サンティアゴ/チリ ~ワインと鮭だけではない新チリ事情~
2018年09月18日
チリ住友商事会社
高木 洋一
地球の裏側にあるチリについて日本では何をイメージするでしょうか。一般的にはワインと鮭、あえて言えば銅鉱山くらいでしょうが、実際には南北4,300キロメートルにわたる同国の長さにも似て、語り尽くせぬほどの話題があり、9月のアンプエロ外務大臣訪日の機会を捉え、チリの現況をお伝えします。
2018年3月11日に中道右派会派「チレ・バモス」のピニェラ第2期政権発足後、9月11日で半年が経過しました。チリで9月11日といえば1973年のピノチェト将軍らによる軍事クーデターの日です。世界を震撼させたあの日から45年、チリはいかなる変化を遂げたのでしょうか。現在のチリには、アジェンデ社会主義政権や16年半続いたピノチェト軍事政権の名残はわずかで、クーデターで空爆された大統領官邸モネダ宮殿は修復され美しいたたずまいを見せています。サンティアゴ首都圏州の新市街ラス・コンデス区の現代的ビル群は欧米の街並みのようです。
チリは軍政時も民政化後も経済開放政策を維持し、64か国とFTA・EPA等の通商協定を締結、締結国との貿易額が全貿易額の9割を超えるFTA先進国で、2010年に南米で初めてOECD(経済協力開発機構)に加盟しました。太平洋同盟を重視し、TPP11(米国を除く環太平洋経済連携協定に参加11か国の新協定)で重要な役割を果たした他、2019年はAPEC(アジア太平洋経済協力)の議長国で、人口約1,800万人の小国ながら国際政治にも貢献しています。実業家出身のピニェラ大統領は、2025年までにチリを貧困・格差のない先進国にする目標を掲げ、①児童、②市民の安全、③全国民の健康・保健、④アラウカニアでの平和(先住民マプチェ族との民族問題)、⑤発展達成および貧困撲滅のための5つの合意に取り組んでいます。行政面では税制・労働・教育・医療の制度改革や新技術の活用、経済面では投資促進による景気回復・雇用拡大を目指しており、財界の厚い信任を得ています。一方、大統領支持率は8月に48%と足踏み状態で、少数与党政権故に、拡大中の財政赤字(2018年予想対GDP比23.1%)への対応を含め主要課題での国民的合意の形成と着実な改革の実行が求められています。
チリ経済は、古くは硝石、現在では世界最大の生産量を誇る銅、世界2位のリチウムなどの鉱物資源を生かし、日系企業を含む外資も取り込みつつ鉱業を発展させてきました。また、JICA(国際協力機構)の支援もきっかけとして南半球に存在しなかった鮭の養殖事業を世界2位に育て、回転寿司でおなじみのウニや特定の果実・野菜、ワイン、木材チップなどを世界的輸出品に押し上げ、農林水産分野でも優れたビジネス創出力を発揮してきました。コンセッション方式への先進的取り組み、アンデス諸国でのハブの役割も強みであり、これらの特長を生かした外資による投資、提携も数多くあります。
経済発展を支えるチリの国民性は独特です。南米とはいえ、東はアンデス山脈、西は太平洋、南北は過酷な気候のパタゴニアとアタカマ砂漠に囲まれた島国のような国土で、欧州系植民者が数世紀にわたる先住民との戦いを経て、独自の国民性を生んだと言われています。激動の半世紀を経て政治・経済が安定し、南米トップクラスの経済成長(2018年予想GDP成長率4.0~4.5%)を実現してきたのは、粘り強い国民性によるところが大きいでしょう。イースター島や大自然が残る南北地域、雄大なスキー場などの魅力的な観光資源、治安の良さも経済面で重要です。現在、順調とはいえない南米の中で、ピニェラ政権が改革を着実に実行し成果を上げて範を示すことが望まれています。
2017年のチリの対日貿易額は86億ドルで増加傾向ですが、日本の貿易総額におけるチリの比重は0.6%と拡大の余地があり、両国のさらなる関係拡大のポテンシャルは高いと言えるでしょう。東京-サンティアゴ間の距離は約1万7,200キロメートルで、欧米、豪州どこを経由しても所要時間に大差なく、多くの出張先から立ち寄り可能ともいえます。百聞は一見にしかず、一度訪問して、さらなる発展を目指すチリとのビジネスを中長期的視点で考えてみてはいかがでしょうか。
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