コモディティ・レポート 2017年6月号 ~過剰期待がリセットされる~

コモディティ・レポート

2017年06月08日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

 

経済部 シニアアナリスト 鈴木 直美
経済部 シニアアナリスト 舘 美公子

 

 

 5月も商品相場は上値の重い推移が続いた。フランス大統領選で中道系マクロン氏が当選した安堵感によるユーロ買い・ドル売りに加え、「ロシアゲート」を巡るトランプ米大統領への信認低下がドル売りを加速させ、5月末のドル指数は96と2016年11月の米大統領選前の水準まで下落した。ただ、ドル安も商品市場の支援材料とならず、ガソリン・アルミなど一部商品を除き前月比マイナスに沈んだ。米トランプ政権発足後の公約実現期待の剥落、中国の金融引き締めで商品需要拡大に対する過剰期待は後退しており、需給改善の遅れが投資家の商品への投資意欲を削いでいる。一方、株式市場ではトランプ相場初期に選好された金融株やインフラ関連株から好決算銘柄へと人気が移っており、特にハイテク企業のFAANG銘柄(Facebook、Amazon、Alphabet、Netflix、Google)に資金が集中している。

 

 

 商品市場では、過剰気味だった投機筋のロングポジションが大分整理されてきたことは今後の見通しには明るい材料といえる。特に原油や銅については、需給均衡の途上にあるなか、年初に投機筋が期待先行買いを行ったため、実態以上に価格が上昇し相場を歪めていた。だが、4~5月にかけWTI原油先物の投機筋のネット買い残高は2月のピーク時から53%縮小、ブレントは同35%減、銅は1月末のピーク時から50%縮小。今後、過剰在庫が順調に解消されれば自律的な価格上昇を誘発しやすい地合いとなっている。農産品は、他の商品と異なりネット売り残高が大きく積みあがっている。特にトウモロコシや大豆の生育期は、通常天候リスクを考慮してロングポジションを仕込んでいく時期にあたるが、現在両商品ともに大幅な売り越しにあり、今後天候懸念が生じたときに反動高となる余地が大きい。

 

 

 原油市場では、注目のOPEC総会が5月25日に開催され、9か月間の減産延長で合意した。非加盟国も含めた24か国が2016年末に続き合意に至ったことは歴史的とも言えるが、総会前に合意内容が明らかになったことや、サウジアラビアの掲げた減産の達成基準が高かったことで市場は慎重姿勢となり、原油価格は伸び悩んでいる。今後の価格回復の鍵は、世界石油在庫(特にOECD在庫)が着実に減少していくことであり、石油需要の伸びが最も高い夏場の需要動向に注目が集まる。なお、6月1日にトランプ米大統領がパリ協定からの離脱を発表したことは、短期的なエネルギー価格には影響を及ぼさないものの、世界的な温暖化への取り組みを阻害する要因となり得、長期的なエネルギー需給見通しへの不透明性を高める結果となった。

 

 

 非鉄市場では、中国需要への懸念が再燃した。原油同様、過剰在庫の削減状況など需給改善の証左を求める傾向が強まっており、ニッケルおよび鉄鉱石は在庫が多いうえに供給が増えるとの見通しを受け、値を大きく下げた。農産品市場では、ブラジルの政局混乱の影響を受け同国の生産割合の高い大豆・砂糖・コーヒーが大きく下落。発端は、テメル大統領に汚職関与疑惑が浮上したことでレアルが急落し、ブラジル産作物の輸出増に繋がるとみられたことが主因となっている。

 

 

 市場では、オランダ・フランス・イラン大統領選挙など、世界は2017年の主なリスク要因を無事消化し、年後半は目立ったリスクがないとする意見も出始めている。だが、過去1か月だけ見ても、ブラジルで突如テメル大統領の汚職問題が浮上したことや、中東主要国によるカタールとの断交宣言など予想だにしない事態が発生している。商品市場は基本的にはこうしたイベントを横目で眺めつつ、過剰期待がリセットされた環境下で需給改善に励み、価格上昇のきっかけを探ることになろう。

 

 

CRB指数 vs. ドル指数(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

WTI先物における投機筋のポジション(出所:CFTCより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◆原油(ドル/バレル)

 

 5月のOPEC総会で決定された9か月間の減産延長決定に新鮮味がないとして、WTI価格は48ドル/バレルに下落したが、今後原油在庫が順調な減少を続ければ、50ドル台への回復も狙える。米製油所の原油処理量は過去最高水準で推移しており、原油在庫日数ベースではすでに2016年を下回ってきた。ただ、市場の注目が集まっている分、想定よりガソリン需要の伸びが鈍い、原油在庫減少ペースが遅い場合は、市場の失望を誘いやすく、これまでの推移を見ても50ドル台定着は容易ではない。

 

原油(ドル/バレル)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◆金(ドル/トロイオンス)

 

 FRBが6月に利上げに踏み切る可能性は依然として高いが、米トランプ政権を巡る混乱や足元の米国経済指標の弱含みを受け、継続的な利上げやドル高の見通しは後退。金は1,300ドル台突入の可能性も出てきた。ただ相場上昇は投機主導。WGCが発表した2017年1-3月期の現物金需要は前年比18%減と低調で、インドでは7月に全国統一のGST導入で多くの州では金に対する税率引き上げとなるため需要先行きに懸念がある。大台定着までにはなお一進一退が予想される。

 

金(ドル/トロイオンス)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◆亜鉛(ドル/トン)

 

 2016年に亜鉛価格が60%上昇した局面では、鉱山閉山や設備投資不足による「構造的供給不足」がテーマとなったが、価格高騰で増産の動きが相次いだことで、注目は「需給緩和のタイミング」へと移った。Glencoreは現時点で減産解除の意向を示しておらず、中国では環境規制が増産の制約になるも、精鉱需給はやや改善、18年にかけ更に緩和が見込まれる。このため、これまでの精鉱需給引き締まりが地金供給減少に繋がるかが焦点。中国の輸入増加や取引所在庫減少を受け供給タイト化への警戒はみられるが、世界在庫は潤沢。視点が「構造的」から「短中期」にシフトしたことで、持続的な価格上昇にはなりにくい。

 

亜鉛(ドル/トン)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 

◆大豆(セント/ブッシェル)

 

 米国の天候に特段の問題がなければ、輸出需要の鈍化懸念や米国・南米の潤沢な供給が意識され、下値を探る展開を予想する。過去最高の米国作付け見通しを受けてもこれまで大豆価格が950セント台後半を維持できた要因のひとつに、前年比20%増で推移してきた中国の旺盛な大豆輸入需要があった。だが、中国では大豆粕/大豆油の需要鈍化・在庫積み上がりを受け、大豆製品価格が下落、大豆圧搾マージンも大きく縮小している。こうした事態を受け、中国の大豆圧砕業者は大豆輸入のキャンセル・船積時期の延期に動いているとされ、今後大豆輸入の勢いは鈍化するとみられる。

 

大豆(セント/ブッシェル)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◆主要商品年初来騰落率(%)

 

主要商品年初来騰落率(%)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

◆セクター別年初来推移[S&P GSCI]

 

セクター別年初来推移[S&P GSCI](出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

以上

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