅±0.25%)を達成する余地は残されている。
ただし、こうした制約の中でもルーラ政権は景気刺激策を相次いで打ち出している。これらは補助金付き融資や政府保証を通じた信用供給であり、財政を大きく悪化させるものではないものの、それでも一部は政府債務を増加させる。4月だけでも、住宅向け融資枠の拡大(200億レアル)、米国の関税措置やイラン戦争の影響を受けた企業への支援(150億レアル)、トラック・バス購入向けの新たな補助融資(212億レアル)、さらに家計向け債務再編プログラム「デゼンローラ」第2弾(需要次第で最大150億レアルの政府保証)が含まれる。これらの一部は既存基金の再配分で賄われるが、国債の調達金利を下回る金利で貸し出すことによる利子補填は、将来的に財政負担となる。年末の政府債務残高は、こうした措置により上振れリスクが存在する。
- [米国/雇用統計]労働省が5月8日に公表した雇用統計によると、4月の非農業部門雇用者数は前月比11.5万人増と、2か月連続で増加した。3月(18.5万人増)から減速したものの、市場予想(約6万人増)を上回った。
産業別に雇用者数を見ると、教育・ヘルスケア(4.6万人増)や輸送・倉庫業(3.0万人増)がけん引役となり、それぞれ2か月連続で増加した。前者について、3月には2月の医療従事者のストライキの反動増が表れていた。専門・ビジネスサービス(0.7万人増)や卸売(0.6万人増)は4か月連続で増加、小売(2.2万人増)や娯楽・接客業(1.4万人増)、建設業(0.9万人増)は2か月連続で増加した。それに対して、政府(0.8万人減)は7か月連続で減少、情報(1.3万人減)は16か月連続で減少、金融(1.1万人減)は2か月連続で減少した。大手IT企業から人員削減の発表が相次いでおり、情報業では当面減少が継続しそうだ。
4月の失業率は4.3%であり、3月と同じだった。政府閉鎖解除後の2025年11月(4.5%)にやや上昇したものの、それを除くと、2025年後半から足元にかけて4.3~4.4%でほぼ横ばいになっている。また、4月の平均時給は前年同月比+3.6%、3月からやや拡大したものの、2025年後半の3%台後半にとどまっている。ただし、前月比の伸び率は3月と同じ+0.2%であり、2025年後半の+0.3%からやや減速している。
4月の統計結果からも「低採用・低解雇」という労働市場の状態がうかがえる。労働市場は力強くないものの、悪化しているわけでもない。そのため、金融政策は「雇用の最大化」よりも「物価の安定」を重視して運営されることになるだろう。
- [ロシア・ウクライナ/軍事侵攻]5月9日、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領が提案している首脳会談について、モスクワであれば応じるとの立場を改めて示した。一方、第三国開催の場合は、事前に両国代表団が「平和条約の最終合意」に達していることが条件であり、首脳会談は交渉の場ではなく最終文書への署名の場であるべきだと強調した。これは、ウクライナが領土割譲などロシアの要求を受け入れる、事実上の「降伏」を前提条件とする姿勢を再確認したものと受け止められている。
これに対し、ゼレンスキー氏はモスクワでの会談を拒否するとともに、領土など主権に関わる重要事項は首脳間の直接交渉で決着させる考えを示しており、両国の溝は改めて鮮明となった。
5月8日、トランプ米大統領は、SNS発信を通じて、ロシアとウクライナが米国の仲介で5月9~11日の3日間停戦について合意し、捕虜千人を交換すると発表した。ロシア側が警戒していた5月9日のモスクワでの軍事パレードに対する攻撃はなかったが、双方が攻撃を続け停戦の実効性には疑問が残る。ロシアのウシャコフ大統領補佐官は、5月11日以降の停戦延長の予定はないと述べた。
- [米国・イラン/停戦交渉と中東情勢]イランは5月10日、米国提案への回答を仲介国パキスタン経由で送付したが、トランプ大統領はこれを「全く受け入れられない」と自身のSNSに投稿し、即座に拒否した。イラン側の提案は、①戦争終結と再発防止の保証、②ホルムズ海峡における海上安全保障と新たな管理体制、③核問題および高濃縮ウラン備蓄に関する交渉、という段階的協議を柱としていると報じられている。一方、米国側は、少なくとも12年間のウラン濃縮停止に加え、60%濃縮ウラン約440kgの引き渡しを求めており、双方の立場には依然として大きな隔たりが存在する。
特に注目されるのは、イランが核問題よりも先に「海上封鎖の解除」と「ホルムズ海峡に対する主権」を交渉の中心に据えている点である。米国による港湾封鎖はイラン経済に深刻な圧力を与えているものの、テヘラン側は経済的耐久力を背景に譲歩を拒み、逆に海峡封鎖を戦略カードとして活用している。実際、米中央軍はイラン向けタンカーへの攻撃を実施しており、イラン側も外国船舶への通航規制や報復警告を強化していることから、海上衝突リスクは高止まりしている。
さらに、この週末には湾岸諸国周辺でドローン事案が相次いだ。カタール、クウェート、UAEは、自国領空内で複数のドローンを検知したと発表した。カタールでは5月10日、領海内で貨物船にドローンが衝突し、火災が発生したと公表している。また、バーレーンでは5月9日、イランの革命防衛隊(IRGC)と関連するグループに所属する41人が逮捕された。これに対し、サウジとアラビアUAEはバーレーン政府への支持と連帯を表明した。さらに、バーレーンは4月下旬にも、外国政府との共謀を理由に69人の市民権をはく奪している。
現時点では、米国は「核能力の放棄」を、イランは「制裁解除と主権承認」を優先しており、交渉の優先順位は噛み合っていない。今後の焦点は、パキスタンなど第三国による仲介を通じ、海上安全保障と停戦を先行合意として切り離せるかにある。ただし、双方とも軍事的圧力を交渉カードとして維持しており、短期的には緊張緩和よりも、限定的衝突を伴う「管理された対立」が継続する可能性が高い。
- [南アフリカ/大統領弾劾投票へ]5月8日、南アフリカ(南ア)憲法裁判所は、2022年にラマポーザ大統領に対する弾劾投票手続きを議会が阻止したことについて、違憲との判決を下した。同裁判所は、弾劾委員会の再設置と調査内容の精査を命じた。
ラマポーザ氏に対する弾劾の動きは、2020年に同氏が保有する狩猟用農場内の私邸にあるソファから約58万ドルが盗まれた事件(通称:ファラ・ファラ・スキャンダル)に端を発している。南アでは外貨の保有に関する厳格な規制があり、30日以内に銀行などの認可業者に預け入れる義務がある。ラマポーザ氏は、同外貨は農場でのバッファローの売却益だと主張していたが、多額の現金を私邸内に隠していたこと、また盗難が発生した際に警察に届け出ず、大統領専属警察官らで秘密裏に解決しようとしていたなど、不可解な点が様々明らかになっていた。
2022年当時はラマポーザ氏が率いる最大政党「アフリカ民族会議(ANC)」が議会議席の過半数を占めていたことから、半ば強硬的に弾劾投票手続きが阻止された。しかし、ANCは2024年の総選挙で得票率40.2%と歴史的大敗を喫し、連立政権(GNU)の設立を余儀なくされた。弾劾には議会の2/3以上の賛成が必要となるため、ANC単独でも阻止することは理論上可能だが、弾劾手続きにかかる再調査はラマポーザ氏およびANCのイメージを悪化させるものとなり得る。特に南アでは11月に5年ぶりの統一地方選が予定されているため、今回の判決はANCにとって痛手となる。憲法裁判所に対する法的異議申し立てを行ったのは、第二野党「経済的開放の闘志(EFF)」のジュリアス・マレマ党首その人だ。同氏は4月に銃不法所持などの容疑で有罪判決を受けたが(現在控訴中)、憲法裁判所の判決は同氏の政治的窮地を救うものとなり得る。
判決後、ラマポーザ氏は詳細な調査や説明への協力に応じる姿勢を示している。GNU第二政党の「民主同盟(DA)」は「南アの立憲民主主義にとっても重大な局面だ」と発言。弾劾手続き投票に向けた動きは今後のGNUの安定性にも影響を及ぼす可能性がある。
- [パキスタン/IMFプログラム承認]5月8日、IMF理事会は、パキスタン向けの拡大信用供与措置(EFF)・レジリエンス・サステナビリティ・ファシリティ(RSF)に基づくレビューを完了・承認した。これにより、合計13.2億ドル相当分の特別引出権(SDR)が供与されることになる。
パキスタンの外貨繰りに関し、4月末までにUAEがそれまで預け入れてきたドル建て預金(約35億ドル)を引き出したことやユーロ債(約14億ドル)の返済期限が到来したことから、外貨準備高が急減した。UAEの預金はIMFプログラムの承認の前提条件となってきたため、一時はプログラムの承認及び金融支援実施自体が疑問視されていた。他方で4月15日付のロイター通信の記事によると、サウジアラビアは約30億ドル分の新規預金預け入れを公表したほか、2026年12月に満期が到来する50億ドル分の既存預金につき、満期を2028年末まで約3年間延長すると発表された。これらも奏功し、外貨準備高は4月末時点で約159億ドルを記録するなど回復傾向にある。今回のIMF支援実施により、(単純計算で)外貨準備高は約172億ドルまで増加することになるが、これは2021年以来の高水準である。足元では、4月27日に中銀が利上げを実施したほか(10.5%→11.5%)、3月の労働者送金額も中東情勢悪化にも関わらず急増するなど、マクロ経済状況はおおむね良好である。
ただし、今般のサウジアラビアによる金融支援により同国への外貨支援の依存度が上昇することには留意が必要である。今回の支援により、サウジアラビアによる預金がパキスタンの外貨準備高全体に占める割合は約5割に上ることになる。サウジアラビアとパキスタンは相互防衛協定を締結しているため、サウジアラビアが外貨繰り面での依存度の高さをカードに、パキスタンに防衛面でサウジアラビアを支援するよう迫ることが懸念視されている。実際、4月にはパキスタン空軍がサウジアラビアのアブドゥルアジズ空軍基地に戦闘機を複数派遣したが、これはパキスタンが防衛協定に基づく義務を負っていることをアピールするものであると指摘されている(Al Jazeera、2026年4月11日付記事)。パキスタンとしては、サウジアラビアを防衛面で支援することで国内シーア派による政治的反対が拡大することを恐れ、イラン紛争に関与することを極力回避したいとの意図があるが、サウジアラビア側の要請により防衛面で支援せざるを得ない状況が生まれることが懸念される。4月には、アウラングゼーブ財務相が5月中にパンダ債(約2.5億ドル分、ADB・AIIBによる債務保証あり)を発行することを示唆したほか、外貨調達については二国間融資や金融支援から市場借入にシフトする旨を発言しているが、これはサウジアラビアへの外貨面での過度な依存から脱却することを意図していると考えられる。
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概要
西アフリカの2026年の経済成長率は、イラン情勢の影響下においても4.8%程度と予測されている(IMF、2026年4月)。域内経済の約5割を占めるナイジェリアでは4.1%成長が見込まれることが寄与している。
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