中国経済:不動産市場の低迷が引き続き重石に(マンスリーレポート11月号)
2022年11月24日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
片白 恵理子
経済概況・先行き・注目点:足元、景気回復の勢いは鈍っている。2022年第3四半期の実質GDP成長率は前年同期比+3.9%で、上海のロックダウンで急激に景気悪化した第2四半期の同+0.4%から改善したものの、従来の勢いのある成長には及んでいない。2022年1~9月は同+3.0%であり、2022年通年の政府目標である前年比+5.5%前後の達成には第4四半期に同+10%以上が必要なため、達成は厳しい状況にある。「ゼロコロナ」政策の下でのロックダウン実施、不動産セクターの低迷が重石になっている。先行きについては、世界経済の減速に加え、国内での「ゼロコロナ」政策や不動産セクターの低迷などを背景に、低調な動きが続くと予想する。IMF、世界銀行、ADBによる2022年の実質GDP成長率の見通しは、それぞれ+3.2%、+2.8%、+3.3%。2023年はそれぞれ+4.4%、+4.5%、+4.5%。注目点は、不動産市場支援策が発表され同市場の回復が期待されるが、「ゼロコロナ」政策の下、その効果が読めない状況であることだ。
小売売上高:依然として低調さが続いている。10月の小売売上高は前年同月比▲0.5%と、9月の同+2.5%から伸びがマイナスに転じた。10月中旬以降のCOVID-19再拡大による厳格な移動制限の影響で、特に「飲食」の売上が同▲8.1%(9月▲1.7%)と減少幅は直近5か月で最も大きかった。小売売上高の約9%を占める「自動車」の売上は同+3.9%だったが9月の同+14.2%から大幅に縮小した。今後も、「ゼロコロナ」政策による行動規制が続き、小売売上高は低調な伸びが続くとみられる。
生産:緩やかな回復が続いている。10月の鉱工業生産は、前年同月比+5.0%と、COVID-19再拡大の影響などで需要が弱含み、伸びが9月の同+6.3%を下回った。ただし新エネルギー車(NEV)などの自動車生産は好調を維持し、同+18.7%と9月の同+23.7%から鈍化したものの、5か月連続で2桁台の伸びとなった。今後も引き続き自動車、特にNEVの需要増がけん引し、鉱工業生産は緩やかな回復を続けるだろう。
固定資産投資:持ち直しの動き。1~10月の固定資産投資(年初来累計)は前年同期比+5.8%と、1~9月の同+5.9%から伸びがやや減速した。うちインフラ投資は同+8.7%と1~9月の同+8.6%より伸びがやや加速したが、不動産投資が同▲8.8%と1~9月(同▲8.0%)より悪化した。今後、政府主導でインフラ投資が進められることに加え、16項目からなる不動産市場支援策を金融機関に通知しているものの、「ゼロコロナ」政策の下その効果は読めない状況にあり、大幅な改善とはならないとみられる。
貿易:前年同月比でマイナスに転じている。10月の輸出額は前年同月比▲0.3%の2,984億ドルと9月の同+5.7%から伸びが鈍化した。前年同月比でのマイナスは2020年5月以来。国内でのCOVID-19再拡大に加え外需の弱含みなどが主な要因となった。10月の輸入額も同▲0.7%の2,132億ドルと、9月(同+0.3%)から伸びがマイナスに転じた。貿易収支は852億ドルの黒字(9月は847億ドル)。今後は、自動車の輸出拡大が続くとみられるが、世界経済が減速傾向にあり輸出の落ち込みが続く可能性がある。
物価:やや加速している。10月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+2.1%と9月(同+2.8%)から伸びが鈍化したが、豚肉価格は同+51.8%(9月同+36.0%)と4か月連続で高水準だった。卸売物価指数(PPI)は同▲1.3%と、9月の同+0.9%から1年10か月ぶりにマイナスに転じた。今後、燃料価格の下落や食品などの供給増で値下がりし、CPIは政府目標である前年比+3%前後を達成するとみられる。
金融政策:緩和を維持。10月20日に発表した最優遇貸出金利(LPR)は1年物を年3.65%、住宅ローン金利の目安となる5年物を年4.30%に据え置いた。8月に年内3回目となる利下げに踏み切ってから、2か月連続で据え置いている。景気回復を下支えするため、引き続き緩和を維持するとみられる。
財政政策:一般政府の財政収支は、減税による収入減、景気刺激策などの支出増により悪化している。2020年の同財政収支のGDP比は▲9.7%(実績値)、2021年は同▲6.1%(推計値)、2022年は、歳入減、歳出増で収支は悪化するとみられ、▲8.9%の見通し(IMF、10月時点)。
為替(対ドル):足元若干上昇している。8月中旬以降、経済減速や10月の共産党大会後、経済成長よりも共同富裕を重視する政策への懸念などから続落し、15年ぶりの安値を更新していたが、11月に入り米国の利上げ幅縮小への可能性が高まったり、米中首脳会談を受け景気に対する不安が和らいだりし上昇した。今後、金融緩和策が続くため米国との金利差などを背景に、通貨安に転じるとみられる。
株価:上昇している。7月初旬から10月末にかけ、中国経済の減速、米国での利上げ幅拡大、台湾をめぐる緊張などが懸念材料となり下落していたが、11月初旬に米国での利上げ幅縮小の可能性、「ゼロコロナ政策」の見直しの発表などが好感され上昇した。今後も、米国での利上げペースが減速し、株価の上昇が続くと予想する。
以上
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