商品:世界鉄鋼協会 短期需要見通し(2022年10月)

2022年10月28日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
鈴木 直美

 

2022年10月26日執筆

 

要旨

 

  • 世界鉄鋼協会の最近の半期予測によると、2022年の世界鋼材需要は17億9,700万トンと前年を下回る見通し
  • 2022年の需要見通しは3期連続の下方修正
  • 中国の鋼材需要は2020年をピークに2年連続で減少し、2023年も横ばいが続く公算

 

 

 世界鉄鋼協会(WSA)が10月19日に「Short-Range Outlook October 2022」を発表した。これによると、世界の鋼材需要は2021年に初めて18億トン台を記録したが、2022年は17億9,670万トンと、4,210万トンの減少(前年比▲2.3%)になる見通し。前回予測はロシアのウクライナ侵攻後から1か月半ほど経過した4月中旬で、この時点でも22年の世界需要を前年比0.4%増と慎重に見積もり「不確実性は高い、持続的かつ安定的な回復への期待が揺らいだ」としていたが、今回は高インフレ・金利上昇・中国経済の減速・ロシアのウクライナ侵攻の影響などから大幅な下方修正となった。2023年についても、前回の2.2%増の予測から1.0%増に引き下げ。需要量は23年時点でも18億1,470万トンと、21年水準を超えない見通しとなっている。23年の需要はインフラ需要により若干押し上げられる見込みではあるものの、金融引き締めの影響と中央銀行によるインフレ期待の鎮静化の手腕にかかっており、EUの見通しは前回予測から1,100万トン下方修正したうえで更に下振れリスクにさらされていると述べられている。

 

 

鋼材需要(出所:世界鉄鋼協会(WSA)より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

2022~23年の需要変動(出所:世界鉄鋼協会(WSA)より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 2022年の世界需要量の予測は2021年10月、22年4月に続く3回連続の下方修正であり、22年の予測が最初に公表された21年4月時点からは実に1億2,800万トン(▲6.6%)もの下振れとなる。このうち1億2,100万トンは中国の下方修正だ(21年4月予測:10億3,510万トン⇒22年10月:9億1,400万トン)。中国の鋼材需要は伸びが一服して高原状態に転じると数年前から予想されながら、それを跳ね返す伸びが続いてきたが、2020年をピークに2年連続で減少し、今回の予測では23年も横ばいとなる。

 

 

中国の鋼材需要見通し(出所:世界鉄鋼協会(WSA)より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 WSAは中国について、2021年後半からの需要回復は22年第2四半期から暗転し、ロックダウンの繰り返しで経済が急速に冷え込んだと指摘。不動産不況は深まり、ゼロコロナ政策と不動産開発業者の経営破綻で買い手の信頼感も弱く、政策措置はあっても本格回復は期待薄だと述べる。鋼材需要は2022年1~8月に前年比▲6.6%減少したが、22年下期はベース効果もあり、通期で前年比▲4.0%減の見通し。2023年の予測は小規模な景気刺激策が新たに導入され、ロックダウン措置が22年中におおかた解除されるという前提に基づいており、そうでなければ大きな下振れリスクがあるという。中国の不動産主導の経済成長は転機を迎えており、それに伴い鋼材需要にもピークアウト感が強まっているようだ。

 

 

 先進国の需要も2022年3億9370万トン、23年3億9,460万トンと、前回予測からそれぞれ1,000万トン(22年)、1,890万トン(23年)の下方修正。2022年は前年比▲1.7%減となり、2023年の需要予測は21年水準に届かない。EUは高インフレとエネルギー危機が、相対的に強かった米国はFRBの積極的な利上げとドル高、財からサービスへの支出のシフトなどが、それぞれ需要を下押しするとみられている。日本に関しては2022年が5,750万トン(0.2%増)、23年は5,850万トン(1.7%増)で、22年は非住宅用建設・機械部門、23年は自動車部門で需要増を想定。韓国は22年・23年とも5,460万トンの予想で、22年は前年比▲2.5%減少するが、23年は自動車部門と船舶建造の見通し改善に下支えされ下げ止まる見込み。ただし世界経済の減速で日本・韓国とも輸出需要には下振れリスクがある。

 

 

 中国を除く新興・途上国の見通しはまちまち。エネルギー輸入国は深刻なインフレと金融引き締めに悩まされており、建設部門は材料費高騰と高金利、あるいは政府支出がインフラ投資に代わりインフレ救済措置に向けられることにより影響を受ける。他方、インドやASEANなどは都市化・工業化に伴うインフラ投資などで、中東・北アフリカ(MENA)は原油価格高騰とエジプトの大規模インフラプロジェクトなどで、それぞれ堅調な需要が期待されている。ロシアは原油価格高騰と建設に対する政府支援措置で当初見込みほどは落ち込んでいないが、西側制裁による経済活動への影響が波及するにつれ需要は悪化する見込み。ウクライナは2022年に需要が半減したが、23年は一部で復興需要が見込まれている。

 

 

主要消費地の需要動向(予測)(出所:世界鉄鋼協会(WSA)より住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

以上

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