インド経済:生産は回復も、物価の上昇などが景気の足かせに(マンスリーレポート7月号)

2022年07月05日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

経済概況・先行き・注目点:回復が続いている。2021/22年度第4四半期(2022年1~3月)の実質GDP成長率は、第3四半期の前年同期比+5.4%から同+4.09%に鈍化した。足元では、ホテル・レストランなどのサービス業が回復しているものの、ウクライナ情勢の影響などでインフレが加速し内需への下押し圧力となっている。特に輸入依存度が高い原油、食用油などの価格高騰が、企業・家計への負担になっている。先行きについては、コモディティ価格の高騰、通貨安、利上げなどが逆風となり消費・投資が抑制されるとみられ、回復は続くもののペースは鈍化するものと思われる。IMF、世界銀行、ADBによる2022/23年度の実質GDP成長率の見通しはそれぞれ+8.2%、+7.5%、+7.5%。注目点は、足元の生産が回復しつつあるものの、卸売物価の上昇などがコスト負担増となる結果、生産が停滞したり企業業績が悪化したりする懸念があることだ。

 

    経済成長率見通し (出所)IMF、世界銀行、ADBよりSCGR作成    

 

生産:回復が続いている。4月の鉱工業生産は前年同月比+7.1%と前月の同+2.2%から伸びが拡大。特に石炭、肥料、セメント、発電の伸びが同+20%を超えた。今後については、外需の鈍化、金融引き締め、卸売物価の上昇などが生産活動の足かせとなるものの回復が続くとみられる。

 

貿易:輸入が急増、貿易収支が悪化している。輸出は5月前年同月比+20.6%の389億ドルと、4月の同+30.7%の402億ドルを下回ったものの好調を維持。特に通貨安や原油価格の上昇により石油関連製品の輸出が急拡大した(同+60.9%の85.5億ドル)。先行きについては、ウクライナ情勢などに伴う世界的なインフレの影響を受け外需が鈍化することが懸念され、輸出の勢いはやや鈍化すると予想する。輸入は、5月同+62.8%の855億ドルと4月の同+31.0%の603億ドルから急増。特に国内生産に必要なエネルギー関連や貴金属(金・同+789%の60億ドル、石炭・同+173%の54.2億ドル、石油・同+103%の192億ドル)の伸びが目立った。5月の貿易収支は▲243億ドルと4月の▲201億ドルから赤字幅が拡大し、過去最大を記録。今後、コモディティ価格の高騰が続くことにより輸入額が増加し、貿易赤字がさらに拡大することが懸念される。

 

    主要経済指標(出所)インド中央統計局、インド商業統計局よりSCGR作成    

 

物価:高水準が続いている。5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+7.04%と4月の同+7.79%から伸びは低下したものの、インフレ目標である+2~6%を5か月連続で上回っている。5月の卸売物価指数(PPI)は同+15.88%と4月の同+15.08%から加速、14か月連続の上昇で、その上昇幅は+10%台で高止まりしており、企業収益を悪化させている。今後、燃料・食料品価格の高騰はピークアウトするとみられるものの高水準が継続し、年内はインフレ目標を上回るだろう。また、7月18日から物品・サービス税(GST)の免除や税率の譲歩などを受けていた一部品目の物品・サービス税(GST)が引き上げられるため、同品目の価格上昇が加速するとみられる。

 

金融政策:インド準備銀行(RBI、中央銀行)は、インフレ加速に対応し、5月4日の臨時会合で政策金利を0.4%引き上げ4.40%とし、現金準備率(CRR)も0.5%引き上げ4.5%とした。6月8日の会合でも政策金利を0.4%引き上げ4.90%とした。今後もインフレや米国の利上げに伴い追加利上げが実施されるとみられる。

 

財政政策:財政赤字の拡大が懸念されている。ガソリンやディーゼルに対する減税などインフレ対策の費用が増大しており、公共投資(予算案では前年度比+24.5%)などの景気対策への支出が削減される可能性がある。2021/22年度の財政収支(連邦政府)のGDP比は▲6.7%。2022/23年度は同▲6.4%に縮小することを目指している。今後、政府は価格が高騰している石油製品の輸出で利益を得ている企業に対し超過利得税を7月に課すことに加え、上述の一部品目のGST引き上げや議会で検討中のGST改革により、税収増となる可能性がある。

 

    物価(出所)インド中央統計局よりSCGR作成    

 

為替: 下落している。6月30日現在、1ドル79ルピー近辺と史上最安値を更新している。ルピー安圧力を和らげるため為替介入を実施したり、石油製品輸出税と金輸入税を引き上げたりしている。年内は米国による利上げや財政・経常赤字の拡大などを背景に嫌気されドル買いルピー売りの動きが続き、ルピーは下落し続けるとみられる。

 

株価:2021年12月以降、軟調な動きが続いている。世界的なリスクオフで2021年末から2022年6月までで約9%下落している。今後も世界的なリスクオフ、財政・経常収支の悪化観測や利上げなどが懸念され、軟調に推移するとみられる。

 

     為替・株価 (出所)BloombergよりSCGR作成    

 

以上

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。