「OPECプラスは協調減産の延長を決定」中東フラッシュレポート(2024年6月前半号)

2024年07月25日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

2024年7月23日執筆

 

1.OPECプラス:協調減産の延長を決定

 6月2日、OPECプラスは閣僚級会合を開催し、現在の日量586万バレル(bpd)(=世界需要の5.7%)に上る協調減産の延長を決めた。具体的には、2024年末までの予定だった366万bpdの減産を2025年末まで延長(UAEだけは2025年1月から段階的に増産を開始)、そして2024年1月から6月末までの予定だった有志8か国による220万bpdの自主減産を、9月末まで3か月間延長した(10月以降に1年間かけて段階的に減産を縮小する)。

 

 OPECプラスを主導するロシアとサウジアラビアは、原油価格を上げたいと考えている。ロシアは、制裁で欧米に売れなくなった原油を中国やインドに買い叩かれているため、そしてサウジアラビアは脱石油依存・経済多角化の実現に向けた複数の巨大プロジェクト遂行に莫大な資金がかかるため、少しでも高い油価が望ましいと考えている。国際通貨基金(IMF)は現在のサウジアラビアの財政均衡油価を1バレルあたり96.2ドルと試算している。

 

2.イスラエル:ガンツ元国防相が戦時内閣から離脱

 6月9日、イスラエルのガンツ元国防相は、ハマスによるイスラエル奇襲事件の直後から参加してきたネタニヤフ首相主導の戦時内閣から離脱すると発表した。ガンツ氏は野党のリーダーだが、ハマスによる2023年10月の前代未聞の攻撃に際し、挙国一致体制を示すためネタニヤフ氏に協力し戦時内閣に参加してきた。しかし、人質解放交渉にも消極的で戦後のガザに関する計画を一向に示さない首相に対し、ガンツ氏は6月8日までに具体的な計画を示さなければ戦時内閣から離脱するという意思を表明していた。

 

 ガンツ氏が抜けたことで戦時内閣は空中分解したが、ネタニヤフ氏は極右政党や宗教政党との連立で依然として議会の過半数を握っており、政権は存続している。今後ネタニヤフ氏は自身の政治家としての生き残りのため、極右政党などにさらに頼っていくことになるが、ネタニヤフ氏に対する国内外からの圧力は、今後さらに強まるものと思われる。

 

3.イスラエル/レバノン:攻撃応酬の激化

 イスラエル北部のレバノン国境で、イスラエル軍とレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとの間で攻撃の応酬が激化している。ヒズボラは2023年10月8日(ハマスによるイスラエル奇襲の翌日)以降、イスラエルからの攻撃を受けるガザのハマスを支援するためにイスラエル北部への攻撃を続けてきたが、6月11日にイスラエル軍の空爆によってヒズボラの幹部司令官が殺害されたことに対する報復として、翌12日には200発以上のロケット弾で、13日には150発のロケット弾と30機のドローンを使用して、過去8か月間で最大規模の攻撃をイスラエルに対して行った。その後も双方の攻撃の応酬は続いており、依然として緊張の高い状態が続いている。

 

4.国連:子どもの人権侵害に関する報告書でイスラエルを批判

 6月13日、グテーレス国連事務総長は、安全保障理事会に提出した「子どもと武力紛争」に関する年次報告書を公表した。同報告書は、紛争地における子どもの殺傷や性的暴行を調査したもので、2023年10月からガザに対する軍事攻撃を続けるイスラエルを、初めて子どもの権利を著しく侵害した国に指定した。指定国の一覧は「恥ずべきリスト"List of Shame"」と呼ばれる。今回イスラエルがリストに入った主な理由は、イスラエル軍によるガザ攻撃で多くの子どもが犠牲になったことであり、子どもに対する重大な人権侵害が5,698件発生したと報告書は指摘している。ガザのイスラム主義組織ハマスとイスラム聖戦も、今回同リストに追加された。

 

5.クウェート:ミシュアル首長が皇太子を任命

 6月1日、クウェートのミシュアル首長がサバーハ元首相を皇太子に任命した。サバーハ氏は1953年生まれの71歳。クウェート大学を卒業後外務省に入省し、駐サウジ大使や国家安全保障局長などを歴任。その後外相を8年間務め、2019~22年には首相に就いていた。外交政策と国内政治で幅広い実績を持ち国民からも人気のある人物だが、これまでの慣例ではジャービル家もしくはサーリム家から皇太子が選ばれてきたので、それらの家系ではないサバーハ氏の皇太子任命は多少の驚きをもって迎えられた。通常、皇太子の任命は議会の承認が必要だが、首長は5月に首長令で議会を解散・停止したため、この手続きは省略された。

 

6.IAEA:イラン非難決議を採択

 6月5日、国際原子力機関(IAEA)の理事会で、イランに対する非難決議が賛成多数で採択された。決議は、イランにIAEAとの協力強化と査察官の受け入れ拒否の撤回を求めるもの。理事国35か国中20か国が賛成、12か国は棄権し、中国とロシアが反対した(もう1か国は投票を辞退)。

 

 イランが2015年に米国・中国・ロシア・英国・ドイツ・フランスの6か国と結んだ核合意(略称JCPOA、イランが核開発を一定レベルに抑える見返りに欧米が制裁緩和に合意した)を、その後米トランプ政権が一方的に破棄したため、イラン側も合意の順守を停止し、核濃縮を60%まで進めている。

 

7.イラク情勢

  • 6月2日、OPECプラス閣僚級会合が開催され、イラクの原油生産量の上限枠は日量400万バレルで据え置かれた。
  • 6月2日、8日、「イラクのイスラム抵抗勢力(IRI)」は、パレスチナの占領に抵抗しガザの人々へのサポートを示すため、イスラエルの重要施設をドローン攻撃したとの声明を発表。またIRIは6月14日にも、イスラエル北部の都市ハイファの港湾及び空軍基地をドローンで攻撃したとの声明を発表した。
  • 6月13~14日、イランのバーゲリ・キャニ外相代行がイラクの首都バグダッドを訪問し、大統領、首相、外相、国家安全保障顧問などとの会談を実施。クルド自治区のエルビルも訪問し、クルド自治政府高官らとの会談も実施した。
  • 6月14日、バグダッドで人民動員部隊(PMF)の結成10周年式典が開催された。PMFは、2014年にイスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国(IS)」がイラク北部から中部にかけての地域を支配下に置いた際に、イラクのシーア派最高権威であるシスターニ師の呼びかけによりISに対抗するために結成された民兵集団。現在は、形式上は国軍の指揮命令系統に入っているが、完全に国軍の指揮命令の下に動いている訳ではない。
  • イラクは韓国に対し、約25億ドル相当のミサイル防衛システムM-SAM-II(Cheongung II)8基を緊急要請した。M-SAM-IIは世界で需要が高く、UAEやサウジとの契約を含め、最近の契約総額は92億ドルに上る。
  • イラクは2024年4月の中国への原油供給で、ロシア、サウジに次いで第3位(日量140万バレル)。中国企業は5月に実施されたイラクの油・ガス田入札ラウンドで10鉱区を落札しており、これらを合わせると現在中国企業はイラク国内の24の石油・ガス田の権益を有している。不利な契約条件や治安・汚職に関する懸念などで西側企業が二の足を踏む中、イラクのエネルギーセクターにおける中国の存在感が高まっている。

 

8.リビア情勢

  • 6月1日、国民統一政府(GNU)はOPEC事務局長に対して、(捜査を終えて職場復帰したとされるアウン氏ではなく)アブドゥルサーディク氏が引き続き石油・ガス相として任務を続けるとの書簡を送った。
  • 6月9日、国営石油会社(NOC)のベングダラ会長はドゥベイバGNU首相との会談で、2025年末までに原油生産量を日量200万バレルに増やす目標を確認した。なお、6月9日の生産量は125万4,350バレルを記録。
  • 6月9日、タカーラ国家高等評議会(HCS)議長はカタールを訪問し、アル・ムライヒ外務担当国務相らと会談。リビアでの国政選挙実施に向けて、リビア国内当事者間の仲介を行うカタール政府に謝意を表した。
  • 6月13日、リビア輸出促進センター(LEPC)は、リビアの非石油輸出が31億ドルに達したと発表した。主要な輸出品は、デーツ(なつめやしの実)、オリーブオイル、水産物など。リビアは政府歳入の95%が石油関連収入という典型的な石油依存経済で、IMFも歳入源の多様化を進めるようリビア政府に勧告している。

 

OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

以上

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