受け手目線
与党が過半数割れとなった総選挙。選挙の最大の争点は、政治とカネの問題だったと言われています。海外の選挙では、国の行く末や足元の経済情勢など、より生活や未来に差し迫ったイシューが大きく取り上げられることと比較しても、また、国民の実感からしても、ほんとに政治とカネの問題を問うための選挙を行うのだろうか、と思った人も少なくないかもしれません。ただ、実際の選挙では、確かに政党の主張の違いとしてその点は顕著だったし、そこが争点だとメディアが強調し、さらには野党も、それを繰り返しアピールする状況で、多くの国民が政治とカネの問題を重視する結果になったというのは事実でしょう。実際に出口調査でも政治とカネの問題を投票先の選択において考慮したという人が7割を超えたようです。そんな中で、与党の大敗を決定的にする潮目の変化となったと言われているのが、選挙終盤の「自民党が非公認の候補に2,000万円を配った」という報道。この報道に対して石破首相は、選挙中に使うものではなく、誤報だと強く反論。その姿も、与党離れに拍車をかけたように思えます。
今回の選挙、野党が選挙協力をする十分な時間を与えないことを狙ったのか、首班指名から間もない解散となり、多くの選挙区で野党候補が乱立。それが逆風とはいえ、大きくは負けないのではとの期待を与党に抱かせたのかもしれません。そんな中で、本来「政治とカネ」の問題へのけじめとして非公認としたはずの候補者に2,000万円が配られる。使い道はどうあれ、それは、その情報の受け手である選挙民の感覚とずれていたことは間違いないでしょう。さらに、「党の内規に沿ったもので」という説明もあり、そういう内規を変えない自民党は変わっていない、変われない、という印象を受け手が持っても不思議ではありません。いずれも、政治とカネが争点ですよ、という空気の中にいる受け手の目線からしたら容認できない言動だったということです。それが野党候補への投票を増やし、また呆れたか、しらけたかして投票に行かない人を増やして投票率は前回よりも低下しました。
受け手である有権者の目線と、争点とされていたことに関する認識を与党がしっかり持っていれば、違う行動、違う発言になり、違う結果になっていたのでしょう。政治というのは、リーダーというのは、そういう点の感度が優れていないと大失敗することを、今回の選挙は見せつけました。過去を振り返ると、小泉総理はそういう能力に極めて長けていたように思います。何も政治だけの問題ではありません。何事を成すにおいても、受け手が今何に関心があるかを見極め、その目線に立つ、それを踏まえて行動し、理解されるように伝えていくということが、円滑に物事を進め、人々を動かし、目標を達成していく近道なのだと改めて痛感しました。
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