コモディティ・レポート 2017年7月・8月合併号 ~まだ回復の足がかり見えず~
2017年07月18日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美
経済部 シニアアナリスト 鈴木 直美
経済部 シニアアナリスト 舘 美公子
2017年上期の国際商品市況は、OPECの減産期待とトランプ政権に対する政策期待から年初こそ活気があったが、その後は徐々に期待が剥落し低調な推移となった。特に原油は、OPECが減産を順守しても需給改善のペースが緩慢なことに市場が痺れを切らし、ブレント原油価格は年初比16%安に沈んだ。金は地政学的・政治リスクが買い材料視される場面はあったが、米国の利上げ継続姿勢が上値を圧迫した。非鉄は、原油に比べると供給制約への懸念が相対的に大きかったが、中国のデレバレッジ策が需要面での不安材料となった。唯一、堅調だったのは畜産で、S&P GSCI畜産指数は年初来12.5%高とセクター別で最大の上昇幅を記録。ブラジルの食肉不正問題や新興国の需要増で米国の牛・豚肉輸出が堅調だったことが価格上昇に貢献した。S&P GSCI、BCOMなど主要商品指数は年初来マイナスになるなど、相対的に弱い商品市場への投資意欲は高まらず、投資資金は株式市場や債券市場を選好、特に株式市場は先進国・新興国株ともに幅広く買われ、露MICEXを除き主要国株指数は軒並み年初来プラスとなった。
下期も天候要因を除けば、商品市場における需給変化は大きくなさそうだ。NOAA(米海洋大気局)によると2017年上期の全米平均気温は、1895年以降の観測史上で2番目の暑さだったという。7月も平年を上回る気温予報が出ており、重要な生育を迎えるトウモロコシ・大豆価格は足元でにわかに活況を呈している。米国では3年豊作続きで農産品在庫が潤沢なため、多少の天候悪化による単収・生産減は吸収可能だが、7~8月の天候が今後の価格の方向性を決定づけよう。
非鉄や鉄鋼需要の喚起に繋がると期待されたトランプ政権の財政出動はいよいよ雲行きが怪しくなっている。IMFも6月末に公表した米国経済に関する年次審査報告書で、減税やインフラ投資による経済成長押し上げ効果を前提から外し、2017年の経済成長率を2.3%から2.1%、2018年についても2.5%から2.1%に下方修正した。こうしたなか、国内政策の手詰まり感を外交や通商政策で打開しようと、諸外国の対立を煽ることや、保護主義に走ることがリスクとして警戒される。一方、商品市場における重要な需要牽引役である中国でも、5年に一度開催される大イベント共産党大会を秋に控え、経済の安定が最優先であるため、商品市場における上昇要因になるとは想定し難い。
金融市場では、金融危機の発端となった2007年のサブプライム問題から10年が経過し、金融緩和一辺倒だった潮目が変わってきた。6月に入ってから米FRBに続き、欧州中銀・カナダ中銀・英国中銀など、相次ぎ金融緩和政策の出口戦略を模索し始めている。各国中銀を引き締めへと駆り立てているのは、緩和によって生じた弊害への危機意識だ。10年近くにわたる金融緩和策で、世界の債務は足元で過去最高の217兆ドル(国際金融協会)まで膨れ上がり、政策当局者は経済が安定しているうちに将来の金融不安の芽を摘む必要性を共有している。金融引き締めの時期、度合についてはいまだ不透明だが、こうした方向性は商品市場にとっては好ましいものではない。大規模な金融緩和によって、商品市場にも多額の資金が流入してきた経緯を踏まえれば、ただでさえ冴えない商品市場から投資資金が流出することは痛手となるからだ。以上を踏まえると、下期の商品市場は引き続き需給改善を主要課題としつつ、金融政策の行方や実体経済の状況を材料に方向性を探る展開になりそうだ。
◆原油(ドル/バレル)
6月の原油相場では、供給過剰の悪化が意識されWTI原油価格は42.05ドル/バレルとOPEC減産合意決定前の2016年11月の水準まで下落した。原油需要は決して悪くないことから、OPECの供給動向が今後の価格の方向性を左右する見込み。特に夏場の冷房需要でOPEC各国の国内原油消費が増えるなか生産枠を順守できるのか、また生産量の回復が続くリビアやナイジェリアが生産上限を受け入れる準備があるのかなどが注目される。シェール生産動向については、原油価格が50ドル以下で推移するなか、原油掘削リグ数の増加ペースが鈍化し始めている。
◆金(ドル/トロイオンス)
金は1,300ドル突破に二度失敗しチャートが相場下落を示唆する中、世界的な金利上昇という強い逆風を受けて調整安に。イエレンFRB議長の任期満了が2018年2月に迫る米国では金融正常化を進める意向は強く、また米国外でも資産バブルが潜在的な金融リスクと認識され出口模索の段階に入りつつあるが、世界的に低インフレで大幅かつ急激な利上げも見込めず、押し目は拾われている。当面、1,200~1,300ドルレンジを予想。インドでは7月GST導入を前に駆け込み需要がみられたが下期反動減、長期的には需要に追い風との見方。
◆ニッケル(ドル/トン)
世界供給の約3割を占めるインドネシア・フィリピンの政策変更で供給不安は後退。過剰在庫の削減を促進する低価格帯へと水準を切り下げている。1ポンド4ドル前後の水準では世界のニッケル鉱山の4割が赤字操業だとされ、最大手の一角Valeが低価格を理由にニューカレドニアなどでニッケル事業の見直しを発表。インドネシアの13の製錬所で生産調整の報道もあった。需要に強さはないものの中国鋼材価格上昇を受けたステンレス市況改善や電池需要期待もあり、相場の底入れ感は強まりつつある。
◆トウモロコシ(セント/ブッシェル)
2017年は作付遅延や乾燥天候による生育遅れでトウモロコシの受粉期は7月末から8月初旬と夏場の最も暑い時期に重なるとみられ、米農務省の予想する単収170bu/acreを下回る可能性が高い。単収が165bu/acreまでであれば、2017/18年度の期末在庫率は12.8%と逼迫感はなく、価格も380~400セント前半で推移する見込み。一方、160bu/acreを下回る単収となれば、期末在庫率は10%割れになるため、トウモロコシ価格も450セントを上回るとみられる。
◆主要商品年初来騰落率(%)
◆セクター別年初来推移[S&P GSCI]
以上
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