日本のエネルギー政策(電力を中心として)
2017年10月02日
住友商事グローバルリサーチ 戦略調査部
大代 修司
はじめに
政府、経済産業省は、2017年8月にエネルギー基本計画、いわゆる"エネルギーミックス"の見直しのため、2つの会を設置した。1つは小松製作所の坂根相談役を分科会長とし委員18人で構成する「総合エネルギー調査会基本政策分科会」、もう1つは2050年までの長期を見据えた、三井物産の飯島会長以下8人をメンバーとする「エネルギー情勢懇談会」である。いずれも年度内に結論を出す予定になっている。
1.エネルギー基本計画の目標
政府は【図表1】に示したように安全性の確保を前提として、自給率の向上、電力コストの低減、温室効果ガス排出量の削減の3つの目標達成を目指し、2014年に現在のエネルギー基本計画を策定した。
その内容は電力について、【図表2】に示したように省エネで電力需要を押さえたうえで、電源構成を石炭、天然ガス、原子力、再生可能エネルギーでほぼ4等分するものであった。政府はこの比率は今回の見直しでも大きく変えないとしている。
しかしながら、現状は【図表3】の通り、2015年時点では圧倒的に石炭か天然ガスの化石燃料が多くなっている。東京電力と中部電力では天然ガスが非常に大きく、他の電力会社でも石炭及び天然ガスの比率が非常に高い状況になっている。
2.エネルギー政策の行方
これから2030年までに計画通りに転換が進むだろうか。まず大きな誤算は原発の再稼働が遅々として進まないことだろう。現在、原発5基が稼働しており、先日、沸騰水型原子炉(BWR)では初めて東京電力の柏崎刈羽原発6、7号機の認可の目途がたったとの報道もあったが、県知事の了解を取り付けられるかどうか不明で、実際に稼働するまでにはまだ数年はかかるとみられている。審査に要する時間と要件また基本設計の古い原発事情や、さらに反原発の政治情勢等を勘案すると、2020年頃に最大で14~15基が稼働し全発電電力量の9%程度を賄うものの、一旦稼働しても2030年には廃炉となる炉も多く6%程度に下がっていくと推計している。 今回の見直しで原発の新設、リプレースを打ち出さない限り、【図表4】に示したようにいずれ原発は0になるだろう。
原発を再稼働させ、総発電コストを下げることによって再生可能エネルギー導入による電力コストの上昇分を吸収させるという思惑が外れたため、現在、電力料金は最近の化石燃料価格の低迷によりピーク時から5~6%下がったものの、それでも東日本大震災前に比べ産業用で約30%、家庭用で約20%上昇している。またエネルギー自給率の向上と温室効果ガス削減のためにも、化石燃料による発電を大幅に下げる必要があるが、その目途は立っていない。
2030年にゼロエミッション電源比率を44%とするのが目標であるが、その達成のためには、原発再稼働が見込めない以上、再生可能エネルギーの導入量を一層増やす必要がある。太陽光や風力の発電施設自体のコストは下がる傾向にあり、また政府も固定価格買取制度(FIT)の買取価格を下げ、電力料金の高騰を抑えようとしている。ただ導入量が増えると調整用の電源コストが増え、また系統への負荷が大きくなり、現在の系統では受けきれないため、出力抑制が発生している。一方、電力の自由化が進められていることから、旧一般電力等の系統所有者は系統への投資を減らしている。震災前までは送変電施設の老朽化対策もあり、系統への投資額は年間1兆3,000億円に増えていたが、現在は年間9,000億円程度に下がっている。つまり系統安定化のために費用を積み上げる必要があるのに逆に費用を削減しているのが現状である。
電力の総需要が下がっていることもあり、電力の安定供給については当面危機は無い模様だが、3E(①エネルギーの安定供給/Energy Security、②経済性/Economy、③環境保全/Environmental Conservation)の目標の達成は非常に難しい状況である。打開策の一つとして政府も推進しようとしているバーチャルパワープラント(VPP)やデマンドレスポンス(DR)があり、このような電力のアグリゲーションビジネスは進展していくものとみられる。ただ、これらはある程度の効果はあるものの抜本的な解決策とはなりえず、大きな政策転換も必要だが、現状は極めて不透明である。今回の見直しでどのような実現性のある計画が打ち出されるのか注目したい。
以上
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