市場概観:強気と弱気の修正局面
2024年04月08日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
本間 隆行
2024年4月5日執筆
米国の金融緩和期待の後退や中国の不動産が重しとなって、世界経済の先行きについては悲観的な見方が支配的だった。しかし、足もとの景況感はそうした懸念を払拭するように景気回復の動きが続いている。経済成長のけん引役となったのは減速や停滞が懸念されていた米国と中国で、米国経済は2023年Q4の実質経済成長率(年率換算)が3.4%となって短期金利が高止まりしているにもかかわらず、強い状態が続いている。中国では2023年Q4の実質経済成長率が前期比年率換算でおおよそ4%程度と物足りなさを覚えるペースだが、景気先行指標とされているPMI(購買担当者指数)では持ち直しの動きが続き、景気の急減速リスクは遠のいている。また、2023年夏以来政府が進めている景気浮揚策のうち、個人消費支援の効果が徐々に出始め、耐久消費財消費に持ち直しの動きがあるとの指摘も見られるようになっている。
景気が上振れしていくと、「現在地」はこれまでの見通しの延長線上にはないこととなり、見通しと実体経済の間には需給ギャップが生じる蓋然性が高くなる。この数量面での需給ギャップ拡大リスクが価格調整によって進むとの思惑が働き、貴金属、非鉄金属、エネルギーといった商品価格は短期間のうちに水準調整が入ったとみられる。買い遅れ、いわゆる「現物のショートカバー」が今回の価格押上げにつながったが、こうした動きが持続し、成長期待を巻き込む形で中長期トレンドとして成長するか、2024年4~6月期の商品市場のテーマとなりそうだ。
銅は鉱石不足やそれに伴う中国精練企業の減産、アルミニウムでは原料供給懸念や取引所在庫がロシア産品で占められているなど市場構造の歪みの存在、原油では協調減産の継続や制裁強化に加えて石油製品不足などが挙げられている。また、ソフトコモディティとして分類されるココア、コーヒー、オレンジジュースやゴムなども、産地における供給不安が価格に反映されて値を切り上げてきた。急騰した相場の背景を整理すると、供給の不安定さが材料視されたことが各種商品のアウトパフォームの起点となっており、商品の典型的な動きともいえる。
一方、今のところ供給不安のない鉄鉱石や穀物、天然ガスなどのように、値動きの鈍さや下落している商品もある。穀物や天然ガスでは、天候や海上物流の影響を受けやすい不安定さを抱えていることから、今はたまたま安定しているだけなのかもしれない。これらの商品の値動きからは2つの示唆が得られる。一つは想定していた通り、つまり事業計画通りに供給量が確保されていれば価格上昇局面を迎えることは無かったのではないかという点だ。供給量が一時的に細っただけであれば、供給力が修復されてしまうと価格が高止まりする理由はなくなってしまう。戦争をきっかけに急騰した天然ガスや小麦などはこうした整理が出来るだろう。もう一つは中国経済と商品市況との関係が、以前の様に単純明快ではなくなっているように、経済の構造や政策変化を反映しているとみられる点だ。赤字国債を発行してまで経済成長を確実にしようとしているが、景気支援がインフラ建設や不動産部門を通じた政策から耐久財やサービスなどの消費を高めていく政策へと変化していくとしたら、成長に必要とされる原料はこれまでとは異なってくる。中国政府が豪州産ワインの関税を撤廃したが、中国・豪州間の貿易額の観点では鉄鉱石や原料炭などの資源輸出額の方がはるかに大きいこともあって、関税撤廃に対して歓迎されているものの、こうした中国経済の構造変化に対する警戒感も同時に強まっており、パンデミック前とは違い豪州が複雑なポジションに置かれていることを示している。もちろん、中国政府が期待するような成長を実現できず、再びインフラ投資などに回帰する可能性も十分に考えられることを念頭におくと、先物市場に厚みのある鉄鉱石には注目を集めそうだ。
最高値を更新し続ける金は、米国でも依然として投資対象としてメディアに取り上げられる日々が続いており、中国やベトナムでも個人による購入が活発になっていると報じられている。金がもはや「空中戦」ともいえる相場ツキでもあり、より割安感の強い銀が注目されており、米国の大手小売店でも銀貨販売が始まった。1トロイオンス=30ドルが目先の目標となるが、前回や前々回の高値は50ドルだった。金が高値追いしていることで出遅れ感から上昇余地があるとの指摘はあるものの、金が地政学的リスクを反映した相場だとしたら、銀にはまだそこまでの役割を求められていないので、注意深く観察する必要がありそうだ。一方で、自動車販売でEVが一服し、ガソリン車やハイブリッド車の見直しが強まっていくようであれば、パラジウムが再評価される局面を迎えるのかにも注目したい。
以上
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