転換点

2024年12月19日

住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之

 

 

 このところだいぶ寒くなって、来年の見通しを語る時期になりました。昨年の今頃、2024年は「転換点」の年となる、と話をさせていただき、実際に世界の国々が大きな転機を迎えました。年末恒例の「見通しセミナー」のため、12月3日の段階で資料をまとめ、では2025年は、と話をしようと思ったのですが、「転換」はまだまだ終わりませんでした。

 

 まず韓国では、野党がさまざまな立法などに反対し、政府予算案に大幅減額修正を行ったことなどに業を煮やしたのか、尹大統領が3日夜に突如、戒厳令を発出。国会での否決により翌朝には戒厳令が無効とされるという事態に陥り、10日ほど経過した12月14日に、韓国の国会が尹大統領の弾劾案を可決しました。与党からは14人が造反したとみられます。大統領は職務停止となり、裁判で弾劾が有効とされれば、新たな大統領選びに移行します。直前の週末まで経済同友会のミッションで韓国を訪問し、尹大統領の下で日韓の協力関係をさらに深め、高齢化先進国同士、強みを生かして世界に先駆けたソリューションを見出していきましょうと韓国の産業界の皆さんと盛り上がったばかりだっただけにショックでした。

 

 一方で、同じ週の後半の12月6日には、南米のメルコスールとEUのFTAの交渉が合意に至りました。2000年の交渉開始から実に24年、実質合意した2019年から数えても5年の期間が経過していた中、急に合意が成立したことはよいサプライズでした。ブラッセル勤務で日本とEUのEPA交渉の開始に向けて苦戦していた時に、TPP交渉が先行しかけたタイミングで急にEUがEPA交渉開始に舵を切ったことを思い出しました。ただ、特にフランスが反対しており、批准に必要な賛成(27か国中15か国、人口の65%以上)が得られるかどうか、なお予断を許さない状況です。

 

 さらなる転換はまだ終わらず、12月8日には、シリアのアサド政権が崩壊し、アサド氏はモスクワに亡命しました。アサド政権を通じてヒズボラを支援していたイランにとっても、アサド政権を軍事的に支えてきたロシアにとっても、大きな出来事です。難民を警戒するトルコ、欧州、周辺の中東諸国にとっても、ロシア軍が軍事政権のバックになっているアフリカ諸国の安定にとっても、流動的な要素が増えました。さらに、12月11日には、トルコの仲介で、紛争を続けていたエチオピアとソマリアの間の平和と協力に関する宣言が発出されました。こちらも急な展開でしたが、少しほっとしました。

 

 見通しセミナーの資料もその都度リバイスしていますが、最後の最後まで、ちょっと転換しすぎだろう、と感じます。まだ何があるかわかりませんが、良いクリスマスと新年をお迎えください。

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