- [米国・ロシア/小麦事情] 小麦のサプライチェーンに複数の供給リスクが重なっている。米国では燃料や肥料などの生産投入コストが高止まりしている。EIAによると、全米平均の軽油価格は8月24日時点で1ガロン5.65ドルとなっており、バレル換算では約237ドルに相当する。肥料価格も高く、8月中旬のDAP(リン酸二アンモニウム)は約916ドル/トンと前年同期比約8%高、無水アンモニアは約943ドル/トンと約24%高い。8月26日付Financial Timesは、こうした高コストと低い穀物価格の組み合わせを「過去40年で最悪」の農業危機と報じた。米国最大級の農業団体で、政策提言やロビー活動も行うAmerican Farm Bureau Federation(米国農業局連盟)は、政府支援がなければ2026年の作物生産で約310億ドルの損失が生じる可能性があると試算している。農家の不満は対中・対加貿易政策や中東情勢にも向かい、中間選挙を前に政治問題化しつつある。
黒海でも供給網の余裕が急速に失われている。S&P Globalが8月20日に報じたところでは、7月にウクライナの港湾施設への攻撃は67件に達し、同国の穀物輸出能力の約3分の1が失われた。ロシアでもケルチ海峡やアゾフ―ドン水路が制約され、小麦輸出の約28%を扱うルートが影響を受けている。ロシアとウクライナは世界小麦輸出の約27%を占めるため、局地的な物流障害では済まない。さらに、ロシアの黒海港からエジプトまでの海上運賃は70ドル/トンに達した。黒海小麦のFOB価格約215ドル/トンに対して運賃だけで約3分の1を占め、6月の約27ドル/トンから40ドル以上上昇した計算になる。黒海小麦の価格は、輸出機能不全により低下してしまっている。穀物そのものが存在していても、港湾、船舶、保険が機能しなければ世界市場には届かない。
価格はこうした供給リスクを一部織り込み始めている。CBOT小麦先物は7月末の1ブッシェル6.4ドル前後から8月27日には7.40ドル前後まで上昇した。代替調達先となる豪州産小麦も8月24日に291ドル/トンと2023年以来の高値圏にある。ただ、黒海の運賃急騰や輸出能力の毀損に比べれば、国際価格全体の反応はなお限定的ともいえる。
現状は小麦そのものが不足しているというより、肥料、燃料、農家採算、港湾、船舶、輸送ルートという供給網全体の脆弱性が高まっている局面とみるべきだろう。豊作観測や需要の弱さが価格を抑えている間は表面化しにくいが、黒海の混乱が長期化し、米国など主要生産国で農家の作付け意欲まで低下すれば、現在の価格が十分に織り込んでいない供給リスクが顕在化する可能性には注意が必要である。
(経済部 本間隆行) - [コンゴ民/ロビト回廊鉄道整備]8月26日、コンゴ民主共和国(DRC)の首都キンシャサで、全長約1,000kmに及ぶDRC国内の鉄道補修・運営にかかるコンセッション契約の調印式が行われた。調印式には、DRCのチセケディ大統領とアンゴラのロレンソ大統領が出席した。内陸国で一大銅生産地であるDRC・ザンビアから、大西洋に面するアンゴラのロビト港を結ぶ「ロビト回廊」の一部をなす今回の鉄道整備契約により、DRCからの大西洋経由での鉱物などの輸出効率化が進む見込みだ。
30年間の運営コンセッション契約を受注したのは、ポルトガルのエンジニアリング大手モタ・エンジルで、総投資額は18億ドルとなる見込み。重要鉱物の確保への意欲を示し、また中国とのアフリカでの対抗姿勢を強める米国は、ロビト回廊をバイデン前政権時代から重視していることから、米・国際開発金融公社(DFC)が10億ドルの資金援助を行うとみられている。
ロビト港から、アンゴラのDRC側国境の町ルアウまでの約1,300km区間(ベンゲラ鉄道アンゴラ区間)については、2023年にモタ・エンジル、シンガポール資源大手トラフィグラなどがアンゴラ政府との間で30年間のコンセッション契約を締結し、鉄道の整備・運行を続けてきた。今回のDRC政府とモタ・エンジルとのコンセッション契約により、アンゴラのルアウから、ベルギー植民地時代に整備されたものの未活用となっていたDRC国内の鉄道改修を進めつつ、コルウェジ、テンケ・フングルメ、ルブンバシといった「カッパーベルト」の中心地まで鉄道が延伸する見込みだ。
ロビト回廊では、アンゴラ東部のルアカノ(ルアウ手前)から、カッパーベルトのザンビア側の都市チンゴラまでを結ぶ約800kmの鉄道新設プロジェクトもアフリカ金融公社(AFC)が主導している。他方で、中国側もインド洋に面するタンザニアのダルエスサラームとザンビアを結ぶ「タザラ(タンザン鉄道)」の改修を進めており、重要鉱物をめぐる米中の綱引きの様相を呈している。(国際部 髙橋史) - [米国/物価上昇率は横ばい]商務省によると、7月の個人消費支出(PCE)物価指数は前年同月比+3.7%で6月と同じだった。市場予想(+3.6%)を小幅に上回った。上昇率は2月(+2.9%)から5月(+4.1%)にかけて拡大した後、縮小に転じて6月以降+3.7%となった。
物価の基調を表す食品・エネルギーを除くコア指数は+3.3%で、これも6月と同じだった。コア指数は2月(+3.0%)から5月(+3.5%)にかけて拡大した後、縮小に転じた。
内訳を見ると、食品(+2.4%)は5月以降同じ伸び率だった一方で、エネルギー(+15.3%)は6月(+15.8%)からやや縮小したものの3月以降2桁上昇を継続している。財とサービス(いずれも+3.7%)も6月と同じ伸び率となった。
財のうち、耐久財(+3.4%)は6月(+2.9%)から拡大し、3~5月(+3.3~+3.4%)並みに戻った。自動車(+0.5%)が2か月連続で上昇、娯楽財・乗り物(+8.6%)が6月(+6.3%)から拡大した一方で、家具・家庭用品(+0.4%)が5か月連続で縮小した。非耐久財(+3.9%)は6月(+4.1%)からやや縮小した。食品は横ばいだった一方で、ガソリンなど(+25.1%)が6月(+26.3%)から、衣服・履物等(+3.5%)が6月(+3.6%)からいずれも上昇率を縮小させた。
サービスでは、輸送サービス(+7.1%)や娯楽サービス(+2.9%)、宿泊・飲食サービス(+3.4%)がそれぞれ6月から▲0.2ポイント縮小だった一方で、その他のサービス(+2.4%)が6月(+2.1%)から拡大したこともあり、サービス全体として横ばいとなった。
足元の方向感を表す前月比でみると、PCE物価指数は+0.2%となり、6月(▲0.1%)から上昇に転じた。ただし、3~5月(平均+0.5%)に比べると、減速している。コア指数は+0.2%で6月(+0.1%)から加速したものの、3~5月(平均+0.3%)からやや減速したままだった。こうした結果を受けて、市場では、次回9月の連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利が据え置かれると予想されている。(経済部 鈴木将之)
- [中国IPO急拡大、市場に警戒感]中国のIPO(新規株式公開)市場が、AIや半導体、ロボットへの投資熱を背景に急拡大する一方、過熱への警戒が強まっている。中国本土市場のIPO調達額は2026年に入って300億ドルを突破し、2023年以来の高水準となった。7月以降だけでも約177億ドルに達し、2023年第3四半期の約170億ドルをすでに上回っている。
象徴的なのが、人型ロボット大手の宇樹科技(Unitree Robotics)のケースで、8月19日に上海の科創板へ上場し、約9億ドルを調達した。株価は初日に公開価格から460%上昇し、時価総額は一時660億ドルに達したが、その後3営業日続落し、初日の高値から約45%下落した。2026年第1四半期の調整後純利益も前年同期比53%減の約600万ドルにとどまり、ロボットの本格的な商用利用もまだ限定的なことから、「AI・ロボット革命」への期待が企業の実力以上に株価を押し上げたとの見方が出ている。
過熱はUnitreeに限らない。DRAM大手の長鑫存儲(CXMT)も7月の上場初日に466%上昇し、その大型IPOだけで今年の本土市場の調達額の約3分の1を占めた。今後もAI半導体の燧原科技(Enflame Technology)が約9億ドル、NAND大手の長江存儲(YMTC)の親会社も約49億ドルの調達を計画するなど、大型案件が続く。
一方、今四半期に上場した企業の約3分の1は、上場後の高値から50%以上下落している。AI関連株の勢いが6月以降鈍り、新規資金の流入も弱まるなか、大量のIPOが既存株から資金を吸収し、市場全体の流動性を圧迫するとの懸念が浮上している。また、空売りが制限されている中国市場では上場直後の過大評価が修正されにくく、高値で参入した個人投資家に損失が集中するとの批判もある。
当局は技術自立の柱となるAIや半導体企業への資金供給を重視しており、現時点でIPO抑制を正式には打ち出していない。ただ、取引所がIPO申請の質を点検する動きも伝えられている。戦略産業への資金供給を維持しながら、IPOバブルと市場の資金枯渇をどう防ぐか、中国当局は難しいかじ取りを迫られている。(国際部 前田宏子) - [日本/企業向けサービス価格(7月)]8月26日、日本銀行は企業向けサービス価格指数(2020年平均=100)の7月速報値を発表した。企業向けサービス価格指数は、企業間(民間企業のほか公的企業や官公庁も含む)で取引されるサービスの価格動向を示す。
7月の総平均は115.1で前年同月比+3.6%と、3月から5か月連続で3%台となった。上昇幅は6月の+3.4%から拡大したものの、4・5月(+3.6%)と同じであることから、今後この水準で一服するか注目される。
内訳をみると、労働者派遣サービス、土木建築サービス、建物サービスなどを含む諸サービス(+2.8%)が、総平均の前年同月比(+3.6%)に対する寄与度が最も高かった(寄与度:1.06%ポイント)。宿泊サービス(+6.3%)、職業紹介サービス(+5.8%)などの上昇が目立った。
次いで寄与度が高かったのは運輸・郵便(+6.4%、寄与度:1.05%ポイント)。中東情勢の影響を受け、燃料油価格の上昇などから外航貨物輸送(+67.4%)や国際航空貨物輸送(+37.7%)、国際航空旅客輸送(+21.1%)の上昇が継続している。
企業向けサービスを、生産額に占める人件費投入比率の高低で分類した指数をみると、低人件費率サービスは+4.4%(6月:+4.0%)と上昇幅が拡大した一方、高人件費率サービスは+3.0%と6月から横ばいだった。人件費のほか、燃料費などのコスト上昇分を企業間の取引価格に転嫁する動きが続いている。
調査対象の146品目のうち、前年同月比で価格が上昇したのは118品目、下落したのは16品目、変わらなかったのは12品目となった。
企業向けサービス価格は、企業物価指数(企業間のモノの取引の価格動向)とともに、川下に波及することで今後の消費者物価指数に影響を与える。8月13日に日本銀行が発表した国内企業物価指数の7月速報値は+7.2%、今回の企業向けサービス価格は+3.6%と、中東情勢が一進一退のなか、モノ・サービスともに今後さらなる価格上昇に繋がる可能性がある。
また、川下では、8月21日に総務省が発表した7月の全国の生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)の前年同月比は+1.8%、生鮮食品・エネルギーを除く消費者物価指数(コアコアCPI)は+1.9%の一方、8月25日に日本銀行が発表した特殊要因を除いたコアCPIは+2.3%、特殊要因を除いたコアコアCPIは+2.2%といずれも2%を超える水準が継続している。(経済部 菊井彩乃)
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