- [イエメン/フーシ派が紅海要衝制圧]9月10日、イエメン北西部を実効支配する、イランの支援を受ける武装組織フーシ派(アンサール・アッラー)が、同国西海岸の要衝モカを制圧したと報じられた。国際的に承認されたイエメン政府側の「国民抵抗軍」は、撤退について「部隊再編のための戦術的撤退」と説明しているが、フーシ派の激しい攻勢に耐えられなかった可能性も指摘されている。フーシ派は9月3日以降、モカ周辺の3方向から攻勢を強めて同地を制圧し、現在はさらに南のドゥバブ方面へ進んでいる。戦闘を受け、女性や子どもを含む住民がアデンやラヘジ方面へ避難しており、過去2週間で2万人以上が家を追われるなか、人道危機が一層深刻化する恐れがある。
モカは、紅海とアデン湾を結ぶバーブルマンデブ海峡の北約60~75キロメートルに位置する。同海峡は、原油や燃料、アジアの製品などがスエズ運河を経由して欧州方面へ輸送される、世界有数の海上交通の要衝である。モカの陥落により、フーシ派はイエメンの紅海沿岸の大半を支配し、海峡への影響力も強めた。さらに、政府側の補給路やモカとタイズを結ぶ道路を遮断し、政府軍を弱体化させる可能性がある。フーシ派は、同海峡付近に位置するハニーシュ諸島にも攻勢をかけたとされる一方、政府側やサウジアラビアもイエメン各地のフーシ派拠点を空爆している。
国連は、イエメンが2022年の停戦以降で最も深刻な全面戦争の危機に直面していると警告した。英国や米国はフーシ派に攻撃の停止を求めたが、ロシアはサウジアラビアによる空爆も非難し、危機の責任をフーシ派だけに負わせるべきではないと主張した。フーシ派は国際航行の安全を保証すると述べる一方、サウジアラビア関連船舶に対する航行禁止は継続している。モカ制圧を受けてブレント原油は1バレル108ドル台に上昇した。今後、船舶への攻撃や威嚇が増えれば、保険料や輸送費が上昇し、アフリカ南端への迂回がさらに広がる恐れがある。サウジアラビアには、大規模な軍事介入を避けながら、イエメン政府軍への支援、防空体制の強化、海上交通の保護、外交交渉を組み合わせた対応が求められている。(国際部 広瀬真司)
- [欧州/パリ国際宇宙サミット]1.概要
9月9日~10日の日程でパリ国際宇宙サミットが開催された。独仏共同議長のもと、90の国および国際機関(首脳・閣僚級約60か国を含む)、および約1,100社の宇宙関連企業が参加。
今回のサミットでは、「国際協力によるグローバル宇宙経済の課題解決」、「国際的視点からの科学・技術・宇宙探査の推進」および「対話・防衛・パートナーシップを通じた宇宙安全保障の確保」という3つの主要テーマを軸に議論が行われた。
なお、米国市場ではSpaceXによる再利用ロケット運用で打ち上げコスト低下と高頻度化が進み、Amazonが3,200基超のブロードバンド衛星「Project Kuiper」の配備を進めている。一方で、米政府は米企業に対してサミットへの不参加を要請していたとされており、米欧間の政策・市場規制をめぐる摩擦が生じている。2.欧州の自律的宇宙能力
サミットでは、特に欧州の自律的宇宙能力の強化が強調され、2年以内の民間貨物カプセル「Nyx」の国際宇宙ステーション(ISS)へのドッキング、5年以内の月面着陸船「Argonaut」の月面着陸、10年以内の有人宇宙カプセル打ち上げという具体目標が提示された。
また、安全保障の文脈でも宇宙は注目されている。フォン・デア・ライエン欧州委員長は、ウクライナ情勢を踏まえ「地上での安全保障は宇宙での安全保障に依存している」と述べ、EUの安全保障衛星コンステレーション「IRIS²」を350基以上に拡大する計画を表明した。
アッシュバッハー欧州宇宙機関(ESA)長官は、欧州の宇宙投資が対GDP比0.07%にとどまり、米国の0.24%と比べて約5分の1である点を指摘し、米国依存を脱して独自有人宇宙飛行を実現するため、今後10年間で毎年10億ユーロの追加投資が必要と述べた。3.今回のサミットの成果
今回のサミット期間中に、民間・政府間を含め約200億ユーロ規模の投資および51件以上の契約・パートナーシップが締結・発表された。ESAは2026~2028年の予算として過去最高の223億ユーロを承認している。また、欧州委員会の提案では、防衛・安全保障・宇宙領域に1,310億ユーロが割り当てられている。4.欧州スタートアップ企業の動向
欧州スタートアップのThe Exploration Companyは4億5,000万ドルの資金調達を実施し、ESAとの提携を通じて貨物カプセル「Nyx」の開発を進めている。また、ドイツのIsar Aerospaceは2026年9月5日に「Spectrum」ロケットの軌道投入に成功している。ドイツの航空宇宙産業全体では、2025年の雇用者数が8%増加し、売上高は前年比19%増の620億ユーロに達しており、エンジン技術や衛星製造(量子コンピューティングの活用を含む)が成長を牽引している。5.市場規制・競争・運用環境
欧州では、上述のとおり、特に通信や地球観測・画像解析など、防衛・安全保障目的における衛星データやインフラの商用・公的需要が高まっている。
こうした中、衛星無線周波数の割り当てや宇宙交通の管理ルールが、国際的な商用運用における今後の重要課題となっている。(国際部 濱嵜隆吏) - [ASEAN/EUビジネスカウンシルによるサーベイ]9月9日、ASEANで事業を展開するEU系企業の業界団体「ASEANビジネスカウンシル」が、域内にて事業を展開する欧州系企業向けに実施したビジネス環境に関するサーベイ結果を公表した。回答企業数は148社に上り、回答者は各企業のC-suiteクラスの役員、地域拠点責任者などシニアマネジメント層が大宗を占める。回答企業の事業展開先国は平均5.4か国、中央値6か国である。
今後5年間でASEANが「最も優れた経済的機会を提供する地域」と答えた割合は、2025年の56%から61%に回復し(2位の中国は16%)、2024年の水準に回復した。また、ASEANでも貿易・投資を拡大する意向を持つ企業も2025年の71%から78%へと上昇しており、引き続きASEAN事業への関心が強いことが分かる。
各国別に、今後5年間で事業を拡大すると回答した企業の割合は、ASEAN5の中ではベトナム、インドネシア、マレーシア、タイ、フィリピンの順に高かった。なお、回答企業数・質問/回答方法は異なるものの、JBICが実施した2025年の海外直接投資アンケートと比較すると、おおむね同様のトレンドが観られる。例えば、同アンケートでは今後3年程度の中長期的有望国の得票率を算出しているが、ASEAN5諸国の得票率の順序については本サーベイと同様であった。また、JBICのアンケートではベトナム・タイが中国企業との競争激化を受けて前年より順位を落としているが、本サーベイにおいても事業を拡大すると回答した割合から縮小すると回答した割合を差し引いた数値は、両国ともに前年より低下している。本サーベイでは個別企業からの定性的な意見までは把握できないが、中国系企業のプレゼンス拡大が市場の競争激化を招いていることが、EU系企業の事業拡大意欲を削いでいる可能性もある。
本サーベイでは、米国による関税の影響をヒアリングしている。回答企業の81%が関税を受けてASEANでの事業に少なくともいくらか自信を失ったと回答している。これは、前回2025年調査(51%)から悪化傾向にある。また、米国関税を含めた地政学リスク上昇を踏まえてサプライチェーンを再編・生産拠点を他国・地域に移転した企業、移転を検討している企業の割合は合計37%と相応の水準となったが、サプライチェーン再編先・移転先候補国・地域のうち67%がASEANとなっているため、仮に米国の関税を踏まえて生産拠点を移転した場合も、結局はASEAN域内の別の国に拠点を移すのみであり、ASEAN全体としての影響は限定的と考えられる。なお、移転先候補国・地域の第2位は南アジアとなっている。
なお、本サーベイでは、EU-ASEAN間FTAの締結が提言されている。EUは2025年にインドネシアとの間でCEPAを合意したことに加えて、ほかの国との二国間FTA交渉を実施しているものの、ASEANとのFTAは未締結だ。2027年はEUとASEANの外交関係樹立50周年という節目であることを踏まえ、地域間FTA交渉の立ち上げを要望する企業も相応に存在する(49%が要望すると回答)。(国際部 土田慧)
- [ケニア/アサヒG株式取得]9月10日、ケニア競争庁(CAK)は英飲料大手ディアジオが保有する「イースト・アフリカン・ブルワリーズ(EABL)」の株式65%を、アサヒグループホールディングス(アサヒ)に売却することを承認した。
同取引は、2025年12月にアサヒがディアジオのケニア持株会社(Diageo Kenya Limited)を約24億ドルで取得すると発表したことに基づくものである。1922年に創業したEABLは、ケニア国内のビール事業の約9割を占め、隣国のタンザニア、ウガンダでも酒類事業を展開している。EABLはケニア証券取引所(NSE)上場企業の中で4位となる時価総額(約17億ドル)を誇っており(2026年8月時点)、6万人以上の国内契約農家(原料の大麦やソルガムを購入)、25万社の卸売業者、流通業者、販売代理店ネットワークを有するケニアの巨大企業である。そのため、ケニアの競争法上のクリアランスの取得が必要な案件となっていた。
今回のCAKによる承認は、ディアジオ・アサヒらが当初予定していた2026年下半期中の取引クロージングに向けた大きな一歩となるとみられる。しかし、CAKはディアジオに対して、株式売却の条件として、取引完了後に発生しうる全ての債務を精算するための準備金約1.2億ドルを確保するよう求めていると報じられている(9月11日、Bloombergなど)。25年12月の株式取得の発表以降、ケニア国内ではEABLとの間で未払い問題などの係争を抱えていた企業らが、親会社(ディアジオ)が撤退する前に損害賠償金を回収しようとして提訴する例が後を絶たない状況が続いている。結果的に訴訟の却下が相次ぐ中、ディアジオはこのCAKによる準備金の条件について、以前から「全く根拠がない」と反論していた(8月18日、Business Insider Africa)。
さらにCAKは、EABLに対して、同社が提携する小売店舗内の冷蔵スペースの20%を競合他社の飲料用に確保するよう求めたとも報じられている(9月11日、ロイター通信)。ビールをはじめ冷たい飲料が好まれるケニアでは、小規模なバーや小売店が自己資金で冷蔵庫を購入する経営体力がない場合も少なくない。そのため、EABLが各小売店に無償・有償で冷蔵庫の提供・メンテナンスなどを行う代わりに、同社製品を販売する商慣習がある。これは競争当局側からみれば、株式売却後も市場における支配的地位を利用した排他的取引を是正したい狙いがある一方で、企業側からみれば、株式売却によって市場構造が変わるものではなく、かつ自社が保有する資産の財産権に抵触するとの主張に分かれるものとみられる。(国際部 髙橋史) - [米国/5000ドル給付と市場の反応]中間選挙を前に、トランプ政権は景気の強さと家計支援を同時に訴えている。9月の共和党大会では、トランプ大統領自身への信任を前面に出しつつ、成人1人当たり5,000ドルの「Trump Dividend」構想など、生活費負担を意識した政策を打ち出した。一方で、政権は「affordability crisis(生活の手頃さの危機)」そのものを民主党側が作った誇張だと否定している。ここには明確な矛盾がある。生活費危機は存在しないと主張しながら、選挙政策では現金給付や住宅、金利、物価対策を前面に出さざるを得ないからだ。
背景には、インフレ率だけでは捉えにくい家計の負担感がある。食料やガソリン、住宅、保険、医療など生活に欠かせない支出の水準が上がり、所得が増えても以前の生活水準を維持するための費用が高くなっている。低所得層ではDollar Generalの1ドル商品の販売が伸び、上位中間層でも住宅や教育などの負担増から「豊かになった実感」が乏しい。アフォーダビリティは政治的な言葉から消されようとしても、家計行動からは消えていない。
より厄介なのが長期金利である。10年、30年国債利回りの上昇は、一時的な市場の歪みだけでは説明しにくくなっている。原油高や物価上昇に加え、財政赤字、国債発行増、景気下支え策、AI関連投資による資金需要が重なっているためだ。有力な金融機関が、米財務省による国債買い戻しだけでは長期金利を十分抑制できないだろうと指摘している。問題は流動性だけではなく、いまも双子の赤字を抱える米国経済は恒常的に多くの資金を必要としている点にある。
その意味で、成人に対する5,000ドル給付のような政策は政治的には実現可能性の低い、金額的にも小さな支援との評価になるかもしれない。しかし、生活費を下げるための政策が、金利の押し上げに繋がることで、再びアフォーダビリティを悪化させるという新たな矛盾や悪循環にはまるリスクも危惧されている。
また、いまのところ、米金利は依然高く、米国経済の規模や金融市場の厚み、安全資産としてのドル需要があることから高値圏を維持する余地はある。注目すべきは、「高金利なのにドルが強くならない」状態となるだろう。高い金利を成長期待や安全ではなく、インフレや財政への不安の裏返しと見始めている可能性もある。(経済部 本間隆行) - [日本/企業物価指数(8月)・企業景況感(7~9月期)]9月11日、日銀は8月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)を発表した。国内企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。8月は136.1と前年同月比+7.6%となった。7月(+7.7%)から0.1ポイント上昇幅が縮小したが、3か月連続で7%を超えた。前月比では▲0.2%と2025年8月以来のマイナスとなったが、企業の仕入れコストへの上昇圧力は継続している。
銅やアルミニウムなどの価格上昇を受け、非鉄金属は+43.3%(7月の+40.7%から2.6ポイント拡大)と高い上昇率となった。中東情勢に伴う原油高の企業物価への影響は継続しており、石油・石炭製品は+14.7%(7月の+17.6%から上昇幅は2.9ポイント縮小)、化学製品は+13.9%(7月の+13.8%から0.1ポイント拡大)。また、情報通信機器は+19.5%、電気機器は+4.1%、電子部品・デバイスは+3.3%など、AI需要拡大による関連部材の価格上昇も継続している。その他、飲食料品が+4.3%となった。
調査対象の515品目のうち、446品目が前年同月比で価格上昇し、54品目が下落、変わらなかったのは15品目だった。
円ベースでの輸入物価指数は+24.8%、輸出物価指数は+17.9%となった。輸入物価指数の前年同月比は2025年2月から11月までマイナスで推移していたが12月にプラスに転じ、円安や中東情勢の影響を受けて4月以降急激に上昇幅が拡大した。8月(+24.8%)は7月(+29.3%)から上昇幅は縮小したものの、上昇傾向が続いている。
また、内閣府と財務省が発表した7~9月期の法人企業景気予測調査によると、大企業全産業の景況判断指数(BSI)は+5.3と、4~6月期の▲0.5から2四半期ぶりのプラスとなった。
法人企業景気予測調査は、四半期ごとに企業の景況判断や設備投資の見通しなどを調査し、景気の方向性を把握するもの。前四半期に比べて自社の景況が「上昇」と回答した企業の割合から「下降」の割合を引いて算出する。今回の調査時点は8月15日。
業種別では、製造業(+7.6、2四半期ぶりのプラス)・非製造業(+4.2、5四半期連続のプラス)ともに改善した。製造業では、AI・データセンター関連需要が引き続き好調で、半導体製造装置の需要増から生産用機械器具製造業は+23.4、情報通信機械器具製造業は+19.9。一方、食料品製造業は▲6.3、石油製品・石炭製品製造業は▲14.3となった。非製造業では、サービス業(+7.6)の宿泊業、飲食サービス業が好調、金融業、保険業(+3.4)では貸出金利上昇による収益改善などがみられた。
中堅企業全産業は+0.8。中小企業は▲10.9と、前四半期(▲17.6)からは改善したが、50四半期連続でのマイナスとなった。
雇用については、従業員数判断BSIでは、大企業では2011年9月末以降61期連続で不足気味が過剰気味を上回っているほか、中堅企業・中小企業でも不足気味が続いており、企業規模を問わず人手不足の状況が続いている。また、生産・販売などのための設備投判断BSIも企業規模問わず不足超で、今後の設備投資額は製造業・非製造業ともに増加を見込む。
先行きについては、大企業の全産業ベースで10~12月期(+6.0)、2027年1~3月期(+4.6)と上昇が下降を上回る形で推移する見通し。
企業マインドの改善がみられるが、物価高に加えて、自然災害リスクなども引き続きリスク要因となる。景気は緩やかな回復傾向にあるものの、コスト上昇圧力と人手不足が企業経営上の大きな課題となっている。(経済部 菊井彩乃)
- [ECB/0.25%利上げ]欧州中央銀行(ECB)は10日に理事会を開催し、政策金利を0.25%引き上げることを決定した。6月に利上げを実施し、7月に据え置いたため、9月は2会合ぶりの利上げだった。これにより、中銀預金金利は2.5%、主要政策金利は2.65%、限界貸出金利は2.90%となった。ラガルド総裁によると、全会一致の決定であり、迷う余地のないものだった。
声明文では、「中東の紛争は物価上昇圧力を生み出し続けており、物価上昇率がかなりの期間にわたって目標を上回る」との見通しが示された。また、今回の決定が、中期的な2%目標で物価上昇率が確実に安定するために、金融政策を策定するという政策委員会の決意を改めて示すものだとした。
新しいECBスタッフの経済見通しによると、ベースラインで物価上昇率は2026年に+3.0%、2027年に+2.5%(+0.2ポイント)、2028年に+2.1%(+0.1ポイント)となり、2027年と2028年はそれぞれ上方修正された。エネルギー価格の上昇によって、2027年上半期にかけて物価上昇率は高止まりすると予想されている。また、実質GDP成長率は2026年に+0.9%(+0.1ポイント)、2027年に+1.4%(+0.2ポイント)、2028年に+1.5%となった。2026年と2027年がそれぞれ上方修正された。なお、見通しは非常に不確実であり、物価上昇には上振れリスク、経済成長には下振れリスクがある。
また、金融政策姿勢について、本日の決定により、紛争による不確実性に対処する上で、理事会は引き続き十分な態勢を維持していることが声明文に記載された。これまでと同様に、「政策金利については、直近の経済・金融市場、基調的な物価動向、金融政策の伝達力の観点から、物価見通しとそれを取り巻くリスクの評価に基づいて決定される」という姿勢は維持された。
物価上昇率が当面高止まりする見通しであるため、市場では追加利上げが予想されている。ただし、経済・物価動向は中東情勢などの影響を受けて不確実性が高いことから、利上げペースを巡る思惑が金融市場の変動を大きくする恐れがある。(経済部 鈴木将之)
- [ロシア中銀 政策金利を14.0%で据え置きか]ロシア中央銀行は9月11日に金融政策決定会合を開催する。市場では、政策金利(キーレート)を現行の14.0%で据え置くとの見方が優勢となっている一方、0.25%幅の利下げ(13.75%)または利上げ(14.25%)の可能性も残されている。
主要な論点はインフレ動向である。ロシアでは2025年末以降、中銀が段階的な利下げを進めてきたが、足元では燃料価格上昇や財政支出拡大を背景にインフレ圧力が再び強まっている。他方で、高金利の継続により家計・企業向け融資の伸びや内需には減速の兆候も見られる。市場関係者の多くは、こうした相反する要因を見極めるため、中銀が今回は政策変更を見送り、14.0%で据え置く可能性が高いと予想している。
仮に利下げが実施されれば、中銀が景気減速やディスインフレの進展に一定の自信を持ったシグナルと受け止められる。一方で、利上げとなれば、燃料価格やインフレ期待の上昇に対する強い警戒姿勢を示すことになる。
ロシア経済は依然として軍事支出に支えられているものの、高金利環境の長期化は民間投資や信用拡大を抑制しており、中銀はインフレ抑制と景気の下支えの間で難しい政策運営を迫られている。今回の会合は、年内の金融政策の方向性を占う重要な判断として注目される。(国際部 ゴロシニコフ アントン) - [ブラジル選挙戦は拮抗]ブラジル大統領選挙は、当初優勢とみられていたルーラ大統領にとって厳しい局面を迎えている。6月から8月にかけては、フラビオ・ボルソナロ候補に対して平均3~4ポイントのリードを維持していたものの、その差は現在ほぼ消滅した。世論調査では両者が拮抗しており、一部ではボルソナロ候補がわずかにリードしている。
ルーラ大統領自身の評価が低下傾向にあり、支持率は過去2週間で46%から44%へ低下していることが、警戒すべき兆候とみられている。
こうした状況の背景には、ブラジル連邦最高裁判所(STF)を巡る大規模な汚職疑惑があると考えられている。消費者の債務負担増加による景況感悪化も要因の一つだが、市場関係者の間ではSTFを巡るスキャンダルの影響がより大きいとの見方が強い。もともと有権者の間には将来の経済に対する不安が存在していたが、司法機関を巡る不祥事報道が続いたことで政治全体への不信感が高まり、ルーラ陣営が訴える経済政策や中間層向けの政策メッセージが埋もれてしまっている。
経済政策の面では、ボルソナロ陣営から市場に対して比較的前向きなメッセージが発信されている。陣営はGDP比約1.5%に相当する財政再建を掲げており、歳出削減や債務管理を強化するための憲法改正も検討している。また、大統領の連続再選を禁止する法改正や、ルーラ政権下で承認されたVAT改革についてはより円滑なスケジュールへ変更するとともに、金融取引税(IOF)の廃止や、源泉徴収税の引き下げ、石油輸出税の撤廃など外国投資家を意識した改革も掲げている。さらに、ルーラ政権下で設立された重要鉱物評議会は直ちに廃止される見通しとなっている。市場関係者は、その実現性について慎重な見方を示しつつも、財政規律を重視する姿勢そのものは好感している。さらに、STFを巡る制度的対立も重要な論点である。保守派の一部には判事の弾劾を求める声もあり、今後のスキャンダルの動向が注目されている。
今後2週間が選挙の方向性を見極める重要な期間とみられ、特に、ルーラ大統領の支持率が下げ止まるかどうか、STFスキャンダルが報道の中心であり続けるかどうか、労働者党による対ボルソナロ攻勢が強まるかどうか、ボルソナロ候補に新たな疑惑が浮上するかどうかが主要な注目ポイントとなっている。現時点では選挙戦は依然として接戦であり、どちらの陣営にも勝利の可能性が残されている。(国際部 小橋啓)
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