成長と物価とコモディティ

2025年02月10日

住友商事グローバルリサーチ 経済部
本間 隆行

 

2025年2月7日執筆

 

世界経済見通し(IMF25年1月改訂)

 

 

 国際通貨基金(IMF)が1月に公表した世界経済見通し改訂版のサブタイトルは「まちまち、かつ不確実」。2025年、2026年の世界経済成長率の見通しをそれぞれ3.3%と予測しており、2025年見通しは前回公表(24年10月)よりも0.1%ポイント引き上げた。しかし成長加速を意味するものではない。新興市場の見通しは前回公表値との変化はなく、先進国の成長見通しが1.9%へと小幅に引き上げられたことで全体値が上方修正された格好だ。ただし、その先進国も米国では大幅な上方改定があったものの、ドイツとフランスの成長見通しが下方修正されたことでほぼ相殺された。その結果として小幅修正にとどまった。依然として力強さには欠く。

 

 

 物価見通しについては、IMFによると、世界の消費者物価上昇率は2024年の5.7%から2025年には4.2%へ、2026年は3.5%と一段と低下していくと見込まれている。先進国では年率2%程度の政策目標へと収れんされていく。一方、新興市場では2024年7.8%から2025年には5.6%へと低下するとされているが、物価安定は先進国よりもやや遅れる想定となっている。いずれにしても、物価上昇率の低下によって、金融緩和余地がいく分生じることが期待されるが、サービスのインフレの高止まりやインフレに地域差があることなどから、金融当局の緩和サイクルは期待しているよりも慎重なスタンスになっていくと見込まれる。

 

 

世界経済見通し(IMF公表値25年1月改訂版)(出所:IMFより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

 利下げによる若干の金融緩和が見込まれながらも、不確実性が十分に払しょくできないこともあって低成長が続くとされる点には留意が必要だろう。金利操作が妥当な中立金利水準の模索が続くのなら、景気は過熱することも後退することもない状態、つまり、需給の変動は小さくなっていく市場となる。成長よりも物価の安定、数量よりも価格の安定、その根幹となる通貨価値の安定が求められていくのであれば、コモディティ価格の変動もまた想定し難いことになる。それでも、大きな変動に見舞われることになるとしたら、市場参加者の過度な期待や誤解、政策変更、自然環境の変化がその起点となりそうだ。

 

 

 原油はOPEC+での生産協調減産が続いているが、減産枠そのものがスペアキャパシティと判断されている限りは、生産拡大が常に期待されることもあって上値は重くなる。2024年の今ごろは中東の混乱を背景に原油価格は100ドルを超えて上昇するとの期待が高まっていたが、100ドルを超える原油価格を我々が最後に見たのは2022年8月だ。期待から投機筋の買い持ちが時折積み上がるが、経済制裁の効果や需要の弱さ、トランプ政権による化石燃料への生産支援スタンスなども相まって、いまでは下値模索が続いている。

 

 

 金利を生む通貨よりも保有コストの高い金が依然として強含んでいる。先進国と新興国との対立によるドルの代替、地政学的リスクの高まりから安全資産として選好されており、1トロイオンス当たり3,000ドルも視野に入っているとされている。ただし、ドルの代替として金現物での決済が積極的に行われているかは、各国中銀の金準備の積み上がり状況からは懐疑的になってしまう(つまり、そうした動きがないから金準備が増加している)。

 

 

 ロコ・ロンドン取引で、英国銀行で金の決済が行われているのは、歴史を重ねて培われた信頼が背景にある。新興国間でその役割を代替する機能・役割があるのかという疑問も湧きあがってくる。投機的な動きではCOMEXの建玉が減少しており、手仕舞い、つまりポジション調整が進行しているようにも映る。そして、今年に入ってから金よりも強い通貨となった「円」の動向が政策変更による潮目の変化を示唆している可能性もあり、金相場にはこれまで以上に注目が集まるだろう。

 

 

金価格も「まちまち、かつ不確実」(出所:Bloombergより住友商事グローバルリサーチ作成)

 

 

以上

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