ダルエスサラーム/タンザニア ~「ポレポレ」(のんびり・ゆったり)の豊かな国~
多くの方がアフリカと聞くと、インフレや通貨危機、民族紛争、飢餓、中国による債務の罠といった、ネガティブなイメージが先行しがちなのではないかと思いますが、実際にタンザニアを訪問してみると、イメージとのギャップに驚くかもしれません。
比較的治安が良く、気候も温暖で、食べ物も豊富な、のんびりとした「ポレポレ」な時間が流れているタンザニアについてご紹介します。
「ウジャマー」(家族的連帯)政策
かつての"アフリカ社会主義"が影響しているといわれている政策「ウジャマー」。初代ニエレレ大統領が、独立後の国家統一に際し、スワヒリ語で「家族的連帯」を意味するウジャマー政策を掲げ、農業の共同化や産業の国有化を進めました。
経済危機に直面した1980年代に経済が自由化されましたが、そのような変化の最中でも、競争や争いを好まない国民性や共有の精神といった性質が根強く、その傾向は今でも色濃く残っています。
タンザニアは120を超える民族がいる多民族国家ですが、民族間の関係も安定しています。宗教もキリスト教徒とイスラム教徒が約半分ずつですが、対立することなく共存しています。このような穏やかな国民性により治安が良いといわれる一方、社会主義的な性格が残る強い官僚主義は経済成長の阻害要因でもあると感じます。
豊富な食物
日本の約2.5倍の国土を有し、労働人口の約7割が農業従事者、GDPの約3割を農業が占める*といわれており、各地でトウモロコシやトマトなどの野菜、バナナやマンゴーなどの果物も豊富に採れます。
駐在する日本人にとってありがたいのが、当地の主食がコメであることです。その生産量はアフリカで第4位です。
実際、タンザニアの食料自給率は100%を超えており、昔テレビで見た?典型的なアフリカの飢餓のイメージとはほど遠い印象です。
*データ出所:タンザニア連合共和国 | 事業・プロジェクト - JICAより
サトウキビから作られる蒸留酒「コニャギ」は"国民の魂"として親しまれ、首都ドドマ近郊ではワインも作られています。一説によると、アフリカでは南アフリカに次ぐワインの生産国とも言われています。私の定番は、海辺で夕日を見ながらのビールです。
このように、自給自足の生活が可能なことが、タンザニアの「ポレポレ」精神のベースになっているのかなと感じます。
とはいえ、現地生産の少ない品もあります。例えば乳製品や小麦、加工品などは、輸入に依存しており、値段も日本より高いです。
豊富な地下資源
金、銅、ニッケル、ウラン、ダイヤモンド、タンザナイト、天然ガス、石炭……。まだまだ未開発ながら、さまざまな地下資源が豊富にあるといわれています。
しかしながら、「地域のエネルギーハブとなる願い」を込めたLNG開発も「ポレポレ」とみられ、計画から15年ほど経過しています。現政権下での進展が期待されています。
「ハクナマタタ:Hakuna Matata」~心配ないさ
のんびりした雰囲気がある一方で、将来的に1億人超が見込まれる人口の増加を踏まえ、いたるところで道路やビルの建設工事が進んでおり、途上国ならではの活気を感じることができます。工事も「ポレポレ」ですが、少しずつ、ゆっくりと発展し続けています。
確実にゆったりと発展しているタンザニアですが、ビジネスでの時間感覚も「ポレポレ」なのは困った事態です。
とはいえ、何事においても、「心配ないさ」(スワヒリ語で「ハクナマタタ:Hakuna Matata」。映画『ライオン・キング』の挿入歌で有名なフレーズ)の精神で乗り切っているようです。
「ポレポレ」「ハクナマタタ」の精神や、建国以来の「アフリカ社会主義」の精神、これらが相まって、豊富なリソースや将来性を有していながらも歩みの遅いタンザニアを、せっかちな日本人はもどかしい思いで見ていることでしょう。
しかしながら、数字の上では低中所得国・後発開発途上国で、物質的にはまだ貧しいものの、タンザニア人の方が精神的に豊かに生活を送られているように感じるのは私だけでしょうか。
記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。
SCGRランキング
- 2025年2月3日(月)
金融ファクシミリ新聞・GM版に、当社シニアエコノミスト 片白 恵理子が寄稿しました。 - 2025年1月31日(金)
『日本経済新聞』に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行のコメントが掲載されました。 - 2025年1月29日(水)
『日本経済新聞(夕刊)』に、米州住友商事会社ワシントン事務所長 吉村 亮太が寄稿しました。 - 2025年1月27日(月)
毎日新聞出版『週刊エコノミスト』2025年2月4日号に、米州住友商事会社ワシントン事務所長 吉村 亮太が寄稿しました。 - 2025年1月24日(金)
『読売中高生新聞』2025年1月24日号に、米州住友商事会社ワシントン事務所調査部長 渡辺 亮司の取材対応記事が掲載されました。