- [中東・米国/平和評議会初会合]2月19日に米ワシントンの「ドナルド・J・トランプ平和研究所」において、ガザ地区の再建と安定化を目的とする国際枠組みである「平和評議会(Board of Peace)」の初の首脳会合が開催される予定である。同評議会の議長であるトランプ米大統領は、自身のSNSへの投稿で、加盟国がガザの人道支援および復興事業に対し総額50億ドル以上を拠出することを発表すると明らかにしており、資金はUAEやクウェートなど湾岸諸国が中心となって負担する見通しである。あわせて、国連承認の国際安定化部隊(ISF)およびパレスチナ自治区の地元警察に対し、5,000~8,000人規模の要員を派遣する構想も示されている。現時点で具体的な派遣を表明しているのはインドネシアのみとされる。
同評議会には、米国やイスラエル、中東諸国のほか、アルゼンチンやハンガリーなど親トランプ色の強い政権を擁する国々を中心に約25か国が参加している。一方、日本や欧州主要国は正式加盟を見送っており、トランプ大統領個人の影響力が色濃い枠組みであることや、ロシアが招待対象に含まれている点などを踏まえ、慎重な姿勢を崩していない。日本からは大久保武・ガザ再建支援担当大使が出席する予定で、加盟については未定ながらも協議には関与する姿勢を示す。日本政府はすでに約41億円の無償資金協力を発表しており、独自の復興支援も進める方針である。EUも閣僚級代表を派遣するが、評議会の一員となるのではなく、停戦維持と復興支援に関する協議に限定して参加する立場を明確にしている。
- [中国・アフリカ53か国/ゼロ関税政策]2月14日、習近平主席はエチオピアのアディスアベバで開催されたアフリカ連合(AU)総会に対して送った祝辞の中で、アフリカ53か国からの輸入品に対する関税を2026年5月1日から無税にすると発表した。
中国によるアフリカ向けの特恵関税措置の適用はこれまで段階的に進められてきた。2022年にアフリカの後発開発途上国(LDC)33か国からの輸入品目の98%を無税にし、2024年12月からは、LDCからの全輸入品目の関税を撤廃した。その後、2025年4月にトランプ米政権がアフリカの国々に10~50%の相互関税を課すと発表。これを受け中国は、2025年6月にアフリカ53か国からの全輸入品を「ゼロ関税」にすると発表し、アフリカ諸国との連帯の姿勢と米国への対立姿勢を明らかにした。
中国と国交を結んでいないエスワティニはゼロ関税の対象外となるが、これにより中所得国のため基本的には「最恵国待遇(MFN)」の税率が適用されていた南アフリカ(南ア)、ケニア、モロッコ、エジプトなどからの輸入品も全て無税となる。
2025年の中国のアフリカ諸国からの輸入額は前年比5.4%増となる1,230億ドル。対する中国からのアフリカ諸国への輸出額は同25.8%増の2,250億ドルに上っており、アフリカ側の貿易赤字は拡大している。また、中国のアフリカからの輸入品の約9割は原油、銅、鉄鉱石などのエネルギー・鉱物が占めている(ボストン大学)。これらのほとんどはMFN税率でも0%ないしは極めて低い税率がもともと適用されているため、今回の中国のゼロ関税の発表はアフリカの実態経済には大きな影響を及ぼさないとの見方も多い。
しかし、中国のアフリカでの影響力拡大においては大きな意味を持つ。トランプ米大統領は2月3日に2025年9月に失効した「アフリカ成長機会法(AGOA)」を1年間延長する法案に署名し、サブサハラ・アフリカ(サブサハラ)32か国に対して米国への無税アクセスを保証した。しかし、その後も再延長されるかは不透明であり、AGOAの最大の受益国のひとつである南アは、米国との関係悪化を受けて受益国から除外される可能性もある。加えて、AGOAが1年間延長されたとはいえ、相互関税は維持されている。サブサハラで最も高い相互関税が課されている南アには30%、AGOAの適用を受けているケニアも、適用を受けていないエチオピアも最低10%の相互関税が課されていることから、すでにアフリカからの米国向け輸出の関税は10%以上増加している状況だ。この米国向け関税増と通商政策の先行きの不透明さから、米国向けの縫製品輸出を拡大させてきたレソトやケニアなどは雇用調整や代替市場の発掘に迫られている。
これに対して中国のゼロ関税政策は、AGOAがカバーしていない北アフリカを含むアフリカ全域をカバーするという広さに加え、全ての輸入品目を無税にするという寛容さがある。この中国によるアフリカに対するコミットメントの強さが、アフリカの製造業者に対して中長期的な視点をもたらし、中国向け輸出品拡大に向けた投資意欲につながるとの見方もある。
実務的には、世界貿易機関(WTO)のLDC特恵(ゼロ関税)が適用されない南アやケニアなどの中所得国は、中国との個別の二国間協定を締結することにより、ゼロ関税(=MFNより低い関税)を担保する必要がある。今回の習主席の発表に先んじて、1月にケニアは中国と「暫定貿易協定」を署名し、続いて南アも2月6日に「中国・アフリカ経済連携協定(CAEPA)」の枠組み合意に署名するなど足並みを揃えている。その他にもアフリカの中所得国各国は、5月1日までに中国との二国間の交渉をまとめるものとみられる。
- [タイ/実質GDP成長率]2月16日、タイ国家経済社会開発委員会(NEDSC)は2025年第4四半期および通年の実質GDP成長率の速報値を発表した。第4四半期の成長率は2.5%、通年の成長率は2.4%を記録。四半期の成長率は、2025年第3四半期の1.2%から大幅に改善したほか、ブルームバーグがまとめたエコノミスト予想の中央値(1.3%)を大きく上回っている(Bloomberg、2026年2月16日付記事)。通年の成長率に関し、2024年の水準(2.9%)よりわずかに低下した。
通年での成長率の支出別内訳に関し、GDP全体の約6割を占める民間最終消費支出(家計消費)の伸び率は、2.7%と4.4%から減速。GDP比90%を超える家計債務の返済負担が重しとなったもよう。
他方でGDP全体の約2割を占める総固定資本形成の伸び率は4.9%と、2024年(0%)から上昇した。民間企業による機械・建設投資が堅調であったことを踏まえたもの。
財・サービス輸出に関し、世界的なAI需要増加を踏まえ、主要輸出品である電子部品・電子機器の輸出額が増加したこともあり、伸び率は9.2%と2024年(7.5%)より改善した。一方で財・サービス輸入につき、輸出品の原材料・中間財輸入が増加したために伸び率も6.7%と2024年(5.7%)から上昇したが、輸出の伸び率を下回っている。
同国では、2月8日に実施された総選挙の結果、タイの誇り党が最多議席(500議席中、193議席)を獲得した。単独過半数には達しないため、タクシン派のタイ貢献党(74議席)やその他政党との連立政権樹立が見込まれる。なお事前の世論調査で最多議席獲得が見込まれていたリベラル系政党の国民党は、議席数が118とタイの誇り党を大きく下回った。タイの誇り党が、2025年に発生したカンボジアとの国境紛争による国民のナショナリズム高揚を取り込めたことや、シハサック外相など閣僚経験の豊富な人物を閣僚候補としたことから、国民に安定した政権運営が期待されたことが勝因となった。
過去より、国軍の影響力が強く残る憲法裁判所により解党・首相解任命令が下されてきた前進党(国民党の前身政党)やタイ貢献党と異なり、タイの誇り党は憲法改正などの政治改革を望まない保守系政党であることも踏まえ、憲法裁判所よりアヌーティン新首相に解任命令が下されることは考えにくい。タイ貢献党と連立を組む場合は議席数が267と過半数を大きく上回るため、予算や法案承認が円滑化することが期待される。
今後の経済政策に関し、アヌーティン新政権は短期的には飲食品など日常品の購入額半額を補助する「コン・ラ・クルン・プラス(半分こプラス)」第2弾実施により民間消費を刺激することを狙う。中長期的な経済政策としては、直近3年間で海外からの投資流入額が急増しているEVやデータセンター、プリント基板など高付加価値産業の育成を促すべく、投資実行に必要な行政・許認可手続きを迅速化する「タイランド・ファストパス」制度を活用することを目指す。
- [中国/ブラジル牛肉生産拡大]ブラジルの牛肉産業が、中国の旺盛な需要を追い風に過去最高水準まで拡大している。ブラジル地理統計院の速報値によれば、2025年第4四半期の牛のと畜頭数は前年同期比で13.1%増加した。これが確定すれば、2025年通年のと畜頭数は過去最高の4,230万頭となり、ブラジルは米国を抜いて世界最大の牛肉生産国となる見通しだ。
最大の要因は、中国の輸入拡大である。2026年1月の対中牛肉輸出額は6億5,000万ドルと前年同月比で約45%増加した。1月のブラジル産生鮮牛肉の輸出は全体で23万2,000トン、売上高は約13億ドルに達し、その約半分を中国向けが占めた。2025年の対中輸出量も過去最高の164万8,000トンを記録した。
ただし、中国政府は1月から牛肉について3年間の「セーフガード措置」を導入した。主要供給国に年間輸入枠を設定し、枠を超える分には55%の追加関税を課すとしている。2026年のブラジル向け無税枠は110万6,000トンで、月平均では約9万2,000トンとなるが、2025年の月平均約14万トンを大きく下回る水準だ。
これを受け、ブラジル政府は業界と協議し、前年の対中輸出実績に応じて企業別に輸出枠を割り当てる案を検討している。過度な「駆け込み輸出」による価格下落や牛価格の高騰を防ぐ狙いがある一方で、政府による輸出管理の強化に懸念の声も出ている。
- [パナマ運河/交通量増加]パナマ運河庁(ACP)は、2026年1月の洋上通過回数が1,049回に達し、前年同月比で3.8%増加したと発表した。1日あたりの通過船舶数は、2025年1月の32.6隻から33.84隻に増え、現在は持続可能な最大処理量とされる1日38隻前後に近づいている。これは、運河が再び活況を取り戻していることを示している。
とりわけ特徴的なのは、最大級の船舶であるネオパナマックス船の存在感が一段と高まった点である。2016年に供用開始された拡張閘門(こうもん)を利用するこれらの大型船は、1月に6.3%増加し、運河全体の輸送量の約29%を占めた。173の予約枠はすべて埋まり、稼働率は事実上100%を超えた状態となった。拡張前と比較すると船舶の総数自体は減っているが、1隻あたりの輸送量が増えたため、平均貨物量は2016年の約25,000トンから現在は37,000トン超へと大きく伸びている。パナマ運河の戦略は「量より質」へシフトしており、隻数ベースでは全通航の約25%に過ぎない巨大船舶が、運河収益の約45%を叩き出しており、巨大船の誘致が成長を支えている。
さらに、2026年1月はクルーズ船部門にとっても重要な節目となった。ディズニー・アドベンチャー号が、乗客約6,700人、総トン数208,000トンという規模で初めて運河を通過した。ACPは、2026年9月までの会計年度に40回以上のネオパナマックスクルーズ船通過を見込んでおり、観光・旅客部門の回復も鮮明である。
他方で、この運航回復は地政学的緊張が高まる中で進んでいる。パナマは香港企業CKハッチソンの運営権を無効とした。ムリーノ大統領は2026年1月に事態収束を宣言したが、中国政府は対抗措置を示唆している。中国の税関当局は、パナマ産のコーヒーや豆類などの農産物に対して検査を厳格化しており、事実上の輸入制限が始まっているほか、中国政府は国有企業に対し、パナマでの新規プロジェクトに関する協議をすべて停止するよう指示したとも報じられている。
現在、パナマ運河は2023年の干ばつによる通航制限以来、最も混雑した状態にある中で、船舶は途切れることなく集まっている。しかし、パナマ運河にとって第2位の利用者である中国が2月以降、パナマ運河以外のルート(スエズ運河や南米経由)への振替を検討するよう指示したと報じられており、2月以降の通行量にも注目が集まる。
- [米国/データセンター]トランプ大統領の政策顧問であるピーター・ナヴァロ氏は、日曜のTV番組で「データセンター建設業者は AI インフラストラクチャが消費する電力、水、および電力網への負担のコストを内部化しなければならないと述べたことが話題となっている。ナヴァロ氏のこの発言は、AI データセンターのブームが、光熱費の増加が厳しい監視に直面している中でなされたものだ。大手企業は、AIを動かすインフラに数千億ドルを投じている。11 月にMeta は AI 技術、インフラ、およびその労働力を拡大するために 6,000 億ドルを投じることをコミットした。Apple は 8 月にさらに 1,000 億ドルを追加して米国のインフラ計画を強化し、その総投資額を 6,000 億ドルまで引き上げると発表した。
一方で、エネルギーコストは上昇している。公益事業顧客を擁護する非営利団体 PowerLines が先月発表した調査によると、電力およびガス事業者は2025年、規制当局に対して 310 億ドルの料金値上げを申請したが、これは前年申請額の2倍以上となっており、事業者は大規模データセンターからの電力需要の急増を、料金値上げを求める主な理由として挙げている。これについて、トランプ大統領も「家計がその増加分を吸収すべき」という考えには反発しており、truth Socialには「データセンターのために米国民が高い電気代を支払うことは絶対に望まない」と投稿している。
アンソロピックやマイクロソフトなど一部の企業は、急速な拡大によるコストを一般家庭が負担することはないと政策立案者を安心させる動きを見せている。AI活用やデータセンターの設置は安全保障上不可欠だが、国民の負担増も政治的に許容することも難しい。地域の電力や水不足、環境保全を企業が織り込んだ計画が必要とのシグナルであり、産業発展の初期段階での健全な調整が始まっている。新興国ではそもそも電力や水のインフラが不足していることから、政策当局とより綿密な設計を要することになる。
- [キルギス/国内政治]2月10日、キルギスの有力政治家であるカムチベク・タシエフ氏は、長年の盟友であったジャパロフ大統領により、内閣副議長兼国家保安委員会(GKNB)議長の職を解任された。ジャパロフ大統領は、この解任により「社会や国家機関の分裂を防ぎ、国家全体の団結を強化する」と説明している。タシエフ氏は2020年の政変以降、大統領と並ぶ強力な「タンデム(二頭体制)」として国を統治してきたが、今回の解任とそれに続くタシエフ氏に近い閣僚3名の更迭により、大統領による権力集中が進んでいるとみられている。キルギスは2027年1月に大統領選挙が実施される予定で、ジャパロフ大統領は再び出馬する可能性が高いもよう。
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