農産物:穀物価格低迷と米国農業の景況感悪化
2024年10月7日執筆
9月に食料価格は上昇
国連食糧農業機関(FAO)が10月4日に発表した世界食料価格指数は、2024年9月は124.4ptと、前月比3%上昇。主に、ブラジルの生産見通し悪化など供給懸念を背景とする砂糖価格の急騰が寄与した。世界各地の天候不順などを受け指数を構成する全セクターが値上がりしたが、米国では2024年度トウモロコシ・大豆は記録的収穫高が見込まれ、穀物市況は相対的に軟調。シカゴ先物市場は9月の価格反発を受けてもなお2020年以来の安値圏にある。
農業景況感
米CMEとパデュー大学が10月1日に発表した2024年9月の米国農業経済バロメーター指数(2015年10月~2016年3月=100)は88と、前月から▲12ptとなり、2016年以来の低水準となった。サブ指数では、現況指数が76、将来期待指数は94と低かった。これは400人の農業生産者を対象に月次で農業財務・投資に関するセンチメントを調査しているもの。9月の調査は9月9~13日に行われた。
農家に対し、2025年の最大の懸念事項を具体的に尋ねたところ、投入コスト高騰(34%)作物価格低下(33%)がトップ2で、金利(17%)がそれに続いた。また、米国の農産物輸出が今後5年間に増加するという回答はわずか26%で、2019年の調査開始以来最低だった。回答者の78%は、選挙後に政策変更が農場経営に影響することを不安視。農業財務実績指数は、9月は68と、3か月連続で低下した。多くの生産者が大規模投資には不適な時期とみており、農業設備投資指数は35と、極めて低い水準に留まっている。短期農地価格指数は95と、2020年以来初めて100の節目を下回り、上昇の予想を下落の予想が上回った。
農業所得
米国農務省の経済調査サービス(ERS)が9月5日に更新した農業セクター所得に関する予測でも、米国農業の厳しい状況が描き出されている。利益の広範な指標として示されている純農業所得(net farm income)は、2022年に名目ドルベースで1,820億ドルと過去最高を記録したが、作物価格の下落とコスト上昇圧力を受けてここ2年で急減し、2024年は推定1,400億ドルと前年比▲4%(インフレ調整後の2024年ドル換算では前年比▲6.8%)。2月時点の予測1,161億ドル(▲25.5%)から意外にも大幅に改善したのは、2023年分を下方修正した影響と生産コストの低下に起因するが、人件費や支払利息などのコスト負担は増え、肥料・飼料・燃料コスト低下の効果を相殺している。牛・乳製品・卵の価格高騰で畜産業界の業況は当初予測より改善したが、作物農家は依然として厳しい状況に置かれている。
作物農家の現金収入を品目別でみると、トウモロコシ▲160億ドル(▲20%)、大豆▲86億ドル(▲14.6%)と、いずれも当初予測から大幅な下方修正。小麦(▲12.3%)・綿花(▲23.6%)も落ち込む。豊作だが、あるいは豊作だからこそ、世界的に供給過剰となり、値下がりを通じ収入が減る構図となっている。
以上
記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。
レポート・コラム
SCGRランキング
- 2024年11月28日(木)
ラジオNIKKEI第1『マーケットプレス』に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行が出演しました。 - 2024年11月19日(火)
『週刊金融財政事情』2024年11月19日号に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行が寄稿しました。 - 2024年11月18日(月)
『Quick Knowledge 特設サイト』に、当社シニアエコノミスト 鈴木 将之のQuick月次調査・外為11月レビューが掲載されました。 - 2024年11月15日(金)
TBSラジオ『週刊・アメリカ大統領選2024(にーまるにーよん)』TBS Podcastに、米州住友商事会社ワシントン事務所調査部長 渡辺 亮司が出演しました。 - 2024年11月14日(木)
『日本経済新聞』に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行のコメントが掲載されました。