- [米国/消費者物価指数]労働省によると、5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+4.2%だった。市場予想と同じだった。上昇率は2月(+2.4%)から3月(+3.4%)、4月(+3.8%)と次第に拡大してきた。2023年5月(+4.0%)以来の4%台になり、当時は2022年6月(+9.1%)のピークから縮小の途中だった。また、食品・エネルギーを除くコア指数は+2.9%となり、4月(+2.8%)から上昇率は拡大した。物価の基調も2月(+2.5%)からやや高まっている。
内訳をみると、食料品(+3.1%)、エネルギー(+23.5%)、財(+1.1%)、サービス(+3.4%)の全て上昇している。エネルギーのうち、エネルギー財(+40.6%)、特にガソリン(+40.5%)の上昇が顕著だった。エネルギーサービス(+5.3%)では、電気代(+5.9%)がガス代(+3.0%)を上回る伸びだった。財では、新車(+0.2%)はほぼ横ばい、中古車・トラック(▲2.0%)は下落した一方で、衣服(+4.8%)や酒類(+2.1%)、たばこ(+7.8%)などが上昇した。サービスでは、家賃(+3.4%)、輸送サービス(+4.1%)、医療ケアサービス(+3.6%)も上昇した。輸送サービスのうち航空料金(+26.7%)、配送サービス(+16.0%)、郵便料金(+14.5%)が大きかった。
CPIの前月比は+0.5%、年末年始の+0.2%~+0.3%から3月(+0.9%)に大幅に加速した。その後、4月(+0.6%)、そして5月(+0.5%)へ減速したものの、年末年始の2倍近くの上昇率になっている。コア指数は+0.2%で、4月(+0.4%)から減速したものの、年末年始の+0.2%~+0.3%の範囲内に収まっている。
物価上昇率の高まりが確認できたため、市場では年内利上げという見方が維持されている。ただし、市場予想を上回る結果ではなかったこともあり、9月の利上げ確率は50%割れになるなど、利上げ観測はやや後ずれしている。
- [日本/企業物価指数(5月)]6月10日、日銀は5月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)を発表した。企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。5月の国内企業物価指数は134.5で前年同月比+6.3%と、2023年3月の+7.4%以来の高水準となり、4月の+5.3%からも上昇幅が拡大した。
内訳では、中東情勢悪化による原油価格上昇の影響が広がりをみせ、石油・石炭製品は+13.8%と、前月の+5.3%から8.5ポイント拡大、化学製品はナフサ価格上昇を受け+13.4%と、前月の+10.1%から3.3ポイント拡大した。非鉄金属は+42.2%と、高い上昇率だった前月の+37.9%からさらに4.3ポイント拡大した。
調査対象515品目のうち、前年同月比で価格上昇は418品目、下落は82品目、変わらなかったのは15品目だった。
円ベースでの輸入物価指数は+25.5%、輸出物価指数は+20.6%となった。
企業物価指数は、サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数と併せて、消費者物価指数に影響を与える。企業物価の上昇が消費者物価に転嫁され、景気への影響が広がる可能性がある。
- [ドイツ経済]6月2日付の『New York Times』紙は、ドイツ経済について、かつての強固な経済モデルは短期志向へと変質し、さらに外部環境に依存した繁栄も終焉した結果、現在深刻な構造的危機に直面していると報じている。
本稿が指摘する「ドイツ経済モデルの構造的機能不全」は、NYTのような外部からの観察にとどまらず、ドイツ国内の産業界自身も同様の危機認識を抱いている。
2026年3月、BDA・BDI・ドイツ商工会議所(DIHK)・ZDHの四大経済団体は共同声明で、「経済立地としてのドイツは戦後史上かつてない圧力下にあり、臨界点に向かっている」と異例に強い表現で警告。
ドイツ商工会議所(DIHK)の初夏景況調査では、中東危機に伴うエネルギー・原材料価格上昇と、労働コスト、官僚主義、投資不足、弱い内需といった国内構造問題が重なる「二重危機」として整理されており、本稿の問題認識は、ドイツ産業界自身が痛切に感じている現実となっている。
留意すべきは、問題が単なる「停滞」にとどまらず、一部産業では企業が改革を待たず、自ら立地を再編し始めている点。この動きはドイツ主要紙でも繰り返し取り上げられており、経済高級紙Handelsblattは昨秋「産業がドイツから逃げている」という直截な見出しで報じ、DIE WELT紙も2026年1月、ドイツ商工会議所DIHKのMelnikov事務総長による「脱工業化の明確な兆候が見える。中堅企業が生産を移転するか、完全に閉鎖している」との警告を伝えている。
事実、DIHKが約1,700の海外活動を行う産業企業を対象に実施した調査では、43%が2026年に国外投資を計画しており、最大の動機は「コスト削減」(41%、2003年以来の高水準)となっている。かつてドイツ企業の国外投資は、市場開拓や販売・サービス網拡充を通じて国内生産・雇用にも正の波及をもたらす面があったが、現在はコスト回避型の投資が増え、国内投資・雇用への波及が弱まりつつあるともみられている。Deloitte・BDIの調査でも、19%の企業が既に生産の一部を国外に移転済みと回答し、今後2~3年で43%が生産の再配置を計画しているとされる。
『New York Times』紙は、長期資本、職業教育、労使協調、AIのエンジニアリングでの活用等を処方箋として挙げているが、企業が政策改革の成果を待つ余裕を失いつつあるという点に留意が必要。
- [米国・イラン/攻撃の応酬が激化]米国とイランの対立は、ホルムズ海峡付近で発生した米軍AH-64アパッチ攻撃ヘリコプターの墜落事件をきっかけに、さらに深刻な段階へと発展した。米政府は、ヘリ墜落の原因をイラン側のドローンとの衝突と断定し、これを受けてイラン国内の防空システムやレーダー施設に対する空爆を開始した。米中央軍(CENTCOM)は、これらの攻撃を「自衛措置」と説明し、2日連続でイラン全土の軍事目標に対する攻撃を実施した。トランプ大統領も、「イランは交渉で米国を愚弄し続けている」と不満を示し、「非常に激しい攻撃を行う」と警告したうえで、今後も攻撃を継続する可能性を示唆した。
今回の米軍の攻撃は、単なる報復にとどまらず、停滞している米イラン交渉を前進させるための圧力という側面も持っている。ヘグセス米国防長官は、攻撃は全面戦争を目的とするものではなく、恒久的な停戦や合意に向けた交渉の一環であると説明し、「必要であれば爆弾を使って交渉する」と発言した。実際、米軍は死傷者の発生を避けるため攻撃対象を軍事施設に限定し、攻撃直前にはイラン側に対し標的が軍事施設のみであることを伝えていたとされる。
しかし、イランは一歩も譲らない姿勢を示している。イラン軍高官は、ホルムズ海峡を全面封鎖したと発表し、革命防衛隊(IRGC)海軍は海峡を通過しようとした船舶への攻撃を実施したと主張した。また、米軍による最初の空爆以降、イランはクウェート、バーレーン、ヨルダンなどに駐留する米軍基地への報復攻撃を実施している。さらに革命防衛隊は、地域の米軍施設18カ所を標的とした2波の攻撃を実施したと発表した。イラン国内でもバンダル・アッバース、ゲシュム島、イスファハンなど各地で爆発や防空システムの作動が報告されており、軍事的緊張は一段と高まっている。
今回の危機の背景には、米イラン間で続いていた停戦交渉の行き詰まりがある。トランプ政権は、イランに対し濃縮ウランの希釈やホルムズ海峡の航行妨害停止を求める修正案を提示していたが、イラン側は回答を先延ばしにしていた。米国側は「時間切れが近い」と警告していたものの、その最中にイスラエルとイランの軍事衝突、さらにヘリ墜落事件が発生し、情勢は急速に悪化した。現在もカタールなどの仲介による外交努力は続いているが、米軍の空爆とイランの報復が続く中、偶発的な衝突が全面的な軍事対決へ発展するリスクは高まっている。今後のイラン側の出方と米国の追加攻撃の有無が注目される。
- [ケニア/政策金利・予算]6月9日、ケニア中銀(CBK)は金融政策委員会(MPC)を開催し、政策金利を8.75%で維持すると決定した。据え置きは二会合連続となった。
中銀のカマウ・トゥゲ総裁は、ケニアのインフレ率は世界的な油価高騰により4月に5.6%、5月に6.7%に上昇したが、中銀のインフレ目標範囲である5±2.5%に留まっていると説明。エネルギー価格は4月の13.4%から、5月には16.0%に急上昇したが、中東情勢の沈静化を前提とすれば、総合インフレ率は目標範囲内に収まるとの見通しを示した。ケニア政府は燃料高騰の対策として、4月15日から90日間の期間限定で石油製品に対する付加価値税(VAT)を16%から8%に引き下げている。中銀は、こうした政府のインフレ対策や、好天による食料価格の安定の見通し、為替レートの安定がインフレの安定的推移を支えることから、現在の金融政策スタンスを維持することが適切と判断し、政策金利の維持を決定したと説明した。
一方で中銀は、エネルギー価格の高騰、運輸・旅行などのサービス収入の減少、海外の出稼ぎ労働者からの送金の減少により、2026年の経常赤字はGDP比で3.0%に拡大すると予測(25年は同2.1%)。26年の実質経済成長率は25年の4.6%から回復が見込まれるも、4.9%と前回のMPCの予測時の5.3%から下方修正した。外貨準備高は輸入の5.6か月分をカバーする水準にあり、短期的な国内外のショックに十分耐えうると評価している。
ケニアでは目下、7月1日に新会計年度が始まるにあたり、2026/27年度財政法案の審議が国会で進められている。歳入案は前年比約6%増となる3.6兆ケニアシリング(約4.5兆円)に対し、歳出案は前年比約3%増となる4.8兆ケニアシリング(約5.9兆円)が見込まれている。ケニアの歳入対GDP比は17%前後で推移しており、国際通貨基金(IMF)が新興国の成長に必要な基準とする同15%に近い低水準にある。ケニア政府は中期的に20%への引き上げを目標としているが、2024年の財政法案で個人所得税などの増税を提案した際には大規模な抗議デモが発生し、多数の死傷者も生じたことから実際には大幅な歳入拡大は難しい状況だ。
- [マレーシア/日本との首脳会談]6月10日、訪日中のアンワル首相は高市首相と会談を実施。安全保障面ではOSAや防衛装備品・技術移転協定の枠組みの下で防衛装備品移転を継続することを確認したほか、経済分野ではパワー・アジアやAZECの枠組みの下での協力を確認した。
同国は石油の備蓄日数が60日分と、ASEAN5諸国の中ではタイ(103日分)に次いで多い。かつ石油製品については純輸出国となっている。日本はフィリピンとの首脳会談において、パワー・アジアの枠組みの下で戦略石油備蓄タンク(30日分)の新設を支援することを公表したが、今回の会談では日本側から何か目立った支援・協力は打ち出されなかった。逆に、日本にとりマレーシアはLNG・原油・石油化学製品の輸入先である。特にLNGはオーストラリアに次ぐ第2位の輸入先で、マレーシアからの輸入はLNG輸入額全体の約2割を占める。石油化学製品については日本で供給不足が懸念されるナフサのほか、医療用手袋や尿素を日本に輸出している。会談後の声明では、これら品目について日本に対し安定的に供給し続けることが確認されている。マレーシア側が輸出制限等を実施しないと釘を刺す狙いがあるとみられる。
重要鉱物分野では、マレーシアはオーストラリア・フランスや日本など個別国による開発事業への参画のみならず、ADBや世銀によるイニシアティブを歓迎した。ADBは今年5月に、アジアにおける重要鉱物のサプライチェーンを強化するための「重要鉱物-製造業資金パートナーシップ・ファシリティ (CMM-FPF)」を立ち上げている。なお日本政府は2,000万ドルを拠出することを公表している。
中国のレアアース輸出規制を受け、代替輸入先としてマレーシアへの注目度が近年増している。例えば2025年10月に締結された相互貿易協定では、マレーシアは重要鉱物やレアアースの米国向け輸出に制限を課さないことを約束した。他方でマレーシア側はレアアースを地政学的な交渉材料とする意図はなく、あくまで精錬加工事業の育成など自国の経済開発を優先する立場を取っている(The Diplomat、2026年5月9日付記事)。そのためマレーシアとしては、個別国による支援や投資受入れよりもADB・世銀のような多国籍機関主導のレアアース開発向け支援を受け入れやすいと考えられる。
- [メキシコ/USMCA進捗]トランプ大統領は2026年6月10日、米国がカナダおよびメキシコとの自由貿易協定(USMCA)を更新しない可能性があると発言し、両国との貿易赤字を強く批判した。一方で、両国と協議を続けていることにも言及し、交渉自体は継続している姿勢を示した。
この発言は従来からの通商政策と同様、米国の交渉力を強調する意図があると考えられる。 実務レベルでは、交渉は進んでおり、米国とメキシコは2026年6月16日と17日に米国で第2回交渉を行い、農業分野や「公平な競争環境」を中心に議論する予定となっている。また、第3回交渉は7月20日の週にメキシコで開催される見通し。
米国とメキシコの貿易は足元で力強く拡大しており、この流れは米国側の対メキシコ赤字への懸念がある中でも、むしろメキシコの交渉上の立場を強化するとの指摘もある。米国国勢調査局のデータによれば、2026年4月の対メキシコ貿易では、米国のメキシコからの輸入が前年比21.1%増の507億ドル、米国のメキシコ向け輸出が同27.3%増の353億ドルとなった。この結果、メキシコの対米月間貿易黒字は153億ドルに達している。
年初からの累計でも同様の傾向が確認できる。2026年1月から4月までの米国のメキシコ向け輸出は1,286億ドルと前年比14.9%増加し、二国間貿易は引き続き拡大している。一方で、米国の対メキシコ貿易赤字は601億ドルと、わずかに1.7%縮小したにとどまる。なお、メキシコは2026年4月時点で米国最大の財(モノ)の貿易相手国であり、そのシェアは16.4%に達する。これは、カナダ(12.4%)や中国(6.1%)を上回る水準であり、北米サプライチェーンにおけるメキシコの重要性が一層高まっていることを示すが、米国にとって対メキシコ赤字の削減は引き続き重要な政策目標となり、交渉の長期化や、不確実性の高まりは続いている。
こうした対米関係の強化と並行して、メキシコは中国との貿易に対してはより慎重な姿勢を強めている。経済省は、国内産業に悪影響を及ぼす可能性が高いと判断し、中国から輸入されるステンレス製シンクに対する反ダンピング関税をさらに5年間延長する決定を下した。この決定には、米国が懸念する迂回輸出にたいする米国側へのアピールもあると考えられる。メキシコ政府はルールの運用を厳格化し、これまで以上に厳しい税関検査により、不正な流入を取り締まることや反ダンピング調査の活用、規制監督の強化を進めることで、USMCA見直しに向けて米国の懸念を和らげようとしている。
メキシコは対米関係の深化と対中警戒の強化を同時に進めながら、北米経済圏における自らの役割を一段と強固なものにしようとしているのである。
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