2016年中国経済成長目標6.5~7.0%

2016年02月22日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

中国国家発展改革委員会(発改委)は2月3日に、2016年の経済成長率目標を6.5~7%の範囲に設定することを明らかにした。数値ではなく範囲としたのは1995年の第8次5か年計画以来約20年ぶり。中国は現在、新常態(ニューノーマル)へ移行し投資・輸出主導型経済から消費主導型経済への転換を進める構造改革により、持続可能な成長を目指している。その転換期の真っただ中にある中国経済についてポイントを確認し、2016年の経済成長率に関し論じる。

 

◆GDP成長率の推移と構成

 2015年の実質GDPは前年比7.3%から減速し、同6.9%成長となった。中国政府の経済成長目標は、2014年は同7.5%前後、2015年は同7.0%前後であり2年連続でやや下回った(図表1)。注目点は2つ。1点目は、2015年の名目GDP5.6%が実質GDP6.9%を下回るというディスインフレ傾向が生じている点である。2点目は、実質GDP成長に関し2003年から2007年は5年連続年率2桁成長であったが、2007年の年率14.2%成長をピークにリーマンショックがあった2008年からは低下基調となり、2012年以降は経済成長率が7%前後の新常態(ニューノーマル)にある点である。

GDP推移
(出所) 国家統計局より住友商事グローバルリサーチ作成
産業別名目GDP
(出所) 国家統計局より住友商事グローバルリサーチ作成

 

 

 2015年の産業別名目GDPの構成は、第3次産業(サービス)が50.5%と最も高く続いて第2次産業(製造業)の40.5%、第1次産業(農林水産業)の9.0%となっている。2013年以降、第3次産業が第2次産業のウエイトを上回るようになり、2015年の産業別実質GDP成長率は第3次産業が最も高く前年比8.3%、第2次産業が同6.0%、第1次産業が同3.9%となっている(図表2)。サービス業が中国経済の新たな成長のエンジンとなりつつある一方、構造改革の影響により第2次産業の成長が鈍化傾向にあると考えられる。

 

 

◆資源関連業種への投資抑制

 2015年の固定資産投資(名目)は前年比10.0%増の55兆1,590億元(約1061兆2,591億円)。第1次産業が同31.8%増の1兆5,560億元(約30兆円)、第2次産業が同8.0%増の22兆4,090億元(約431兆1,491億円)、第3次産業が同10.6%増の31兆1,939億元(約600兆1,706億円)。第1次産業への固定資産投資は2012年2月に国務院が農業セクターの技術革新に注力する方針を示したため、2012年以降前年比30%増以上が続いているが金額は極めて小さい。新たな成長エンジンとなりつつある第3次産業への投資額が最も大きい。第3次産業のうち医療・福祉事業の伸びが同29.7%増の5,175億元(約9兆9,567億円)と大きい。高齢化社会を控え社会福祉サービスの向上のためとうかがえる。

 

 第2次産業をみると、鉱業が前年比8.8%減の1兆2,971億元(約24兆9,562億円)でありそのうち石炭採掘・選鉱が同14.4%減の4,008億元(約7兆7,113億円)、鉄金属加工が同17.8%減の1,366億元(約2兆6,282億円)と落ち込みが目立つ(図表3)。過剰生産能力を抑制するために投資を抑えていると考えられる。これら鉱業がさかんな東北地方からは人口が流出しつつありいわゆる「新東北現象」となっている。

 

 

◆個人消費は低下基調後2015年は緩やかな伸び

 個人消費の代表的な指標である小売売上高は、2010年は前年同月比18~19%台の増加がみられたがその後2015年4月の同10.0%増まで伸び率が低下基調にあった。しかし、2015年5月以降は緩やかな回復基調がみられ、12月は前年同月比11.1%増の2兆8,635億元(約55兆937億円)となった。2015年の小売売上高の約12%を占める自動車売上高は前年比5.3%増の3兆6,006億円(約69兆2,755億円)となった。月ベースでは2015年9月の前年同月比2.7%増から10月、11月、12月がそれぞれ同7.1%増、同9.0%増、同8.1%増と12月は低下したものの増加幅が拡大した(図表4)。2015年10月に導入された自動車購入税の引き下げの影響が大きいと考えられる。

2015年固定資産投資(名目)
(出所) 国家統計局より住友商事グローバルリサーチ作成
小売売上高、自動車売上高
(出所) 国家統計局より住友商事グローバルリサーチ作成

 

 

◆輸入額が大幅減少

 2015年の輸出額は前年比2.8%減の2兆2,749億ドル、輸入額は同14.1%減の1兆6,820億ドルと輸入額が大幅に減少。月ベースでみると輸出額は2015年の2月と6月を除いて2015年1月以降マイナス。輸入額は2014年11月以降連続してマイナスとなっている(図表5)。内訳をみると、輸出数量では資源関連・農産物・食品の減少が目立つ。輸入数量では原材料・部品、自動車等の減少がみられる一方、ガソリンの輸入が増加傾向にある。輸入の減少は、生産が過剰で供給が需要を上回り輸入した原材料・部品から加工された製品が売れてなく、ディスインフレが続いていることも影響していると考えられる。中国は純石油輸入大国で自動車保有等の拡大によるガソリン需要の増加があるものの、世界的な原油価格の下落で全体の輸入額減に影響しているのであろう。

 2015年の輸出入を地域別にみると、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、ラテンアメリカ、北アメリカ、太平洋の全地域からの輸入が前年より減少。アジアは最大貿易相手地域だが、減少率を比較すると2015年の輸入は前年比12%減の9,548億ドルで輸出の同4%減の約1兆1,409億ドルを大幅に上回った。また、アフリカからの輸入が前年比39.1%減の約703億6,620ドルと目立つ。アフリカからの輸入の約3分の2は燃料や鉱物であるため、資源価格の下落が大きく影響しているとみられる。輸出をみると、アジア、ヨーロッパ、ラテンアメリカが前年より減少した一方、北アメリカ、太平洋、アフリカへの輸出が増加した(図表6)。

輸出入
(出所) 国家統計局、海関総署より住友商事グローバルリサーチ作成
地域別輸出入
(出所) 海関総署より住友商事グローバルリサーチ作成

 

 

 

◆2016年経済成長率目標と見通し

 現在、中国経済の成長の原動力は製造業からサービス業に移行しつつある。2015年、個人消費は緩やかな伸びがみられたが、世界的な景気減速、特に2016年に入り不確実性が増す中、中国国内の構造変化・過剰生産の影響もあり輸出入は伸び悩むと考えられる。よって、2016年の政府成長目標の6.5~7.0%の6.5%がなんとか達成されるかもしくはそれより低い成長になると筆者は予想する。6.5%成長は、2020年までに2010年比でGDPと国民平均所得を倍増させるという政府目標のボトムラインである。

 

 政策面では2015年末の中央経済工作会議で強調したサプライサイドに重点を置き、1)過剰生産能力の解消、2)過剰不動産在庫の削減、3)金融リスクの防止・解消、4)企業の経費低減、5)経済のボトルネックの解消・緩和の5項目を中心に改革が進められることにより底堅く持続的な成長が期待される。

 

 中国発の世界的な経済危機の到来の可能性はそれほど高くないと想定している国際機関や大手外資金融機関などのエコノミストの話を近頃よくみかける。しかし、通貨危機のようなハード・ランディングが生じる可能性は低いと想定されるが、長期にわたる低成長が継続しもたつく可能性がある。

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。