ネピドー/ミャンマー ~成長への変化を待つ眠れる首都 ネピドー~

2019年05月28日

アジア大洋州住友商事会社 ネピドー出張所
合月 智弘

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ネピドーのウッパタサンティ・パゴダ(筆者撮影)
ネピドーのウッパタサンティ・パゴダ(筆者撮影)

「ネピドー?!」

ネピドーに駐在中と言うと、よくこう聞き返されます。「(レストランが少ないなど生活が)大変ですね」と理解してくれる人はまれで、大抵の場合「ネピドーって一体どこ?」という反応です。

 

 ミャンマーは2006年に、(一説には安全保障上の理由から)首都を沿岸部のヤンゴンから約320キロメートル内陸のネピドーに移転しました。ネピドーは「王の都」を意味し、旧軍事政権がゼロから造り上げた人工都市です。国会議事堂や、片側10車線の大型道路、金色に輝く巨大パゴダを擁するその姿は、実際に見ないとイメージしづらいかもしれません。

 

 一方で、ミャンマー国営紙に"Nay Pyi Taw(ネピドー)"の文字が印刷されない日はありません。経済活動の中心は依然として最大の経済都市ヤンゴンですが、政治や行政機能の中心はネピドーにあるといえます。2019年4月には中国に続き米国もネピドーに連絡事務所を設立、またミャンマー最大規模のインターナショナルスクールが、ヤンゴン校に次ぐ2校目をネピドーに今年9月に新設すると発表しました。米中二大国がヤンゴンのみならずネピドーにも重点を置きつつあり、こうした動きは今後も続いて行くでしょう。

 

ネピドー駅でみかけたミャンマー国鉄の車両(筆者撮影)
ネピドー駅でみかけたミャンマー国鉄の車両(筆者撮影)

  最近、ヤンゴン・ネピドー間の飛行機を数日前に予約しようとしても、満席で途方に暮れることがよくあります。航空会社が2社だけ、かつ小さな機体で便数も少ないという背景もさることながら、1~2年前なら平日のネピドー便はガラ空きで、72人乗りの機体に搭乗客は顔見知りの日本人4~5人だけということも頻繁でした。当時に比べ、ヤンゴン・ネピドー間を移動する各国政府関係者やビジネス客の数は確実に増えているように感じます。

 

 まだ知名度が高くないネピドーは、ヤンゴンのような爆発的な発展の勢いはないものの、近年少しずつ成長の兆しがみられます。市内のスーパーの前で日系自動車メーカーが新車販売キャンペーンを行うようになるとは、数年前には想像さえできませんでした。

 

 2016年3月30日、アウン・サン・スー・チー国家顧問率いる国民民主連盟(NLD)政権が発足、長かった軍人主導の政治は終わり、ミャンマー国民は待ちに待ったまさに民主的な政権の誕生としてこれを歓迎しました。あの時の熱狂から3年が過ぎ、2020年には総選挙を実施予定ですが、NLDが議会で過半数を維持できない可能性も報じられています。ラカイン州人権問題の影響が、外国投資の急減・欧米観光客の減少や、経済成長の鈍化等につながっているとの見方もあります。スーチー国家顧問は、都市部を中心に今でも国民から根強い人気を得ているようですが、批判めいた記事を目にすることも多くなってきました。

 

車道を闊歩(かっぽ)する牛の群れ(筆者撮影)
車道を闊歩(かっぽ)する牛の群れ(筆者撮影)

  次回選挙の結果がネピドーにどう影響するかは、まだ分かりません。次政権の政策次第で、首都としてさらに発展するのか、あるいは万一首都再移転があればかつての閑散とした村と水田に逆戻りするのでは、と憶測する声もあります。政治の中心地として大きな変革の渦に巻き込まれる可能性をはらみながらも、今のネピドーはそんな気配すらなく眠っているかのように平穏です。車があふれ都会の喧騒(けんそう)に包まれたヤンゴンに比べ、緑が多く牛がゆったりと歩き、のんびりしたネピドーの風景を見ていると、ミャンマーがゆっくりと、しかし着実に成長してゆく大きな流れは変わらないのではと思えてきます。10年後ネピドーがどう変わっているか、とても楽しみです。

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