コモディティ・レポート 2017年11月号 ~好景気と過剰流動性に支えられるマーケット~
2017年11月02日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美
経済部 シニアアナリスト 鈴木 直美
経済部 シニアアナリスト 舘 美公子
10月の金融市場は、世界的な経済の好調さが鮮明になるなか、日米欧の金融政策の変化が緩やかで過剰流動市場が続くとの期待も重なり、楽観的なムードに支配された。IMFは世界経済成長率見通しを2017年、2018年ともに0.1ポイントずつ上方修正、2017年は7年ぶりにG20全ての国・地域でプラス成長が見込まれる。企業業績も好調ななか、資金は株式市場に流れ込み世界同時株高を演出、10月の世界株式市場の時価総額は90兆ドルと過去最高を更新した。引き続き物価停滞や過大債務が金融市場のリスクとして共有されるが、市場は取り敢えず悪材料に目をつむる状況が続いている。米ドルは、次期FRB議長人事を巡る憶測に左右されたものの、米国以外の国での政治リスク台頭で他通貨が売られたこともあり、9月安値から上昇を続けている。
国際商品市場は、ドル高基調にも関わらず、世界経済の成長や需給リバランスを受け原油や非鉄金属は堅調に推移、金はリスク選好姿勢から圧迫された。堅調な世界経済から需要はどの商品も堅調ななか、価格に差をつけているのが供給サイドの動向。原油はOPECの協調減産、非鉄は中国政府のサプライサイド改革・環境政策などが需給リバランスに拍車をかけているのに対し、穀物・油糧種子は天候懸念すらなく世界各地で豊作が見込まれ、需給改善ペースが緩慢にならざるを得ない。原油価格は、サウジアラビア・ロシアが減産延長を支持したことも価格上昇の弾みとなり、ブレント価格は2015年以来となる60ドルをつけた。石油市場の中央銀行とされるOPEC/サウジが、減産終了後の出口戦略にまで触れる抜かりなさを見せたことも、市場センチメントの改善に一役買っている。LME銅価格も2014年以来となる7,000ドルをつけ、原油同様、生産サイドのコストインフレや新規投資の話題が上るようになっている点も、市場が需給リバランスに自信を深めている証と言えよう。
中国共産党大会では、習近平国家主席が示す中国の今後の姿からエネルギーや工業金属の需給を占おうと市場の注目が集まったが、ネガティブな材料は特に見受けられなかった。党規約に「サプライサイド改革」が追加されたことは、鉄鋼・石炭・アルミセクターを中心に進めている過剰生産能力の削減が継続されることを意味する。また、環境政策強化も再確認され、電気自動車の普及に伴うバッテリーメタルの需要増、再エネ・天然ガス需要増加の流れが維持される見通し。秋季大気汚染総合対策強化プログラムでは、鉄鋼・アルミ減産だけでなく、爆発物使用制限、アルミナや炭素原料の減産にも及び、商品によって生産コスト増や需要減など様々な形で影響を及ぼしている。最後に、党大会では経済成長率の目標達成を追求してきた高速成長から高質成長に移行することも確認されたが、党規約に「一帯一路」推進が盛り込まれたこと、安定とサステイナビリティの達成も追求すると表明したことで、急速な景気減速の可能性は後退している。
中国共産党大会も乗り切った市場は、年末にかけ多少の調整リスクはあるものの、悲観が和らいだ状態で新たな年を迎えられそうだ。こうしたムードを織り込み、金融機関各社による2018年の商品価格見通しも相次ぎ上方修正されている。商品市場では、11月末に控えるOPEC総会が注目イベントであり、市場の予想通り減産延長が決定されれば、市場関係者は価格回復に向けさらに自信を深めるだろう。
◆原油(ドル/バレル)
10月の原油相場は、需要が堅調なことに加え、地政学的リスクやOPECの減産延長期待が上昇の弾みとなり、ブレント価格は61.41ドルと年初来高値を更新した。11月は月末のOPEC総会が最大の注目材料であり、それまで相場が大きく動く可能性は低い。減産延長が決定されれば、60ドル台で越年する見込み。減産延長の決定が2018年度に持ち越されれば、多少の失望売りは出ても需給環境が前回の総会から大きく改善しているため、相場がパニックに陥ることはないと考える。
◆金(ドル/トロイオンス)
10月は前月の約100ドルの下げに対し反発を試みるも1,300ドルの大台付近では伸び悩んだ。米国のバランスシート縮小開始や12月利上げは織り込み済みと捉えられ、次期FRB議長人事や税制改革の行方に一喜一憂している。市場は2018年3度の利上げを懐疑的にみており、FRB新体制が政策に影響を及ぼすか注目される。EV・IoT等をはやした株高・仮想通貨台頭も金相場膠着感の一因。年次業界会合でも金の相場動向や需給より、ビットコインやブロックチェーンなどが主要議題に。
◆ニッケル(ドル/トン)
EVブームでセンチメントは劇的に好転。現段階ではEV化進展によるニッケル追加需要は限定的で、在庫水準も高いが、数量以上にニッケルの形状・品種の需給ミスマッチが問題となる。中国のニッケル最大手は生産の一部を硫酸ニッケルにシフト、ロシアの供給量減少もあり、上海先物の受渡供用品であるフルプレートが品薄。他方、LiB正極材原料に適した高純度ニッケルのブリケット在庫は潤沢だが、従来の増産案件がステンレス向けフェロニッケル・NPI中心だったため、中長期的な需要増に対応するには新規増産開発投資を促す価格水準が必要になる。
◆トウモロコシ(セント/ブッシェル)
潤沢な在庫が重石となっているトウモロコシ相場は、大豆以上に生産サイドでの見通しに変更が加えられない限り引き続き膠着状態が続く見込み。米国でのトウモロコシ収穫遅延による単収見通しの変更が指摘されているが、10月末時点の収穫進捗率は54%と低いため、11月上旬の需給報告では市場に影響を与えるような修正は実施されない可能性が高い。
◆主要商品年初来騰落率
◆CRB指数 vs. ドル指数
以上
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