ブラジル経済:前半は好調も下半期に課題
調査レポート
2022年06月15日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
小橋 啓
概要
2022年第1四半期のブラジルの実質GDPは前期比+1.0%となり、3四半期連続で成長率が加速した。(2021年第4四半期は前期比+0.5%から+0.7%に上方修正された)。前年同期比では、+1.7%となり、パンデミック前の2019年第4四半期の水準と比較しても1.6%pt上回っている。
供給面では、サービス業が前期比+1.0%と大きく拡大したが、商業が前期比+1.6%となり、3四半期連続の収縮からの脱却に寄与した。2021年12月導入の福祉手当「Auxilio Brasil」(前制度のBolsa Familiaに代わる貧困層への財政支援を目的とした政府プログラム)は支給額が平均でBolsa Familiaの2倍以上となっており、小売売上に寄与した可能性が指摘される。一方、ITなど他の産業分野では減速がみられており、農業も悪天候の影響で、大豆などの主要作物の単収が低下し、前期比▲0.9%となっている。産業用投入資材の世界的なボトルネックは残るものの、全体としてはサービスや外食などパンデミックの影響を最も受けた分野が大きく改善し、成長をけん引したといえる。
需要面では、民間消費が底堅く前期比+0.7%となった。対人活動の再開や効果が一巡すれば、インフレに伴う実質賃金の低下が、消費の成長を妨げる可能性がある。また、輸出は農産物輸出に支えられて前期比+5.0%となる一方、輸入は前期比▲4.6%となり、外需が経済成長にプラスに寄与した。
インフレ圧力が依然として強く、金融引き締め政策が長期化する可能性があることから、今後の見通しは厳しい状況が待ち構えている。金融政策が実体経済に反映されるまでにはタイムラグが生じるため、金融政策は今後数四半期にわたって現在の引き締め政策が維持される。金利は既に高水準にあり、消費や投資といった経済活動に悪影響を及ぼすことが懸念される。また、次期大統領選挙に伴う不確実性の高まりもブラジル経済にとっては逆風になりそうだ。明るい材料としては、国内の労働市場がここ数か月で強く改善し、就業人口は2022年4月に史上最高水準に達しており、個人消費の下支え要因と期待されることや、商品価格の高止まりや需要増加が一段の一次産品生産国のブラジル経済の成長回復に寄与する可能性などが挙げられる。
以上
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