カルガリー/カナダ ~天然資源に恵まれた多様性の国家として~
カナダは、ロシアに次いで、世界で二番目に大きな面積(日本の約27倍)の国土を有し、10の州と3つの準州からなる連邦立憲君主国家(元首はエリザベス2世女王)で、英連邦加盟国でもあります。
また、国の成長のために積極的に移民を受け入れてきた国として知られ、2011年時点の人口は約3,290万人で、その内の約21%に当たる約678万人が外国で生まれた移民で、全人口に占める移民の割合は、G8諸国の中で最も高いとされています。2006年から2011年の間で約116万人がカナダに移民しており、その約60%が中東を含むアジアからの移民です(カナダ統計局2011年"National Household Survey")。これに次ぐのが1970年代まで移民の約80%弱を占めていた欧州からの移民で約14%、そしてアフリカ、中南米と続きます。国別にはフィリピンからの移民が全体の約13%と一番多く、それに次ぐのが中国(約11%)、インド(約10%)からの移民です。
ここカルガリーにおいても、同期間の移民の母国として一番多いのがフィリピン(約19%)で、続いてインド(約12%)、中国(約9%)です。確かに今病院にいくと10数年前に筆者がカルガリーに駐在していた時にはあまり見ることがなかったフィリピン系の看護師が多く、ショッピングモールや飲食店でも多くのフィリピン系の店員を見かけます。
• カルガリーでもラーメンがブームに
移民の増加と共に、食の国際化も進んでいます。最近、世界各地で幅広く日本食が受け入れられてきていますが、ここカルガリーでも昨今ご多分に漏れず、ラーメンの人気が非常に高くなっています。本格的なラーメン専門店も幾つかできており、中には自家製麺を提供するところもあり、昼食時には現地の人でにぎわっています。
• 石油・ガス価格の低迷の中で
カナダは、人口の約75%が米国との国境から200キロメートル以内に居住しており、広大な国土を有しているものの、人間が住みやすい地域は限定されているという特徴があります。そして、石油天然ガス、石炭、ウラニウムなどの豊富な天然資源の産出国として知られています。特にアルバータ州(日本の国土の約1.75倍)は、オイルサンドを中心とした石油資源の開発ブームにより、近年急速な発展を遂げており、州の人口も2000年の約300万人から2014年には約414万人に増加しました(アルバータ州推計)。
アルバータ州の2大都市は、州都のエドモントン(米国モンタナ州の国境から約1,035キロメートル)と州内の最大都市で石油産業の中心地であるカルガリー(米国モンタナ州の国境から約660キロメートル)で、いずれも人口110万人を超す大都市に成長しました。カナダ経済は、2008年の経済・金融危機の影響で2009年にマイナス成長を記録した後、2010年以降再びプラス成長に転じましたが、アルバータ州が牽引してきたといっても過言ではありません。
しかしながら、2014年9月からの原油価格の急激な下落により、状況は一変し、州政府の歳入も大きく落ち込みました。石油・ガス関連企業は、原油価格下落の対応策として、2015年の投資の大幅縮小を相次いで発表しました。その後も、関連サービス産業を含め、従業員のレイオフをする企業が多く出るなど、この数年とは違った経済環境に直面しており、試練の年をアルバータ州は迎えています。
そのような中、アルバータ州のジム・プレンティス首相(進歩保守党"Progressive Conservative")は、4月7日に州議会の解散を表明し、5月5日の総選挙を告示しました。赤字予算の上程を行った際に、現州政府は大幅な減収を少しでも補うために、タバコや酒への増税、交通違反に関する大幅な増額などを発表しました。まさに州民に対し、抜き打ち解散・総選挙で信を問う状況になりました。結果は、レイチェル・トーリー(女史)党首が率いる新民主党(New Democratic Party)が87議席の内、53議席の過半数を獲得し、ワイルドローズ党が21議席で野党第一党、44年弱政権を続けた進歩保守党は10議席で野党第二党となり、保守色がカナダで一番強いといわれたアルバータ州は、44年ぶりに政権政党が代わり中道左派政権が誕生しました。新民主党は公約として、企業税(Corporate Tax)を現在の10%から12%に引き上げて医療や教育の財源にすること、あるいは石油上流権益の鉱区使用料の見直しを検討することをあげており、石油産業などの企業にどのような影響が出てくるのか、今後の動きを注視する必要があります。
• 大自然の魅力
アルバータ州の西、ブリティッシュ・コロンビア州との州境には、カナディアン・ロッキーの雄大な山並みや美しい湖があり、そこにはバンフやジャスパーなど世界に名の知れたリゾートもありますが、カルガリーはその玄関口ともいえる都市です。毎年世界中から多くの観光客がバンフ方面を訪れており、経済動向に関わりなく、カナディアン・ロッキーの雄大な大自然が、いつも訪れる人を迎え入れ、魅了しています。
カナダドルが安くなっている昨今、割安感もあり、これから夏のシーズンに向けて、例年以上の観光客が今年も当地を訪れ、経済効果を上げてくれる事を期待している人も多く、やはりカナダ(特にアルバータ州)は、資源も含め大自然に支えられている国だと、個人的にあらためて感じています。
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