カイロ/エジプト ~王家の文化を編む街~
中東・アフリカ
2023年04月26日
住友商事株式会社 カイロ事務所
西 英規
およそ4,500年前にピラミッドを完成させたエジプト。その文化をつなぐ現代のエジプトで今、開館に向けて最終段階に入っているのが、大エジプト博物館(The Grand Egyptian Museum)です。1902年開設の老朽化したタハリールのエジプト考古学博物館に代わる新しい博物館を建設することを目的としたこのプロジェクトに、2003年の小泉元首相の来埃以降、日本は約840億円の円借款での財政的な支援だけでなく、保存修復などの技術面、それに伴う人材育成などにおいても協力、支援してきました。
エジプト文明を展示する世界最大の博物館が所蔵する5,000点を超えるツタンカーメンの遺物の展示が、人々の好奇心をかき立てるに違いありません。
他にも進行中の大きなプロジェクトがあります。現在カイロの東方約45キロメートルの地に、新首都も建設しています。2015年3月のエジプト経済開発会議(Egypt Economic Development Conference)で公表された新首都建設構想は、2030年までに達成すべき目標として定めたエジプトの国家計画「エジプトビジョン2030(Egypt Vision 2030)」に組み込まれているプロジェクトです。現在、大統領府や政府関係の建物は外観を見る限りおおむね完成しているように見受けられます。そのほか、新首都とカイロ国際空港やカイロ圏を結ぶモノレールや高速鉄道も建設中です。
カイロ中心部から車で90分ほど走ると、砂漠の中に、高層ビルが並んだ街が急に出現します。新首都の玄関は、大きな建造物が侵入者を見下ろしているような、凱旋門を連想させますが、エジプト人に聞いても、その機能や意図は不明とのこと。その存在自体が面白い建築になっています。砂漠の中に巨大な都市が築かれる過程を見る経験はなかなかできないことです。ビジョン2030にうたわれている構想ではありますが、実は完成予定時期は公表されていません。しばらく定期的に見学して、楽しもうと思います。
エジプトが世界に誇る文化遺産で「建築と言ったら石」でできているものを発想しますが、「空気と鉄の建築」も遺されています。ナイル川に架かるインババ橋(Imbaba Bridge)は、住友商事カイロ事務所から見下ろす場所にある青い骨組みの美しい鉄橋で、エッフェル塔を設計したという、ギュスターヴ・エッフェルとかつて関係があったという会社が設計に携わったという説もあるようです。
英国から始まった産業革命が推し進めた「自然を克服する」「自然を従える」という方向性に反し、「自然に逆らわない」という方向性を示した建築になっています。時に強い砂嵐が吹くナイル川に架かる長さ275メートル程度のこの鉄橋は、これまでの石による面の建築に、鉄による線の建築という側面を追加し、機能を追求した骨組みの美学を実現しているように見えます。
幕末の1864(元治元)年江戸幕府の遣欧使節団以降、わが国の官民あげての様々な尽力により、エジプト政府関係者の日本国および日本企業への信頼は厚く、良い関係を築けています。2023年4月10日に、エジプトの投資・フリーゾーン庁(General Authority for Investment and Free Zones)の長官と面談した際にも、面談開始早々、長官は「エンジン全開」で、エジプト政府が掲げる6つの対象分野に関して熱弁をふるわれ、わが国への並々ならぬ期待があることを強調されておりました。
- エネルギー(Energy)
- 産業(Industry)①自動車 ②家電 ③医薬品・医療
- ヘルスケア(Healthcare)
- 教育(Education)
- 物流・輸送(Logistics & Transportation)
- 国家安全保障(National Security)①食品の安全 ②農業・干拓
エジプト日本商工会の会頭職と住友商事の二つの顔で、ひとつずつ丁寧にお応えしました。
エジプトの持っている課題を解決するために、同国政府と真摯に誠実に向きあい、互いに知恵を出し合って共に歩んでいく事が、エジプトと日本の二国間関係を一層深化させると信じています。日本の春の大型連休の期間に、岸田総理の来埃のニュースが舞い込んできました。両国にとって最善の準備とおもてなしを差し上げたいと考えています。
以上
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