- [コスタリカ]2月1日、総選挙が実施され、右派ポピュリストと評される与党PPSO(主権人民党)の候補であるローラ・フェルナンデス氏が48.3%の票を得た。次点候補のアルバロ・ラモス氏(33.4%)に圧倒的な差をつけ、決選投票に進むことなく新大統領に選出された。投票率自体も、69%へと上昇しており、国民の政治変革への強い渇望を示している。
コスタリカでは、憲法上の規定で大統領の再選が認められていない。しかし、現職のチャベス大統領の1月時点での支持率が59%という高水準で、後継のフェルナンデス氏の支持基盤を盤石なものとした。さらに、チャベス氏が新政権において閣僚入りし、主要な改革の調整役を担う可能性が高いとされており、政治的連続性も保たれることになる。
議会構成の変容に目を向けると、PPSOが31議席(全58議席)を獲得し、過半数を確保した。ただし、憲法改正など重要案件の採決に必要な3分の2までは届かず、17議席を獲得した最大野党PLN(国民解放党)との政治的駆引きが焦点となる。
一方で、国民が最も切実に求めているのは、「治安」の抜本的改善であり、治安の悪化は有権者の42.4%がこれを最大の課題として挙げている。かつて「中米のスイス」と称された同国だが、激化する麻薬犯罪や殺人などの犯罪率は、ドミニカ共和国やパナマを上回る記録的な水準に達した。こうした事態を受け、フェルナンデス氏はエルサルバドルのブケレ政権をモデルとした「最高警備刑務所」の建設や「特定地域での法的保証の停止」といった強硬策を掲げている。これは、コスタリカが長年培ってきた民主主義的制度や基本的人権の尊重という伝統的な価値観と真っ向から対立するリスクを秘めている。
経済・財政政策においては、2025年に5.0%という堅調な成長を記録した実績を背景に、新政権は近代化と財政健全化の両立を目指している。2026年の成長率は4.2%に減速する見込みであり、現在の「BB」格付けから投資適格(IG)入りを果たすためには、GDP比13%で停滞する税収の拡大や、公的債務比率(対GDP約57%)のさらなる削減に向けた「追加的な改革」が不可欠とみられる。
対外関係においては、米国のトランプ政権との良好な関係を軸とした対米回帰が鮮明になると予測される。安全保障分野での対米協力強化は、域内の麻薬カルテル対策において不可欠な要素であり、これはアルゼンチンやエルサルバドルなどで見られるラテンアメリカ全体の右派ポピュリズムの潮流とも同期している。
フェルナンデス政権の4年間は、強い行政権による治安回復が期待される一方で、立法府や司法府の監督機能の弱体化という、市場や国際社会が注視するリスクをはらんでいる。
- [エチオピア]2月2日、エチオピア政府が発行した10億ドルのユーロ債を保有する「民間債権者委員会」は、エチオピア政府に支払いを強制するために英国裁判所で提訴すると発表した。
同ユーロ債の正式名称は「2024年満期エチオピア6.625%債券」。世界的な投資ファンドのVRキャピタルやファラロン・キャピタル・マネジメントらで構成される民間債権者委員会が45%以上の債券(=4.5億ドル)を有している。エチオピアは2020年から約2年間続いたティグライ紛争における大規模な人権侵害によって諸外国からの援助が大幅に削減され、深刻な外貨危機に陥った。その結果、2023年12月に同ユーロ債の利払い3,300万ドルの支払いを故意に行わなかったことにより「債務不履行(デフォルト)」とみなされた。
その後、エチオピアは「G20共通枠組み」のもとでパリクラブおよび中国などの非パリクラブの国々(ドナー)も参加する「公的債権者委員会」と債務再編・救済交渉を開始。国際通貨基金(IMF)もエチオピア向けの新規の財政支援プログラム供与(34億ドル、2024年7月開始)の条件として、公的債権者委員会との間で定められた再編条件をもとに民間債権者との再編交渉を進めるよう求めていたことから(「同等取り扱い原則(comparability of treatment principle)」)、エチオピア政府は公的債権者との交渉を優先的に進めてきた。2025年7月に政府は公的債権者委員会との間で84億ドルの未払い対外債務を対象に、現在価値ベースで12.5%の債務免除(ヘアカット)や3年間の返済延長を含む25億ドルの債務救済を受けることで合意に至った。
この合意内容をもとに1月2日、政府と民間債権者委員会は、10億ドルのユーロ債の元本の15%減額(ヘアカット、1.5億ドル)を受け入れ、2029年6月に満期を迎える8.5億ドルの新規発行債と交換することを定めた「基本合意(AIP)」に署名。民間債権者委員会はこれまでエチオピア政府が提案していた18%前後のヘアカットを頑なに拒んでいたことから、AIPによりようやく全対外債務の再編に目途がついたとの観測が広まった。
しかし、1月30日に中国・フランスが共同議長を務める公的債権者委員会は「同等取り扱い原則」が満たされていないとし、AIPへの反対意見を表明。AIPに基づく債務再編の実行には公的債権者委員会の承認が必要であることから、民間債権者委員会はエチオピア政府との再交渉が必要となり、さらに返済開始まで時間を要することから、それを嫌って今回英国裁判所での提訴の意向を表明したとみられる。
英FTやロイター通信によると、AIPにはエチオピアの輸出額がIMFの予測を上回った場合、2028~37年にかけてその上回った額の2.5%を民間債権者に毎年支払う「価値回復手段(value recovery instrument:VRI)」が盛り込まれており、これに公的債権者委員会が反対しているとのこと。GDPや輸出額の連動に応じた同様の制度は2020年にデフォルトに陥ったザンビアや、スリナムでも用いられているが、英・市民団体「Debt Justice」は仮にVRIが用いられると民間債権者は公的債権者より28%も多く返済を受けることになると評価。同団体は、VRIは輸出収入を国民に還元しないことになることから、「エチオピア国民に過大な負担を強いるものだ」と警鐘を鳴らしている。
実際に1月30日にIMFが発表したエチオピア向け「拡張クレジットファシリティ(ECF)」の第4回レビューにおいても、2024/25年度の輸出額は83.4億ドルで、前回レビューで示された63.7億ドルの予測を大きく上回っている。背景には金輸出の公式ルート化と世界的な金価格の高騰により、2024/25年度の金輸出は39トンと前年度の4トンを大きく上回ったこと、また、主要輸出品のコーヒーも299トンから470トンに増加していることがある。この物品輸出が好調であることと、サービス輸出(エチオピア航空)と海外からの送金流入が堅調であることにより、エチオピアの経常収支は2024/25年度に▲1.1%と前年度の▲2.9%に改善。IMFは外貨準備高も2028年のIMFプログラム終了時点で現在の輸入の1.9か月分から3.7か月分に改善すると予測している。
こうしたエチオピアのマクロ経済の堅調な推移と対外流動性の改善が民間債権者にとってはヘアカットに応じたくない大きな理由(将来の返済能力に問題があるわけではなく、一時的な支払い能力の問題と主張)だったが、それに譲歩したにもかかわらず公的債権者委員会が横槍を入れてきたことにより、最終合意までの道筋は不透明さを増している。
- [ロシア]ロシアでは人口減少や戦争による動員・人材流出で深刻な人手不足が続いている。経済減速で労働逼迫(ひっぱく)は一時的に緩んでいるものの、構造的な労働力不足は長期化する見通しである。英国 Oxford Analytica 社の分析によると、ここ数年で最大約240万人の労働力が失われ、外国人労働者も大幅に減少している。さらに反移民感情の高まりで規制が強化され、労働力の補填は一段と難しくなっている。その結果、企業は採用難や人件費上昇に直面しており、生産能力にも影響が及びつつある。特に地方都市や労働集約型産業では人員確保が困難となり、経済成長を押し下げる要因となっている。
- [米国]2月2日、米国は「プロジェクト・ヴォルト(Project Vault)」を発表し、同国の重要鉱物サプライチェーン強化に向けた約120億ドル規模の戦略備蓄構築に着手した。米国輸出入銀行(EXIM)は本プロジェクト向けに最大100億ドルの長期融資を承認し、約17億ドルの民間資本と組み合わせた官民共同スキームを採用する点が特徴。
初期参加企業には Clarios、GE Vernova、Western Digital、Boeing などが含まれ、供給パートナーとして Hartree、Mercuria Americas、Traxys が関与する。運用面では、参加企業が平時の在庫コストを負わずに済むオフバランスの在庫管理手法を採用し、供給途絶時には約60日分の重要鉱物を即時供給できる体制を整える。これは製造業の在庫負担を抑えつつ、緊急時の国内生産維持を可能にする設計となる。
このプロジェクトは重要鉱物の中国依存を低減し、大手メーカーの需要コミットメントを束ねることで市場に安定的な需要シグナルを送る点が評価される。一方で、価格下支え機能は限定的であり、鉱物の保管コストや品質維持の難しさ、対象鉱物の多さなど運用面の課題も指摘されている。英紙Financial Timesは以前、政権と特定企業の関係を巡る利益相反疑惑を報じており、今後、議会における超党派支持を揺るがすリスクも指摘されている。
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