モザンビーク:6年越しの経済活動再開
調査レポート
2022年06月28日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
小橋 啓
IMFはモザンビークの支援再開を決定した。2016年4月、20億ドル規模の非開示政府保証債務問題が発覚し、IMFは支援を停止していた。それから6年を費やし、国営企業の非開示債務は、LNGの 生産が開始された後に、政府収入の一部を返済に充てることや、一部債権者が汚職への関与を認めた上で債権放棄に応じるなどの措置をとることで支援再開に向けて進展がみられていた。2022年5月9日に拡大クレジットファシリティー(ECF)として3億4,080万SDR(4億5,600万ドル相当の特別引出権)の36か月の延長信用枠が承認され、今後投資家からの信頼が改善し、資金調達の制約も緩和されていくとみられる。ECFには、財政構造改革の実施、債務管理の透明性の向上、大規模なガスやその他の鉱物資源の管理をする政府系ファンドの設立などの条件がつけられている。また、世界銀行は2022年に合計3億ドルの直接支援を決め、健康、教育、エネルギー、農業などの分野を優先して支援するとしている。
同国北部の治安が改善していることも、モザンビークの追い風になっている。モザンビークは北部カーボデルガード州を中心に豊富な天然ガス田があり、埋蔵量は100兆立方フィート(Tcf)を超えるとされているが、近年はイスラム急進主義勢力によるテロが頻発するなど治安悪化により開発が中断されていた。しかし、2021年、政府が南部アフリカ開発共同体(SADC)などの軍事支援を受け入れたことで、州の港や武装組織の本拠地を制圧し、10月には軍事作戦によりリーダーが死亡するなど、武装組織が弱体化したことで治安が急速に改善され、天然ガス生産再開の見通しが立ってきた。治安悪化により中断していたトタルエナジーズや三井物産が参画する「エリア1天然ガス開発プロジェクト」は2022年内再開を目指すほか、同国初の洋上LNGプロジェクトであるコーラルサウス鉱区では2022年後半に最初の天然ガスの生産が予定されている。ロシア・ウクライナ紛争を機に、ロシア産ガスからの脱却を目指す欧州諸国を中心に関心が高まっており、モザンビークにとってガス生産は財政面でも非常に重要な位置づけにある。
現在のモザンビークの経済規模は名目GDPベースで年160億ドル程度に過ぎないが、天然ガス開発を起点に大きな成長を遂げることへの期待が高まりつつある。コロナ禍の影響で2020年には前年比▲1.2%まで縮小した実質GDP成長率は、2021年には+2.3%に回復し、2022年に入っても加速している。モザンビークは、2022年第1四半期にパンデミック関連の規制が解除され、治安も改善されたことが追い風となって、前年同期比+4.1%の成長を記録した。今後天然ガス生産が軌道に乗れば、鉱業・採掘部門がけん引して、さらなる成長も見込める。ただし、同国では、政府総債務が対GDP比で100%を大きく超えている点が懸念されており、世界的に金利が上昇しているため、その管理の重要度が増している。IMFは今後のガス生産を見越して、経済成長の加速や、債務の圧縮を期待している一方で、改善されたとはいえ、治安が再び悪化するようなことがあれば、ガス田開発が遅延するなど、回復の前提が崩れることにもなりかねないため、社会情勢の変化には留意が必要だ。
以上
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