- [米国/サブサハラ・アフリカ]2月3日、米・通商代表部(USTR)のグリア代表は、トランプ米大統領が「アフリカ成長機会法(AGOA)」を2026年12月31日まで再認可する法案に署名したと発表した。
米国が求める「法の支配」、「市場経済」、「政治的多様性」などの条件を満たしたサブサハラ・アフリカ(サブサハラ)の32か国に対して特恵関税措置を与えてきたAGOAは、延長法案がたびたび米国議会に提出されるも承認に至らず、2025年9月30日に失効していた。しかし、2000年に制定された同法は、米国にとってアフリカにおいて中国と対抗するにあたり重要な通商政策であるとの超党派での認識のもと、2025年12月に下院で3年間の延長法案が新たに提出され、1月12日に下院本会議で可決されていた。その後、上院でAGOA延長法案を含めた「2026年度歳出法案(Consolidated Appropriations Act, 2026)」が審議される過程で、延長期間が3年から1年に短縮化された(1月26日付、Africa Report紙)。背景には、グリア代表が繰り返し「トランプ政権としては(AGOAの)1年間の延長を支持している」と発言していたこと、また、米国との関係が悪化し、現在米国が30%の報復関税を課している南アフリカ(南ア)に関しては、「別扱い」にすると述べるなど延長に慎重な姿勢を示していたことがあるとみられる(2025年12月11日付、ロイター通信)。1月30日に上院で可決された同歳出法案は、2月3日に下院でも217対214の賛成多数で可決され、同日にトランプ氏が同法案に署名したことによりAGOAの1年間の延長も決定した。
USTRによると、AGOA延長法はAGOAが失効した2025年9月30日まで遡って有効となることから、失効後に課された関税分の還付を受けられる可能性が高い。しかし、延長期間が3年から1年に縮小したことは賛否両論を呼んでいる。米国との関係改善と通商交渉に臨んできた南ア政府はひとまず安堵している一方で、グリア代表は、「1年間の延長期間を利用してAGOAの制度を改善し、よりよいものにするよう協力する」との姿勢を示していることから、延長は1年で終了し、その後は米国と個別二国間の貿易協定にシフトする可能性もある。また、米国向けの縫製品輸出を行ってきたサブサハラの縫製業界では、AGOA失効など通商政策の先行きの不透明さを理由にすでに数千人の雇用が失われていることから、1年の再認可では企業にとって不確実性とリスクを増大させるだけだとの見方もある。
さらにAGOAの最大の受益国である南アと米国の二国間の緊張はいまだに続いており、改善の兆しが見えない。今回可決された歳出法案でも上院の審議においてジョン・ケネディ上院議員(共和党)が「米国と南アとの二国間関係見直し」の条項を加えている。今後120日以内の調査の結果、南アが米国の国家安全保障を脅かしたり、外交政策上の利益を損なったりしていると判断される場合は、AGOAの適格性資格の喪失や、南アの特定の個人に対する制裁を行う姿勢も示している。また、すでにクーデターを理由にサヘル諸国が、人権侵害を理由にエチオピアやウガンダなどがAGOAの非適格国となっているが、2025年10月にクーデターが起きたマダガスカルや、同月の選挙で大規模な人権侵害が起こったタンザニアが適格国を維持できるかも注視が必要だ。
- [アルゼンチン]経済の透明性を象徴すべき機関である国家統計局(INDEC)において、マルコ・ラヴァーニャ所長が辞任した。ラヴァーニャ氏は、フェルナンデス前政権から所長を務めていた。今回の辞任は、アルゼンチンの「統計の信頼性」への懸念を再び高めている。
この辞任劇の直接的な背景には、消費者物価指数(CPI)の測定手法の刷新を巡る政府との対立がある。INDECは、最新の消費パターンを反映させるため、公共料金や家賃の重みを増やし、食料の影響を減らすという新手法の導入を計画しており、その最初の結果が2026年2月10日に1月の消費者物価指数として発表される予定だった。しかし、この新手法を適用した場合、1月のインフレ率は政府が目標とする前月比2%程度を大きく上回り、3.2~3.4%に達する可能性があるとの予測が出ていた。直近2025年12月のインフレ率が前月比2.8%と上昇傾向にあった中で、政府はインフレ抑制の成果が政治的な打撃を受けることを極端に恐れたと考えられる。折しも、今月ガス料金は16%引き上げられたことも、新測定方法でのインフレ上昇圧力につながることになり、政府の焦燥感につながったとみられる。事実、新指標の発表を直前にして、政府は刷新保留を発表している。
カプート経済大臣は、この決定について、政府が進めるインフレ抑制が浸透し、指標が完全に落ち着くまでは従来の手法を維持すべきだという論理を展開している。さらに政府側は、数値が高く出る新手法をこのタイミングで導入することは、かえって「統計操作」を疑われるリスクがあるという主張を掲げているが、こうした政府の論理とは裏腹に、政治的な思惑が強く働いていることは明白であり、「隠されたインフレ」への不信感を募らせるというリスクとなっている。
こうした事態が市場に強い警戒心を与えているのは、アルゼンチンが過去に実際に「統計不正」をおこなっていたという事実がある。2007年から2015年にかけてのキルチネル政権下では、政治的圧力によってインフレ率が意図的に低く発表され、統計の独立性が完全に失われていたことが明らかになっている。今回の刷新延期は、当時のあからさまなデータ操作とは性質が異なるものの、国内外の市場関係者にとっては「政治による統計への干渉」という過去のトラウマを想起させることとなった。
この辞任と発表延期のニュースを受けて、アルゼンチンのカントリーリスクは上昇し、株価指数は下落するなど、金融市場は即座にネガティブな反応を示している。国際通貨基金(IMF)などの国際機関は、過去の不正を厳しく批判してきた経緯もあり、アルゼンチンの統計の独立性を融資のプログラムの条件として重視していると考えられる。
この新たなスキャンダルは、ミレイ氏が主張するマクロ経済的成功に疑問を投げかけるものとなる可能性が高い。
- [中国/欧州/米国]米シンクタンクのジャーマン・マーシャル・ファンド客員シニアフェローであるノア・バーキン氏が、最近の中欧接近に関するコラムの中で自身の見解を紹介している。背景には、明らかにトランプ米政権の政策に対する不信とヘッジングの意味があること、首脳の中国訪問による実質的な成果は限定的だが(中国も訪問する側も期待値はそもそも高くない)、米欧の亀裂を印象づけたい中国外交に有利であること、重要鉱物に関する協力については米国が欧州の協力を求めるようになっている点などに言及している。主な内容は以下の通り;
トランプ政権下の米国では、国内の権威主義化への懸念、グリーンランド併合を示唆する強硬発言、同盟国への関税・恫喝が相次ぎ、米欧間の信頼は大きく損なわれた。その結果、カナダや英国は中国との関係修復を進め、EUはインドとの大型貿易協定をまとめるなど、対米依存を減らす動きが広がっている。
一方、米国は中国のレアアース支配に対抗し、4月の米中首脳会談に強い姿勢で臨めるようにするため、同盟国を巻き込んだ重要鉱物同盟の構築を急ぐが、準備不足と一方的な姿勢に対する欧州側の不信は強い。価格下限設定や関税による中国排除という米国の構想は、中国の報復リスクや実務的課題を十分に検討しておらず、米欧の「信頼ゼロ」の状況で合意形成は困難だとの見方が支配的である。それでも、レアアース「武器化」への多国間協力は欧州の死活的利益でもあり、協力が成立するか否かは大西洋関係の今後にとって非常に重要である。
対中戦略では、ブリュッセルに「新たな現実主義」が広がっている。中国を米国の代替と見る考えはほとんどなく、「関係を悪化させたくはないが、大きく改善するとも思わない」という冷静な認識が主流である。EUは米中に過度に振り回されず、自主性とパートナー連携を重視しつつ、必要な通商措置を行使する構えを崩していない。
- [インド/米国]2月1日、トランプ米大統領は、Truth Social(SNS)での投稿にて、モディ首相との間でインド向けの相互関税率を25%から18%まで引き下げる貿易協定に合意したと発表した。加えて、ロイター通信の報道によると、米国ホワイトハウスの担当者は、インドによるロシア産原油購入に対し別途課していた25%の関税を撤廃する予定であると発言した(ロイター通信、2月3日付記事)。これにより、米国によるインド向け関税率は50%から18%まで引き下げられる見込み。
トランプ大統領は、モディ首相が今後米国産エネルギー・技術・農産品・石炭等(計5,000億ドル規模)を購入することを約束したほか、ロシア産原油の購入を停止することに合意したとしている。加えて、インド側が今後米国に課している関税・非関税障壁をすべて撤廃する見込みであるとした。他方で、インドのゴヤル商工相は、正式な合意は今後数日以内に共同声明にて公表されるものの、農産品・酪農品の利益は保護されるとしている。
ロシア産原油の購入量は2026年に入り激減している。ザ・ヒンドゥー紙によると、1月の第1~3週目までの購入量は日量110万バレルと、2025年中旬の水準より半減している(ザ・ヒンドゥー紙、2月3日付記事)。米国のベッセント財務長官もダボス会議にて、「インドがロシアからの原油購入を停止した」と発言していた(タイムズ・オブ・インディア紙、1月20日付記事)。大手石油精製リライアンス・インダストリーズは2025年までは日量60万バレルの原油を購入していたが、2026年以降は購入を停止しているもよう(NNA Power Asia〔アジア経済ニュース〕、1月28日付記事)。
トランプ大統領が2025年8月に、25%の相互関税に加えてロシア産原油購入継続を理由に25%の追加関税を課すことを公表後、両国政府との間で関税引き下げにかかる交渉が進められてきた。2025年12月には、インド側高官は「合意まで間近」と発言したが、その後も特に農産品・酪農品向け関税撤廃については政治的反対も考慮し、合意が困難な状況が継続していた(CNBC、2025年12月18日付記事)。
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