米国/パレスチナ:トランプ大統領がガザを一大リゾート地に変えると発表(中東フラッシュレポート(2025年2月前半号))
調査レポート
2025年03月03日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司
2025年2月26日執筆
1.イスラエル/パレスチナ:障害はありつつも、ガザの停戦はおおむね維持され人質と囚人の交換も着々と進む
1月19日に発効したイスラエルとハマスの停戦合意で決められた、イスラエル人の人質/捕虜とパレスチナ人の囚人/被拘束者の交換が着々と進んでいる。2月に入ってからは、2月1日、8日、15日と3週連続で、ハマスがイスラエル人の人質(男性民間人)を毎週3人ずつ解放し、それに対してイスラエル側はパレスチナ人の囚人や2023年10月7日以降にガザで拘束したパレスチナ人数百人を釈放した。途中2月10日には、ハマスが、イスラエルによる度重なる停戦合意違反を理由に人質交換を延期すると発表したが、結果的には当初の予定通り人質交換が実施された。この後、2月20日、22日、27日にイスラエル人の生存する人質や遺体とパレスチナ人囚人/被拘束者の交換が行われ、停戦合意の第1段階は3月初めに終了する予定。
現時点では、イスラエル政府が停戦合意の第2段階に関する協議に交渉団を派遣していないため、協議はまだ始まっていないが、トランプ米大統領の中東特使であるウィトコフ氏が、「第2段階は必ず始まる」と発表しており、近日中に第2段階に関する協議が始まるとみられている。第2段階は、ガザに捉えられている人質全員の解放やイスラエル軍のガザからの完全撤退などが含まれる。人質の帰還を心待ちにするイスラエル人家族らは、第2段階へ進むようネタニヤフ首相に圧力を掛けるが、ネタニヤフ首相が連立政権を組む極右政党のスモトリッチ党首は、「第1段階終了後にガザ攻撃を再開せずに第2段階に進めば、連立から離脱する」と宣言しており、ネタニヤフ首相がどのような判断をするのかが注目される。
2.米国/パレスチナ:トランプ米大統領がガザを一大リゾート地に変えると発表
2月4日、ネタニヤフ首相を米国ワシントンのホワイトハウスに招いた際の共同記者会見で、トランプ米大統領は、「米国がガザを所有して開発し、ガザを世界中の人々が集まる中東の"リビエラ(地中海沿いの一大リゾート地の意)"にする」と発言して世界中を驚かせた。トランプ氏はまた、「パレスチナ人をガザから移住させる」とも発言しており、同氏のこの発言は、強制移住は"民族浄化"であり国際法違反であるとして、世界中から批判を浴びた。トランプ氏は、ガザ住民(約220万人)の移住先として、周辺国のエジプトやヨルダンが受け入れると発言したが、当然のことながらエジプト、ヨルダンを含むアラブ諸国が猛反発。ルビオ米国務長官の「反対するなら対案を出せ」という発言に対し、3月4日にエジプトの首都カイロで開催されるアラブ首脳会議でアラブ側の対案に関する協議が行われる予定。
3.米国/イラン:トランプ政権が対イラン圧力の強化にコミット
2月4日、トランプ米大統領は、イランに対する"最大限の圧力キャンペーン"を再開する大統領覚書に署名した。同覚書は、既存の制裁の執行強化によりイランに対して最大限の経済的圧力を課すよう各省庁の長官に指示する内容で、イランに対する各種制裁免除の撤回や、イランの原油輸出をゼロにすることを目的とした各省庁による強力なキャンペーンの実施を指示するものである。
ただ、トランプ大統領は、このような覚書に署名することについて「迷っている」と述べ、「署名するのは残念だ」と認め、軍事攻撃よりも核協定の締結によりイランの平和や繁栄を望むとして、イランとの交渉に前向きな意向を示した。2月7日、イランのハメネイ最高指導者は、核合意を破棄した張本人であるトランプ大統領との交渉は「賢明でない」ため「交渉すべきでない」と発言しているが、ペゼシュキアン大統領は、欧米との交渉により対イラン制裁が解除されることを望んでいる。
4.シリア:シャラア大統領がサウジアラビア(サウジ)とトルコを訪問
2月2日、シリア暫定政府のシャラア大統領とシャイバニ外相がサウジの首都リヤドを訪問し、ムハンマド皇太子兼首相らとの会談を実施した。シャラア氏は父親が働いていたサウジで生まれ、幼少期をサウジで過ごしている。なお、2025年1月のシリア暫定政権の閣僚(外相と国防相)による初外遊先もサウジだった。
2月4日、シャラア大統領はトルコを訪問し、エルドアン大統領と会談した。シャラア大統領の外国訪問は、サウジ訪問に次いで2か国目。シリア北東部のクルド人戦闘員への対応を含む安全保障関係の強化や、シリア難民の帰還、両国の経済協力などについて話し合われた。旧アサド政権下のシリアはイランやロシアとの関係が強かったが、シリア新体制はサウジなどの湾岸諸国やトルコとの関係を重視し米国との関係改善を模索するなど、国の政策の大きな方向転換となる。
5.レバノン:サラーム新政権の発足
2月8日、アウン大統領から1月13日に新首相に指名されたナワーフ・サラーム氏(1月13日に国際司法裁判所(ICJ)所長を辞任し、1月14日にレバノンに帰国)が、レバノンで2年以上ぶりとなる正式内閣を発足した。内閣は24人から成り、半数がキリスト教徒、半数がイスラム教徒である。サラーム氏は、過去にレバノンで弁護士として活動し、大学で教鞭を取り、学部長を務め、10年間にわたってレバノンの国連大使を務めた人物。レバノンは6年目を迎える壊滅的な経済危機の真只中にあり、サラーム新首相は政治・経済を含め国のさまざまな改革を推し進める必要がある。
6.イラク情勢
- 2月2日、イラク議会が連邦予算法の修正案を可決し、クルド地域で採掘された原油の償還価格をこれまでの倍以上となる1バレル当たり16ドルに引き上げた。これにより、トルコ経由でのクルド自治区からの原油輸出再開への道が開かれる可能性が高まり、クルド自治区の経済改善が見込まれる。
- 2月4日、トランプ米大統領は対イラン制裁強化の大統領覚書に署名し、財務長官に対イラン制裁の免除措置(ウェイバー)などの修正や取り消しを検討するよう指示した。イラクのイランからの電力・ガス輸入に関しては、米政府がこれまで120日ごとにウェイバーを更新してきたが、2025年3月初旬に期限が到来するウェイバーの更新が危ぶまれる事態となっている。イラクはイランからの電力・ガス輸入に電力需要の約3分の1を依存しており、イランからの輸入が止まればイラクは深刻な電力不足に陥り、特に電力需要がひっ迫する夏に向けて停電が常態化するようなことになれば、国民の不満が高まり国内情勢が不安定化する可能性が高い。
- 2月12日、イラクのラシード大統領はUAEを訪問し、ムハンマドUAE大統領との会談を実施。両首脳はガザ問題に関しパレスチナ国家樹立による二国家解決の必要性について議論し、また経済、投資、開発および再生可能エネルギーにおけるイラクとUAEの二国間協力についても話し合った。
- 2024年のイラク国内の自動車販売台数1位はトヨタ(前年比+36%)、2位はキア(同+13%)、3位はヒュンダイ(同+36%)だった。4位はMGで、5位にはスズキ(同+121%)が入った。
7.リビア情勢
- 2月9日、治安当局者は、リビア東部の町で集団墓地から19人の遺体が発見されたと発表。また、同国南東部で発見されたもう1か所の集団墓地からは30以上の遺体が発見されたとのこと。リビアで集団墓地が発見されることは珍しくなく、遺体の多くは欧州へ密航するために周辺諸国から逃れてきた移民・難民である。なお、国際移住機関(IOM)によると、2025年1月から2月8日までの期間に、リビアから地中海を渡ろうとして溺死した移民・難民が少なくとも62人、途中で捕まって強制的にリビアに帰還させられた人が3,188人いるとのこと。
- 2月11日、「5+5共同軍事委員会」がエジプトのカイロで開かれ、エジプト軍参謀総長も参加した。同委員会では、リビアの停戦維持や外国軍/傭兵のリビアからの退去、治安・軍事機関の統一などについて協議された。
- 2月12日、首都トリポリで国民統一政府(GNU)のジュマア国務大臣が乗った車が銃撃を受け、同氏は足を負傷して病院に移送されたが、重傷ではないとのこと。犯行声明などは出ていない。
- 2月13日、アフリカ連合が10年ぶりにトリポリに事務所を再開することで合意した。また、2月18日には世界銀行もトリポリ事務所を7年ぶりに再開することで合意しており、これらの動きは各国大使館の再開などとともに、リビアの治安状況が落ち着いてきていることを裏付けるものである。
以上
記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。
レポート・コラム
SCGRランキング
- 2025年3月11日(火)
オンライン経済メディア『NewsPicks』のプロピッカーに当社シニアアナリスト 石井 順也が就任しました。 - 2025年3月5日(水)
『日本経済新聞』に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行のコメントが掲載されました。 - 2025年3月5日(水)
『日経ビジネスオンライン』に、米州住友商事会社ワシントン事務所調査部長 渡辺 亮司のコメントが掲載されました。 - 2025年3月5日(水)
『東洋経済ONLINE』に、米州住友商事会社ワシントン事務所調査部長 渡辺 亮司のコラムが掲載されました。 - 2025年3月4日(火)
『日本経済新聞(電子版)』に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行のコメントが掲載されました。