フィリピン経済:輸出落ち込み、輸入増で貿易赤字拡大(マンスリーレポート10月号)
2022年10月19日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子
経済概況・先行き・注目点:足元の経済は堅調に推移している。第2四半期の実質GDP成長率は前年同期比+7.4%と、伸びは第1四半期の同+8.2%より鈍化したものの、5四半期連続で前年同期を上回った。COVID-19感染拡大規制と入国制限の緩和などが経済回復に寄与した。GDPの約7割を占める個人消費は、インフレ高進による消費者心理の冷え込みにより、第1四半期の同+10.0%から同+8.6%に鈍化したものの、依然高い水準を維持した。先行きについては、観光業が軌道に乗り、主要政策である「ビルド・ビルド・ビルド」によるインフラ投資が後押しすることで、堅調さを維持するとみられる。ただし、ペソ安更新や世界経済の成長鈍化への懸念が高まっている。2022年の政府による実質GDP成長率見通しは+6.5~+7.5%。IMF、世界銀行、ADBの2022年の実質GDP成長率の見通しは、それぞれ+6.5%、+6.5%、+6.5%。注目点は、6月末に発足したマルコス政権は10月7日に100日を迎えたが、前政権から引き継いだ経済政策で一定の評価は得られている一方、課題も多くあり、その一つである外資規制の改革などに期待が寄せられている点だ。
生産:回復している。製造業PMIは、9月は52.9となり、8月の51.2から改善した。景気の節目となる50を8か月連続で上回っている。国内の旺盛な需要から工業生産が拡大した。インフレ圧力の緩和により、投入価格が20か月ぶりに鈍化した。今後は、政府の経済政策の実施などにより内需が増勢し、生産は回復が続くとみられる。また、企業は需要拡大を見込んで在庫を増加させている。
貿易:貿易赤字が拡大している。8月の輸出額は前年同月比▲2.0%の64億ドルと、7月の同▲4.2%から2か月連続でマイナスの伸びとなり、世界経済の減速の影響を受けている。品目別では、輸出額全体の6割弱を占める「電子製品」が同▲1.6%と前月の同▲7.9%よりマイナス幅が減少した一方、大幅に伸びたのは「ココナツ油」(同+26.6%)。国別では、輸出額全体で最も割合が大きい米国向けが同+0.78%だった一方、中国向けが同▲21.1%と4か月連続でマイナス成長が続いた。今後も、世界的な景気減速により輸出が伸び悩む可能性がある。8月の輸入額は同+26.0%の124億ドル。上位3品目では、「電子製品」(全体の23%)が同+3.1%、「鉱物性燃料・潤滑油」(同16%)が同+75.6%、「輸送機器」(同8%)が同+75.8%だった。資源価格の高騰、ペソ安の進行に加え、内需の増勢が続くため、今後もしばらく輸入拡大が続くだろう。そのため、貿易赤字の拡大(8月に同+75.8%の60億ドルと過去最大を記録)が大きな懸念事項になっている。
物価:高水準が続いている。9月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+6.9%。8月の同+6.3%より加速、約4年ぶりの高さとなりインフレ目標である+2~+4%を6か月連続で上回っている。全体の40%弱を占める「食料品・非アルコール飲料」が同+7.4%(8月同+6.3%)と加速、台風による供給網の乱れでコメなどの主要食料品の価格が上昇し全体を押し上げた。全体の19%を占め燃料価格が反映される「運輸」が同+14.5%(8月同+14.6%)だった。国内での燃料の大半を輸入に頼っており、ペソ安による輸入物価の上昇を受けていることに加え、10月からバスなどの公共交通機関の運賃引き上げや、年間で消費が最も旺盛になるクリスマス商戦を控え、今後もCPIは加速するだろう。
金融政策:利上げが続いている。中央銀行は、政策金利を5会合連続で引き上げている。5月と6月に0.25%ptずつ、7月には緊急で金融政策決定会合を開き、0.75%ptの大幅引き上げを実施、8月、9月にもそれぞれ0.50%pt引き上げ4.25%とした。対ドルで最安値圏に沈む通貨ペソを防衛するため、中銀は、2022年の年末までは追加利上げを実施するとみられる。
財政政策:大幅な赤字が続いている。財政収支のGDP比は、2021年▲8.6%まで悪化した。2022年1~6月の政府支出総額は前年同期比+8.9%の2兆4,017億ペソ(420億ドル)、うちインフラ支出は前年同期比+12.2%の4,779億ペソ(84億ドル、GDP比2.3%)だった。2022年の財政収支の政府見通しはGDP比▲7.7%。マルコス政権は、インフラ支出は削減せず、GDP比で5~6%を維持し、広範な税制改革と経済成長による税収増に取り組む意向。
為替(対ドル):過去最安値を更新している。米国の利上げ加速観測が強まったことに加え、欧州でのエネルギー危機の深刻化、世界的な景気減速などが嫌気され、ペソ安が進んでいる。ただし、為替取引に関する報告ルールの厳格化や財政赤字の改善などを受け、やや反騰する場面もあった。米国での積極的な利上げの継続や貿易赤字の拡大が懸念され、今後もペソ安基調が続くだろう。
株価:上昇に転じている。フィリピン総合指数は3月以降、米国の利上げペース加速観測などを受け9月末まで下落したが、その後、製造業の回復、財政赤字の改善、与信拡大などが好感し、上昇に転じた。今後、世界的な景気減速が懸念されるため、下落に転じる可能性がある。
以上
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