オスロ/ノルウェー ~ノルウェーから「幸福」「平和」を考える~

2025年04月11日

欧州住友商事会社 ノルウェー支店
井坂 紀子

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 皆さん、ノルウェーと聞いて何を思い浮かべますでしょうか。オーロラやフィヨルドなどの大自然、画家エドヴァルド・ムンクの代表作『叫び』やディズニー映画の『アナと雪の女王』といった芸術作品など、馴染み深さを感じながらも、「どこか近くて遠い国」といった印象を抱くのではないでしょうか。

 

ノーベル平和センターの正面から撮影。元々はオスロ西駅の駅舎だったとのこと。(筆者撮影)
ノーベル平和センターの正面から撮影。元々はオスロ西駅の駅舎だったとのこと。(筆者撮影)

 ノルウェーといえば、付加価値税や物価の高さもさることながら、1970年代以降、石油・ガス開発を背景に急激な経済発展を遂げ、世界屈指の福祉国家となったことでも有名です。加えて近年では、各種脱炭素の取り組みで世界をリードする存在にもなりました。再エネ(主に水力)での電力供給がほぼ100%、新車でのEV率は95%超、という数字だけではなく、再利用やリサイクルという概念が日常生活に深く浸透しているのを感じます。

 

 北欧のイメージから、「幸福度の高い国」と思われるケースも多いのですが、その背景の一つとして、ノルウェーには、平等、公平を重んじる文化や制度が根付いていることがあります。男女平等であり、男性の育児休職は当然のこと。16時の保育園・小学校の終了時刻には、お父さんのお迎えの方が多いくらいです。最近では一般中小企業の役員数も40%以上を性的マイノリティとすることが法制度化されました。また、自国の平等・公平だけではなく、人口約500万人の小国ながら、「ノルウェーから世界をよりよいものに変えていきたい」と、一人一人が主体的に考えているように思います。

 

 

ノーベル平和センター内では、折り鶴の展示と共に、その場で折り鶴を折るアクティビティも実施。(筆者撮影)
ノーベル平和センター内では、折り鶴の展示と共に、その場で折り鶴を折るアクティビティも実施。(筆者撮影)

 2024年10月11日正午前、取引先からの電話が鳴りました。「日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)」のノーベル平和賞受賞が発表されたことを受けての電話でした。ノーベル平和賞は、過去対立のあったスウェーデン・ノルウェー両国の和解と平和を祈念して、ほかのノーベル賞と異なりスウェーデンではなくノルウェー政府が授与主体になっていますが、日本被団協の授賞を受け、「ノルウェー人として日本企業と取引をすることを誇らしく思う」というメッセージでした。

 

 その後12月10日の授賞式前後まで、オスロ日本人補習校での被爆者講演会、日本大使館主催のレセプション、たいまつパレード、ノーベル平和センターでの日本被団協展示会のオープニングセレモニー、と各種行事も立て続けでしたが、その一つ一つにおいて、平和や戦争について、日本人であることについて深く考える機会となりました。

 

「日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)」のノーベル平和賞受賞が決まり、日本被団協による特別展示のオープニングイベントの際、ステージをお借りし、日系企業の方々、日本・ノルウェー協会の方々と共に記念撮影(筆者提供)。
「日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)」のノーベル平和賞受賞が決まり、日本被団協による特別展示のオープニングイベントの際、ステージをお借りし、日系企業の方々、日本・ノルウェー協会の方々と共に記念撮影(筆者提供)。

 

 ノーベル平和センターでは、「A MESSAGE TO HUMANITY」というコンセプトで、2025年10月まで、日本被団協の活動などについて展示しており、地元のノルウェー人をはじめ各国から訪れた方々が、同団体の授賞背景を学ぶ機会を提供しています。決して大きくはない展示会場に置かれた展示物・作品それぞれがパワフルで、これまで被爆者という言葉に触れたことのなかった私の子どもたちも、じっくりと時間をかけて見入っていました。

 

幸福や平和が日常とも思えるこのノルウェーで、あらためて平和であることの有難さを感じ、また、これを永続的に、また全世界的に継続するにはどうしたらよいかと考える展示になっています。

 

 

ノーベル平和センターで開催中の「A MESSAGE TO HUMANITY」展示作品(写真提供:ノーベル平和センター https://www.nobelpeacecenter.org/en)
ノーベル平和センターで開催中の「A MESSAGE TO HUMANITY」展示作品(写真提供:ノーベル平和センター https://www.nobelpeacecenter.org/en)

 

 

 

 

 最後になりますが、2025年はノルウェーと日本の国交樹立120周年となります。このようなタイミングで寄稿する機会を頂けたことに感謝いたします。

 

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