- [パナマ/コブレ鉱山再開は時間がかかる]6月4日、ムリーノ大統領は、コブレ・パナマ鉱山の将来を検討するため、政府内の複数機関からなる委員会を設置すると発表した。この鉱山は同国最大級の銅鉱山であり、経済への影響が大きいため、その扱いは国内外の関心を集めている。しかし、最終的な判断の前提となる監査報告書の提出が遅れており、結論が出るまでには当初想定よりも時間がかかる可能性が高い状況となっている。
新たに設置された委員会は、貿易・工業大臣が主導し、財務大臣や環境大臣らが参加する構成となっている。この委員会は、技術面、法的側面、経済性、環境影響といった複数の観点から総合的な評価を行い、その結果をもとに鉱山の今後について政府に提言する役割を担う。つまり、政治判断だけでなく、専門的な分析に基づいた意思決定を行う体制を整えようとしているのである。
当初は2026年5月末までに、地元企業であるSGSパナマコントロールサービスによる最終監査報告書が公表される予定であり、政府はこれを免罪符として鉱山再開へと一歩踏み出そうとしていた。今回の委員会設置については、政府は提案の提出期限を明示しておらず、この遅れが意思決定全体を先送りする要因となっている。結果として、早期に鉱山の再開や閉鎖を判断することが難しくなっている。
今回の委員会設置は単なる手続き的な対応にとどまらず、政府が鉱山再開の正当性を示すにあたって、経済的利益だけでなく、環境保護や社会的受容性、さらには政治的リスクを含めた判断をおこなおうとしていると解釈される。特にコブレ・パナマ鉱山は過去に環境問題や契約条件を巡る論争があり、国民の間でも賛否が分かれている案件であるため、政府としても拙速な判断は避けたい意向が強いと考えられる。
もっとも、今後仮に鉱山再開の方向に進んだ場合でも、社会的な反発が起きる可能性は高い。過去には大規模な抗議活動が発生した経緯もあり、環境団体や一部市民の強い反対が予想される。ただし、現在は労働組合の影響力が比較的弱まっていることや、世論が一枚岩ではなく賛否が分かれていることから、2023年に見られたような大規模な抗議運動にまで発展する可能性は相対的に低いとみられている。
ムリーノ政権は経済回復に向けて鉱業の重要性を認識しつつも、政治的・社会的リスクの高さから慎重な姿勢を取っている。監査報告の遅延と委員会による再評価の開始は、その慎重さを象徴する動きであり、今後は、監査結果の内容と、それを踏まえた政府のバランスの取れた意思決定、そして社会的な受容性をどこまで確保できるかにかかっている。
- [米国/期待インフレ率]NY連銀の5月の「消費者期待調査」によると、1年先の期待インフレ率は3.5%と4月(3.6%)から低下した。中東情勢緊迫化前の2月(3.0%)から拡大したままであり、2025年平均(3.3%)よりもやや高い。一方、3年先の期待インフレ率は3.1%で、3月以降同じだった。これは2月(3.0%)から小幅な拡大にとどまっている。また、5年先の期待インフレ率は3.0%で、2025年9月以降横ばいで推移している。
期待インフレ率は短期で高まっている一方で、中期ではまだ安定している。短期の期待インフレ率はガソリン高など足元の物価上昇の高まりを反映しているものの、それが中期的に継続するとはまだ予想されていないようだ。このまま中期の期待インフレ率が安定していれば、物価上昇率が連邦準備理事会(FRB)の目標の2%から大幅に乖離する可能性は高くないと考えられる。
こうした見通しの背景には、例えば、1年先のガソリン価格上昇予想は5.0%で3月(9.4%)、4月(5.1%)から縮小していることが上げられる。ただし、依然として高い上昇率であり、食品価格が5.8%、4月(5.2%)から拡大、3月(6.0%)に近づくなど、生活必需品の価格上昇も目立ち始めている。また、住宅価格の上昇予想は3.5%と、4月(3.1%)から高まり、2022年7月(3.5%)以来の高水準になっている。物価上昇のすそ野が広がりつつある様子見もうかがえるため、中期の期待インフレ率がこのまま安定した状態を維持できるかが注目される。
また、失業確率は15.1%で4月(14.6%)から上昇し、2025年12月(15.2%)以来の高水準になった。自発的離職確率は20.8%、4月(18.2%)から上昇し、2023年2月(20.8%)以来の高水準になった。1年後の失業率が現在よりも上昇している確率は43.2%、4月(43.9%)から小幅に低下しており、米国全体の失業率は大きく変わらないものの、自分の離職が起きる可能性は高まっているなど、雇用環境にも変化の兆しも見られる。現在、労働市場の底堅さから「雇用の最大化」よりも「物価の安定」に注力すべきという見方から、市場では利上げ観測が強まっていることもあり、労働市場の底堅さが継続するかも注目される。
- [日本/家計調査(4月)]6月5日、総務省は4月分の家計調査の結果を発表した。2人以上の世帯の消費支出は32万8,969円となった。名目では前年同月比+1.0%だが、物価変動の影響を除いた実質では前年同月比▲0.5%と、昨年12月から5か月連続のマイナスとなった。
前年同月比で減少した項目としては、「食料」で▲0.6%と3か月連続マイナスとなり、コメを含む穀類で▲4.8%、野菜・海藻で▲2.7%となった。また、「教育」の中の「授業料等」が▲19.1%となり、中でも私立大学への支出が減少した。また、「仕送り金」の項目も▲16.9%と、教育に関連する支出が減っている。
ほかに減少したものとして、「光熱・水道」の「電気代」で▲11.0%。3月のエアコンなどの使用が減ったことが影響したと考えられる。
一方、増加した項目として、「家具・家事用品」で+19.0%となった。この中には「家庭用耐久財」のエアコン購入の増加の他、「家事用消耗品」のポリ袋・ラップやトイレットペーパーへの支出が増え、中東情勢の影響を受けての買い溜めの可能性があると指摘されている。
ほかに増加したものとして、「自動車等関係費」で+19.3%となり、この中の「自動車購入」が3月の▲52.5%から+109.8%へ増加した。車の購入時に環境性能に応じて課される「環境性能割」が3月末に廃止となったことを受け、3月に買い控えた反動による増加とみられる。
また、2人以上世帯のうち勤労者世帯に絞った4月の実収入は61万2,163円となった。前年同月比の名目で+3.8%、実質(消費者物価指数(持ち家の家賃換算分を除く総合)によって実質化したベース)で+2.3%となり、4か月連続の増加。勤労者世帯の消費支出は36万4,781円。実収入から税金や社会保険料などを差し引いた可処分所得のうち、消費支出に回した割合を示す平均消費性向は73.9%で、前年同月比▲2.5ポイントとなった。3月の82.7%から、前月比でも低下した。
- [メキシコ/政府支援のEV]メキシコ、市街地走行向けに設計された政府支援の電気自動車「Olinia Uno(オリニア・ウノ)」を発表した。この6人乗り車両は、最高速度50km/hの都市部での使用を想定して設計されており、14.7kWhのバッテリーを搭載して125kmの航続距離を実現した。2027年夏に納車が始まり、約15万ペソ(8,600ドル)で販売される予定だ。この価格は、最も安価な中国製輸入車よりも大幅に安く、すでに古くなった内燃機関車や公共交通機関に依存している購入者のターゲットとしている。一般的な家庭用コンセントに接続できるため、専用の充電インフラは不要であることも強みだ。走行距離あたりの費用はこのプロジェクトの核心をなすが、先日開催されたイベントで提示された数値によると、一般的なガソリン車が1kmあたり2.40ペソとされているところで、オリニア・ウノの走行コストは同約0.49ペソ。これにより、都市部で毎日車を運転する人にとっては、年間5万ペソ以上の節約になるとも試算されている。
- [インドネシア/ニッケル採掘割当削減で雇用削減リスク]インドネシア政府は近年、鉱物資源の価格形成や輸出管理への関与を強めている。2025年には輸出規制の適用範囲拡大や執行強化を進め、価格低迷が続いたニッケル・石炭について2026年の採掘割当を大幅に削減して価格下支えに乗り出した。2026年5月には、戦略的鉱物資源輸出を国家一元管理とする新たな法令を公布し、6月1日付で発効した。
他方、6月初旬にインドネシアで開催された重要鉱物会議では、ニッケル採掘割当制度(RKAB)が同国ニッケル産業に与える影響が主要な議題となった。インドネシア・ニッケル業界団体(FINI)によると、ニッケル鉱石の採掘割当量削減を受けてニッケル製錬所の設備稼働率は大幅に低下している。製錬炉は停止後の再稼働に多額の費用と時間を要するため、多くの事業者は低稼働で操業を継続しているという。
ニッケル鉱石の採掘割当量は、供給過剰による価格低迷を背景に、2024年の生産量3億2,000万トンやFINIが見込む3億4,000万~3億5,000万トンを下回る2億6,000万~2億7,000万トンへ削減されている。この影響は鉱山事業者にも及んでおり、仏Eramet子会社のWeda Bay Nickelは、2026年分として認可された1,200万トンの採掘枠を5月末までに使い切り、生産停止を余儀なくされた。同社は2026年の採掘割当量を2025年並みの4,200万トンへ引き上げるよう求めており、認められなければ従業員1万8,000人の最大65%が影響を受ける可能性があるとしている。
業界関係者からは、生産割当量の大幅削減が鉱石不足を招き、川下産業向けプロジェクトや多額の投資計画に悪影響を及ぼすとの懸念が示されている。一方、Bahlil Lahadaliaエネルギー鉱物資源相は6月8日、鉱物価格が堅調に推移した場合には生産割当量の制限を緩和する可能性があると述べたが、石炭かニッケルかなど詳細には触れていない。
さらに政府は、鉱物資源の価格形成における影響力強化を目的として国家鉱物取引所の設立準備を進めている。取引所は金融サービス庁(OJK)の監督下に置かれる予定で、世界最大のニッケル生産国であるインドネシアが、供給国としてだけでなく価格決定にも関与することを目指す動きとして注目される。
- [ロシア/原子力戦略で中央アジアでの影響力拡大]6月4日、ロシアは制裁下における対外経済戦略の一環として、中央アジアにおいて原子力産業を軸とした影響力拡大を加速させている。国営ロスアトムを中核に、ウズベキスタンでは同国初の原子力発電所建設が既に開始された。ジザフ州において着工式が実施され、大型炉(約100万kW級)2基と小型モジュール炉(SMR)2基を組み合わせた複合型プロジェクトが進行中である。
他方、カザフスタンにおいても、ロシアとの間で同国初の原子力発電所建設に関する政府間合意が5月末、成立した。総額約160億ドル規模のプロジェクトで、ロシア製加圧水型原子炉(VVER)2基の導入とともに、輸出融資や燃料供給を含む包括的枠組みが構築される見込みである。
これらの案件は単なる発電インフラ輸出にとどまらず、資金供与、核燃料供給、運転・保守、人材育成までをパッケージ化した「フルスコープ型協力」に特徴がある。これにより、受入国は長期的にロシアの技術・燃料に依存する構造が形成され、事実上の戦略的関係が固定化される可能性が高い。
ロシア側にとっては、欧州市場での制約を補完するとともに、旧ソ連圏での地政学的影響力を維持・強化する手段として、その重要性が高まっている。一方、中央アジア諸国は、電力需要の増加や脱炭素要請を背景に原子力導入を進めているが、中国、韓国、西側企業との競争環境の中で、対露依存と対外バランスの確保が今後の政策課題となる。
- [モザンビーク/LNG開発]6月8日、仏・テクニップ・エナジーズ、日揮ホールディングス、韓・サムスン重工の3社JV(ジョイント・ベンチャー)は、伊・ENIら(注1)が主導するモザンビーク北部洋上液化天然ガス(LNG)プロジェクト「Coral North」のEPCIC(注2)役務を受注したと発表した。受注額は約50億ドルで、2028年までに年間360万トンのLNG生産を見込む。同JVはCoral Northに隣接する「Coral South」においても同様の契約を受注している。同プロジェクトは2022年から年間340万トンのLNGを生産・輸出していることから、South・Northあわせ、生産量は年間700万トンに拡大する見込みだ。さらにENIは、3基目の浮体式液化天然ガス(FLNG)プロジェクトも検討していると報じられている(5月18日、Lusa紙)。
モザンビーク北部のカーボデルガード州沖合のロブマ盆地には推定160~200兆立方フィートの天然ガスの埋蔵が確認されているが、陸上に大規模なLNG施設を建設する計画は、同地域でのイスラム系過激派組織らの活動活発化により大幅に遅延。一方で、海岸から約50km離れたENIらのFLNGプロジェクトはこうした治安の影響をほぼ受けないため順調に開発が進められてきた。
しかし、治安の回復により、ようやく陸上でのLNG開発も再開・加速している。年間約1,300万トンのLNGプロジェクトを進める仏・トタル・エナジーズらは2026年1月に「不可抗力宣言」の解除を発表。5年ぶりにアフンギ半島での工事が再開された。2026年4月末時点で6,000人の従業員が建設にあたり、工事の進捗率は42%と報じられている(5月4日、LNG Prime)。2029年内のLNG初出荷を見込んでいる。
また、トタルらの陸上LNGプロジェクトとインフラの共用を計画している、米・エクソンモービルらが率いる年間1,800万トンの「ロブマLNGプロジェクト」の最終投資決定(FID)も2026年後半に行われると見込みだ。トタルとエクソンは年間400隻のLNG運搬船の調達に関する共同入札を進めるなど、LNGの本格輸出に向けて足並みを揃えた動きを見せている(2月23日付、Lusa)。
(注1)発注元は「Coral FLNG」の70%の権益を有する「Mozambique Rovuma Venture(ENI:40%、Exxon:40%、中国:CNPC:20%)」
(注2)設計、調達、建設・制作、据え付け、試運転
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