インドネシア経済:輸出、消費がけん引し堅調な回復を維持(マンスリーレポート8月号)

2022年08月16日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子

経済概況・先行き・注目点:足元の経済は堅調な回復が続いている。実質GDP成長率は2021年第2四半期以降前年同月比でプラスに転じ、2022年第2四半期は同+5.44%と、第1四半期の同+5.01%から加速、3四半期連続で5%台となり、COVID-19拡大以前の平均的な伸びの水準を維持。特にウクライナ情勢の影響で世界的にコモディティ関連の商品の需給がタイトになっており、同輸出が堅調に推移しているほか、5月初旬前後のイスラム教の断食明け大祭(レバラン)休暇もあり消費が拡大したことも寄与した。先行きについては、輸出・投資などが堅調に推移し、回復が続くと予想する。中央銀行による2022年の実質GDP成長率予測は、前年比+4.5~+5.3%。IMF、世界銀行、ADBはそれぞれ同+5.3%、同+5.1%、同+5.2%と予測。注目点は、政府が優先的に整備するインフラ関連事業などを盛り込んだ国家戦略プロジェクトが7月に見直され、2024年末までに完工できるプロジェクトに絞られた点だ。

 

経済成長率見通し (出所)IMF、世界銀行、ADBよりSCGR作成

 

小売売上高:回復ペースが加速している。7月の小売売上高は前年同月比+8.7%(中央銀行予測値)と前月の同+4.1%から伸びが拡大し、回復が加速する見込み。物価上昇の影響などを受け食料品・飲料・たばこ、自動車燃料が2桁の上昇になるとみられる。今後、物価上昇などの影響を受け消費マインドの悪化が懸念されるものの、回復は続くとみられる。

 

生産: 回復が続いている。2021年8月以降、製造業PMIは景気の好不調の節目となる50を上回っているが、7月は内需の増大が寄与し51.3となり、供給網の分断や卸売物価の上昇が響いた6月(50.2)を上回った。先行きについては、投資の拡大や政府が進めている国産品使用の奨励などの効果が続き、安定的な回復が続くとみられる。

 

貿易: 輸出入ともに堅調を維持している。6月の輸出額は、前年同月比+41%の261億ドルだった。パーム油と同関連製品の輸出規制が緩和されたためだ。同禁輸のため減速した5月(同+27%、216億ドル)から、3、4月に記録した同+40%台を回復した。今後も堅調を維持すると予想するが、国際的な資源価格の高騰が一服しつつあり、伸びが鈍化する可能性がある。6月の輸入額は、同+22.0%の210億ドルだった。貿易収支は51億ドルの黒字(黒字は26か月連続)。今後、内需拡大により輸入額が増加し貿易黒字が縮小する可能性がある。

 

    主要経済指標(出所)インドネシア中央統計庁よりSCGR作成

 

物価: 上昇基調。7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+4.94%と、6月の同+4.35%を上回った。6月に続き7月も中央銀行のインフレターゲットである+2~4%の上限を超えた。特に降雨過多で不作だった赤唐辛子、赤玉ねぎなどの価格が高騰し食料品やアルコール飲料・たばこが同+9.35%(6月・同+8.26%)と最も高く全体を押し上げた。足元の資源価格が低下傾向にあるため、今後は緩やかな上昇になり+4%付近にとどまると見込まれる。

 

金融政策:引き締めに向かっている。中央銀行は17か月連続で政策金利である7日物リバースレポ金利(3.5%、過去最低)は据え置いているが、米国の利上げを受け預金準備率を3月、6月、7月に計400bp引き上げ7.5%としており、9月にはさらに150bp引き上げ9.0%とする予定。また、7月の会合では、7日物より長い短期市場金利を引き上げる方針を示している。年内には政策金利の引き上げが開始されると予想する。

 

財政政策: 財政収支は改善しつつある。COVID-19対策のため支出が増加し2021年度の財政収支はGDP比▲4.65%だった。2022年度の予算案では同見通しは同▲4.85%だが、財務省は同▲3.92%に抑制することも可能との見通しを7月に示している。国家財政法に財政赤字の上限を同▲3%とすると規定されているものの2020年3月に時限措置として緊急政令を定めその適用を停止しているが、2023年度には▲3%以内への縮小を目指している。

 

    物価(出所)インドネシア中央統計庁よりSCGR作成

 

為替(対ドル):上昇している。米国での利上げ加速観測が低下したことに加え同国での貿易黒字が続いていることなどが背景にある。今後は、貿易黒字が続くことが好感されることに加え、同国での利上げ観測の高まりなどがルピア売りドル買いを抑制し、緩やかな上昇がしばらく続く可能性がある。

 

株価:上昇している。ジャカルタ総合指数は、5月以降、世界の経済成長の鈍化が懸念され、大半のアジア株がその影響を受け、同指数も下落していたが、7月中旬以降上昇傾向にある。8月には米国のインフレ率が低下したのを受け米国での利上げペースの鈍化が期待されており、インドネシアへの投資資金の流入期待が高まり、同指数は上昇している。ただし、世界経済の成長に対する不透明感が高まっているため、今後は緩やかな上昇にとどまるか、横ばいがしばらく続く可能性がある。

 

    為替・株価 (出所)BloombergよりSCGR作成

 

以上

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。