ほんとのAIリスク?
どんどん進歩していくAI。昨年後半からさらに大きな変化が起きているように感じます。つい最近までシンギュラリティの実現は2045年と言われていましたが、今や汎用人工知能(Artificial General Intelligence:AGI)が10年以内に実現すると言われるようになりました。一部では、数年以内にそれが実現し、さらには10年以内にはそれを超える超知能(Superintelligence)の時代になるとの予測も聞かれます。おなじみユーラシアグループの今年の10大リスクの中では、8番目に「制御不能なAI」が出てきますが、日本がとても好きな私としては、AGIの実現が近づくと聞いて、少し違う角度からAIリスクを考えるようになりました。それは、日本的な価値観がAGIの時代に生き残れるのか、ということです。これまでのようにAIが計算や検索、整理をしてくれるということであれば、自分の考え方を明確に持って、AIが提供するものを便利に使いこなしている限り、あまり不安はありません。しかし、AGIが普及して、ビジネスや政策の判断、あるいはそのサポートをするようになると、AIが提供する判断が常識、あるいは唯一の正解のように捉えかねられません。昨年の世界中の選挙でSNSが猛威を振るったことを考えると、AIの判断に人の判断が左右される可能性が高いことは容易に想像されます。
AIが提供する判断は、結局のところ過去の膨大なデータに基づいたものであることを考えると、欧米あるいは中国のデータや前例を「教師」としたものになるのではないか。日本のケースについてのデータがマジョリティになることは考えにくいので、日本らしい知恵や価値観に根差した判断が、AI主導の時代の中で世界において埋もれてしまう。さらには、日本においてすら埋もれてしまうのではないか、という点が心配です。言い換えれば、AGIの時代は、見えないところでの価値観の戦いであり、その中で再び日本が敗戦すれば、取り返しがつかないことになってしまう。企業の価値や戦略への投資家の評価においても、欧米流の価値観に基づくAIに判断されてしまったら、日本企業への適切な評価がされなくなる。それが昂じるとSNS選挙のように、企業自身の判断も日本らしい経営理念や事業精神に基づかないものになってしまう。そうすると、ほんとに大事な部分を日本や日本企業が失うことになりかねない。そんな「ほんとのAIリスク」のようなものに強い不安を覚えた年末年始でした。そうならない方法の妙案はなかなか思いつきませんが、アニメのような日本の強いコンテンツを通じて、世界の価値観の中に少しでも日本流の優れた発想が普及し、それがAGIの教師データになるようにしていくのが、急がば回れなのでしょうか。
本年もよろしくお願いします。
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