ポスト・コロナの米中関係の行方を探る:台湾をめぐる米中関係
調査レポート
2021年09月14日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
前田 宏子
(本論文は月刊『東亜』2021年3月号に掲載されたものです。)
米中関係は、振り子のように良好な時と険悪な時を行き来して繰り返すと言われてきたが、トランプ米政権下における米中関係は、それまでの振り幅を大きく振り切って悪化し、新たな局面を迎えることになった。また両国の対立は構造的なもので、長期化すると見られている。
中国が「核心的問題」とする台湾問題は、米中関係において重要な争点であり続けたが、米国側の台湾に対する関心の強さは常に一定であったわけではなく、時々の地政学的環境や対中認識によって変化してきた。主流の意見にはならなかったものの、かつては米国で「台湾へのコミットメントを見直して台湾から手を引くべき」という議論がされたこともあったし[*1]、オバマ政権では、台湾問題よりも、南シナ海での軍事バランスや中国の行動により関心が向けられていた。しかし、中国の国力が上昇し、米中対立が先鋭化する中で、最近は台湾の戦略的重要性が再認識されるようになっている[*2]。
中国は米国と台湾の関係強化に苛立ち、台湾に対する政治的・軍事的圧力を強めるようになっている。米台接近を強く警戒しているが、他方で、中国国内では、長期的には情勢は中国にとって有利に推移していると見る向きがあり、米国国内の分断や新型コロナウイルスへの対応の遅れが、そのような傾向に拍車をかけた。習近平政権は、台湾統一を「中華民族の偉大な復興を実現するための必然的な要求[*3]」と見なし、その実現を「二つの百年」奮闘目標に掲げており、今後、台湾への工作活動をますます強化していくと予想される。
本稿では、米国側で台湾の戦略的意義が見直されるようになった要因を簡単に振り返りつつ、中国側の両岸関係に関する認識を紹介し、米中の認識の隔たりが、台湾をめぐる米中間の緊張激化を招く可能性を指摘する。
米国における台湾の戦略的位置づけの見直し
2016年12月、トランプ米大統領が台湾の蔡英文総統と電話協議を行ったと発表した時に、その後の米中台関係は波乱含みになることが予想されたが、当時は米国の台湾重視が一時的なものなのか戦略的なものなのか分からず、対中牽制のための「台湾カード」として利用されるだけではないかという警戒が台湾にも存在した。しかし、後述する「6つの保証」について、2017年1月の段階で、ティラーソン国務長官は3つの米中共同コミュニケ、台湾関係法とともに米国の台湾政策の基礎であると述べている[*4]。またその翌月、別の場でも同様の内容を繰り返した上で、「台湾の人々は米国の友人であり、(中国との)交渉の駆け引きとして扱われるべきでない」と述べた[*5]。そして2018年以降、トランプ政権は、台湾との関係強化策を次々と打ち出していった。
台湾の重要性が再評価されるようになった要因として、①中国の国力上昇と国際的影響力拡大の中で、台湾の地政学的重要性が増した、②国際社会で自由や民主主義的価値観が衰退する中、台湾の民主主義体制が再評価され、台湾防衛の重要性が再確認された、③米中技術覇権競争における台湾の重要性が認識されるようになった、ことが挙げられる。民主主義との関連では、多くの国が新型コロナウイルスの抑制に失敗し、甚大な人的・経済的被害に苦しむ中、台湾が民主主義体制を維持しながら、感染症の抑制に成功していることが、より評価を高めた面もある[*6]。
米台関係の強化
米国は、台湾旅行法(18年3月)、アジア再保証イニシアティブ法(18年12月)、台湾同盟国際保護強化イニシアティブ法(20年3月)、台湾保証法(20年12月)など、米台関係強化のための法案を相次いで成立させていったほか、2018年からは米海軍艦艇の台湾海峡通過や米台共同軍事演習、米軍によるF-16戦闘機パイロットへの訓練、米海兵隊による米国在台湾協会(AIT)の警備などを公表するようになった。米海軍艦艇の台湾海峡通過は、それ以前から実施されており、2007年から2019年5月の間に92回、オバマ政権の時期からすでに年間10回以上行われていたが、それらの活動を公表することで、中国の対台湾軍事圧力を牽制する意図があった[*7]。
米台政府高官の交流も活発化し、ワシントンでのボルトン大統領補佐官と李大維・国家安全会議秘書長の会談(19年5月)、副総統就任予定の頼清徳氏のトランプ大統領朝食会への参加(20年2月)のほか、アザー厚生長官(20年8月)、クラック国務次官(20年9月)が台湾を訪問した。また、政権移行間際の2021年1月には、ポンペオ国務長官が米国と台湾の公人接触を自主的に制限してきた国務省の内規を撤廃すると発表した。
また、トランプ政権は台湾への武器売却を積極的に推進し、トランプ政権の4年間で計11回、特に2020年には6回の武器売却が決定された。回数が増えただけではなく、性能についても、空対地ミサイル(SLAM-ER)135 発や、自走式の車両からミサイルを発射するロケット砲システム(HIMARS)、戦術地対地ミサイル(ATACMS)、海洋監視用無人機MQ9など、従来よりも攻撃性の強い武器を含んでいる。
米国務省は、これらの武器売却は、台湾への軍事圧力を強める中国に対し、台湾が防衛能力を維持するためであり、台湾関係法に沿ったものだと説明している。また、AITは、1982年にイーグルバーガー国務次官がAIT所長のジェームズ・リリー氏に送った「6つの保証」に関わる電報を公開した(20年8月31日)。同日、シンクタンクで講演を行ったスティルウェル国務次官補は、「(米中共同コミュニケの)米国が台湾への武器売却を削減していくというのは、中国が台湾と中国の相違点を平和的に解決することに継続的にコミットしていることが絶対条件である」と述べ、さらに、中国が台湾に対する外交的・軍事的圧力を強め、一方的な現状変更を試み、中国が平和的に両岸問題を解決するという約束を果たすと信じられなくなった、米国の対台湾政策は40年前から一貫しており、トランプ政権で政策が変わったわけではなく、中国の変化に対応しているだけという認識を示した。加えて、「中国の軍事装備や技術が急速に進歩していることから、台湾は、弾力性があり費用対効果の高い能力を展開できるようになること、そのための投資がますます重要になってくる」と述べた[*8]。
対台湾政策の見直しについては、政権内だけではなく議会や研究者でも議論が起こり、例えば外交問題評議会のリチャード・ハース会長は台湾に対する曖昧戦略の変更を主張した[*9]。
技術覇権競争における台湾の役割
米中技術覇権競争においても、台湾のハイテク企業の重要性が注目を浴びるようになった。その例の一つが華為技術(ファーウェイ)とTSMCの関係である。米国政府はファーウェイに対する圧力を強める中で、ファーウェイが台湾の半導体産業、とくに台湾積体電路製造(TSMC)に大きく依存していることに着眼し、TSMCにファーウェイとの取引を実質的に禁止する措置をとった。クラック国務次官が2020年9月に訪台した際、総統府が主催した晩餐会にはTSMC創業者のモリス・チャン(張忠謀)氏も参加したが、翌日、総統府が両氏と蔡英文総統が並んでいる写真を公開したのは意図的だろう。
今後も米国は、中国との技術競争や技術流出の観点から、米台の協力を強化し、あるいは台湾企業を自国へ誘致し、中国企業との取引に制約をかけると推測される。半導体産業の「管制高地」を握っている米国に逆らうことは難しく、米国の要請には応えざるを得ないが[*10]、他方で、米国の制裁に抵触しないよう注意しつつ、台湾のハイテク企業は中国とのつながりを維持しようとするだろう。中国は台湾のハイテク人材の獲得に、今後いっそう力を入れていくものと思われる。
インド太平洋戦略に組み込まれる台湾
米国の台湾支援策は、米台の関係を強化するもの(外交、軍事、経済)、台湾の国際空間の拡大を目的としたものに分類されるが、トランプ政権は台湾を米国のインド太平洋戦略に組み込んだのが特徴的である。トランプ政権の任期が切れる1週間前に、オブライエン大統領補佐官は「インド太平洋における戦略的枠組み」と名付けられた内部文書の機密指定解除を発表した。2018年2月に米政府内で認可された同文書には、台湾に対して中国が統一のための攻勢を強めており、台湾軍への能力向上支援が必要であること、そして、有事に台湾を含めた「第一列島線」内を中国軍が支配するのを阻止するための防衛戦略を策定し、「第一列島線」内を米軍が防衛することなどが明記されていた。オバマ政権の「アジアリバランス」戦略における台湾の位置づけが曖昧であったのに対し、インド太平洋戦略では台湾は重要な構成要素として組み込まれた。
2018年以降は、インド太平洋と台湾を結びつける米国高官らの発言が相次いだ。シュライバー国防次官補は「台湾は自由で開放的なインド太平洋戦略の重要な一環」であり「台湾内部で示された善良な統治、民主的価値、人権と宗教の自由は米国の利益に合致する」と述べ[*11]、ポンペオ国務長官は「インド太平洋ビジネスフォーラム」で台湾を「世界のハイテク産業のエンジン」と称えた[*12](18年7月)。AITのクリステンセン台北事務所長やモリアーティ理事長も「台湾は米国と地域の同盟国にとって、自由で開放的で、法治と国際規範を尊重するインド太平洋地域の理想的なパートナー」と発言した[*13]。2019年6月に発表された米国防総省「インド太平洋戦略報告」では、台湾はニュージーランド、シンガポール、モンゴルとともに、パートナーシップ強化の対象とされた[*14]。
インド太平洋戦略により、台湾は米国との関係強化だけでなく、域外国との接触を増加させる機会を得ることにもなった。アレックス・ウォン国務次官補代理は、インドの「アクト・イースト政策」、韓国の「新南方政策」、日本の「自由で開かれたインド太平洋構想」、オーストラリアの外交政策白書とともに、台湾の「新南向政策」を挙げて、各国の政策と米国のインド太平洋戦略が交錯することで、より強力で自由で開放的な秩序の土台になっていると述べた[*15]。域外国との協力という点では、2019年4月にはフランス海軍艦船が、同年6月にカナダ海軍艦船、12月に英国海軍調査船が台湾海峡を通過した。
2015年から米台間で始まった「グローバル協力訓練枠組み(GCTF)」に、2019年から日本も参画するようになり、東南アジアの女性の経済的地位向上や環境・開発問題などに関する協力を行っている。2019年5月には、米国の海外民間投資公社(OPIC)が台湾の対外援助機関「国際協力発展基金会」(ICDF)とパラグアイ地域銀行との間で、パラグアイの中小企業への融資支援に関する三者協力協定を締結したが、これは台湾と外交関係を持つ国で、米台が初めて戦略的提携を行う事例となった[*16]。
習近平政権の台湾政策
2016年に蔡英文政権が発足して以降、中国は両岸の政府間対話を停止し、台湾の国際空間を狭めるために、台湾が国交を持っている国に攻勢をかけて断交させたり、国際民間航空機関(ICAO)や世界保健機関(WHO)へのオブザーバー参加を取り消させたりして、圧力をかけてきた。他方で、中国に対して融和的な態度を示す政治家や企業を差別的に優遇し、台湾のエンジニアや若者の大陸における就学・就職を進め(「一代一線」)、「両岸の経済文化交流協力促進に関する若干の措置」(台湾に対する31項目の優遇措置)を採択するなど、硬軟合わせた政策を取り、台湾政府と民衆の分断を図ろうとしてきた。
そのような中国の政策が、ある程度効果をもたらしたとみられる部分もある。台湾政治大学が1994年から継続的に行っている台湾民衆のアイデンティティーや政治態度に関する世論調査[*17]で、それまでずっと減少傾向にあった「現状維持を望むが将来は(中国との)統一が望ましい」とする回答が2016年~18年にかけて増えたのである[*18]。
とはいえ、台湾優遇策の台湾民衆に対する効果は長くは続かなかった。もっとも大きな原因は、2019年に香港で起こった「逃亡犯条例」改正案に対する一連の動きや抗議運動を目の当たりにした台湾民衆が、中国に対する警戒感を強めたことにある。
香港で大規模な抗議デモが起こる前、「台湾同胞に告げる書」発表40 周年を記念する式典で、習近平は台湾政策に関する重要演説を行い、①平和統一の実現、②「一国二制度」の適用、③「一つの中国」堅持、④中台経済の融合、⑤同胞・統一意識の増進、という五項目の方針を示していた。「一国二制度」は中国との統一を前提とした言葉であり、台湾の人々には拒否感が強い。胡錦濤時代は台湾の人々に対してはこの言葉の使用は控えられてきた[*19]。習近平は「一国二制度」を前面に押し出すようになったが、その数か月後に、香港で大規模な抗議デモが起こり、台湾の人々が「一国二制度」に対してさらに強い拒否を示すようになったのは、習近平にとっては皮肉な話である。
また、中国の香港に対する管理強化の動きに加え、台湾のメディアや政治家に対して中国共産党の工作活動が浸透しているという懸念[*20]が中国への警戒を強めることになった。2018年11月の地方統一選では与党である民進党が大敗を喫し、当時、2020年に蔡英文が続投するのは難しいのではとみられていた。しかし、中国が「統一」に向けた攻勢を強めることが、台湾民衆の対中警戒感へとつながり、親中的だとみなされた国民党の支持率は低下した。結局、2020年1月の総統選では、蔡英文が国民党候補の韓国瑜・高雄市長を大差で打ち破り、再選を果たした。
2020年5月の全国人民代表大会(全人代)で、中国が香港立法会の議決を経ずに「香港国家安全維持法」を制定する方針を打ち出すと、台湾の人々の間で香港民主派の人々に対する同情が集まり、中国に対する否定的感情はより強まることになった。対中政策を定めきれない野党・国民党の支持率は低迷を続けている。
自信を強める中国
中国が、「統一」に向けた政策を強引に推し進めようとすればするほど、台湾の民心は中国から離れていき、台湾内で対中関係を重視する政党や政治家の影響力は低下する。米台関係の強化が進み、国際社会における台湾の存在感も増す中、外から見ると中国の台湾政策はかなり行き詰っているように見える。実際、繰り返される中国高官の威圧的な発言や、台湾周辺での人民解放軍の活動の増加は、中国側の苛立ちを表しているが、彼らの両岸関係に対する見方が必ずしも悲観的ではない点には注意すべきである。
その大きな原因は、国際情勢が中国に有利な方向に変化しつつあるという中国の認識にある。習近平が2017年12月の演説で、「中国は百年に一度の未曽有の大変動に直面している」と述べてから[*21]、この言葉は中国で国際情勢の展望が語られるときの定型句のようになっているが、次第に、「その中で中国はチャンスを掴む」ことに重きを置くようになった[*22]。米国の相対的な衰退と多極化の進展という中国の国際情勢認識は今に始まったわけではないが[*23]、中国が新型コロナウイルス感染の抑制に成功し、経済をいち早く再開したのに対し、米国の政治・社会が分断に苦しみ、感染症対策にも失敗したことは、中国が自信を深めることにつながった。2019年6月に中国国際問題研究院が発表した『国際情勢と中国外交青書(2019年)』では、国際社会の3つの構造的変化の一つとして、国際的なパワーバランスが欧米からアジアに移っている(「東昇西降」)という点を挙げている[*24]。この認識も、以前から存在するものだが、中国政府高官や研究者、メディアなどで「東昇西降」という言葉が繰り返される中に[*25]、中国の自信が垣間見える。
国際情勢が中国に有利な方向に変化しつつあるという認識が、両岸関係の中長期的見通しにも影響を与えている。米中の国力の差が縮小する傾向にあり、そのことは、米国が台湾問題に介入するコストとリスクをますます引き上げることになる。中国にとって台湾は核心的利益だが米国にとってはそうではなく、この問題に介入することで生じる負担が米国の安全保障と利益にとって許容できないほど大きくなれば、米国の介入政策も限界を迎えるだろうというものである[*26]。
二つ目は、国際社会では「一つの中国」への支持が堅固になっているという見方である。米国に限らず、先進的民主主義国の間では、台湾に対する支持や再評価が広がる一方、国際社会、とりわけ途上国の間では中国の影響力が強まっており、台湾の国際機関への参加機会の縮小や、台湾と外交関係を持つ国の減少が起こっている。民主主義国の間では対中イメージが軒並み悪化しているが[*27]、たとえば、香港国家安全維持法に対し国連人権理事会で懸念を示す共同声明に同意したのは27か国であったのに対し、中国を支持した国は53か国に上った。
三つ目は、中国の国力が上昇したことによって、中台間に大きなパワーの差ができ、中国にとって有利な情勢になっているという見方である。現在の中国の実力は、「台湾同胞に告げる書」を発表した改革開放初期の40年前とも、1997年の香港返還時とも大きく異なる。香港復帰時は、中国の経済発展は香港に大きく立ち遅れていたが、現在の中国経済は台湾より優位にある。軍事力などを加えた両岸の総合実力比較でも、中国が台湾を圧倒している[*28]。
四つ目は、中台の経済交流が増加しており、それを切り離すことはできないだろうという見方である。台湾から中国への投資は減少傾向にあり、また蔡英文政権は、2019年1月から台湾企業の対台湾回帰投資(Uターン投資)政策を推進している。米中貿易摩擦やデカップリングへの懸念から、台湾企業の台湾回帰には一定の成果が見られたが、台湾の対外貿易に占める中台貿易の割合は約4割を維持しており、政府が掲げる「新南向政策」は期待したほど進んでいない。台湾に限った話ではないが、中国市場の吸引力は大きく、中国が自国の経済的影響力を政治目的のために利用する動きは今後も続くだろう。
最後に、中国の強引な政策のせいで、台湾における「統一」への拒否感が強まり、「台湾人アイデンティティー」が強化されたにもかかわらず、中国側は「独立を封じ込めた」点を中国の対台政策の成果として強調する。蔡英文氏は「独立」を掲げることを避け、両岸関係と米台関係の双方でバランスを取りつつ、実質的に台湾の国際社会における生存空間を維持・拡大することを目指している。米国も「一つの中国」原則を緩め続けてはいるが、放棄はしていない[*29]。
中国の多くの台湾研究者に共通しているのは、両岸関係の発展について「中国が主導権を握っている」という見方である。客観的分析に基づく認識とは限らず、中国共産党の姿勢に追従しているところも多分にあるだろう。しかし、国際社会における中国の地位向上に自信を深める中国人を見ていると、ただの大言壮語と見なすのは、今後の中国の行動や両岸関係の趨勢を見ていく上で、判断を誤らせる危険がある。
続く両岸の緊張関係
2020年10月に開催された中国共産党第19期5中全会の建議で、台湾政策については「祖国統一を推し進め」、「『台湾独立』分裂活動を高度に警戒し、断固として抑制する」一方で、両岸の「融合的発展」や、台湾企業の中国株式市場への上場を支持するなど、これまでと同様、硬軟両様の方針が示された。台湾統一は「中華民族の偉大な復興」の必須条件であり、「二つの百年」奮闘目標に向け、中国側の台湾攻勢は強まるとみられる。ただ、最近『人民政協報』が、「中国は台湾問題をそのままにして、先に今後5~8年の発展戦略のチャンスを掴むことも可能」だと報じたのは興味深い[*30]。とはいえ、同記事は「台湾問題の解決を長引かせてはならない」とも述べている。
一方、米国のバイデン新政権は、台湾との関係については、ほぼトランプ政権の方針を引き継いだように見受けられる。大統領就任式に、米華断交以来、初めて台湾の駐米代表の蕭美琴氏(駐米台北経済文化代表処代表)を招待したほか、ブリンケン国務長官は指名承認のための上院公聴会で、台湾の国際機関への参加について「構成員が国家と定められていない国際機関には参加すべきで、国家であることが条件となる機関でも、参加を可能にするその他の方法がある」と述べた[*31]。また、米国務省は、3つのコミュニケ、台湾関係法、6つの保証にもとづいて台湾支援を継続していくという声明を発表し[*32]、米軍のミサイル駆逐艦「ジョン・S・マケイン」が2月4日に台湾海峡を通過したと発表した。政権が発足したばかりで、どうなるか分からない部分もあるとはいえ、バイデン政権の台湾政策を不安視していた台湾の人々にとっては朗報であり、中国にとっては失望ということになるだろう。
国際政治は力(パワー)によって大きく左右され、理念や正義が後回しにされることも多いが、パワーで全てが解決できるわけでもない。中国ではパワーを重視する傾向が強まっており、自由や民主主義を享受していた人々がそれを奪われることへの拒否感や抵抗についてはあまり理解しておらず、過小評価している。バイデン政権下においても両岸関係をめぐる米中台の攻防は続くだろうが、自国の国力の上昇に自信を深める中国と、民主主義や自由という価値に改めて重きを置く米国や台湾の人々の間で、互いの意思や行動について見誤りが起こらないかが懸念される。
[*1] Charles Glaser, “Will China’s Rise Lead to War? ― Why Realism Does Not Mean Pessimism,” Foreign Affairs, Mar/Apr 2011.
[*2] 山口信治「米中台関係の変動―米中対立の激化と台湾の戦略的選択」『東亜』2020年10月号。
[*3] 「習近平在中国共産党第十九次全国代表大会上的報告」2017年10月28日。
[*4] United States Senate Committee on Foreign Relations, Jan 11, 2017.
〈https://www.foreign.senate.gov/imo/media/doc/011117_Tillerson_Opening_Statement.pdf〉
[*5]〈https://www.taipeitimes.com/News/front/archives/2017/02/10/2003664699〉.(2020年11月4日アクセス)。
[*6] たとえば、“U.S. Health Chief Praises Taiwan’s Covid-19 Success, Irks Beijing in Rare Visit,” WSJ, Aug 10, 2020; “Taiwan is the future of the Asia-Pacific, not China,” Nikkei Asia, Nov 15, 2020; European Movement International, “Digital Democracy–What Europe can learn from Taiwan,” Sep 7, 2020.
[*7] 松田康博「米中台関係の展開と蔡英文再選」佐藤幸人・小笠原欣幸・松田康博・川上桃子『蔡英文再選:2020年台湾総統選挙と第2期蔡政権の課題』アジア経済研究所、2020年、56頁。
[*8] 〈https://2017-2021.state.gov/The-United-2021.3 no.645 East Asia States-Taiwan-and-the-World-Partners-for-Peace-and-Prosperity/index.html〉.
[*9] Richard Haass and David Sacks, “American Support for Taiwan Must Be Unambiguous,” Foreign Affairs, September 2, 2020.
[*10] 川上桃子「米中ハイテク覇権競争と台湾半導体産業―『二つの磁場』のもとで」川島真、森聡編『アフターコロナ時代の米中関係と世界秩序』東京大学出版会、2020年。
[*11] “Taiwan is a partner of US Indo-Pacific strategy: senior US official,” Taiwan News, July 20, 2018.
[*12] American Institute in Taiwan, Jul 31, 2018.〈https://www.ait.org.tw/secretary-pompeos-remarks-at-the-indo-pacific-business-forum/〉
[*13] “Taiwan a close partner in Indo-Pacific, AIT says,” Taipei Times, Aug 29, 2018; “Remarks by AIT Chairman James Moriarty at U.S.-Taiwan Defense Industry Conference,” American Institute in Taiwan, Nov 1, 2018. 〈https://www.ait.org.tw/remarks-by-aitchairman-james-moriarty-at-u-s-taiwandefense-industry-conference/〉
[*14] US Department of Defense, “Indo-Pacific Strategy Report,” May 31, 2019. P.31.
[*15] Statement of Alex Wong, Before the Senate Foreign Relations Committee Subcommittee on East Asia, the Pacific, and International Cybersecurity Policy, May 15, 2018.
〈https://www.foreign.senate.gov/imo/media/doc/051518_Wong_Testimony.pdf〉
[*16] “Dr. Szu-chien Hsu Deputy Minister of Foreign Affairs Republic of China (Taiwan) Remarks,” June 10, 2019.〈https://www.csis.org/analysis/dr-szu-chien-hsu-deputyminister-foreign-affairs-republic-chinataiwan-remarks〉
〈https://esc.nccu.edu.tw/PageDoc/Detail?fid=7805&id=6962〉
[*18] 台湾の優遇措置の効果について疑問視する見方もある。松田、前述、52頁.,松本充豊「中国の影響力行使の可能性と限界―『台商』による『帰台投票』の事例を中心に」『交流』№937、2019年4月。
[*19] 小笠原欣幸「習近平の包括的対台湾政策『習五項目』を解読する」。
〈http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/ogasawara/analysis/xifivepoints.html〉. 2020年11月2日にアクセス。
[*20] 例えば、“Taiwan primaries highlight fears over China’s political influence,” Financial Times, July 17, 2019; “Paid ‘news’: China using Taiwan media to win hearts and minds on island – sources,” Reuters, Aug 9, 2019.
[*21] 「習近平接見2017年度駐外使節工作会議與会使節並発表重要講話」新華社、2017年12月28日。
[*22] 「從“百年未有之大変局”中把握機遇」『求是網』2019年4月10日。〈http://www.qstheory.cn/dukan/hqwg/2019-04/10/c_1124344744.htm〉2020年12月28日にアクセス。
[*23] 米国の影響力や衰退のスピードをめぐる中国国内の議論については以下が詳しい。高木誠一郎「中国における米国パワーの認識:中国の崛起とアンビバレンスの変質」、平成28年度外務省外交・安全保障調査研究事業『米中関係と米中をめぐる国際関係』日本国際問題研究所、2017年3月。
[*24] 3つの側面のうち残りの2つは、新興国と途上国の国際的地位と話語権の向上(「南昇北降」)と、新たな技術革命は非西側諸国が(西側を)追い越すのに有利、という点である。
[*25] 例えば、「新発展階段新在哪裡? 陳一新從八個方面進行闡釋」2021年1月15日。〈https://w
ww.sohu.com/a/444668793_118060〉2021年1月19日にアクセス.,「中国現代国際関係研究院院長袁鵬:美国病了 中国穩了 世界変了」2021年1月18日。〈https://www.chinanews.com/gj/2021/01-18/9389685.shtml〉. 2021年1月20日にアクセス.,「命運與共同涼熱(中国制度面対面⒁)―和平外交政策如何營造良好国際環境?」『人民日報』2020年8月18日。
[*26] 厳安林「新冠疫情爆発以来台湾当局與美国関係新進展、原因及其影響前景」『台湾研究』2020年第4期。
[*27] Pew Research Center, Oct 6, 2020.
〈https://www.pewresearch.org/global/2020/10/06/unfavorable-views-of-china-reach-historichighs-
in-many-countries/〉
[*28] 蘇美祥、単玉麗「探索“兩制”台湾方案:時代命題、有利条件和策略選択」『台湾研究』2020年第3期。
[*29] 潘飛「“印太戦略”考慮下的特朗普政府対台政策」『台湾研究』2019年第4期。
[*30] 「人民政協報:台湾問題不能拖太久 西方一些国家在一中原則上松動」2021年1月30日。
〈https://i.ifeng.com/c/83TUUYTlh87〉
[*31] United States Senate Committee on Foreign Relations, Jan 19, 2021.
〈https://www.foreign.senate.gov/hearings/nominations-011921〉
[*32] U.S. Department of State, Jan 23, 2021.〈https://www.state.gov/prc-military-pressureagainst-taiwan-threatens-regional-peaceand-stability/〉
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