「イスラエルとヒズボラの間で停戦合意が成立」中東フラッシュレポート(2024年11月後半号)

2024年12月19日

住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司

2024年12月12日執筆

 

1.イスラエル/レバノン:イスラエルとヒズボラの間で停戦合意が成立

 11月26日、バイデン米大統領は、イスラエルとレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラが米国による停戦案に合意したと発表した(フランスの協力にも感謝すると発言)。停戦は、現地時間11月27日の午前4時に発効。停戦案の内容は、双方がまずすべての攻撃を停止し、60日以内にヒズボラが両国の暫定的な境界ラインである"ブルーライン"から北に約30キロメートルのリタニ川以北まで兵力と重火器を撤退させ、同じく60日以内にイスラエル軍もレバノン南部から徐々に兵をイスラエル領内に撤退させる。そして、リタニ川とブルーラインの間の地域には、新たにレバノン国軍が配備され、国連レバノン暫定軍(UNIFIL)とともに治安維持にあたる。また、米国をトップとして5者が参加する停戦監視委員会も立ち上げる。

 

 しかし、停戦発効初日から、ヒズボラの停戦合意違反を指摘して、イスラエル軍がヒズボラの武器庫などに対する空爆を繰り返している。ヒズボラは、イスラエルによる空爆が続いていることに対する警告として、イスラエルが占領している係争地のシェバア農場にあるイスラエル軍拠点に向けてミサイル2発を発射するなど、散発的な衝突は続いている。また、避難していたレバノン国民が続々と南部の自宅への帰還を始めており、いまだ撤退を完了していないイスラエル軍がレバノンの民間人を攻撃する事態も複数発生している。双方が停戦違反を非難しあっているが、これまでのところ停戦はおおむね守られている。

 

2.イスラエル:ICCがネタニヤフ首相に対する逮捕状を発行

 11月21日、国際刑事裁判所(ICC)は、イスラエルのネタニヤフ首相と11月初めに同首相によって解任されたガラント前国防相、そしてガザのイスラム主義組織ハマスの軍事部門のデイフ司令官(イスラエルは殺害したと発表したが確認されていない)の3人に対して、戦争犯罪や人道に対する犯罪などに関わった合理的な証拠があるとして、逮捕状を発行した。イスラエル首相官邸は、「反ユダヤ主義的決定」であり、「嫌悪感をもって拒否する」と声明を発表。米ホワイトハウス報道官も、「(逮捕状発行を)根本的に拒否する」と語った。米国、イスラエル、中国、ロシアなどはICCに加盟していない。今回の逮捕状発行により、この3人がICCに加盟する世界124の国や地域を訪問した際には、身柄を拘束しICCに引き渡す義務が生じる。

 

3.UAE:UAE在住のユダヤ教ラビが殺害される

 11月24日、UAEで行方不明となっていたユダヤ教超正統派のラビ(聖職者)であるコーガン氏の遺体が発見された。同氏はイスラエルとモルドバの二重国籍者で、超正統派の一派の代表としてドバイに住んでいたが、11月21日から行方不明となっていた。UAE当局はこの誘拐殺人を「反ユダヤ主義的テロ行為」と発表。イスラエル首相府は「犯罪者に対して正義を求めるためにあらゆる手段を講じる」との声明を発表した。UAE警察は3人の容疑者を逮捕したことを発表したが、詳細は不明。2020年にUAEとイスラエルが国交を正常化して以降、UAEを訪問するイスラエル人は年々増加している。

 

4.イラン:IAEAによるイラン非難決議

 11月21日、国際原子力機関(IAEA)の理事会は、イランが核査察に対して非協力的であるとしてイラン非難決議を賛成多数で採択した(35か国中19か国が賛成、ロシアと中国は反対、12か国は棄権)。イラン原子力庁は、IAEAとの協力は続けるとしつつも、「最新式の遠心分離機を利用して核濃縮能力を飛躍的に高める」と強気な姿勢で対抗した。

 

 11月29日には、EU、英国、ドイツ、フランス、イランが参加してイランの核開発問題やパレスチナ・レバノン情勢などを協議する次官級会合がジュネーブで開催されたが、大きな進展はなく、出席者は今後も協議を重ねていくことで合意した。制裁強化などの厳しい圧力でイランに対峙するとみられているトランプ米次期大統領の就任が近づいており、イランの核問題に関する注目が高まっている。

 

5.中国/モロッコ:習近平のモロッコ訪問

 11月21日、中国の習近平国家主席はブラジルで開催されたG20サミットからの帰路途中に、モロッコに立ち寄った。到着したカサブランカ空港では、モロッコのムーレイ・ハッサン皇太子とアハヌーシュ首相が習氏を出迎え、歓迎した。

 

 近年、中国はモロッコのインフラや鉄道などへの投資を強化している。モロッコの欧州への地理的近接性や、モロッコが米国・EUとFTAを締結していること、自動車産業が活発であることなどから、中国のEV関連企業もモロッコに注目している。6月には、中国のEVバッテリーメーカーがアフリカ初のギガファクトリーの開発を進める契約を締結し、13億ドルの投資が行われる予定である。

 

6.イラク情勢

  • 11月18日、イラク選挙司法当局は、10月20日に実施されたクルド自治区議会選挙に対する41件の苦情や不服申し立てに関し、レビューの結果すべて却下したことを発表した。選挙の結果は、全100議席のうちクルド民主党(KDP)が39議席、クルド愛国同盟(PUK)が23議席、新世代運動が15議席、クルド・イスラム同盟が7議席など。
  • 11月18日、トルコのボラト貿易相は150人のトルコ企業関係者とともにイラクを訪問し、スーダーニ首相を表敬訪問した。同首相はトルコからの投資や貿易収支の改善への期待を表明。ボラト氏は、トルコは「イラク開発道路プロジェクト」を全面的に支援する用意があると表明した。一団はバグダッドとバスラを訪問した。
  • 11月20~21日、イラク政府は、1987年以来初となる全国国勢調査を実施した(1997年の調査はクルド自治区を除く地域で実施)。調査の信頼性を高めるため、実施期間の20日午前零時から22日午前零時までの間は外出禁止令が出された。また、民族や宗派に関するデータは国民の分断を煽る懸念があるという理由から、これらのデータは取られなかった。暫定結果によると、イラク全土の人口は4,540万人(外国人・難民含む)で、クルド自治区の人口は640万人(全人口の約14%)であることが判明した。最終的な結果の発表は、約2か月後の予定。人口データが更新されることで、議会の議席数や予算配分などに影響を与える可能性がある。
  • 11月27~28日、スーダーニ首相がスペインを公式訪問しサンチェス首相と会談、7件のMoUに署名した。
  • 11月27日にシリアで反体制派が政府軍に対する攻撃を開始したことに対し、政府は「2014年の二の舞は起こさない(イスラム国がシリアから攻め込んできたこと)」として、ニナワ県のシリア国境の警備を強化した。
  • 11月後半は、親イラン民兵組織「イラクのイスラム抵抗運動(IRI)」のイスラエルに対する攻撃が大幅に減少した。これは11月中旬に、イスラエルがイラクに対する報復攻撃を示唆して懸念が高まったことを受けてのものである。

 

7.リビア情勢

  • 11月20日、サーレハ国会議長は銀行の外貨販売価格に課される税金を15%に引き下げることを決定した。2024年3月に、このいわゆる"ドル税"27%が課されることが決定し、10月には税率が20%に引き下げられていた。
  • 11月30日、リビアの原油生産量が日量139.1万バレル(bpd)を超えた。リビア国営石油会社(NOC)のベングダラ会長は、原油生産量を2025年末までに200万bpdまで増産する計画を発表している。
  • リビアの貿易統計データによると、原油輸出が輸出全体の96%を占めており、また輸出の82.3%が欧州向け(EUは72.8%)となっており、原油依存からの脱却と収入源の多角化が求められている。
  • 現在リビアには、トルコから約3,000人の軍人が駐留している(トルコ軍:2,000人超、トルコ国家情報機構(MIT):約50人、民間軍事企業SADAT:約800人)。彼らの主な任務は、トリポリを拠点とする国民統一政府(GNU)の軍隊に対する訓練。トルコはGNUに対してドローンや戦車、防空システムなども提供している。

OPECバスケット価格推移(過去1年・過去1か月)(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

以上

 

 

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