「イスラエルがガザ最南部ラファハへの攻撃を開始」中東フラッシュレポート(2024年5月前半号)

2024年06月18日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

2024年6月13日執筆

 

1.イスラエル:ガザ最南部ラファハへの攻撃開始

 5月6日、米バイデン政権は、イスラエルによるガザ最南部ラファハへの軍事作戦に反対し、イスラエルへの大型爆弾(2,000ポンド爆弾1,800発と500ポンド爆弾1,700発)の 輸送を停止した(人口密集地で使われた場合の結果を懸念)。バイデン政権は、150万人のパレスチナ人が避難しているラファハにイスラエル軍が侵攻すれば民間人に甚大な被害が出るとして、民間人を保護する措置を取らない限り、ラファハへの軍事侵攻には強く反対する立場を表明してきた(バイデン大統領は「ラファハへの軍事侵攻はレッドライン(超えてはならない一線)」と発言)。

 

 そんな中、5月7日にはイスラエル軍の戦車がラファハへ侵入し、ガザ・エジプト間の唯一の国境検問所であるラファハ検問所を占拠。その後、エジプトとの国境に並行して走るフィラデルフィ回廊も、イスラエル軍が完全に占拠した。イスラエルは、国際的な批判をかわすべく、軍が行っているのは「限定的な軍事作戦」であり、全面的な地上侵攻ではないと主張している。

 

2.イスラエル:アル・ジャジーラのイスラエル国内の事務所を閉鎖

 5月5日、イスラエルの内閣は、全会一致でカタールの衛星TV局であるアル・ジャジーラのイスラエル国内での活動停止を決定した(まずは45日間、延長も可能)。エルサレムにある同局の事務所は既に閉鎖され、当局によって放送機材などが押収された。アル・ジャジーラのウェブサイトへのイスラエル国内からのアクセスも制限される。イスラエルの国会は4月、(ガザの人道危機の状況を連日報じていたアル・ジャジーラを念頭に)海外メディアの放送内容が国家の安全保障に害を及ぼすと首相が判断した場合に、イスラエルでの放送停止や事務所閉鎖などを政府が決定できるとする法律を可決していた。この動きに対して、報道の自由を損なうものであるとして、国内外から批判の声が出ている。

 

3.エジプト:南アフリカによるICJへのイスラエル提訴にエジプトも参加を表明

 5月12日、エジプトは、イスラエルがガザでジェノサイド(大量虐殺)を行っているとして、南アフリカが国際司法裁判所(ICJ)にイスラエルを提訴した訴訟に参加する意向を表明した。エジプトが仲介役となってきたイスラエルとハマスの停戦交渉が、イスラエルの頑なな姿勢でとん挫していることや、イスラエルがエジプトの再三の反対にもかかわらず、エジプトと国境を接するガザ最南部のラファハへの地上侵攻を開始したことなどが背景にあると考えられる。既に、トルコやコロンビアなども同訴訟への参加を表明している。

 

4.国連総会:パレスチナの国連加盟を支持する決議案の採択

 5月10日に開かれた国連総会の緊急特別会合で、パレスチナの国連加盟を支持する決議案の採決が行われ、日本やフランスを含む143か国の支持を得て採択された。反対は米国やイスラエルなど9か国にとどまり、英国やカナダなど25か国は棄権に回った。ただ、国連への加盟には安全保障理事会による勧告決議が必要で、4月に安保理で同様の決議案が出された際には、米国が拒否権を行使して同案は否決された。圧倒的に多くの国がパレスチナの国連加盟を支持する中で、反対票を投じた米国とイスラエルの国際社会での孤立が改めて際立つ形となった。

 

5.トルコ:イスラエルとの貿易の完全停止を発表

 5月2日、トルコはイスラエルとの貿易関係の完全停止を発表した。トルコ商務省は、ガザでの恒久的な停戦が実現し、同地区への継続的な人道支援が実施されるまで貿易停止を続けると発表。トルコは、4月にイスラエルへの輸出の一部停止を発表していたが、今回その措置をイスラエルとのすべての貿易に拡大した。エルドアン政権によるトルコ国内のイスラム保守層の支持回復が狙いとみられる。

 

 2023年の二国間貿易額は70億ドル。イスラエルにとってトルコは5番目の輸入相手国で、トルコからの輸入は全体の5%を占める。二国間で貿易が停止されても、ほかの国からの輸入で代替できるとみられており、影響はそれほど大きくないとみられるが、イスラエルはこの動きの他国への波及を懸念している。

 

6.トルコ/ギリシャ:ギリシャのミツォタキス首相がトルコを訪問

 5月13日、ギリシャのミツォタキス首相がトルコを訪問し、エルドアン大統領との会談を実施した。両者の会談は過去5か月間で2回目、過去10か月間で4回目となる。二国間関係は特に2020年以降悪化していたが、2023年2月に発生したトルコ南東部大地震(5万人超が死亡)直後にギリシャが救援に駆けつけたことや、両国首脳がそれぞれ5月、6月の選挙で無事に再選されたことなどから関係改善に向かった。

 

 隣国同士である二国間には、長年にわたってさまざまな解決困難な問題が存在するが(海洋境界の問題とそれに付随する海底資源の帰属問題、キプロス問題など)、両者は前向きな議題にフォーカスし、今後もコミュニケーションチャンネルを維持していくことや、貿易額を倍増して経済関係を強化していくことなどで合意した。

 

7.イラク情勢

  • 5月4日、イランの税関当局によると、4月のイランの石油化学製品の輸出先トップは中国で、2位はイラクだった。イランの石油化学製品は、その他UAE、トルコ、パキスタン、アフガニスタン、オマーンなどに輸出されている。
  • 国営イラン・ガス会社(NIGC)のCEOは、6月20日に期限が来るイラクへのガス供給契約を5年間延長したことを発表した。イラクは自国内の発電所で使用する燃料ガスをイランから輸入しているが、イランの外貨収入を削ぎたい米国はこれを問題視しており、米国はイラクに対して自国でのガス生産を増やしたり、湾岸諸国などからのガス・電力輸入などで代替したりするよう強く要請している。
  • 5月11~13日、イラク政府は国内油・ガス田に関する入札ラウンド(第5次追加分および第6次分)を実施した。入札対象となったのは、イラクの主に西部と南部の12県に点在する29の油・ガス鉱区で(1つはイラク初の海洋鉱区)、外国からの投資を呼び込み、特にガス生産量の向上と石油確認埋蔵量の1,600億バレルまでの積み上げが目的とされる。3日間の入札ラウンドを実施し、29の鉱区のうち13鉱区が落札された(10件は中国企業、3件はイラクのクルド系企業が落札)。現在イラクは、国内発電所の燃料ガス輸入に年間約50億ドルを費やしているが、2027年までにガスの自給を達成し輸入依存を終わらせたいと考えている。
  • 世界第3位の原油輸入大国であるインドの4月の輸入相手国トップはロシアで、日量175万バレル(bpd)を輸入、2位はイラクで102万bpd、3位はサウジで63万bpdだった。同月イラクは、米国に29.5万bpdの原油を輸出している(米国の原油輸入相手国としては第4位)。
  • 2022年6月に自派の73人の国会議員を一斉に辞職させ、同年8月に政界からの完全引退を発表したムクタダ・サドル師が、「シーア派国民運動(Shiite National Movement)」という新たな組織を立ち上げたことが話題になっている。サドル師は、2024年3月にイラクのシーア派最高権威であるシスターニ師と面会しており、2025年に予定されている次の議会選挙での政界復帰の可能性も囁かれている。

 

8.リビア情勢

  • 5月7日、イタリアのメローニ首相が閣僚とともにリビアの首都トリポリを訪問。医療、青少年・スポーツ、高等教育・科学研究の3分野の協力に関する3件の覚書に署名した。同首相はベンガジも訪問し、リビア西部のトリポリと対立するリビア東部の有力者であるハフタル司令官とも会談を行った。
  • 5月10日、リビア政府は10日間にわたる国際通貨基金(IMF)との4条協議を終えた。リビアは、2023年IMFとの4条協議を10年ぶりに実施しており、今年は2年続けての実施となる。協議終了後のIMFの声明によると、IMFはリビアの2024年のGDP成長率が8%に達し、原油生産は2026年までに日量150万バレルに達すると予想している。IMFはリビア政府に対し、歳入源の多様化、適切な公的支出管理、燃料補助金改革、財政改革の必要性を強調し、石油・ガス依存経済からの多様化と、より強力で包括的な民間主導の成長促進を目的とした長期経済戦略の策定を勧告した。
  • 5月11日、駐リビア・パレスチナ大使館は、パレスチナの国連への加盟を支持する国連総会決議案にリビアが賛成票を投じたことに謝意を表明した。リビアは、5月10日には、イスラエルがガザでジェノサイド(大量虐殺)を行っているとして、南アフリカがイスラエルをICJに提訴した訴訟ヘの参加も表明している。

OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

以上

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