中東
2023年11月28日
住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之
10月7日にハマスがイスラエルを急襲して始まった今回の戦争。1か月半以上が経過して、双方に多くの犠牲者が出ていますが、ようやく人質の一部解放と4日間の戦闘停止という新しい段階に進みました。内政のごたごたに気を取られていたのか、諜報機関の機能不全だったのか、当初、不意打ちを食らった形になったイスラエルは、ハマスの殲滅(せんめつ)を目指していますし、ハマスはイスラエルの殲滅を目指しています。この新しい段階がどのように終結に向かうのか予断を許しません。エスカレーションへの懸念もある中、わずかな救いは、米国との間で本格的に事を構えたくないイランが、ヒズボラなどを通じてさらに戦闘を激化させる可能性は低いという見方があることです。
ここ数年、エネルギーの自立を達成した米国が中東産油国への関心を弱め、関与の度合いを大幅に下げたことで、中東諸国は、自律的な安全の確保を目指して相互の敵対的関係を解消する方向に動きました。サウジ、UAE、トルコ、カタールなどが相互に関係を回復。次いで中国の仲介という形でサウジとイランが国交を回復し、さらにはサウジとイスラエルが関係を改善する可能性が取りざたされるようになりました。アラブとイスラエルの関係正常化が進展する中で不満を募らせ、機をうかがっていたパレスチナのハマスが「そうはさせじ」と行動を起こした、というのがこれまでの大まかな流れです。この戦争とそれへの諸外国の対応を見つつ、アラブ諸国はパレスチナ寄りの姿勢を明確にしました。ユダヤ人、アラブ人、ペルシャ人、パレスチナ人という微妙な関係性の一部が変化することで、どこかが置き去りにされそうになると、強烈な反作用があり、一部の関係改善に向けた変化も、そのスピードを減速させざるを得なくなったということでしょう。また、帝国主義時代のイギリスの行動が招いた対立の火種、ウクライナ戦争への対応と比較した米国のダブルスタンダード、イスラエルとパレスチナをめぐるEU内での姿勢の大きな違い・分断も今回のことで改めてクローズアップされました。
長い歴史の中で形作られてきた、複数の民族、宗教間の対立、それにイギリス、EU、米国、中国、ロシアなどがそれぞれの思惑でその時々で関与することで、さらに関係が複雑化し、からまった糸は決して簡単にはほどけません。そんな中で争いが生じ、戦いを通じて多くの犠牲者が出る。何とも痛ましいことです。早期の戦闘の終結には、特にイスラエルの自制が必要になるでしょうが、よく練られた妥協案を通じてそれが実現することを期待するとともに、多くの犠牲を何らかの教訓としてこれからに生かしていきたいものです。
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