- [アイルランド/電力価格事情]アイルランドでは、電化の進展が必ずしもエネルギーコストの低下につながらない状況が目立ち始めている。EVの普及やデータセンター投資が進む一方、電力価格や系統制約が新たなコスト要因となっている。
Irish Timesによると、公共の急速充電を利用したEVでは、走行距離当たりのエネルギーコストがガソリン車やディーゼル車を上回るケースが出ている。家庭で夜間充電を利用すれば1kWh当たり約0.12ユーロまで抑えられる一方、公共の急速充電ではその数倍となる。80kWh程度のEVを公共充電で満充電すると約70ユーロかかり、冬季の航続距離は約450km。一方、1.6リットル級ディーゼル車は約110ユーロの給油で約950km走行できるとされ、距離当たりではEVが割高になる場合がある。
特に問題となるのは、自宅に充電設備を設置できない集合住宅居住者や路上駐車利用者である。EVは家庭充電できるかどうかで経済性が大きく異なる。EV販売自体は拡大しているものの、電化によるコスト削減の恩恵が利用環境によって偏る構造になっている。
産業側でも電力確保が課題になっている。アイルランドではデータセンターの電力需要が急増しており、AI向け設備の拡大によって系統への負荷がさらに高まる可能性がある。このため、風力や太陽光の余剰電力から水素を製造・貯蔵し、需要が大きい時間帯に発電へ戻す構想が浮上している。再生可能電力の一部は現在でも出力抑制によって利用できておらず、水素はこうした余剰電力を活用する手段として期待されている。
ただし、水素は電力コストを単純に下げる技術ではない。製造、貯蔵、再発電の各段階でエネルギー損失と設備費が発生するため、むしろ系統制約を回避するために追加コストを負担する選択肢とみるべきである。
アイルランドの事例が示しているのは、化石燃料から電力へ切り替えれば自動的に安くなるわけではないということだ。EV、データセンター、暖房など電化が進むほど、発電能力だけでなく送電網、蓄電、充電設備まで含めたインフラ投資が必要になる。脱炭素を進めるうえでも、今後は「どこまで電化するか」だけでなく、「増加する電力需要をどのコストで支えるか」が重要な論点になっている。(経済部 本間隆行)
- [エチオピア・スーダン関係悪化]11月4日、エチオピア政府は同国西部のアソサにあるスーダン領事館の閉鎖と職員6人の追放を命じた(11月4日、米紙ワシントン・ポストなど)。エチオピア政府は今回の措置について公式な説明を行っていないが、10月31日にスーダン政府が国連安全保障理事会およびアフリカ連合(AU)に対して、エチオピアに対する抗議文書を提出したことへの報復だとみられている。
同文書では、エチオピアがスーダン国軍(SAF)と対立する準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」に対し、エチオピア領土からのドローン攻撃を容認し、それによってスーダン国内の民間人やインフラ施設に危害が及んでいると非難している。2023年から続くスーダンの内戦では、SAFとRSFとの間でドローン攻撃の応酬が激化しており、少なくとも6万人の死者と1,000万人を超える国内外避難民が発生している(2026年10月21日デイリーアップデート参照)。国連のグテーレス事務総長も10月31日、スーダンの紛争当事者らによる攻撃の激化を非難した。
SAFはかねてよりアラブ首長国連邦(UAE)がエチオピアおよびRSFの活動を支援していると非難してきたが、UAEとエチオピアはこれを否定する姿勢を貫いている。今回スーダン領事館の閉鎖が命じられたベニシャングル・グムズ州のアソサは、スーダン国境に位置する戦略的要衝である。2026年2月に英ロイター通信は、同州でRSF戦闘員4,300人が訓練を受けるキャンプ地が建設されており、UAEが軍事物資を供給していると報じた(2月10日、ロイター通信)。この報道の直後、エチオピア政府はロイター通信の記者に対する取材ライセンスの更新を拒否していた(2026年8月に更新が認められた)。
今回スーダン政府が国連とAUに提出した同文書において、アソサ空港をはじめとするスーダン国境周辺の軍事施設がドローン攻撃の発射拠点となっているとの指摘があったことも、エチオピア政府がアソサのスーダン領事館閉鎖を命じた理由となった可能性がある。なお、ロイターはエチオピア政府が、同州にあるエチオピアの重要資産「グレート・ルネッサンスダム(GERD)」を保護するため、アソサ空港の拡張をはじめ西部に航空基地をシフトしているとも指摘している。10月28~29日にモスクワで開催された「第3回ロシア・アフリカサミット」の際に、エチオピアはロシア製戦闘機Su-35と長距離地対空ミサイルS-400の調達を発表しており(2026年10月30日デイリーアップデート参照)、これもGERDの保護を目的とするものとの見方もある(10月29日、BBC)。
エチオピア政府による今回の外交措置の直後、スーダン政府もエチオピア国境に近いガダーレフのエチオピア領事館の閉鎖と職員の追放を命じ、報復した。エチオピアは、北部ティグライ州の反政府勢力「ティグライ人民解放戦線(TPLF)」をSAF、エリトリア、エジプトらが支援しているとの非難を強めており、10月1日にエリトリアとの断交を発表し、エジプト人外交官も追放するなど、関係悪化が顕著となっている(2026年10月5日デイリーアップデート参照)。エジプト、スーダン、エリトリア、ソマリアの4か国は10月4日、事実上の反エチオピア同盟となる「エル・アラメイン宣言」を発表するなど(2026年10月6日デイリーアップデート参照)、今回のエチオピアとスーダンによる相互の領事館閉鎖もこうした地域的な対立の深まりを示す動きとみられ、域内の緊張が沈静化する兆しは依然としてみられない。(国際部 髙橋史) - [ユーロ圏/物価上昇]EU統計局(Eurostat)によると、10月のユーロ圏の消費者物価指数(HICP)は前年同月比+4.0%となった。上昇率は9月(+3.8%)から拡大し、3年ぶりの高い伸びとなった。
内訳を見ると、エネルギー(+20.8%)の上昇が目立った。4か月連続の2桁上昇で、上昇率は9月(+18.9%)から一段と拡大した。食品(+1.6%)は9月(+1.3%)から拡大し、5月(+1.9%)以来の大きさとなった。財(+1.2%)も9月(+1.1%)から拡大したものの、8月と同じ伸び率だった。ただし、1%超は3か月連続であり、やや高めの上昇ペースとなっている。サービス(+3.3%)も9月(+3.2%)から拡大した。7月と同じであり、ここ半年3%台前半で推移している。なお、食品・エネルギーを除くコア指数は+2.5%で9月と同じだった。物価の基調はここ半年、おおむね横ばい圏で推移している。
国別に見ると、リトアニア(+6.1%)やブルガリア(+6.0%)で6%以上となっている。それに対して、マルタ(+2.3%)やドイツ(+2.8%)が低いものの、それでも欧州中央銀行(ECB)の2%を上回っている。そのほか、フランス(+3.8%)やベルギー(+5.2%)、イタリア(+5.6%)などでも高めの物価上昇がみられている。
10月の物価上昇を受けて、12月のECB理事会では追加利上げが実施されるという見方が市場では強まっている。(経済部 鈴木将之)
- [バングラデシュ/アパレル産業の最低賃金引き上げ交渉](1)事実関係
11月4日、バングラデシュにおいて、判事、労使の代表各2人および独立委員からなる6人構成の最低賃金委員会は、既製服(RMG)産業の改定後の最低賃金を12月1日から適用し、引き上げ分を1月の給与で支払うことで合意した。
(2)背景・経緯
バングラデシュでは、10月末からRMG産業の最低賃金引き上げを要求するデモがダッカ周辺で発生している。これにより、500~700の工場が操業停止・臨時休業に追い込まれ、100万~170万人の労働者に影響が及んでいる。RMG産業に従事する労働者は約400万人とされているため(CNA、2026年11月2日付記事)、全労働者の25%以上が影響を受けていることになる。労働者側は、現在の最低賃金を月額12,500タカ(日本円で約1万6,000円)から3万タカ(日本円で約3万9,000円)へと2.4倍に引き上げることを要求している。バングラデシュでは2023年に最低賃金がそれまでの8,000タカから引き上げられたが、その後、現在に至るまで8%を超える高インフレが継続していることから、大幅な賃上げを要求している。他方、経営者側も、人件費上昇の吸収余地が小さいことを背景に、大幅な賃上げに難色を示してきた。RMG産業の一般的な純利益率は2~3%とされている一方(ロイター通信、2026年11月4日付記事)、足元ではイラン情勢を背景にエネルギー価格が高騰しており、最低賃金の引き上げにより純利益が減少し、赤字となりかねないためだ。加えて、すでに契約済みの海外バイヤー向けRMGの販売価格は遡及的に変更されないため、経営者側は6か月の猶予期間を求めてきた。労使間の意見の対立や直近のデモ発生を踏まえ、政府は11月1日に最低賃金委員会を設立した。11月4日に開催された初会合で、最低賃金の引き上げ時期が決定された。ただし、最低賃金の水準については依然として合意に至っていない。
(3)インプリケーション
デモの発生とそれに伴う工場の操業停止を受け、一部のバイヤーは今後の発注をインド、ベトナム、エジプト、インドネシアへ移すことを検討しているもよう。特に11月~翌年2月は、年間受注の約4割、特に翌年に販売する春物・夏物衣料の契約が締結される時期である。このため、最低賃金の水準に関する合意が遅れ、デモが継続する場合には、バイヤーからの受注が減少する可能性がある。また、中長期的には、労働者側が要求する最低賃金の水準がインドの最低賃金水準を上回り、結果として価格競争力が相対的に低下することも懸念材料である。インドの主要RMG生産州であるタミルナドゥ州とパンジャブ州における非熟練労働者の最低賃金は、約1万4,000ルピー(約1万9,000タカ)である。労働者側が求める水準まで最低賃金が上昇した場合、企業側には上昇分を吸収する余地がないため、価格に転嫁することが考えられる。その場合、バングラデシュ産RMGの価格がインド産RMGを上回る可能性がある。RMGはバングラデシュの輸出全体の約8割、GDPの約1割を占める一大産業であるため、上記の要因による輸出減少が、経済成長や外貨繰りに大きな影響を及ぼしかねない。(国際部 土田慧)
- [NVIDIA、対中依存低減へ]米国の半導体大手NVIDIAが、世界各地のデータセンター事業者に対し、中国企業への依存度を引き下げるよう求めていると、『フィナンシャル・タイムズ(FT)』が報じた(11月3日付)。米中のAI開発競争が激化するなか、米政界で強まっている同社への批判をかわす狙いがあるとみられる。
記事によると、NVIDIAは2026年夏以降、同社の半導体を利用するクラウド事業者に対し、サービス売上高の51%以上を中国以外の企業向けとするよう要求するようになった。従来はこうした制限はなく、新規契約を対象に世界各地で適用されているとしている。
米国の輸出規制で先端半導体を直接購入できない中国企業は、東南アジアなど海外のデータセンターから計算資源を借り、AIモデルの訓練などに利用してきた。NVIDIAはすでにアジアでの半導体販売先を半分以下に絞り込んでおり、新たな措置は中国企業のAI開発にさらなる制約を加えることになる。一方、中国企業への依存度が高い海外データセンター事業者は、事業縮小を迫られる可能性がある。
最近、米国ワシントンでNVIDIAに対する不信感が高まっていることを示す報道が相次いでいる。米メディア『The Information』は、同社が対中輸出規制の緩和を求め、シンクタンクへの資金提供などを通じて政策論議に影響力を行使してきたと報じ、また、中国製AI半導体の性能を誇張しているとの批判も紹介した。
さらに別の米メディアは、NVIDIAのジェンセン・フアンCEOと親しい中国人経営者に中国情報機関との関係が疑われ、米情報当局がトランプ大統領に報告したものの、政権が対応を見送ったと報じた。ただし、フアン氏自身の不正行為を示す証拠は報じられていない。
NVIDIAは中国市場の維持を重視し、輸出規制の緩和を働きかけてきたが、議会や安全保障関係者の警戒は強い。同社は、中国市場での事業機会の確保と米国の安全保障政策への対応という、相反する課題の間で難しい判断を迫られている。(国際部 前田宏子) - [ロシア穀物輸出/バルト海など代替ルートへの転換を加速]ロシアの穀物輸出が、黒海沿岸の港湾機能の低下により大幅に減少している。10月の港湾経由の穀物輸出量は約230万トンと、前年同月の約700万トンから3分の1に縮小した。7~10月の累計も1,120万トンにとどまり、前年同期の2,420万トンを半分以上下回った。小麦輸出も同期間に1,880万トンから780万トンへ減少した。
主因は、従来ロシアの穀物輸出を支えてきたアゾフ海・黒海沿岸港の停滞である。同地域の輸出シェアは、前年10月の71.6%から今年10月には5.5%まで急落した。特にノボロシースク港からの出荷量は、前年同月の266万トンから8万2,600トンに落ち込んだ。これに対し、ロシアは輸出ルートをバルト海方面へ急速に切り替えている。10月のバルト海港湾からの穀物輸出は約150万トンと前年同月比8.7倍に拡大し、輸出全体に占める割合は2.4%から65.3%へ上昇した。特に北部のウスチ・ルガ港が新たな主要輸出拠点となり、10月だけで68万4,000トンを出荷した。また、アストラハンからイラン向けのカスピ海ルートや、ムルマンスク港を利用する北極圏ルートの開拓も進められている。
一方、輸送距離やコストの増加により、代替ルートだけでは黒海港湾の輸送能力を完全には補えない。輸出先も縮小しており、10月のエジプト向け小麦輸出は前年同月の約152万トンから38万トンへ4分の1に減少した。7~10月のトルコ向け輸出も前年同期比11分の1の22万6,500トンまで落ち込んだ。これに対し、中国向け輸出は2.7倍に増加しており、輸出先の再編も進んでいる。(国際部 ゴロシニコフ アントン)
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