チェコ共和国:2017年10月の下院選挙に注目 ~連立与党内でのパワーバランス変化か~
2017年07月05日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
アントン ゴロシニコフ
概要
チェコでは、2017年10月20~21日に下院(定数200)選挙が予定されている。足元の状況をみると、現職のソボトカ首相が率いる最大与党社会民主党(以下ČSSD、現在50議席)の支持率が低下しており、ČSSDと連立政権を組んでいるバビシュ前財務大臣兼第一副首相を党首とするANO2011(以下ANO、現在47議席)が今回の選挙で大躍進する可能性がある。ANOが勝利すれば、バビシュ前財務相が首相に就任し、今後、チェコ連立与党内でのパワーバランスが変化する可能性があると注目される。
1. 世論調査ではANOの支持率は3割前後でトップへ
国内の最新世論調査をみると、2011年に結成されたANOは30%前後の支持率で、現在トップとなっている。一方、チェコの伝統的な政党であるČSSDは支持率が低下し、現在15%以下となっている。2016年、実施された州議会選挙や上院選挙でも、ČSSDが大幅に議席を減らした一方、ANOが議席数を増やしている。
汚職や不祥事スキャンダルなどの影響で、国内の有権者が、この20年間同国を統治してきた伝統的な政党から離れつつある。その一方で、ビジネス寄りの立場を取っている中道右派ANOが支持を集めている。ANOの党首であるアンドレイ・バビシュ前財務相(62歳)は先月、ČSSDのソボトカ首相との対立が高まり、財務大臣兼第一副首相解任に追い込まれた。巻き返しを図っているバビシュ氏はこれから10月の下院選挙に向けて活発に動くであろうと予想される。
2. 首相職に目覚め始めているバビシュ氏、改革を急いでいるČSSD
バビシュ氏は隣国スロバキアの出身で、チェコ国内2位の大富豪の実業家である。彼は農業化学をはじめ新聞やラジオ局なども手掛けるアグロフェルト(Agrofert)・グループを保有している。年間の売上が80億ユーロ以上あるアグロフェルト・グループは、3万人以上の社員がおり、国内で最大の民間雇用者である。個人的な富、政治力、メディア等の影響力を併せ持つバビシュ氏は次の首相になる野心も抱いていると思われる。彼は6月に、10月の下院選挙に向けた自身の本を出版し、選挙公約の概念や「チェコ2035年のビジョン」などを発表した。実業家であるバビシュ氏は、政府による事務の効率化、行政手続きの簡素化やビジネス環境の整備などを強く訴えている。国内における汚職を徹底的に追及すると強調し、行政機関の透明性を一層高めようと考えている。チェコが更なる経済成長を続けるためには、国内でITや先端技術を駆使したデジタル経済を確立し、普及をさせる必要があるという考え方を示しており、「インダストリー4.0」、IoT関連の事業にこれから焦点を当てていくとしている。一方、ユーロ導入についてはやや消極的で、難民の受け入れについても反対している。
しかし、バビシュ氏にはかつて、自身の脱税疑惑やマスコミに対する批判発言の問題等も発生していることから、今回は激しい選挙戦になると予想される。現状の支持率の水準ではANOが単独で過半数を取ることは困難だと思われ、安定した連立相手を探さなければならない状況になる可能性が高い。他方、バビシュ氏の勢いを止めたいČSSDを中心とする「反バビシュ」の大連立が形成される可能性もあるので、選挙の行方は現時点では不透明である。
ČSSDも今回の選挙キャンペーンにいち早く乗り出し、6月には下院選挙に向けた公約を発表した。最低賃金の引き上げや中小企業向け減税などを行うとの左派系の政策が目立っており、一般市民を満足させるようなポピュリズム色の強い公約を表明している。更に低下する支持率の回復を狙い、ソボトカ首相はČSSDの党首を辞任することを発表し、後任として、ホバネツ内務相が就任し、首相職を10月の選挙まで継続する。
3. 日本・チェコの関係
こうした中でソボトカ首相は6月、チェコ首相として12年ぶりに来日し、安倍首相と首脳会談を行った。日本・チェコは2017年国交回復60 周年を迎え、両国は二国間の協力関係を更に強化したい思惑がある。チェコには現在、約250社の日本企業が進出し、約5万人の現地雇用を創出している。チェコは、欧州の中心に位置し地理的優位性に加え、賃金が西欧諸国よりも低く、国民の教育レベルも高いことから、多くの日本の製造業が工場を設けている。特に自動車とその部品産業への投資が多く、チェコはドイツ、英国、フランスに続き、欧州で4番目に日本企業の生産拠点が多い国である。その点からも今後の政界の動向が注視される。
以上
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