- [インド/尿素生産支援策]7月16日、インド政府の内閣経済問題委員会(CCEA)は、「尿素分野の国家投資政策(NIPU-2026)」を承認した。本政策は、尿素の国内生産を促進するものである。
インドの尿素需要は年間約4,000万トンに上るが、国内生産は約3,000万トンにとどまっており、需要の約4分の1を輸入に依存している。年間の輸入額は47億ドルに上るが(HSコード:3102.10)、そのうち約4割をオマーン、カタールなどの湾岸諸国に依存している。3月以降にはイラン情勢悪化を受けて尿素の輸入が物理的に滞ったほか、尿素の輸入価格が一時40?50%高騰した。インドでは4月から7月の期間に、米・サトウキビ・トウモロコシ・綿花などの夏作物に肥料を与えるが、上記影響を受けた肥料の供給量減少が作物の収穫量低下につながりかねない。
農作物価格高騰とそれに伴うインフレ率上昇は家計の実質可処分所得低下につながる。特に、物価全体に占める農作物価格の比重が大きい低所得者層においてはその傾向が強い。加えて、農作物価格高騰は政府・与党の支持率低下を招く。インド政府は尿素の輸入依存を是正するため、2013年に、プロジェクトの収益率を一定水準以上に保つべく政府による尿素買取価格に下限を設けることなどを定めた「新投資政策(NIPU)-2012」を実施した。本政策の下で、新たに6つの尿素製造プラントが稼働した(合計の年間生産量は約760万トン)。本政策は2019年に失効したが、これまで後続の政策が実施されてこなかった。
今回公表された政策では、国内に天然ガスベースの尿素製造プラント(1工場あたり年産127万トン規模)を8?9か所新設し、合計で約1,000万トンの生産能力を追加することを目指している。そのための手段として、NIP-2012と同様に尿素買取価格に下限を設けることが想定される。なおNIP-2012との相違点としては、プロジェクトの収益率に定められた上限が引き下げられたことが挙げられる。NIP-2012はプロジェクトの収益率(自己資本利益率)が年率12%以上・20%以下になるよう尿素の買取価格を定めていたが、NIPU-2026では収益率の上限を16%まで引き下げた。政府は買取価格より低い価格で尿素を農家に販売し、価格差に対して補助金を支給するため、収益率の上限を引き下げることで補助金増額を抑制する狙いがあるとみられる。
なお尿素の国内生産量増加により尿素輸入依存は低下するものの、原料となるLNGについては引き続き輸入に依存するため、地政学リスクや国際エネルギー価格変動の影響を受けやすい構造は残る。従って本政策は肥料の供給安定化には寄与する一方、エネルギー安全保障上の脆弱性を解消するものではない。 - [ブラジル/関税続報]2026年7月、米国はブラジル産輸入品に対する新たな関税措置を発表した。対象となるのは機械、砂糖、エタノールなどで、7月22日から25%の追加関税が課される予定となっている。
米国通商代表部(USTR)は、ブラジルのデジタル貿易政策や即時決済システム「Pix」、違法森林伐採への対応、サプライチェーンにおける労働問題などを問題視している。一方のブラジル政府は、こうした主張を否定し、関税措置には政治的な動機があると反発している。
今回の25%関税に加え、強制労働問題に関する別の301条調査に基づく追加関税が導入されれば、一部製品では合計37.5%の関税負担となる可能性がある。また、鉄鋼やアルミニウムなどは別の制度による関税措置の対象であり、引き続き高関税が維持される。
ただし、米国は牛肉、コーヒー、航空機、希土類、エネルギー関連製品など多くの重要品目を適用除外とした。対象外品目は2,000品目以上に及び、ブラジルの対米輸出額の大部分が保護される形となっており、実際に影響を受けるのは対米輸出の1/4程度となる。これは米国内のインフレ抑制やサプライチェーン維持を優先した結果ととらえられる。
その一方で、木材などの原材料が除外される一方、それを加工した家具や農業機械が課税対象となるなど、ブラジルの付加価値産業により大きな影響が及ぶ構造になっている。このため、ブラジル政府は今回の措置を単なる貿易問題ではなく、自国産業への圧力と受け止めている。
ルーラ政権は対抗措置の準備を進めているが、報復関税には慎重な姿勢を取っている。その代わりに、米国企業の知的財産権やサービス分野を対象とした規制強化が候補に挙がっている。また、世界貿易機関(WTO)の紛争解決手続きも活用し、国際ルールに基づく対応を進める方針で、影響を受ける産業向けの融資制度や支援策も検討されており、国内経済への打撃を緩和する構えを見せている。
今回の関税問題は、10月に実施予定のブラジル大統領選挙への影響という観点では、ルーラ大統領は、この問題を外国からの圧力に対する国家主権の防衛と位置付けている。ただし、現時点の世論調査では、米国の圧力が必ずしも反政府勢力に有利に働いているわけではなく、多くの有権者の関心事項は国内政治となっている。 - [日本/第3次産業活動指数(5月)]経済産業省が発表した5月の第3次産業活動指数(2019・2020年平均=100)は107.3で前月比+1.1%と、2か月連続で上昇した。内訳をみると、広義対個人サービスは+0.6%、広義対事業所サービスは+2.0%といずれも2か月連続で上昇した。全体として、第3次産業活動は、「一部に足踏みがみられるものの、持ち直し傾向にある」とし、基調判断を据え置いた。
業種別では、10業種中7業種で前月比上昇、2業種で低下、1業種(医療、福祉)で横ばいとなった。上昇したのは「情報通信業」(+3.1%)、「金融業、保険業」(+3.4%)、「小売業」(+1.9%)などで、低下したのは「不動産業」(▲0.5%)、「卸売業」(▲0.1%)。
上昇方向の要因として、「情報通信業」の「情報サービス業」(+4.6%)ではDX関連投資が堅調にて「ソフトウェア業」(+4.1%)などが上昇、「インターネット附随サービス業」(+2.7%)も上昇。「金融業・保険業」では、「金融商品取引業、商品先物取引業」(+18.4%)にて株取引の「流通業務」(+19.3%)が引き続き活発にて上昇。
低下方向の要因としては、「不動産業」の「不動産取引業」(▲2.3%)にて「不動産代理業・仲介業」(▲4.9%)が低下した。なお、業種分類とは別に、個々のサービスを特徴によってグループ分けした再編集系列において、「観光関連産業」の指数は117.3で▲0.3%となった。2025年11月の中国政府による日本への渡航自粛要請により中国人訪日客数は激減しているが、同月の指数118.6から、それ以降も観光関連産業の生産活動は底堅く推移している。
- [英国/英国風リスクヘッジのすすめ]英国政府は2026年7月14日、National Risk Registerの更新とともに、2026年後半に国民向けの「national resilience public awareness campaign」を開始すると発表した。これは、サイバー攻撃、洪水、異常気象などのリスクに対して、一般家庭が「simple steps」を取れるよう促すことを目的にしている。このキャンペーンは、既存の政府サイトGOV.UK Prepare(英国政府の防災・備え情報サイト)のガイダンスを土台にすると説明されている。
GOV.UK Prepareでは、数日間続く停電・断水・自宅待機・避難や、家庭内に非常用物資をまとめておくこと、必要な医薬品を数日分確保すること、懐中電灯、携帯充電用バッテリー、ラジオ、救急用品、消毒用品、飲料水、加熱不要の保存食などを備えることが推奨されている。水については、GOV.UK Prepareが「標準的な数字はない」としながらも、世界保健機関(WHO)の目安として生存に必要な飲料水は1人1日2.5~3リットル、調理や衛生も含めてより快適に過ごすには1人1日10リットルと明記している。食料についても、缶詰の肉・果物・野菜など、調理不要で腐りにくい食品を例示している。
災害の多いわが国ではごく当然のことであり、緊急時の家庭備え・社会レジリエンス・危機対応能力の強化としての文脈で語られている。英国政府も公式発表で「政府はできることをすべて行い、十分に準備しているが、国民も自分自身と家族を守る役割を果たせる」と述べている。現状に対する発想の転換を促していることに対して、「政府が助けに来ない」「ロシアの脅威」「戦時体制」「政府の戦争計画」といった印象を強めようとの一部のメディアの意図も伺える。
実際、2026年版のNational Risk Registerでは、7つの新しいリスクとして、データインフラ、水道インフラ、警察システムへのサイバー攻撃リスク、AIの高度化・普及に伴う脅威、CrowdStrike事件(セキュリティソフト欠陥から生じた障害)からの教訓を踏まえた「digital resilience failure」、英国の民主的プロセスへの干渉リスクを追加している。さらに、2027年に大規模な国内防衛演習を行う計画があることも、不安をかき立てているようだ。
それでも、今回の方針は「全社会型レジリエンス政策の強化」という評価が相応しいと言えるだろう。 - [ロシア/株式市場が再び急落、富裕層が資金を国外移転か]7月16日、モスクワ証券取引所(MOEX)の主要株価指数IMOEXは一時2,018ポイントまで下落し、2022年10月以来の安値を更新した。終値は2,022ポイントと前日比▲4.2%となり、3月の年初来高値からの下落率は約30%に達している。今回の下落は先月の安値を完全に割り込む「底割れ」の形になっており、取引高も大きく、市場では投資家のリスク回避姿勢が急速に強まっている動きが出ているとみられる。
一方、米ブルームバーグによれば、ロシアの富裕層やオリガルヒの間で、資産を国外へ移転する動きが加速している。移転額は2026年に入り数百億ドル規模に達しているとみられ、その背景には戦争長期化による経済減速、財政悪化、さらには国家による資産接収リスクへの警戒感があるという。プーチン大統領に近い実業家も含め、一部富豪は資産を暗号資産、金、海外不動産、外国投資ファンドなどへ振り向けている。特にアラブ首長国連邦(UAE、ドバイ)は資産逃避先として人気を集めている。最近のMOEX指数急落や景気減速懸念と合わせてみれば、ロシア経済に対する不安が一般投資家だけでなく支配層内部にも広がりつつあることを示す象徴的な動きといえる。 - [EU/ウクライナとの協力]欧州委員会とウクライナは、両者の防衛産業の統合に向けた新たな防衛産業パートナーシップに署名し、同時にEUウクライナドローン協定を立ち上げた。また、総額900億ユーロのウクライナ支援ローンの枠組みから、ドローン調達のために新たに10億ユーロを追加拠出した。
防衛産業パートナーシップは、防衛調達から知的財産保護に至るまでの障壁を取り除き、欧州とウクライナの基準を統一することで、両者の防衛経済を深く統合するもの。具体的には、2026年末までにドローンや対ドローンシステムの共同生産を推進し、2028年までには対弾道ミサイルの共同生産に協力を拡大することで、深刻な防空能力の不足に対処する計画。
EUウクライナドローン協定は、欧州の製造能力と、ウクライナの戦場で培われた革新的なドローン技術を融合させる枠組み。両者の企業による合弁事業を推進し、次世代ドローンの開発と生産を加速させる。2026年9月にはブリュッセルで、EU加盟国およびウクライナから選定された合計18社の創設メンバーによる初会合が予定されている。今回の10億ユーロは、2026年6月に行われた支援に続く追加拠出であり、今後も追加のドローンやミサイル、戦闘機のために100億ユーロの支出計画が承認されている。また、軍事技術開発を加速させる「BraveTech EU」構想では有望な企業6社が選定され、実際の戦場環境を反映した試験が行われる。さらに、ウクライナは欧州防衛基金(EDF)に完全に参加できるようになり、最先端の防衛技術の共同研究開発が可能となった。
フォン・デア・ライエン欧州委員長の11回目のキーウ訪問に合わせて発表されたこれらの取り組みは、ウクライナへの長期的な支援の約束を示すもの。同時に、単なる一方向の支援ではなく、ウクライナの実戦経験と技術革新を欧州自身の防衛力強化に還元するという、双方向の利益を生み出す重要なステップとして位置づけられている。 - [米国/対イラン攻撃を6夜連続で実施]7月16日夜、米軍はイランに対する大規模空爆を6夜連続で実施した。米中央軍(CENTCOM)は、イランの軍事能力をさらに低下させることが目的だと説明し、戦闘機や無人機、艦艇から精密誘導兵器を用いて沿岸監視施設、防空システム、軍事物流拠点、海上戦力など数十カ所を攻撃したと発表した。南部のアフヴァーズ、ブシェール、ケシュム島、バンダル・アッバースなど広い範囲で爆発が確認され、橋や道路、鉄道、空港などインフラへの被害も拡大した。イラン保健省は、一連の攻撃による死者が少なくとも40人、負傷者は300人を超えたとしている。
イランは報復として、カタール、バーレーン、クウェート、ヨルダンなどの米軍基地に向けてミサイルやドローン攻撃を継続した。カタール国防省はミサイルを迎撃したと発表したが、迎撃後に落下した破片で子ども1人が負傷したことを明らかにした。
トランプ大統領は14日に実施した国家安全保障チームを集めたシチュエーションルーム(危機管理室)会議で、ホルムズ海峡周辺だけでなくイラン国内の戦略目標への攻撃拡大を協議した。発電所や橋梁を次の標的とする可能性にも言及し、イランが交渉に応じなければ攻撃をさらに強化する姿勢を示している。米軍の狙いは、イランの防空網や対艦ミサイル、ドローン基地を破壊し、ホルムズ海峡での船舶攻撃能力を奪うことにある。
海上輸送を巡る緊張も高まっている。ロイター通信によると、イランはイエメンのフーシ派に対し、米軍がイランの電力インフラを攻撃した場合に備え、紅海の要衝であるバーブ・アルマンデブ海峡の封鎖準備を指示したとのこと。革命防衛隊はすでにホルムズ海峡の再封鎖を宣言しており、両海峡が機能しなくなれば、原油輸送は南アフリカの喜望峰経由を余儀なくされ、輸送日数やコストが大幅に増加することになる。紅海経由の原油輸送は今年に入ってから急増しており、市場では供給混乱への警戒感から原油価格が上昇している。
米・イスラエル関係にも変化がみられる。米Axiosの報道によると、ネタニヤフ首相はトランプ大統領との会談実現を模索したが、ホワイトハウス側は正式な日程を設定しなかった。背景には、トルコへのF35売却を巡るネタニヤフ氏の公然とした批判や、イラン戦争を巡る見通しの甘さへの不満があるとされる。ワシントンでは民主党だけでなく、トランプ政権内部やMAGA支持層でもネタニヤフ政権への厳しい見方が広がっており、米イスラエル関係には従来とは異なる距離感が生まれつつある。
- [南アフリカ/外国人排斥・外交]7月15日、南アフリカ(南ア)大統領府報道官は、特定の国が南アを世界から孤立する「パーリア国家」として描こうとする「誤報キャンペーン」を行っていると強く非難した。同報道官は、南ア政府が外国人に対する自警行為を非難し、憲法の範囲内で移民の強制送還などを執行しているにもかかわらず、「ある国」の外交代表が虚偽の情報を流布し、南アの国際的な地位を歪曲させる試みを行っていると強調した。記者会見の質疑応答の中で、このキャンペーンは主にガーナによって主導され、ナイジェリアもそれに追随していると述べた。
これは南ア国内で過熱する不法移民反対デモに関するもので、6月30日には反移民団体「March & March」らが不法移民の国外退去を求める全国規模の抗議デモを動員。襲撃を恐れる外国人労働者ら5万人強が南アから自発的に出国もしくは強制送還される事態にエスカレートしている。
2022年の南アの公式統計によると、合法的に滞在している移民の数は約240万人で、そのうち8割強が南ア周辺の「南部アフリカ開発共同体(SADC)」の出身者で占められている。前述の強制送還の対象となった5万人強のうち約8割はSADCに加盟するマラウイの出身者であり、西アフリカのガーナ・ナイジェリアの移民ははるかに少ない。しかし、一連の南アでの反移民デモの中でガーナ人を非難する動画がガーナ国内でも拡散したこと、また、南ア政府はデモとの関連はないと主張しているが、南ア国内でガーナ人やナイジェリア人が殺害されたことが、南アとの外交関係の悪化を引き起こしている。ガーナ政府は計2,000人の在南ア・ガーナ人の帰国を支援しているほか、ナイジェリアも同様にチャーター便で1,000人前後の帰国を促している状況だ。
数十年にわたりサブサハラにおける「二大経済大国」の地位を南アと争ってきたナイジェリアは、2019年のナイジェリア人を含む襲撃事件の際には南ア大使を召還するなど外交的報復措置をとったほか、ナイジェリア国内では南ア企業に対する抗議の声も強まった。今回はそれにガーナも加わっている形だが、両国とも南アの反アパルトヘイト運動を支援した歴史的経緯があるにもかかわらず、現在の南アが同じアフリカ人の同胞を攻撃することはアフリカ連合(AU)の基本ルールである「アフリカ連帯の原則」に反すると主張している。南アでの外国人排斥運動はアフリカ域内外での南アのイメージを棄損するばかりでなく、経済的にも打撃を与えるとみられる。
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