パナマペーパーズについて
2016年04月11日
住友商事グローバルリサーチ 国際部 吉村 亮太
1. はじめに
1週間前に突然ニュースに登場した「パナマ文書」について解説する。
パナマ文書とは、パナマに拠点を置く法律事務所モサック・フォンセカから漏れた内部文書約40年分、1,150万点を指す。ここはタックスヘイブンにおけるオフショア業務を専門とした、知る人ぞ知る法律事務所だという。企業倫理を逸脱した行為を告発する目的で何者かが1年以上前にドイツの新聞社に内部文書を持ち込み、それを在米のNPO団体(ICIJ、国際調査報道ジャーナリスト連合)が秘密裏に分析してきた。その結果が先週末、2016年4月3日を皮切りに五月雨式に公表され始めている。
パナマ文書は全体で2.6テラバイトという膨大な量に上るが、世界の首脳12人(現・元)を含む50か国・140人の政治家や政府高官あるいはその家族や側近がタックスヘイブンに資産を保有していたことが明るみに出て、その規模に衝撃が走った。政治家のみならず、資産家や芸能人の名前も取り沙汰されているが、全体では500行の銀行(特に欧州系)が絡み、20余りのタックスヘイブンにおいて、21万社以上のペーパーカンパニーがこの法律事務所によって設立されたとのことである。
タックスヘイブンにおいてペーパーカンパニーを設立・運営することは合法的なことで、そのこと自体に問題はないはずだが、一部の国においては未だに透明性が担保されておらず、不正蓄財・脱税・資産隠し・マネーロンダリング・経済制裁逃れの温床になることが往々にしてあるため、問題視されてきた。
なお、合法的な手法と言っても、政治家やその家族などが絡むと倫理的な問題が出てくる。国民には緊縮財政を強きながら、一部の特権階級が海外に資産を隠し持っていたことが発覚すれば、当然のことながらイメージダウンを意味する。多くの国において「持てる者」と「持たざる者」の経済格差がまさにいま問題となっており、国民の怒りに火がつけば、政権基盤の不安定化につながることも予想される。
2. 各国の状況
個別の国について説明する。
早速、影響が出たのがアイスランドである。首相が配偶者に譲ったペーパーカンパニーが、破綻した自国の銀行の債権を保有していたことが暴露され、利益相反の可能性があることから国民の7%が抗議に立ち上がり、わずか2日間で辞任に追い込まれた。
中国は共産党のトップである常務委員会の新旧メンバー8人の家族の名前が挙がっている。現役組の関係者は、習近平国家主席の義弟、劉雲山(序列5位)の義理の娘、張高麗(序列7位)の義理の息子がいて、常務委員OBの関係者は胡耀邦(元国家主席)の息子、毛沢東(初代国家主席)の孫などが名を連ねている。政府は事実無根と突っぱねているが、贅沢禁止や反腐敗を掲げる政権にとって都合の悪い話であるため、報道やウェブ上の情報統制を行なっている。興味深いのは、この法律事務所が設立したペーパーカンパニーの3割は中国からの依頼に基づくものだということである。
ロシアに関しては、プーチン大統領の旧友がペーパーカンパニーを通じて20億ドルの取引に絡んでいたことが明らかになったが、政府は西側の陰謀だと一蹴しており、他の国ほどは問題になっていないようである。
英国では6年前に他界したキャメロン首相の父親の名前が挙がった。当初は否定していたが、二転三転の末、首相自らもタックスヘイブンから利益を得ていたことを認めざるを得なくなり、同政権にとっては痛手となっている。EU離脱の是非を問う国民投票が2か月半後に迫っているが、世論が拮抗しているだけに、残留派であるキャメロン首相の求心力低下がどの程度、影響するか気になるところだ。
その他にもウクライナのポロシェンコ大統領、アルゼンチンのマクリ大統領、サウジアラビアのサルマン国王などの名前が登場する。いまのところ米国人の名前は取り沙汰されていないが、順次公表される中に含まれることが予想される。
3. 規制強化の動き
最後に規制強化の動きについて簡単に触れておく。
欧州を中心に、いくつかの国はすでに金融機関などの調査に着手している。また、今週のG20財務相・中銀総裁会議やOECDの税務当局者緊急会合でも、口座情報の共有化などを含め、監視強化策が議論される予定であり、パナマやバージン諸島など、タックスヘイブンとされる国や金融機関に対するチェックが今後厳しくなることが予想される。
以上
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