「スーダン情勢、シリアと周辺諸国の国交回復に向けた動き」中東フラッシュレポート(2023年4月後半号)

2023年05月17日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

2023年5月15日執筆

 

1.スーダン情勢

 スーダンでは、4月15日に正規軍と準軍事組織である即応支援部隊(RSF:Rapid Support Forces)との間での戦闘が勃発し、これまで幾度となく停戦合意が発表されては双方によって破られてきた。同国の首都ハルツームや西部ダルフールでの激しい市街戦で多くの民間人が巻き込まれており、既に死者数は600人を超え、負傷者数も5,000人以上となっている。日本人を含め大勢の在留外国人が国外に退避し、スーダン国民も20万人が周辺国などへ難民として流出し、80万人以上が国内避難民となっている。

 

 米国とサウジアラビアの仲介により、5月6日からサウジのジェッダで、スーダン軍とRSFの代表者による停戦交渉が行われているが、現時点で停戦は実現していない(民間人の保護と人道支援のための安全な通行を保証する宣言には署名したが、その後も戦闘は継続している)。戦闘が長期化すれば、隣国のリビアのように敵対する両者を後押しする外国勢力が介入してくる事態に進展する可能性もあるため、早期の解決が望まれる。

 

2.近年の中東諸国への武器輸出の傾向

 ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の報告によると、2018~22年の5年間の世界の武器輸入国トップ10に、中東からは3か国がランクインした(2位がサウジアラビア、3位がカタール、6位がエジプト。次点の11位がUAE)。中東全体への武器輸出は、その前の5年間(2013~17年)に比べて8.8%減少した。

 

 中東への武器輸出が多い国は、1位:米国(54%)、2位:フランス(12%)、3位:ロシア(8.6%)、4位:イタリア(8.4%)だが、サウジは武器輸入の約8割が米国からで、エジプトはロシアからの武器輸入が急増した。

 

3.サウジアラビア/シリア:国交回復に向けた動き

 4月18日、サウジアラビアのファイサル外相がシリアのダマスカスを訪問し、アサド大統領との会談を実施した。サウジの外相がシリアを訪問するのは、2011年のシリア内戦開始後では初めて。前週の4月12日には、シリアの外相が同じく十数年ぶりにサウジを訪問したばかり。シリアのアサド政権は、2011年の民衆デモに対する厳しい弾圧を理由に、同年アラブ連盟から参加資格を停止されたが、サウジ政府は5月19日に首都リヤドで開催するアラブ連盟首脳会議に、アサド大統領を招待する方針を示している。カタールなど複数のアラブ連盟加盟国は、シリアの問題は解決していないとして、シリアの連盟復帰に異議を唱えている。

 

4.トルコ/シリア:国交回復に向けた動き

 4月25日、トルコ、シリア、ロシア、イランの4か国の国防相及び情報長官がモスクワに集まり、トルコとシリアの国交回復のための具体的な措置やシリアの安全保障の強化などについて協議を行った。トルコは、2011年の民衆デモに対してアサド政権が厳しい弾圧を行ったことでシリアと断交し、以降アサド政権の打倒を目指すシリアの反体制派を支援してきた。両国の国交回復に向けた協議は、2022年末にモスクワで行われた両国の国防相会談以降に進捗し、4月初めには上記4か国の外務次官がモスクワで協議、5月には4か国外相会談が計画されている。

 

5.チュニジア:ガンヌーシ前国会議長の逮捕

 4月20日、2021年7月にサイード大統領によって停止された同国国会の議長であったガンヌーシ・エンナハダ党党首(81歳)が、裁判を受けることなく投獄された。同氏は、20年以上に及ぶ英国での亡命生活を経て、2010~11年に発生した「アラブの春」の民衆デモで当時のベン・アリ大統領が国外に逃亡した後、チュニジアに帰国。2011年3月にエンナハダ党がチュニジアで合法化され、同年10月に実施された制憲議会選挙では同党が議会最大政党になった。その後2019年に、ガンヌーシ氏は国会議長に選出された。同氏はチュニジア政界の中心人物で、2021年以降強権化を進めるサイード大統領の最大の政敵であり、「扇動的発言をした」という理由で、同氏は4月17日に警察に身柄を拘束されていた。

 

6.イラク情勢

  • 内政・外交
  • 4月18日、イラクのスーダーニ首相はブリンケン米国務長官と電話会談を実施し、二国間関係の強化について協議した。米軍による軍事訓練やイラクの経済改革、地域の緊張緩和などについても話し合われた。
  • 4月23日、イランのアブドラヒヤン外相はイラクのフセイン外相と電話会談を実施し、イラクがサウジ・イランの国交回復の仲介に尽力してくれたことに対して謝意を表明した。
  • 4月24日、フセイン外相はサウジのファイサル外相とスーダン情勢について協議し、イラク人のスーダンからの退避をサウジが支援してくれたことに謝意を表明した。また、両者はシリア情勢についても協議した。
  • 4月29日、イラクのラシード大統領は複数の閣僚とともにイランのテヘランを訪問し、ライーシ大統領と会談を実施した。両国は安全保障の連携強化、貿易拡大に加え、両国にまたがる河川における水利権の問題についても協議した。ラシード大統領は、ハメネイ最高指導者やガリバフ国会議長との会談も実施した。

 

  • 石油・経済
  • イランの前会計年度(~2023年3月20日)におけるイランからイラクへの輸出が、前年度比+15%で100億ドルを超えたとイラン政府が発表した。同期間のイラクからイランへの輸出は2億ドル。
  • 4月はイラクで暑い日が続いたため、イランからイラクへのガス輸入が急増した。イラクは自国需要に必要な発電用ガスの多くをイランからの輸入に頼っており、米国もイラクのイランからのエネルギー輸入に関しては制裁を免除している。4月26日、スーダーニ首相は、イラクは今後ガス田開発やフレアガスの回収・活用を進め、3~5年のうちにガス輸出国になると発言。
  • 4月26日、イラク国会の財政委員会は2023~25年の3か年予算法案についての審議を再開した。
  • 4月26日、イラク計画省は3月の消費者物価指数を発表。前年同期比で+5.3%と上昇したものの、前月比では▲0.7%となった(水・電気料金、燃料費などの低下が要因)。

 

  • 治安・その他
  • 4月19日、トルコ国防省は、イラク北部のクルド自治区(KRI)で、6人のクルディスタン労働者党(PKK)に所属する戦闘員を無力化(殺害もしくは拘束)したと発表した。4月22日にも、トルコはKRIで3人のPKK戦闘員を無力化、また4月28日にもKRIで空爆を実施した。PKKは、トルコや米、EUによって「テロ組織」に指定されており、トルコ軍はイラク北部にいるPKK戦闘員に対する越境攻撃を何年にもわたって行っている。

 

7.リビア情勢

  • 4月18日、バティリー国連リビア特使は安保理会合に出席。2023年中にリビアでの選挙実施に向けて働きかけを強めており、選挙当局が関連手続きを開始する7月初旬までには選挙法を成立させる必要があると説明した。

 

  • エジプト外交官筋によると、エジプト政府高官がリビア東部のハフタル司令官に対し、スーダンのRSFに軍事支援を行わないように警告したとのこと。露ワグネルがRSF支援のために、武器や所属戦闘員をリビア東部やシリアからスーダンに移動させているという話が出ている。

 

  • 4月26日、リビアの国民統一政府(GNU)のマングーシュ外相は、リーフ米国務次官補とスーダン情勢に対応するための連携強化について協議した。またリビアの人権委員会は、スーダンからの難民流入に備えて、省庁や人権団体、国際機関、赤新月社などが協力して人道・医療支援の提供や難民キャンプ設営を行うための緊急計画の作成を呼びかけた。

 

  • 国民統一政府(GNU)は、カダフィやその取り巻きが何十年にもわたって国家財源を略奪し世界中に隠しているとされる、1,200億ドル相当のリビア国家資産の回収支援を米政府に要請したとのこと。

 

  • イタリアのフラティン環境・エネルギー安全保障相は、イタリアは以前ガス需要の4割をロシアに依存していたが、リビアやアルジェリアからのガス輸入増加により、ロシア産ガスへの依存度が1割程度に減少したと語った。

 

以上

 

OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)

記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。