「シリア:アラウィー派の大量殺人と大統領による憲法宣言への署名」 中東フラッシュレポート(2025年3月前半号)
調査レポート
2025年04月02日
住友商事グローバルリサーチ 国際部
広瀬 真司
2025年3月27日執筆
1.シリア:アラウィー派の大量殺害とシャラア暫定大統領による憲法宣言への署名
3月6日、シリアの地中海沿岸部ラタキア県において、シリア暫定政府の治安部隊と旧アサド政権を支持する武装集団との衝突が発生し、少なくとも15人の治安部隊員が殺害された。同地は、アサド前大統領と同じアラウィー派の人たちが多く居住している地域。事件の後、治安部隊や武装民兵らを加えた増援部隊が同地に到着し、数日間にわたってアラウィー派の町や村を襲撃し、民間人1,068人を含む1,540人以上が殺害されたと報告されている(治安部隊員230人とアサド支持派戦闘員250人も死亡)。アラウィー派の民間人が大量に殺害された今回の事件は、2024年12月のアサド政権崩壊以降にシリアで発生した最悪の事件となった。
3月13日、シャラア暫定大統領は、5年間の移行期間を規定する憲法宣言に署名した(旧アサド政権下での憲法は廃止)。国家元首はイスラム教徒でなければならないとされ、イスラム法が立法の主要な源泉として規定されている。国軍管理以外の武器の所有は禁止され、旧アサド政権を賛美することも犯罪であると規定されている。暫定政権下の新たな「人民議会」は、3分の2が大統領選出の委員会によって選出され、3分の1は大統領自身によって任命される。大統領には、非常事態宣言を出す権限や憲法裁判所の判事を任命する権限なども与えられており、暫定大統領に多くの権力が集中しすぎているとの批判もある。
2.米国/イエメン:米軍がイエメンのフーシ派拠点や幹部を狙った攻撃を実施
3月15日夜から16日の早朝にかけて、米軍はイエメンのフーシ派支配地域の複数県において、フーシ派の軍事拠点や武器庫などに対して計47回以上の攻撃を実施した。16日夜にも紅海沿いのホデイダ港などにおける空爆を実施し、2日間の攻撃で女性や子どもを含む少なくとも53人が死亡し、約100人が負傷した。米軍は、フーシ派の能力を大幅に低下させることが目的であるとしており、第2期トランプ政権発足以降で最大の米軍による軍事作戦は、それ以降も継続している。フーシ派は3月11日に、イスラエルがガザへの人道支援物資搬入を3月2日以降阻止していることを理由に、紅海を航行する船舶に対する攻撃を再開すると発表していた。なお、3月4日にトランプ政権はフーシ派を「外国テロ組織(FTO)」に再指定している(第1期トランプ政権でFTO指定したが、バイデン政権下で指定が解除されていた)。
3.レバノン:アウン新大統領が初外遊でサウジアラビア(サウジ)を訪問
3月3日、レバノンで1月に就任したアウン大統領が、就任後初外遊でサウジを訪問し、ムハンマド皇太子兼首相との会談を実施した。レバノン大統領のサウジ訪問は8年ぶり。今回の訪問には、イランがレバノンに対して強い影響を及ぼしてきたことで冷え込んでいたサウジとの関係改善とサウジからの支援再開につなげたい意向がある。会談後の共同声明では、(ヒズボラによる武装解除を念頭に)国家機関のみが武器を保有すべきであること、レバノン国軍を支援すべきこと、またイスラエルがレバノン全土から撤退すべきことなどが明記された。
サウジは、イランの影響を強く受けてきたレバノンの政治から距離を置いてきたが、イスラエルとの戦闘でヒズボラが弱体化したことで、再度レバノン政治への関心を強めている。2年以上空席だったレバノンの大統領ポストにアウン氏が就任できたのも、その後サラーム首相(元国際司法裁判所長官)を任命することができたのも、ヒズボラが弱体化しレバノン国内政治での影響力が低下したためとみられている。
4.ロシア/イラン/中国:3か国合同軍事演習を実施
3月9~13日、ロシア、イラン、中国は、ホルムズ海峡に近いオマーン湾で、3か国合同海上軍事演習「安全保障ベルト2025」を実施した。3か国が参加するこの訓練は、2019年に始まり今回で5回目。ホルムズ海峡は、世界で取引される原油の5分の1が通過するエネルギー供給にとっての要衝。なお、この演習には、UAEやカタール、イラクやオマーンなど周辺諸国に加え、南アフリカ共和国やパキスタンなどもオブザーバーとして参加した。
中国はイラン産原油を購入し続けており、ロシアはウクライナ戦争で使用するドローンの供給などをイランに依存している。3月14日には、3か国の外務次官が北京に集まり、イランの核問題などを協議。協議後の共同声明では、イランの核計画が平和目的であることや、制裁を終了する必要性が強調された。トランプ米政権がイランに圧力を掛ける中で、3か国が結束を強める思惑がある。
5.OPECプラス:予定通り4月からの追加減産の段階的緩和で合意
3月3日、OPECプラスに加盟し2023年11月から追加減産を実施している8か国(サウジ、ロシア、イラク、UAEなど)は、2024年12月の閣僚級会合で決めた通り、8か国による日量220万バレル(bpd)の減産分を、4月から来年9月までの18か月間で徐々に緩和していくことを発表した。発表では、「健全な市場ファンダメンタルズと前向きな市場見通しを考慮」して決定したとし、また「市場の状況に応じて停止もしくは再度減産に転じる可能性がある」としている。OPECプラスは、これとは別に366万bpdの減産も実施しており、こちらは2026年末まで継続予定。
6.イラク情勢
- 3月6日、イラク北部のクルド自治区(KRI)からトルコへのパイプライン経由で原油輸出を再開する交渉が、再度決裂した。イラク中央政府、クルド自治政府、KRIで操業する国際石油会社などとの間で依然問題が解決していないもよう。KRIからトルコへの原油輸出は、2023年3月から丸2年間停止している。
- 3月9日、米国務省は、イラクが制裁下のイランから電力を購入することを許可してきた制裁免除措置(ウェイバー)を更新しないと発表した。イラクは消費電力の約3分の1をイランからの燃料ガス・電力輸入に依存しているが(ガスが大部分で電力は限定的)、トランプ政権はイランに対する圧力を強めており、今回同ウェイバーを更新しない決断を下した。これにより、イラクは自国での発電もしくはイラン以外からの代替電力輸入を増やす必要があるが、短期的に対応を取るのは難しいと思われるため、今夏のイラクでの電力不足が懸念される。
- 3月14日、シリアのシャイバニ外相がイラクを公式訪問し、二国間関係や「対IS(イスラム国)共同作戦室」の設立の可能性について話し合った。
- 3月14日、イラク保健省は、2028年までに中国によってイラクの複数の県に計16の病院が建設されることを発表した。これは両国が署名した20年間の枠組み協定である「石油・プロジェクト交換協定」に基づくもの。
- 3月15日、トルコのバイラクタル・エネルギー・天然資源相がイラクを訪問し、スーダーニ首相と会談。KRIからトルコへの原油輸出再開の件や、トルコからイラクへの電力・ガス供給拡大について協議されたとのこと。
7.リビア情勢
- 3月3日、リビア国営石油会社(NOC)のスレイマン暫定会長は、同国にとって17年以上ぶりとなる石油探査の公開入札の開始を発表した(対象となるのは陸上・海上ともに11鉱区ずつの計22鉱区)。リビアはアフリカ最大の石油埋蔵量と第4位の天然ガス埋蔵量を有するが、長年にわたる内戦や制裁の影響でほとんど探査が行われていない。また、対立する勢力間の紛争で油田が閉鎖されるケースも頻繁に発生するなど不安定な情勢のため、外国からの投資が進んでおらず、この状況を打破して外国投資を呼び込むのが狙い。
- 3月14日まで米テキサス州ヒューストンで開催されていたエネルギー業界の国際会議「CERA Week」に参加していたスレイマンNOC暫定会長は、ShellやENI、TotalEnergiesなど大手石油・ガス会社のトップや、米エネルギー長官、トルコのエネルギー・天然資源相などと新規入札に関する契約の仕組みなどについて協議した。
- 米トランプ政権は41か国の国民を対象とした新たな渡航禁止計画の実施を検討しており、リビアは他10か国とともに「レッドリスト」に分類され、国民に対する米国ビザの発行が全面的に停止される可能性がある。
- ロシアは、長年支援してきたアサド旧政権が崩壊したシリアで、2か所のロシア軍基地を将来的に維持しようとシリア新政権との交渉を続ける中で、シリアで基地を失うという不測の事態に備えた戦略的取り組みの一つとして、リビアでの軍事インフラの拡充やスーダンでの軍事拠点設立などを行い、ロシア軍の立場を強化しようとしている。
以上
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