「アルバニアがイランとの断交を発表」中東フラッシュレポート(2022年9月前半号)
調査レポート
2022年09月26日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司
2022年9月21日執筆
1.アルバニアがイランとの断交を発表
9月7日、アルバニアのラマ首相は、7月15日に発生したアルバニア政府や公共サービス関連のウェブサイトに対する大規模なサイバー攻撃にイラン政府が関与していた確たる証拠が発見されたとして、イランとの国交断絶を発表した。断交は即時実行に移され、在アルバニア・イラン大使館職員に対して24時間以内の国外退去を求めた。米国家安全保障会議(NSC)はアルバニア政府を支持する声明を出しイランを非難。また米財務省は、イランの情報省とハティブ情報相を制裁対象に指定。イラン外務省は「根拠が無い」として、アルバニア政府による断交の決定を非難した。
この背景には、イランの現イスラム共和国体制の打倒を目指す反体制組織「モジャーヘディーネ・ハルグ(MEK)」の存在があると考えられる。MEKは当初イランから隣国のイラクへ逃れたが、フセイン政権崩壊以降のイラクでイランの影響力が強まるにつれてイラク国内でもMEKに対する取り締まりが強まったため、2013年に米国の支援を得てNATO加盟国であるアルバニアにMEKのメンバー約3,000人が移動。現在も彼らはアルバニア国内にかくまわれている。NATO加盟国に対する軍事攻撃は難しいため、アルバニアに対するイランからのサイバー攻撃は今後も続くものと予想される。
2.エジプトのシシ大統領が初めてカタールを訪問
9月13日、エジプトのシシ大統領は就任後初めてカタールを訪問しタミーム首長と会談を実施、投資協力などに関する3件の覚書に署名した。エジプトは2017年6月にサウジアラビアやUAEなどとともにカタールと断交したが、2021年1月には国交を回復。その後両国の関係は徐々に改善しており、2022年3月にはムハンマド副首相兼外相が、6月にはタミーム首長がエジプトを訪問した。
コロナ禍で疲弊したエジプト経済は、2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻以降の世界的な商品価格の高騰、観光客の減少、同国へのFDI(海外直接投資)の国外逃避などを受けてますます厳しくなり、現在IMFに新規融資を要請中。カタール政府は2022年3月にエジプトの外貨準備を支えるため、エジプト中央銀行への預託という方法で30億ドルの金融支援を実施している。
3.ギリシャの沿岸警備艇がトルコの貨物船に対して発砲
9月10日、トルコとギリシャの間にあるエーゲ海の公海上(トルコの沿岸から約20キロメートルの地点)で、ギリシャの沿岸警備艇がトルコの貨物船に向けて発砲する事件が発生した。ギリシャ側は、貨物船が不審な動きをしていたので停止させようとしたが速度を上げたため威嚇射撃を行ったと説明したが、トルコは反論。
両国はともにNATO加盟国だが、領海問題やキプロス問題など歴史的に多くの問題を抱えており、事あるごとにお互いを 強く非難し合っている。両国ともに2023年に選挙を控えているため、対外的に強気な姿勢を見せて国内有権者にアピールする狙いもあるとみられる。
4.リビア情勢
- 9月8~9日にドイツのベルリンで、米国、英国、ドイツ、フランス、イタリア、トルコ、エジプト、国連の代表者が参加して、リビアの選挙実施までの道筋を話し合う会議が開催された。しかし、当事者であるはずのリビアの東西両政府関係者やリビアの高等国家選挙委員会(HNEC)などは呼ばれなかった。ドイツでは、同様の会議が2020年1月(ベルリンI)と2021年6月(ベルリンII)にも開催されたが、リビアでの選挙実施までの道のりはまだ遠そうだ。
- 9月8日、リビア西部の首都トリポリを拠点とする国民統一政府(GNU)のドゥベイバ首相がカタールを訪問し、タミーム首長と会談を実施した。その3日後の9月11日には、リビア東部を拠点とする代表議会(HoR)のサーレハ議長も、リビア国民軍(LNA)のハフタル司令官の息子とともにカタールを訪問。リビアの東西対立にカタールが調停役を買って出ようとする動きがみられる。
- リビア中央銀行は、2022年1~8月の財政状況を公開。2022年1~8月のリビアの石油収入は総額156億ドルで、石油収入が同期間の国家収入全体の98%を占めている(その他は税収など)。同期間の支出は約116億ドルで、うち43%が公務員給与支払いとなっている。
- 2022年8月のリビアの原油生産量は、油田やターミナルの閉鎖が解消されたおかげで、7月の日量68万バレル(bpd)から大幅に増え108万bpdまで回復した。なお、9月2日の1日の生産量は122.6万bpdを記録。
以上
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