ブラジル産トウモロコシ供給不足の影響
2016年08月10日
住友商事グローバルリサーチ 経済部 山野 安規徳
◇ ブラジル産トウモロコシを取り巻く現況
ブラジルはトウモロコシ生産において世界3 位、輸出においても世界3位の供給国だが、2015年末から同国内でトウモロコシ供給不足が生じたことで国際価格に影響を与える場面があった。そこでブラジルのトウモロコシの需給と今後の見通しについてまとめた。
◇ 供給不足の国内への影響
ブラジルのトウモロコシ生産は2期作で、9月作付/翌年3月収穫の夏期作と2月作付/ 8月収穫の冬期作がある。通常、夏期作トウモロコシは国内向けに消費され、冬期作は輸出に回されているが、レアル安の進行で、14/15年度冬期作と15/16年度夏期作の多くが輸出に回され、2015年9月から翌年6月にかけてのトウモロコシ輸出量は32百万トンと前年同期に比べ2倍に上った。このため、国内では供給が逼迫し、2015年末から国内トウモロコシ価格は急騰、2016年6月には57 BRL/60kg(≒710セント/bu*)と平年時20~25 BRL/60kgの倍以上まで上昇した。(*1 US$=3.4 BRLで換算)
国内供給不足の影響を最も受けたのは、生産コストの7割が飼料費の国内の養鶏・養豚業である。ブラジルは世界1位の鶏肉輸出国であるが、飼料用トウモロコシの減少と価格の高騰で生産調整が行われた。ブラジル動物性タンパク質協会によれば、2016年の鶏肉生産量は年初予想から3.7%下方修正され13百万トン(前年比1.1%減)と見込む。
◇ 海外への影響
国内需給の引き締まりに加えて、15/16年冬期作トウモロコシが4月からの乾燥で不作となり、輸出が減少する見込みとなったため、国際市況にも影響があらわれた。シカゴ相場は上昇を続け、2016年6月に440 セント/buと約2年ぶりの高値を記録した。ブラジル国家食糧供給公社(Conab)は、冬期作生産量を前年比21%減の43百万トンと見込んでいる。米農務省はブラジルの15/16年度輸出量を前年比16.0百万トン減の18.5百万トンと大幅な減少を予想しているが、2015年を除いた過去3年の輸出量平均は23.4百万トンで、2015年の輸出量が多すぎたとの見方もできる。しかし、供給懸念を背景に米国産への引き合いは増加、同国輸出成約高(旧穀+新穀)は4月以降前年比77%(9.4百万トン)増加し、米国産にとっては追い風となった。
◇足元の動きと今後の見通し
ブラジルでは6月から冬期作トウモロコシの収穫が始まり、供給不足が多少緩和されたことで、国内価格は2015年末のピーク時から23%下落した。しかし、依然として平年時からは約80%高い水準を維持しているため、農家の作付意欲が増し、16/17年度の夏期作の作付面積は前年度比13%増の651万haになると米農務省は見込んでいる。
また7月以降、米国産トウモロコシの豊作が確実視され始め、シカゴ価格は約2年ぶりの安値まで下落した。ブラジルの冬期作輸出(7月~)は大幅減少を見込まれるが、9月から収穫期に入る主要輸出国の米国、ウクライナの豊作によって前年比26.5百万トンの生産増加が予想されており、世界的な供給不足に至る可能性は低いとみられる。
以上
記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。
レポート・コラム
SCGRランキング
- 2024年10月23日(水)
5:45~7:05、テレビ東京『モーニングサテライト』に当社チーフエコノミスト 本間 隆行が出演しました。 - 2024年10月23日(水)
『東洋経済ONLINE』に、米州住友商事会社ワシントン事務所調査部長 渡辺 亮司のコラムが掲載されました。 - 2024年10月22日(火)
雑誌『経済界』2024年12月号に、米州住友商事会社ワシントン事務所調査部長 渡辺 亮司が寄稿しました。 - 2024年10月17日(木)
『日刊産業新聞』に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行のコメントが掲載されました。 - 2024年10月16日(水)
『日刊産業新聞』に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行のコメントが掲載されました。