ベトナム経済:世界的な景気減速を受け生産活動が鈍化(マンスリーレポート11月号)
2022年11月08日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子
経済概況・先行き・注目点:足元、堅調に推移している。第3四半期の実質GDP成長率は前年同期比+13.67%と前期の同+7.72%から加速、四半期ベースで2000年以降最大の伸びを記録した。COVID-19流行でロックダウンが実施された前年同期の反動により内需が大きくけん引した。足元では、観光などが増勢している一方、通貨安、インフレの加速が懸念事項になっている。先行きについては、インフレの加速、世界的な経済減速などにより、成長がやや緩やかになる可能性がある。計画投資省は、2022年の実質GDP成長率見通しを従来の+6.0~6.5%から、10月に入り+7.5~8.0%に上方修正した。第2四半期に続き、第3四半期のGDPも好調さを維持したことなどが織り込まれたため。IMF、世界銀行、ADBによる同見通しはそれぞれ+6.0%、+7.2%、+6.5%。注目点は、景気が減速している欧米への繊維製品の輸出の勢いが弱まっている点だ。第3四半期の国営繊維・アパレル最大手のビナテックスの純利益は3割減だった。
小売売上高:高水準を維持している。10月の小売売上高は、前年同期比+17.1%と9月の同+36.1%からは減速したものの、7か月連続で伸びが2桁台となった。COVID-19抑制のためのロックダウンが実施された前年同月の反動で大幅に増加、特に入国制限の緩和に伴い観光が同+424.0%と急回復が続いている。今後も小売売上高は、旺盛な内需が下支えし高水準を維持するとみられる。
生産:回復ペースが鈍化している。10月の鉱工業生産指数(IIP)は、前年同月比+6.3%と9月の同+13.0%から伸びが鈍化した。中国をはじめ世界的に鉄などの需要が減退しているため「1次鉄鋼製品」が同▲7.6%と落ち込んだ。一方、内需拡大と半導体不足の解消が進み、「自動車」、「二輪自動車」はそれぞれ同+30.1%、同+28.8%だった。今後は、自動車関連や外食店の営業制限の緩和を受けビールなどの飲食関連が増産されるものの、欧米では高インフレで消費が減退しているため、繊維製品などの輸出が鈍化傾向にあり、全体のIIPの伸びは緩やかになる可能性がある。
貿易:輸出の伸びが鈍化している。10月の輸出額は、前年同月比+4.5%の303億ドルとなり、伸び率では9月の同+10.3%から鈍化した。最大の輸出品目である電話・電話部品が同▲9.4%、鉄鋼が同▲66.9%と落ち込んだ一方、前年同月に南部のロックダウンの影響を受けて落ち込んだ反動で、履物が同+153.3%と3か月連続で3桁台の伸びとなった。輸入額は同+7.1%の280億ドルと、9月の同+6.4%から伸びは拡大した。貿易収支は、9月の11億ドルから23億ドルに拡大した。先行きについては、世界的な需要減の影響を受け、輸出が鈍化するだろう。
物価:上昇している。10月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+4.30%と、9月の同+3.94%から伸びが加速、2020年3月の同+4.87%以来の高水準となった。ガソリン価格などが反映される「交通」は、同価格の引き下げにより上昇幅が同+1.81%にとどまった一方、新学期が始まり教科書価格などが上がったことを受け、「教育」が同+10.64%と最も高い伸びとなった。年内は、政府のインフレ対策などにより、2022年のインフレ目標である+4%を大幅に超えることはないとみられる。
金融政策:利上げしている。通貨ドンの下落に歯止めをかけるため、9月に続き10月も2か月連続で政策金利を1%引き上げた(再割引金利(リファイナンスレート)を5.0%から6.0%、基準割引率(ディスカウントレート、公定歩合)を3.5%から4.5%)。今後も、米国の利上げに伴い利上げを実施するとみられる。
財政政策:景気刺激策を継続。2021年の政府の財政収支のGDP比は▲3.5%(IMF)だった。2022年、2023年のIMF予測(10月時点)はともに同▲4.7%。経済成長に伴い2022年1~9月の政府歳入は前年同期比+22%と、通年予算の歳入の94%を達成している。今後も、付加価値税などの引き下げ、企業への融資支援、インフラ投資の増額などの景気刺激策が続くだろう。
為替(対米ドル):過去最安値水準を更新している。米国の利上げに伴い、ベトナムを含む新興国の通貨が下落基調にある。中銀は、米国の利上げを背景にドン安に拍車がかかっているため、ドンの許容変動幅を切り下げ一定のドン安を容認している。今後も、しばらくドン安が進むものとみられる。
株価:下落している。ベトナムVN指数は8月下旬以降、世界的な株安を背景に地合いが悪化し、10月下旬には約2年ぶりに1,000の大台を割り込んだ。先行きについては、内需は他国と比較し堅調に推移しているものの、製造業生産の減速、海外直接投資の減少などのほか、世界的な株安につられ下落基調がしばらく続く可能性がある。
以上
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