マスカット/オマーン ~安定から変革へ、新たなステージに突入したオマーン~

2022年05月31日

住友商事株式会社 マスカット事務所
中村 圭

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歴史ある中東の国
 オマーンはアラビア半島の東側、インド洋に面しています。古くはアラビアンナイトの時代、冒険家のシンドバッドが現在のオマーンの首都マスカットを拠点に交易を展開したと言われています。大航海時代の16世紀にマスカットはポルトガルに占拠されましたが、17世紀にはオマーンが再びマスカットを奪還、さらに東アフリカに勢力を伸ばします。19世紀には英国に支配されましたが、1970年の宮廷革命により当時のカブース皇太子が父親である国王を追放し自ら国王に即位、それまでの鎖国政策を転換したことでオマーンの近代化が一気に進み、翌1971年には英国から独立しました。2020年にカブース国王が逝去しハイサム国王が王政を継承、現在に至ります。

 

 

温和な人柄、優しい国

夕暮れ時のオマーン湾(左);断崖絶壁の絶景にたたずむホテル(右)(共に筆者撮影)
夕暮れ時のオマーン湾(左);断崖絶壁の絶景にたたずむホテル(右)(共に筆者撮影)

 人口約470万人のうち、オマーン人は約280万人です(2022年5月現在)。その他は海外からの移住者でインド人、バングラデシュ人がその約8割を占め、日本人は100人程度しかいません。主な宗教はイスラム教ですが、多くの読者にはなじみの薄い「イバード派」で、現実主義と言われています。そのせいか、非常に温和で平和主義、政治的にも敵を作らない全方位外交を展開しており、内外で紛争が絶えない隣国イエメンと交易が継続されていることからも、そのことがうかがえると思います(イエメン産のフルーツは当地で結構人気があります)。また、家族、血縁を非常に大切にする国で、年上の人に対する尊敬の念も強く、古き良き日本を感じさせる側面もあります。以前王族が日本人女性と結婚した歴史もあり、親日国としても知られています。

 

 

豊かな自然を持つ国

山間のオアシス、ワディシャブ(左);サラサラの砂が心地よい砂漠(右)(共に筆者撮影)
山間のオアシス、ワディシャブ(左);サラサラの砂が心地よい砂漠(右)(共に筆者撮影)

 オマーンはインド洋に面する長い海岸線を有しています。シーズンにはウミガメの産卵・孵化(ふか)が毎日見られ、ドルフィンウォッチングは一年を通していつでも楽しめます。また、釣り、ダイビングなどのマリンスポーツも盛んです。
一方、2,000メートル級の山地もあり、その景観はグランドキャニオンに勝るとも劣らない絶景で、そこに至るまでに存在する「ワディ」と呼ばれる流水で出来た小峡谷も見逃せません。もちろん、美しい砂漠もあります。

 

 

住友商事の事業活動
 親日国オマーンでは、当社の事業活動も盛んです。まずは海水淡水化事業である「Muscat City Desalination Company 」(MCDC)です。実は前述のような「水がありオアシスとなっているワディ」はほんのわずかで(だからこそ観光名所になるのですが)、人口が集中している北部海岸線はほとんど雨が降らず(肌感覚としては雨の降る日が年間通して2~3週間あるかないかといったところ)、家庭用水は主に海水をくみ上げ塩分を除去して作られます。MCDCは首都マスカットのど真ん中、人気のある海浜公園に隣接しており、マスカット地区の人口約133万人(2022年2月現在)の6割に当たる80万人分の家庭用水の製造能力を保有しています。

マスカット市民の生活を支えるMCDC(海水淡水化プラント)(左);油井管の在庫ヤード(右)(共に筆者撮影)
マスカット市民の生活を支えるMCDC(海水淡水化プラント)(左);油井管の在庫ヤード(右)(共に筆者撮影)

 また、油井管のサプライチェーンマネジメントを手掛ける事業会社「SCチューブラー・ソリューションズ・オマーン」(SCTSO)もあります。いわゆるジャストインタイム方式で油田にパイプを供給する事業で、その在庫ヤードは"Duqm" (ドゥクム)という、オマーン政府が今最も開発に力を入れている港町にあります。同政府の強い要望により開発初期の段階でオマーン北部にあるSohar(ソハール)という港町からDuqmに移設したことで、政府からはその機能と共に大きな評価を受けています。また、社会貢献活動として当社独自の奨学金制度を継続中で、当社の当地でのプレゼンスは相当大きいと自負しています。

 

 

安定から変革へ舵を切ったオマーン
 財政赤字に悩まされているオマーンですが、2020年の国王交代を機に大きく変わりつつあります。まずはVAT(付加価値税)の導入です。加えて、酒・たばこなどの嗜好(しこう)品には100%の税金が掛けられるようになりました。エコの観点では、これまでスーパーマーケットなどでふんだんに使用されていた無償のレジ袋が有償となり、買い物にはバッグ持参がスタンダードになりました。

 中東諸国の中で石油の可採年数が短いオマーンでは、石油・ガス依存からの脱却、エネルギー転換の動きが加速しており、地の利を生かした太陽光や風力発電による超大型のグリーン水素、あるいはアンモニアの製造プロジェクトが次々に立ち上がろうとしています。
温和な人柄で、どちらかといえば変化を好まず安定志向が強いオマーン人が、コロナ禍で今大きく変わろうとしています。

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