ヨハネスブルク/南アフリカ ~喧騒(けんそう)から静寂の町へ、そして……。~
黄金の町
2021年にヨハネスブルク市は135周年を迎えます。1886年、金の発見に伴い建設されたこの町は、「エゴーリ」(公用語の一つであるソト語で「黄金の町」)、「シティ・オブ・ゴールド」(英語で「黄金の都市」)、日常的には略称で「ジョーバーグ」とか「ジョジ」とも呼ばれています。ここ10年来、南アフリカは経済的苦境に陥っていますが、この町はいまだに南ア経済のエンジンであり、一攫千金を狙って人々が集まる場所でもあります。先進的な金融・法曹部門が整備され、アフリカ進出をもくろむ企業にとって重要な入り口になっています。
ロックダウン下のヨハネスブルク
商売と金儲けが活動の中心であるこの町は、これまで自然美への関心やアウトドアライフのたしなみとは無縁という印象でした。しかし、新型コロナウイルス感染拡大に伴うロックダウンに直面した住民の多くは新しいライフスタイルを志向し、この町が空間やアウトドアの面で提供できるものは何かを模索し始めたのです。
ヨハネスブルクの街路は治安の悪さで有名で、中産階級や富裕層の人々は徒歩で表に出ることはほとんどなく、可能な限り車で出かけます。ところが、ロックダウン開始直後、普段混み合っているスポーツジムが閉鎖され、屋外での運動も朝の6時から9時までに制限されたとたん、通りは散歩、ジョギング、サイクリングにいそしむ、あらゆる階級、人種の人々で埋め尽くされました。あれから1年、いまだに多くの人々が通りで運動しているのを見るとちょっとうれしくなります。
郊外のハイキング道やマウンテンバイク用道路でも「人流」の急増がみられました。アウトドア体験ができる場所を探してみると、自然保護区や公園など、多くの魅力ある場所が意外と近くにあることに筆者も驚きました。例えば会社の事務所から車で1時間圏内に「ライオン・サファリ・パーク」があり、動物を至近距離で観察できます。また、市から車で1~1.5時間のセイケールボスラント自然保護区やマハリースベルク山地にはすてきなハイキング道が多くあります。一般の会社員が通勤で1~2時間車に乗ることは珍しくないため、これらの場所には比較的容易に行けるのです。
バスや地下鉄など公共交通機関が未発達なのと自動車好きの国民性もあって、ヨハネスブルクは交通渋滞とタクシーのクラクションで悪名高い町でした。ところが、ロックダウンで町は突然かつ劇的に変わりました。厳重なロックダウン開始から1か月で、かつてない静寂が訪れ、騒音の主犯は自動車だったことを実感しました。ロックダウン初期の数か月間、ヨハネス市が属するハウテン州の交通量は約60%、さらに在宅勤務が可能な富裕層が住む郊外では約75%も交通量が減少しました。最近、交通量は再び増加していますが、まだ多くの人が在宅勤務中であることもあり、以前のレベルまでには戻っていません。
パンデミックから復興するヨハネスブルク
コロナ禍は、南ア経済に深刻な影響を与え、2020年は景気後退(前年比▲7.0%)をもたらし、貧困率(49.2%)や失業率(32.5%)も記録的な高さになりました。経済の回復は大きな挑戦です。しかし、この国、とりわけヨハネスブルクは、まだ潜在的な底力を信じる意識と未来への希望を持ち続けています。
南アの人口は堅調に増加し、都市部への人口流入も続いていることから、ヨハネスブルクのあるハウテン州は就業機会に恵まれています。ハウテン州の人口は約1,520万人(2019年)ですが、2050年までには2,200~2,500万人に増えると予測されています。これだけの人口増加を無理なく受け入れるべく町を整備することは自治体にとって大きな挑戦であり課題です。巨大なインフラ整備・公共交通開発プロジェクトが計画されており、大規模な公団住宅開発、旧中央ビジネス地区の再生、ランセリア・スマートシティ開発、ハウトレイン高速鉄道の延伸などが目白押しです。コロナ禍のためこれらプロジェクトの多くが一時停止や遅延を余儀なくされていますが、最近再開の動きも出てきました。
不確実だが希望に満ちた地平線
コロナ禍は、確かにこの町の雰囲気を一変させ、生活様式を再考する機会になりました。その結果表れた健康志向へのシフトは今後も続くことを期待する一方、多くの貧困層を抱えつつ拡大するこの町が「喧騒(けんそう)と混沌(こんとん)」ともいえる本来の姿を取り戻すには経済成長が必須と感じます。
総じて言えば、南ア政府は、ロックダウン前から既に困難に直面していた経済を再び成長軌道に乗せるという重責を負っています。政府が、意味ある改革を断行し、目に見える成長をもたらすことができれば、盤石な社会経済的基盤と増加する労働人口を抱えるヨハネスブルクは、南ア経済のキードライバーとして、回復への期待や未来への希望に応えることができるはずです。
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