米国シェールオイル生産動向
2017年11月02日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
舘 美公子
◇2017年1-9月実績
米国のシェールオイル生産は2017年に順調な回復を続けている。米エネルギー省が公表した9月の主要シェールオイル生産地における掘削リグ数は684基と年初から4割増加、生産量は日量590万バレルと年初から平均日量42万バレル増加した。リグ数・生産の伸びの6割近くをPermian盆地が占め、9月の生産量は日量256万バレルと全米生産量(日量960万バレル)の25%超を占めている。
◇Permianでのリグ当たり生産量低下の要因
Permianで着実に生産量が増加する一方、生産効率の指標となるリグ当たり原油生産量は、2017年9月に日量5.6万バレルと2016年8月のピークから22%低下した。リグ当たり原油生産量は、当月の新規原油生産量を2か月前の掘削リグ数で除したもので、掘削リグで掘られた井戸は全て2か月後に完工され、生産に至っているという前提のもと算出されている 。だが、実際には生産に至らなかった井戸(待機井戸、DUCs:Drilled but uncompleted well)もあるため、待機井戸が増えればリグ当たり生産量は低下する計算になる。このため、最近のリグ当たり生産量の低下を即座に生産効率の低下とみなすことはできない。
実際、Permianでの待機井戸数は2016年9月から増加に転じており、2017年9月時点では2,416基と前年同月比2倍にのぼる。Permianで待機井戸が増加に転じた時期とリグ当たり生産量が低下し始めた時期も重なるため、待機井戸によって見掛け上、生産効率が低下したと言えよう。今回の待機井戸の増加は水圧破砕を実施する人員が不足し、井戸の完工数より掘削数が上回っていることが主因。石油開発サービス会社は、過去2年の油価低迷時に人員や設備を大幅に削減したため、シェール生産会社の生産回復に伴い、熟練スタッフの確保に苦慮している。なお、待機井戸は2014-15年にかけても増加したが、これは原油価格回復まで井戸を完工させずに生産を先延ばししたいとのシェール生産会社の意向によるもので、今回の待機増加とは事情が異なる。
他地域に目を転じても、待機井戸が増加したEagle Fordはリグ当たり生産量が著しく低下、待機井戸が減少したBakkenではリグ当たり生産量が減少していないため、待機井戸が足元のリグ当たり生産量の動向を左右していると言えよう。ただ、Bakkenのリグ当たり生産増加率がほぼ横ばいで推移していることが示すように、石油開発サービス会社の熟練スタッフ不足や高効率油田の減少などで、生産効率の改善ペースが鈍化傾向にあることは認められる。
◇今後の生産見通し
Baker Hughes社が週次で発表している陸上掘削リグ数は、10 月に入り減少傾向にある。ただ、掘削リグ数は18~22週前にシェール生産会社が行った投資判断の影響を受けており、10月のリグ数減少は原油価格が43ドルまで下落した6月時点の企業判断が反映されたものと推察される。7月から原油価格が回復し、10月は原油価格が50ドルを上回る状況が続いたことを踏まえれば、リグ数の減少傾向が継続する可能性は低い。むしろ、シェールオイルの待機井戸が全体で6,300本と過去最高を記録し供給余力があること、WTI先物市場で商業筋の売りヘッジが過去最高水準で推移していることから、2018年もシェールオイル生産は増産傾向を維持すると考える。
もちろん懸念すべき点もある。石油開発サービス会社大手HalliburtonおよびSchlumbergerは、第3四半期決算発表において、米シェール生産会社の投資が緩んでいることへの危惧を表明した。また、これまで成長率を重視し、積極的な投資・生産増加を容認してきたシェール生産会社の株主の間で利益率や株主利益を優先するよう求める声が高まっているとの報道も盛んにみられる。こうした変調は留意しておくべきだが、掘削リグ数が高水準で推移していること、待機井戸や売りヘッジの大きさを踏まえ、米エネルギー省が10月月報で予想した2017年増産幅(日量40万バレル程度)、2018年増産幅(日量70万バレル)を達成する可能性は高いと考える。
以上
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