タイ経済:外国人旅行者数急増、景気回復の追い風に(マンスリーレポート11月号)
2022年11月11日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子
経済概況・先行き・注目点:足元、回復が続いている。第2四半期の実質GDP成長率は前年同期比+2.5%と、第1四半期の同+2.3%の伸びを上回った。COVID-19規制の緩和、景気刺激策、国内外の旅行者数の増加などが寄与した。個人消費が同+6.9%と第1四半期の同+3.5%から増大した。また、海外からの観光客の増加などでサービスの輸出が同+54.3%(第1四半期同+32.5%)と大幅に増加した。一方、モノの輸出は同+4.6%(同+10.6%)と減速、総固定資本形成は同▲1.0%(同+0.8%)とマイナスに転じた。先行きについては、インフレ緩和が期待され消費・投資が増勢することに加え、景気刺激策が続き、観光業の回復なども支援材料となり景気回復が続くだろう。2022年の外国人旅行者数の政府目標は1,000万人(2021年実績43万人)。10月末時点までの累計は756万人だったが、今後11~12月で300万人を突破し政府目標を達成する見通し。2023年の外国人旅行者数の政府見通しは1,800万人。COVID-19拡大以前の2019年は約4,000万人だった。タイ中央銀行(BOT)による2022年の実質GDP成長率の見通しは+3.3%。IMF、世界銀行、ADBによる同見通しはそれぞれ+2.8%、+3.1%、+2.9%。注目点は、11月半ばにバンコクでアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が開催され、タイの国家戦略であるバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルを反映した「バンコク・ゴール」が宣言される見通しであることだ。
小売売上高:回復が続いている。8月の小売売上高は前年同月比+22.0%(7月同+17.6%)と、5か月連続で伸び率が2桁台となっている。なかでも「繊維」が同+56.7%、「衣料品・履物・皮革製品」が同+102.9%、「自動車・自動車燃料」が同+30.5%と高かった。先行きは、入国制限を含むCOVID-19抑制のための規制が大幅に緩和されたことによりリベンジ消費が続き、小売売上高の回復は続くとみられる。
生産:鈍化している。9月の鉱工業生産指数(MPI)は、前年同月比+3.4%と、8月の同+14.5%から伸びが鈍化した。そのうち、主要品目である「食品」(9月同+2.8%、8月同+13.2%)、「車両・トレーラー」(9月同+27.4%、8月同+61.6%)などがプラスだった一方、「コンピュータ・電子製品」(9月同▲9.3%、8月同▲3.3%)が8か月連続でマイナスだった。先行きは、外需減速により回復ペースが鈍化すると見込まれる。
貿易:輸出は回復している。9月の輸出額は前年同月比+7.8%の249億ドルだった。特に「電子製品・部品」が同+20.6%と大幅に伸びた。金額では、米国向けが同+26.2%の47億ドルと最多、次いで中国向けが同▲13.2%の27億ドルだった。9月の輸入額は同+15.6%の258億ドル、貿易収支は8.5億ドルの赤字だった。今後は、バーツ安が全体の輸出を押し上げるものの、外需の鈍化によりペースダウンするとみられる。一方、輸入はバーツ安が続くことに加え内需の回復が続き拡大するとみられ、貿易赤字が続く見込み。
物価:高水準でとどまっている。10月の消費者物価指数(CPI)は、前年同月比+5.98%と、9月(同+6.41%)を下回ったものの高水準が続いている。特に洪水被害による農産物の供給不足や「菜食期間(9月26日~10月4日)」による需要で「食料品・アルコール飲料・タバコ」が同+9.82%と3か月連続で9%台となった。先行きは、洪水被害が改善され農産物の供給が回復し、CPIはやや緩和するとみられる。
金融政策:利上げしている。BOTは、8月に3年8か月ぶりに政策金利(翌日物レポ金利)を25bp引き上げ、9月も25bp引き上げ1.0%とした。8月の利上げ前は、2020年5月以降過去最低水準の0.5%を維持していた。CPIがインフレ目標である+1~+3%を大幅に上回っているが、経済回復を優先し、今後の追加利上げも小幅なペースが続くとみられる。
財政政策:景気刺激策を続けている。2022年度(2021年10月~2022年9月)の一般政府の財政収支はGDP比▲5.6%、2023年度は同▲3.2%の見通し(IMF、2022年10月時点)。2023年度予算案での公的債務のGDP比は60.43%(政府設定の上限は同70%)の見通し。2023年度は、景気刺激策のほか、洪水で被災した国民への支援策などが織り込まれる予定。
為替(対ドル):上昇している。8月中旬以降、BOTによるドル売りバーツ買いでもみ合う場面はあったが、米国の利上げなどで下落基調が続いた。その後、米国の利上げ幅縮小の可能性が浮上したことなどが好感され上昇に転じた。先行きは、米国との金利差などがバーツへの下押し圧力となり再び下落に転じる可能性がある。
株価:上昇している。3月初旬から7月中旬までは、ウクライナ情勢や米国の金融引き締めに対する懸念が高まり下落、7月中旬から9月初旬までは観光業の回復などが好感され上昇していたが、その後10月中旬まで米国の利上げなどから下落した。10月中旬以降は、再び観光業の回復やインフレ圧力の緩和が期待され上昇傾向にある。今後しばらくは、内需の回復が続き緩やかな上昇が続くと見込まれる。
以上
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