ダルエスサラーム/タンザニア ~「ポレポレ」(のんびり・ゆったり)の豊かな国~

2025年02月05日

住友商事株式会社 ダルエスサラーム事務所
宮本 隆太郎

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 多くの方がアフリカと聞くと、インフレや通貨危機、民族紛争、飢餓、中国による債務の罠といった、ネガティブなイメージが先行しがちなのではないかと思いますが、実際にタンザニアを訪問してみると、イメージとのギャップに驚くかもしれません。

 比較的治安が良く、気候も温暖で、食べ物も豊富な、のんびりとした「ポレポレ」な時間が流れているタンザニアについてご紹介します。

 

 

「ウジャマー」(家族的連帯)政策

 かつての"アフリカ社会主義"が影響しているといわれている政策「ウジャマー」。初代ニエレレ大統領が、独立後の国家統一に際し、スワヒリ語で「家族的連帯」を意味するウジャマー政策を掲げ、農業の共同化や産業の国有化を進めました。

ニエレレ大統領の肖像:1,000タンザニア・シリング紙幣(写真提供・加工:筆者、SCGR)
ニエレレ大統領の肖像:1,000タンザニア・シリング紙幣(写真提供・加工:筆者、SCGR)

 経済危機に直面した1980年代に経済が自由化されましたが、そのような変化の最中でも、競争や争いを好まない国民性や共有の精神といった性質が根強く、その傾向は今でも色濃く残っています。

 タンザニアは120を超える民族がいる多民族国家ですが、民族間の関係も安定しています。宗教もキリスト教徒とイスラム教徒が約半分ずつですが、対立することなく共存しています。このような穏やかな国民性により治安が良いといわれる一方、社会主義的な性格が残る強い官僚主義は経済成長の阻害要因でもあると感じます。

 

 

豊富な食物

農業現場の視察と近所のスーパーの野菜売り場(筆者撮影)
農業現場の視察と近所のスーパーの野菜売り場(筆者撮影)

 日本の約2.5倍の国土を有し、労働人口の約7割が農業従事者、GDPの約3割を農業が占める*といわれており、各地でトウモロコシやトマトなどの野菜、バナナやマンゴーなどの果物も豊富に採れます。

 駐在する日本人にとってありがたいのが、当地の主食がコメであることです。その生産量はアフリカで第4位です。

 実際、タンザニアの食料自給率は100%を超えており、昔テレビで見た?典型的なアフリカの飢餓のイメージとはほど遠い印象です。

  *データ出所:タンザニア連合共和国 | 事業・プロジェクト - JICAより

 

国民の魂「コニャギ」(筆者撮影)
国民の魂「コニャギ」(筆者撮影)

 サトウキビから作られる蒸留酒「コニャギ」は"国民の魂"として親しまれ、首都ドドマ近郊ではワインも作られています。一説によると、アフリカでは南アフリカに次ぐワインの生産国とも言われています。私の定番は、海辺で夕日を見ながらのビールです。

 このように、自給自足の生活が可能なことが、タンザニアの「ポレポレ」精神のベースになっているのかなと感じます。

 とはいえ、現地生産の少ない品もあります。例えば乳製品や小麦、加工品などは、輸入に依存しており、値段も日本より高いです。

 

 

豊富な地下資源

ここでしか採れないタンザナイト(筆者撮影)
ここでしか採れないタンザナイト(筆者撮影)

 金、銅、ニッケル、ウラン、ダイヤモンド、タンザナイト、天然ガス、石炭……。まだまだ未開発ながら、さまざまな地下資源が豊富にあるといわれています。

 しかしながら、「地域のエネルギーハブとなる願い」を込めたLNG開発も「ポレポレ」とみられ、計画から15年ほど経過しています。現政権下での進展が期待されています。

 

 

 

「ハクナマタタ:Hakuna Matata」~心配ないさ

 のんびりした雰囲気がある一方で、将来的に1億人超が見込まれる人口の増加を踏まえ、いたるところで道路やビルの建設工事が進んでおり、途上国ならではの活気を感じることができます。工事も「ポレポレ」ですが、少しずつ、ゆっくりと発展し続けています。

タンザニアの雄大で豊かな自然(筆者撮影)
タンザニアの雄大で豊かな自然(筆者撮影)

 

 確実にゆったりと発展しているタンザニアですが、ビジネスでの時間感覚も「ポレポレ」なのは困った事態です。

 とはいえ、何事においても、「心配ないさ」(スワヒリ語で「ハクナマタタ:Hakuna Matata」。映画『ライオン・キング』の挿入歌で有名なフレーズ)の精神で乗り切っているようです。

 

 「ポレポレ」「ハクナマタタ」の精神や、建国以来の「アフリカ社会主義」の精神、これらが相まって、豊富なリソースや将来性を有していながらも歩みの遅いタンザニアを、せっかちな日本人はもどかしい思いで見ていることでしょう。

 しかしながら、数字の上では低中所得国・後発開発途上国で、物質的にはまだ貧しいものの、タンザニア人の方が精神的に豊かに生活を送られているように感じるのは私だけでしょうか。

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