「イランとイスラエルによる攻撃の応酬で中東の緊張が一気に高まる」中東フラッシュレポート(2024年4月前半号)

2024年05月22日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

2024年5月15日執筆

 

1.イラン/イスラエル:イランとイスラエルによる攻撃の応酬で中東の緊張が一気に高まる

 4月1日、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館に隣接する領事部の入る建物に対して空爆があり、建物は崩壊し、革命防衛隊員7人(うち2人は指揮官)とシリア人6人の13人が殺害された。空爆はイスラエルによるものとみられている。イランのアブドラヒヤン外相は、この攻撃はあらゆる国際規約や条約に違反するものであるとして、イスラエルを非難。イランの外務省報道官は、イランには報復する権利があるとの声明を発表。シリアやロシアも、シリアにおけるイランの外交施設に対する空爆を強く非難した。

 

 4月13日夜、イランはイスラエル本土に対して上記空爆に対する報復攻撃を実施した。使用されたのは、弾道ミサイル120発、巡航ミサイル30発、ドローン170機。一部が空軍基地などに着弾したのと、迎撃されたミサイルの破片で1人が負傷したとのことだが、攻撃の99%は迎撃されたもよう。攻撃は事前にイランから周辺国に通告されており、米国・イスラエルにも伝わっていたため迎撃態勢が整っていたとみられる。イランとしても事前に通告することで被害を最小限にとどめ、これで幕引きとしたかったものと考えられる。

 

2.イラン:外相がオマーンとシリアを訪問

 イランのアブドラヒヤン外相は、4月7日からオマーンのマスカットを訪問し、翌8日にはシリアのダマスカスを訪問した。マスカットではオマーンのバドル外相との会談を行うとともに、イエメン・フーシ派の報道官であり交渉担当官でもあるアブドゥルサラーム氏との会談も実施した。オマーンは、米国とイランの間や、サウジとフーシ派の間などを仲介することで、これまで地域の緊張緩和に貢献してきた国である。アブドラヒヤン氏は、ダマスカスの訪問中に、シリアの外相とともに新たなイラン領事館の開所式に参加した(上記の通り、4月1日の空爆で領事部の建物が崩壊したため)。

 

3.イスラエル:米援助団体ワールド・セントラル・キッチンの車列に対する空爆で職員7人死亡

 4月1日夜、ガザ中部の海岸沿いの道路を走行中だった米援助団体ワールド・セントラル・キッチン(WCK)の3台の車両それぞれにイスラエル軍による空爆が直撃し、7人のWCK関係者が殺害された。7人のうち1人はパレスチナ人のドライバーで、残り6人は外国人(英国人3人、オーストラリア人、ポーランド人、米・カナダ二重国籍者各1人)だった。彼らはガザ中部へ食料を届け、南部の拠点へ戻る途中だった。イスラエル軍参謀総長は誤爆を認め、ビデオ声明で謝罪した。米・英両政府は早期の綿密な調査と調査結果の公表を求めており、また、ポーランドは刑事責任の追求と犠牲者家族に対する賠償責任を求めている。

 

4.トルコ:イスラエルに対する54品目の輸出制限措置を発表

 4月9日、トルコ商務省は鉄鋼やセメント、ジェット燃料など計54品目のイスラエルへの輸出を制限する措置を取ると発表した。直接的なきっかけは、トルコが要請していたガザへの支援物資の空中投下を、イスラエル政府が許可しなかったからとのこと。イスラエルがガザでの即時停戦を宣言し、十分な量の人道支援物資を途切れることなくガザに届ける許可を出すまでこの措置を続ける、とトルコ政府は発表している。トルコはこれまでにも何度もイスラエルに対しガザでの即時停戦を呼び掛けており、両国は相互に大使を呼び戻し相手国への不満を表明している。

 

5.トルコ:インフレ高止まり

 4月3日、トルコ統計局は3月のトルコの消費者物価指数(CPI)を発表。前年同期比で+68.5%と、2月の同比+67.1%をさらに上回った。教育セクターやレストラン・ホテル、医療セクターがCPIの上昇をけん引している。前月比では+3.16%と、2月の同比+4.53%からは下がっている。トルコ中央銀行はインフレを抑制するため、3月の金融政策委員会(MPC)で500bpの利上げを実施し政策金利を50%に引き上げたが、依然インフレは高止まりしている。

 

6.クウェート:議会選挙の実施

 4月4日、クウェートで2020年12月以来4度目となる議会選挙が実施された(2023年6月にも選挙が行われたが、ミシュアル首長が2月15日に議会を解散)。2023年12月に即位した83歳のミシュアル首長の下での初めての議会選挙となった。有権者は約83万5千人。約200人の候補者が50議席を争った。

 

 投票率は62%と前回選挙時よりも10%以上高く、結果は前回と同様、野党候補が過半数(29議席)を確保した(シーア派議員8人、ムスリム同胞団系議員1人、女性議員1人などが当選)。そのため、首長が任命する政府との対立状況に変化はなく、これからも政治的行き詰まりが続き、必要な改革の実行などが妨げられることになるだろうとみられている(その後5月10日に首長は再度議会の解散を発表した)。

 

7.イラク情勢

  • (内政・外交)
  • 4月6日、クルド自治政府(KRG)のバルザーニ大統領がバグダッドを訪問し、スーダーニ首相やラシード大統領との会談を実施。予算配分や公務員給与支払い、クルド自治区からの石油輸出が停止している問題など、中央政府とKRGの間の懸案事項について協議が行われた。
  • 2023年11月にイラク連邦最高裁の判断で当時のハルブーシ国会議長が辞任に追い込まれて以降、既に5か月が経つが、依然として国会議長職は空席のままの状態である(マンダラウィ副議長が代行を続けている)。
  • 4月13~19日の1週間にわたって、スーダーニ首相は就任後初めて米国ワシントンを訪問した。まさにイランがイスラエルへのミサイル・ドローン攻撃を行った日に米国に到着し、中東での緊張高まる中での訪問となった。同首相は、4月15~16日にバイデン大統領やサリバン大統領補佐官、ブリンケン国務長官、オースティン国防長官など米政府高官との会談を実施。ワシントン訪問には、複数の大臣とイラク企業関係者が同行。イラク政府および企業が石油、ガス、自動車製造など、さまざまな分野の米国企業と18件の覚書(MoU)に署名した。JPモルガン会長やロッキード・マーティン社長などとの面談も行われた。今回の訪米の重要な議題の一つであったイラク駐留米軍の撤退に関しては、米・イラク合同軍事委員会が7月に詳細を明らかにすると発表。また、同首相は、ミシガン州ではイラク人コミュニティとの対談や、テキサス州ではエネルギー企業関係者などとの面談も行った。

 

  • (エネルギー・経済)
  • イラク電力省はフランス企業のトタルエナジーズと1,000MWの太陽光発電に関する2件の契約を交わした。同国南部のバスラにおいて、各250MWの発電施設を4段階に分けて設置する。2年以内に完工予定。
  • イラン貿易促進機構(TPOI)の公式データによると、イラン暦2023年度(2023年3月から2024年3月)のイラン・イラク間の貿易額が前年度比+30%増加した。欧米の厳しい制裁下にあるイランのライーシ政権は、周辺諸国との貿易関係を拡大すべく注力している。

 

8・リビア情勢

  • 3月に職務停止処分となったアウン前石油・ガス相に代わって、ドゥベイバ首相は自身に近いアブドゥルサーディク氏を新石油・ガス相に任命した。同氏はこれまで同省次官や国営石油会社(NOC)の理事などを務めてきた人物。
  • 4月11日、首都トリポリで武装集団間の衝突が発生し、街中での銃撃戦となり、治安部隊が出動する事態となった。
  • 4月16日、国連リビア支援団(UNSMIL)のバシリー事務総長特別代表が、リビア指導者らの「政治的意思や誠意の欠如」で必要な協力が得られなかったとして辞任した。後任は不在のため、米外交官のホーリー副代表が暫定的に任務を継続することになるとみられる。リビア東西勢力の政治的対立は継続しており、現在の利権を失いたくない各勢力のトップらが、国政選挙の実施を実質的に妨害し続ける状態が継続している。
  • 2023年に地中海を渡ってイタリアへ流れ着いた不法移民は157,551人(前年比5割増)で、そのうちリビアからイタリアへ向かった不法移民は51,986人(33%)、チュニジアからが97,667人(62%)と最も多かった。

OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

以上

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