重要性高まる国内外の設備投資の選択
2018年01月24日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 将之
概要
日本企業は、これまで設備投資において国内外の選択を行ってきた。海外現地法人の設備投資に底を打つ動きがみられる一方で、国内設備投資も堅調に推移している。海外投資の成長が期待される一方で、リスクが高まっていること、設備投資からみた国内の期待成長率が高まっていることなどを踏まえると、国内設備投資を再評価する必要もあるだろう。設備投資において、成長機会とリスクを踏まえた事業戦略で国内外の選択がますます重要になっている。
1. 海外現地法人の売上拡大
日本企業の海外で稼ぐ力というと、輸出を想像しがちであるものの、海外現地法人の売上高の規模の方が大きい。図表①のように、製造業の現地法人売上高は、2017年第3四半期に32.5兆円と、輸出額(19.6兆円)の約1.7倍の規模だった。しかも、輸出額がリーマンショック以前のピークを回復できていないのに対して、現地法人売上高はすでに2013年に過去最高を更新していた。
これは、今までの企業の積極的な海外進出の賜物だ。それには、設備投資も含まれている。図表②のように、リーマンショック後、国内の設備投資が抑えられてきた一方で、海外現地法人の設備投資意欲は旺盛だった。海外進出の動機が生産コスト抑制から地産地消へと変わったことで、現地法人の設備投資は堅調に増えてきた。2016年には、それまでの増加トレンドに一服感が出て、現地法人の設備投資額は減少したものの、世界同時好況の追い風もあって、足もとでは上昇に転じるような動きがみられるようになった。
そこで、このような海外設備投資のトレンドが続くのか、また、国内の設備投資は停滞しつづけるのかという視点から、今後の設備投資について検討してみる。
2. 海外設備投資は今後も増加基調
海外設備投資が増えてきた理由として、収益性の高さがあげられる。図表③のように、製造業について、海外現地法人と国内法人の売上高経常利益率を比べると、海外現地法人の方が高い傾向がみられる。
一般的に生産性の高い企業ほど海外に進出する傾向があることが知られている。そのため、海外進出企業数が増えるにつれて、海外現地法人の収益性が低下することが想定されるものの、実際は反対に上昇トレンドがみられる。海外経済の高成長を背景に、海外市場は企業にとって引き続き魅力的であるため、海外設備投資の増加基調はつづくとみられる。
ただし、成長を目指して海外一辺倒という姿勢のリスクが、次第に意識されつつある。例えば、新興国では、米欧の金融引き締め局面において、資金流出からの通貨安を伴うインフレや、外貨建て債務の負担感の拡大などの、景気後退リスクが大きくなっているからだ。その他にも、地政学的なリスクがなかなか払拭されないこともある。そのため、これまで以上に、国内投資とのバランスにも目を配る必要があり、国内の設備投資を再評価する必要があると考えられる。
3. 国内投資も堅調に推移
その一方で、国内投資も堅調に推移していることが注目される。国内の設備投資について、資本ストック循環図から、これまでの動きを確認しておく。資本ストック循環図とは、縦軸に設備投資増減率、横軸に前年の設備投資・資本ストック比率を描いたものであり、設備投資の視点から、景気の山(右上)から谷(左下)にかけて時計回りを景気後退局面、谷(左下)から山(右上)を景気拡張局面と捉えられる。
図表④の資本ストック循環図には、二つの注目点がある。まず一つ目は、2016年末から2017年初めにかけて景気後退局面に移行しそうな位置にあったものの、2017年に入ってから、むしろ設備投資が再び増える動きがみられることだ。この原因としては、景気回復による企業の投資余力の拡大に加えて、人手不足による省力化投資やIoT投資などのニーズが高まっていることがあげられる。
二つ目の注目点は、設備投資からみた期待成長率の高まりだ。資本ストック循環の円自体の右上へのシフトは、中長期的な期待成長率の高まりを意味する。ここ1年間の減価償却率などのデータに基づいて、図表中では双曲線(点線)として描かれている期待成長率を計算したところ、2017年は1.0~1.5%となった。過去の経済データに基づく内閣府や日本銀行の潜在成長率の試算によると、それは1%弱であるので、この期待成長率の方が若干高い。この期待成長率の高まりは、企業はこれまでよりも高い成長を見込んで、2017年の設備投資を行ってきた結果と解釈できる。
実際、国内事業の採算性は向上しており、自己資本利益率(ROE)などの利益率は上昇傾向にある。景気回復という恩恵とともに、コーポレートガバナンス改革が、市場と企業経営者の目をより利益率に向かわせるようになったこともある。こうした意識の変化も、期待成長率の高まりという機会の有効活用を促すことになるだろう。
4. 国内外の設備投資の選択
今後の焦点は、期待成長率が高まる中で、国内の設備投資が伸びていくのかということだろう。そこで、景気循環と連動しやすい企業設備投資・GDP比(以下、設備投資比率)から、その可能性を考えてみた。
図表⑤のように、1990年代後半やリーマンショック前では、設備投資比率がピークに達してからすぐに低下するのではなく、3~4年程度高止まりする傾向がみられた。現在の上昇局面の始点をアベノミクス開始時点とすれば、そろそろピークアウトする時期に差し掛かっているといえる。しかし、過去の局面では、設備投資比率は16%を上回っていたことが注目される。現在の局面では、まだ16%に到達しておらず、上昇の余地があるとみられる。また、アベノミクス開始後の上昇局面には途中、足踏み期間があり、現在の再上昇局面は2016年末から始まっている。11月の内閣府『機械受注統計調査報告』では、船舶・電力を除く民需が2か月連続で前月比5%超となるなど、今後の設備投資が期待される内容だった。世界同時好況の中で、人手不足が深刻化しており、ロボットやIoTなどの省力化投資を迫られるという構図もつづいている。そのため、今後の設備投資が増える可能性が高いとみられる。
また、設備投資といっても、その中身が変化している。図表⑥は、民間企業設備投資、民間住宅投資、公的固定資本形成(公共事業)の合計を、投資の種類ごとに分類したものだ。これをみると、機械設備などが1990年代半ばに比べて減ってきた一方で、研究開発投資のような知的財産生産物が増えてきたことがわかる。これらを踏まえると、今後、国内の設備投資は、機械設備や輸送用機械から研究開発に重心を移しながら、緩やかな増加基調をつづけることが期待される。
世界同時好況といえる今だからこそ、次の収益源の獲得に先手を打っておく必要がある。移りゆく国内外の政治・経済情勢の中で、成長機会とリスクが高まっていることを踏まえれば、設備投資の意思決定において国内外の選択がますます重要になっている。
以上
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