「サステナビリティ」の行方

2025年02月25日

住友商事グローバルリサーチ(株)代表取締役社長
住田 孝之

 

 

 前回お伝えしたダボスの様子からも垣間見られるように、サステナビリティに関する世界の取り組み姿勢は、短時間でかなり変化しています。サステナビリティを本気で考えるなら、もっと長期目線で、歩むべき道筋を冷静に考えて、軸はぶらさないことが大切です。もちろん短期的な変化にアジャイルに対応することは必要ですが。軸がぶれる結果として、サステナビリティを一生懸命追求しようとした人が損をして、サステナビリティに関連する取り組みがサステナブルでなくなったのでは元も子もありません。

 

 トランプ大統領が状況を大きく変えていることは間違いないですが、欧州でも、「グリーンディール」の名前も変わり、現在の関心の中心は競争力の回復。関連するルールも一気に見直しの流れです。これは昨年、今年に始まったことではなく、最新のデータでは、サステナビリティファンドの新規ローンチ数は、2023年に前年と比較して、実に4割程度減少しています。豪州では、州政府が日本企業も関連しているグリーン水素のプロジェクトへの支援を停止しました。一方で、日本政府が先週発表した第七次エネルギー基本計画やGX2040ビジョンは、これまでの考え方をしっかり継承しているように見えます。そこでは、需要見通しの変更、産業立地政策との一体的思考などのアジャイルな対応と、カーボンプライシングに関連する仕組みの具体化など、厳しい目標の達成に向けた取り組みの深掘りの方向が示されています。

 

 この彼我の差を目の当たりにすると、言葉ではあまり表してこなかったけれども、大昔から、持続可能な地球をどのように次の社会に引き継いでいくかを心底考えている日本と、声高に理念や理想論を吹聴し、ルールで行動を縛っていこうとする、言ってみれば心のこもっていない、活動に持続性のないサステナビリティ論の欧米との違いを感じる人も多いのではないでしょうか? そして、自分はそんな日本に生まれて、日本の組織で働いていてよかったと思います。

 

 さらに、トランプ政権では、DE&Iもやり玉にあがり、それを推奨するルールは廃止され、応援していた軍の幹部は更迭されました。多様性や包摂性を失えば、イノベーションも起きにくくなるし、さまざまな変化に対する生存能力も低下し、ひいては社会自身がサステナブルでなくなってしまう。こうした動きに危機感を抱きますが、目の前の変化に右往左往することはありません。流行り廃りではなく、愚直に本質に近いことを追い求めていくことが、また将来、世界に認められるようになると確信しています。

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