先行き不透明なタイの政治・経済状況
2015年10月09日
住友商事グローバルリサーチ 経済部石塚 寛二
1. 政治概況
2014年5月にクーデターで政権の座に就いたプラユット首相は、停滞が続く経済状況に対する国民の不満に応えるべく、8月31日内閣改造を実施、タクシン内閣で閣僚を務めたソムキット氏を副首相(経済統括)に起用、経済対策を打ち出した。
一方で2015年9月6日、国家改革評議会(NRC)は憲法起草委員会(CDC)で作成された新憲法草案を否決した。これにより10月5日、新たにCDC委員21人が選出され、2016年4月までに新たな憲法草案を起草することとなった。憲法草案はNRCによる可決後、国民投票を経て総選挙・民政移管に至る道筋となっているが、草案作成のやり直しにより、当初2016年9月頃と想定されていた総選挙は、2017年半ば以降にずれこむものと思われる。
2. 経済概況
2015年第1四半期及び第2四半期のタイの実質GDP成長率(前年同期比)は、それぞれ+3.0%、+2.8%だった。10月4日、世界銀行はアジアの経済見通しを発表、シンガポールとブルネイを除くASEAN8か国のGDP成長率予想は図表1の通りだが、2015~17年にかけて、7か国が5~7%の成長が予測されているのに対し、タイのみ2%台の低い成長率予測となっている。
タイの産業をけん引する輸出(GDP比約60%)は、2015年1月から8か月連続で前年割れを続けている(1~8月前年比▲4.9%)。商務省は2015年の輸出を▲3.0%と異例のマイナス予測としている。世界景気の停滞、中国経済の軟調、一次産品の相場低迷により、工業製品、農産加工品、電子機器などの輸出が減少しており、一方で、家計債務の増大、所得の伸びの鈍化、政治不安などから内需も不振で、輸入も減少している(1~8月前年比▲7.8%)。景気停滞と政治リスクにより、1~7月のFDIは件数で前年同期比▲27%(527件)、申請額は▲71%(約3,500億円)と、減少している。
観光業はGDPの1割を占めるといわれる重要な産業で、2014年は約2,500万人の外国人観光客を迎えている(前年比▲6.5%)。外国人観光客数は2015年に入って毎月、前年比2桁の増加を記録(1~8月2,000万人、前年比+52%)、農業、製造業が不振な中、景気下支えに期待が掛かるが、8月17日のバンコク繁華街での爆弾事件の影響が懸念される。中国からの観光客は、2015年1~8月551万人、前年比+104%と倍増、外国人観光客に占めるシェアも2010年の7%から2015年1~8月の28%と伸長、2年以内に5割を超えるとみられている。
9月上旬、政府は総額約1兆円に上る経済対策を発表した。内容は、農民・低所得者・中小企業への低利融資、地方自治体での事業促進・雇用対策、ベンチャー企業への法人税減免などが柱。農産品価格低迷と干ばつで、所得減少に見舞われている農村部にとって短期的な支援にはなるものの、中期的な効果については不透明である。


以上
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