日本の2017年第2四半期の経済市況について
2017年08月22日
住友商事グローバルリサーチ 経済部
本間 隆行
1.はじめに
2017年8月14日、内閣府から2017年4-6月期のGDP統計の1次速報値が公表された。実質GDP成長率は前期比年率4%と高い成長を記録し、経済活動が非常に活発であったことが示された。また、今四半期で6期連続のプラス成長となったことは、お盆休み期間中にも関わらず、大きな話題となった。ちなみに、4-6月期の米国の実質GDP成長率は年率2.6%、ユーロ圏では2.5%だったことからも、いかに高い成長だったか分かるだろう。
2.内需がけん引する高成長率
図表①はわが国の実質経済成長率を四半期毎に年率換算したグラフである。内閣府や日銀の試算によると潜在成長率は0~1%程度とされているが、そうした状況下で4%の成長は巡航速度より速い成長だったと言える。前回4%を上回る成長となったのは2015年第1四半期だったが、消費増税後の大きな景気落ち込みの後の反動だった。今回は自律的な景気回復が続き、加速しており、前回よりも良好な状態にあったと言えよう。また、6四半期連続でプラス成長を記録したのは12年前の2005年第1四半期から2006年第2四半期以来だった。前回も今回も、連続プラス成長の間の実質GDPの平均成長率は2%だった。但し、前回時の経済規模は491兆円、今回は524兆円となっており、曲折を経ながらではあるが、わが国の経済規模は着実に拡大している。
さて、今回の成長を要素分解し、成長にどの程度寄与をしたか示したものが図表②である。赤い点線の中が内需、青い点線の箇所が外需である。内需はほぼ全ての項目でプラス、一方の外需は輸出も含めてマイナスとなっており、強い内需が経済成長の主導的な役割を果たした。4%成長のうち、民間最終消費支出は2%、民間企業設備投資は1.5%、そして公的資本形成が1.0%となっており、消費と投資共に成長に大きく貢献している。また公的資本形成だが、2016年度の2次補正予算が2017年度に入り順次執行され始めており、これだけで2016年度比で0.5~0.6%程度、通年の経済成長を押し上げることになるだろう。
民間消費については一般的には伸び悩みが続いている、と指摘されている。しかし、足元では耐久財やサービスの消費が安定的に伸びており、今回の成長を支えている。図表③の棒グラフは日本自動車工業会と全国軽自動車協会連合会が毎月公表している販売データを足し合わせたもので、赤い線は季節のばらつきを調整する代わりに過去12か月の販売台数の累計をとっている。つまり、12月時点の数値は年間の販売台数に相当する。この累計値を見ると2015年始めからダウントレンドが続いており、2016年の秋口まで自動車販売は低迷していた。2016年末に持ち直しの兆しが見られ、2010年のエコカー補助金を利用し購入した自動車の買い換えサイクルにも入ったことで2017年に入り、販売は上向きになっている。このペースで伸び続ければ、2017年の自動車販売は530~540万台に達するものとみられている。耐久財では、自動車の他に、高機能家電の販売も好調で、消費増を支えている。
3.一巡した設備投資
次に図表④は設備投資について示しており、これは日本政策投資銀行が毎年6月に行っている「設備投資計画調査」のデータの一部を抜粋したものである。2017年は全産業で前年度比11%、製造業14.3%、非製造業8.9%とそれぞれ設備投資を増額する計画となっている。製造業ではこれまで見合わせていた設備の維持・補修に加え省力化への投資が目立ち、非製造業では生産能力増強投資が中心となっているとのことである。2018年度以降の数字が大きなマイナスになっているように、短期的には企業の設備投資の動きが鈍化するのではないかとみられている。もっとも、企業の設備投資は2012年以降6年連続で増加し一巡した、ということだろう。
4.輸出動向
図表⑤は主要概況品の輸出金額を示したもので、多かれ少なかれ、前年同期比よりも金額は増加している。しかし、原料別製品のように輸出数量が低下しているものの単価が大きく上昇したことで総額が増加した物品がある。数量増がそのまま輸出総額の増加に結びつくような一般機械や電気機器は好調分野と言えるが、自動車を含む輸送用機器は価格変動が少なくかつ輸出数量が伸び悩んでいる。
各地域向けの輸出数量を指数化したものが図表⑥で、2016年後半から持ち直しの動きが続いている。米国向け輸出は原動機や半導体製造装置などを含む一般機械の輸出が好調で、先述の通り輸送用機器の伸び悩みを補っている。アジア向けは2016年後半から2017年初めにかけて大きく増加したが、足元では米国とは対照的に伸び悩んでいる。全体的には1-3月期の方が輸出には勢いがあったようで、輸出のマイナス寄与が裏付けられる格好となっている。
輸出のマイナス寄与を悲観的に捉える向きもある。しかし、今回に限っては企業が強い内需への対応を優先したことで、輸出余力が狭まった結果、輸出が減少したのではないか、との指摘も多く聞かれる。今回の輸出のマイナス寄与についての評価には見極めの時間が必要だろう。
足元のわが国経済は内需の成長がその主役であることから、マイナス成長になるリスクは小さく、プラス成長はもうしばらく続くものと期待される。しかし、今回のGDP統計からはリスクも見え隠れしている。例えば、昨今の天候不順に伴う農産物の不作による価格上昇、長雨そのものが経済活動全般を鈍化させることに成りかねない。また、外需は現地の経済情勢が好調でも、最近の円高圧力が更に増すようなことになれば、企業収益の圧迫要因にもなり、経済活動が鈍くなることも懸念される。そのため、経済情勢に加え、各国の政治情勢には一層の注意を払う必要があるだろう。
以上
記事のご利用について:当記事は、住友商事グローバルリサーチ株式会社(以下、「当社」)が信頼できると判断した情報に基づいて作成しており、作成にあたっては細心の注意を払っておりますが、当社及び住友商事グループは、その情報の正確性、完全性、信頼性、安全性等において、いかなる保証もいたしません。当記事は、情報提供を目的として作成されたものであり、投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません。また、当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、当社及び住友商事グループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。当サイト内の記事のご利用についての詳細は「サイトのご利用について」をご確認ください。
レポート・コラム
SCGRランキング
- 2024年11月2日(土)
『日本経済新聞』に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行のコメントが掲載されました。 - 2024年11月1日(金)
金融ファクシミリ新聞・GM版に、当社シニアエコノミスト 片白 恵理子が寄稿しました。 - 2024年10月30日(水)
『日本経済新聞(電子版)』に、当社チーフエコノミスト 本間 隆行のコメントが掲載されました。 - 2024年10月23日(水)
5:45~7:05、テレビ東京『モーニングサテライト』に当社チーフエコノミスト 本間 隆行が出演しました。 - 2024年10月23日(水)
『東洋経済ONLINE』に、米州住友商事会社ワシントン事務所調査部長 渡辺 亮司のコラムが掲載されました。