モスクワ/ロシア ~路線拡大と近代化が進むモスクワ地下鉄~

2020年12月10日

CIS住友商事会社 モスクワ本社
川上 徹

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 モスクワの地下鉄車内の液晶パネルに表示されるCMには、彼が乗るレーシングカーと、彼女が乗る地上部を走る地下鉄が並走、レーシングカーは赤信号で止まり、最後は地下鉄に追い越され、レーサーの彼が悔しがるというものがあります。モスクワは人口約1,270万人(2020年; 以下別に表記のない限り同様)の大都市であるため、常に激しい交通渋滞という問題を抱えています。そのため、路線網が充実し、安価(一律日本円で75円相当)で、遅延も少ない地下鉄はモスクビッチ(モスクワっ子)の間で一番利用度が高く、信頼のおける交通手段です。一昔前はテロの標的になったこともありましたが、現在は比較的安全で便利なので筆者も休日のちょっとした外出の際に利用しています。

マヤコフスキー駅(左)とコムソモール駅(右)の構内(筆者撮影)
マヤコフスキー駅(左)とコムソモール駅(右)の構内(筆者撮影)

 

 

 モスクワ地下鉄の駅は「地下宮殿」に例えられる装飾の美しさで有名です。ロシアの詩人の名前からとったマヤコフスキー駅が美しいと評判ですが、筆者の一押しは、スターリン時代の建築様式が特徴的でソ連らしさを感じさせる環状線のコムソモール駅です。

 

 

 

次列車到着までの時間表示板(筆者撮影)
次列車到着までの時間表示板(筆者撮影)

 モスクワの地下鉄網は13路線、232駅、総延長408キロメートル(*)、2019年のデータでは1日平均の利用者は700万人です(東京の地下鉄網は13路線、286駅、総延長304キロメートル、2018年のデータでは1日平均の利用者は1,000万人強)。この10年間で56駅を新設、現在も路線網を拡張中で、旅客輸送量・運転間隔・信頼性においては世界でもトップクラスを標榜(ひょうぼう)しています。ピーク時には90秒間隔で運行されており、時刻表の代わりにホームの後部には次の列車が来るまでの時間が秒刻みで表示されています。

(*)モスクワ中央環状線は除く。

 

 

 

旧型車両(左)、新型車両(中)と内部の液晶パネル/USBポート(右)(筆者撮影)
旧型車両(左)、新型車両(中)と内部の液晶パネル/USBポート(右)(筆者撮影)

 力強く閉まる扉と直流モーターの大きな駆動音が特徴の深緑色と青色の旧型車両が今でも活躍している一方で、2018年のサッカーワールドカップ・ロシア大会の前からデザインがモダンで駆動音も静粛な新型車両が次々と投入され、更新されつつあります。新型車両は利用者視点に立ち、全車両で無料Wi-Fi (7分間)が利用可能なほか、種々の情報を提供する液晶パネル、充電用USB端子などが付いており、また車両間の移動が可能なように幌(ほろ)もついています。

モスクワ中央環状線(筆者撮影)
モスクワ中央環状線(筆者撮影)

 

 2016年9月には、旧貨物線を整備して、地下鉄の第二環状線にあたる全線地上走行の「モスクワ中央環状線」(扱いは地下鉄14号線)が開通しました。同線にはドイツメーカーのライセンスにより製造された近・中距離用の新型特急用車両が、駅間の距離が短く特段の高速運転の必要がないにもかかわらず、惜しげもなく投入されています。最短運転間隔が4分と利便性も高いです。

 

 

 

ホームに降りる長いエスカレーター(筆者撮影)
ホームに降りる長いエスカレーター(筆者撮影)

 筆者がモスクワ地下鉄を初めて利用したのは学生時代に旧ソ連を旅行した1983年の夏です。当時はあらかじめコインを購入しゲートでそれを投入、地下深くにあるホームまでつながるエスカレーターはやたら長くて速度も速く、最初の一歩を踏み出すのに幾度も躊躇(ちゅうちょ)したことを思い出します。この37年間に政治体制も大きく変わり、筆者が当時感じた重苦しい雰囲気はすでになく、写真撮影も自由です。IC内蔵型のプリぺイドカードで入場、エスカレーター自体は当時とそれほど変わっていませんが、いつの間にかその速さに慣れてしまい、日本のエスカレーターがえらく遅く感じられるようになりました。かつてのモスクワ地下鉄では、車内でお年寄りや女性にごく自然に席を譲る習慣を目にして筆者は感嘆したものですが、今やそのような光景を目にすることが少なくなったのは残念でなりません。

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