「シリアとの国境に近いトルコ南東部で大地震が連続して発生」中東フラッシュレポート(2023年2月前半号)

2023年02月28日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

2023年2月21日執筆

 

1.トルコ/シリア:シリアとの国境に近いトルコ南東部で大地震が連続して発生

 2月6日の早朝4時過ぎ、シリア国境に近いトルコ南東部を震源とするマグニチュード7.8の大地震が発生した。その約9時間後には、そこから北に約80km離れた場所で、今度はマグニチュード7.5の大地震が起きた。その後もマグニチュード4以上の大きな余震だけでも200回以上発生しており、死者数はトルコ・シリア両国で46,000人を超えた(トルコで40,642人、シリアで5,800人)。行方不明者も多く、死者数は今後さらに増加するとみられる。2月7日、トルコのエルドアン大統領は、7日間の服喪と、被害が大きい南部10県に対して、3か月間の非常事態宣言を発表した。

 

 外国要人も支援の表明に駆けつけており、2月12日にはカタールのタミーム首長がトルコを訪問し、エルドアン大統領と会談した。カタールとトルコはもともと関係が深く、タミーム首長は2016年にトルコでクーデター未遂事件が起きた際にいち早くエルドアン大統領支持を表明した。他方でトルコは、2017年にサウジアラビアやUAEなどがカタール断交を行った際には、一貫してカタールを支援した。なお、カタールにはトルコ軍基地が存在し数千人が駐留している。また同じく2月12日に、UAEのアブドゥッラー外務・国際協力相がシリアを訪問して、アサド大統領と会談した。アサド大統領は依然欧米からの厳しい制裁下にあり、アラブ連盟からも加盟資格を停止されているが、UAEは2018年にいち早くダマスカスに大使館を再開するなどアサド政権との関係改善を進めており、地震の翌日にはトルコ・シリア両国に対して合計1億ドルの支援を発表した。

 

 震源に近いシリア北西部は2011年から続いている内戦のため状況が複雑で、被災地はアサド政権の支配地域と反体制派の支配地域の両方にまたがっており、反体制派支配地域にはシリア国内からではなく隣国トルコからの越境支援が必要な状態である。そのような複雑な背景もあり、反体制派支配地域の被災地には地震発生から3日間外部からの支援が全く入らない状況が続いた。

 

2.レバノン:通貨ポンドを10分の1に切り下げ

 レバノン・ポンド(LP)は、1997年以来「1ドル=1,507LP」に固定されてきたが、2月3日に10分の1(1ドル=15,000LP)に切り下げられた。サラーメ中央銀行総裁は「複数ある為替レートの統一に向けた一歩」としたが、2月半ばには市場レートが1ドル=80,000LPと固定レートを大きく割り込んだ。過去3年間で通貨価値が97%下落したレバノンでは、(市民が預け入れた)銀行から米ドルを引き出せない状態になっており、怒った市民による銀行襲撃や焼き討ちなどが発生し、情勢不安がさらに加速している。IMFは財政支援と引き換えにレバノン政府に状況改善に向けた改革の実施を要請しているが、政府はこれまでのところIMFの要請に応じていない。

 

3.チュニジア:議会選挙第2回投票の実施

 1月29日、チュニジアで議会選挙の第2回投票が実施されたが、投票率は11.4%と2022年12月に実施された1回目の投票率(11.2%)と同様に低く、サイード大統領が推し進める政治プロセスに、国民が納得していないことが示された。サイード大統領は2021年7月に、突如首相を解任し、2022年2月には司法官職高等評議会を解散。同年3月には議会も解散し、7月には大統領権限を大幅に拡大する憲法改正の国民投票を実施した(投票率30%)。「アラブの春」の唯一の成功例として、民主化に成功した国と考えられてきたチュニジアの今後の情勢が懸念されている。

 

4.イラン:ライーシ大統領が中国を初訪問

 2月14~16日、ライーシ大統領は就任後初めて中国を訪問。北京で習近平国家主席との会談を実施し、包括的戦略パートナーシップの強化で合意した。イランの大統領が中国を訪問するのは約20年ぶりで、外相、石油相、経済相など6人の大臣や中央銀行総裁、核合意(JCPOA)再建交渉担当者なども随行した。中国はイランの最大の貿易相手国であり、イラン産原油の最大の輸出先でもある。2022年夏以降JCPOA再建交渉は事実上中断してしまっており、欧米からの厳しい制裁を受け続けているイランにとって、中国との関係強化はますます重要となっている。

 

5.イラン:2022年は原油生産・輸出量ともに増加

 石油輸出国機構(OPEC)のレポートによると、2022年のイランの原油生産量はOPECで5位の日量255.4万バレル(bpd)で、前年より7%(16.2万bpd)増加した。販売価格は平均単価1バレル99.92ドルで、前年比で43%上昇となった。2022年12月の原油輸出量は110~120万bpd程度とみられており、輸出先は主に中国向けで、ベネズエラ向けも増えているもよう。イランの来年度(2023年3月~)予算案では、140万bpdの原油を輸出する想定となっている。

 

6.イラク情勢

  • 内政・外交
  • 2月2日、サウジアラビアのファイサル外相がイラクを訪問。ラシード大統領、スーダーニ首相、ハルブーシ国会議長などと会談し、地域の緊張緩和に向けた取り組みや、サウジアラビア・イラク調整委員会の活性化などが話し合われた。
  • 2月2日、スーダーニ首相は米国のバイデン大統領との電話会談を実施(訪米中のアブドゥッラー2世・ヨルダン国王も参加)。テロ対策での協力や経済について話し合われた。
  • 2月8日、フセイン外相やイラク中央銀行総裁などのイラク政府使節団が訪米し、米ドル/イラク・ディナールの為替レートの問題などについて協議を実施した。2月9日には同外相はブリンケン国務長官らと会談し、イラン問題やガスフレアの問題、電力輸入先の多様化などについて協議した。
  • 2月6日、ロシアのラブロフ外相がイラクを訪問し、スーダーニ首相やラシード大統領との会談を実施した。両国の貿易額は年々増加しており(2022年は前年比約50%増)、また、イラクの油・ガス田開発プロジェクトには、Lukoil、Gazprom、Rosneftなどのロシア企業が参画し、これまでに130億ドルを投資しているとのこと。
  • 2月9~10日、スーダーニ首相はUAEを訪問し、ムハンマド大統領などとの会談を実施。二国間関係、貿易・投資の拡大や諸分野における協力拡大について話し合った。同首相は、UAEの企業関係者とも投資や経済協力に関する協議を行った。

 

  • 治安・その他
  • 1月31日、イラク南部で22歳の女性が父親に殺される事件が発生した。女性は単身でトルコに在住し、YouTuber として活躍していたが、一時帰省した際に、自分の娘が単身でトルコに住んでいるのを良く思っていなかった父親と口論になり、殺害されたという。部族色の強いイラクの地方部などでは、家族の恥(家名を汚した)とみなされた女性を男性家族が殺害する「名誉殺人」の習慣が今でも残っている。
  • 2月12日、イラク軍報道官は、同国東部のディヤーラ県における軍事作戦で、過激派集団イスラム国(IS)のテロリスト7人を殺害したと発表した。その中にはISのディヤーラ県におけるトップも含まれている。

 

  • 石油・経済
  • 2月7日、イラク中央銀行は、2月8日付で為替レートを1ドル=1,300イラク・ディナールとすることを発表した。
  • 2月9日、GCCIA(湾岸協力会議相互接続機構)は、GCC諸国の電力網とイラクを繋ぐために5社との契約を締結。具体的にはイラク南部とクウェートを繋ぐ295㎞の電力網を建設する。まずは500MWの容量で稼働し、最終的には1,800MWまで容量を上げる計画。プロジェクト総額は2億ドルが見積もられている。

 

7.リビア情勢

  • 2月8日、リビア東西勢力の軍事関係者による「5+5共同軍事委員会(JMC)」は、同国に約2万人いるとされる外国人傭兵や外国軍のリビア領内からの完全撤退を促す「統合メカニズム」の作成で合意した。リビア西部にはトルコ軍やシリア人の傭兵が、東部にはロシアの傭兵部隊ワグネルに加えスーダンやチャドの傭兵も存在する。

 

  • 2月15日、国民統一政府(GNU)のドゥベイバ首相はUAEを訪問し、ムハンマド大統領と会談を実施。二国間関係や投資・経済協力の強化、直行便の就航、在リビアUAE大使館の再開などについて話し合われた。

 

  • 国際人道法センター(IHLC)の発表によると、現在リビア国内に約61万人の違法移民が存在する。アフリカのみならず、シリアやイエメンなどアラブ諸国やバングラデシュなどアジアからも流入。リビアの海岸からボートで地中海を超えた対岸の欧州を目指す人も多く、国際移住機関(IOM)によると、2023年の1カ月半で既に欧州への渡航に失敗して34人が死亡、32人が行方不明になり、1965人がリビアに送り返されている。

 

  • 2023年1月のリビアの原油生産量は114万bpd。リビアの生産量は、ここ2年程度(生産停止などの問題が無い平常時で)110~120万bpdで推移してきた。リビア国営石油会社のベングダラ会長は、同国の石油・ガスセクターの戦略計画の策定を発表。計画には、原油生産200万bpdの達成や、今後のエネルギー転換で重要性が高まるガス開発への投資の加速などが含まれる。

 

  • IMFは2023年のリビアの実質GDP成長率を+17.9%と予測した(2022年成長率は▲18.5%)。

 

OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

以上

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